※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

126 / 284
節分イベント(光源氏18)side

 その日は妙に気が昂っていた。友の1人を亡くしたからだろうか。

 血の臭いが身体中に、両手に、心や魂にまでらこびりついて離れない気がして、俺は戦闘の凶暴性をそのままにナミへと襲いかかったんだ。友であり、兄弟であった奴が弔われたのは他の戦死者と同時に行われた。

 海賊を長くやってんだから、そんなのは気にする方がおかしい。誰に言われるまでも無く、俺だって本当はわかっちゃいるんだがな……。

 それでも死に対して、別れに対して慣れる事はない。心が麻痺して、別れに強くなるのが本来の筈なんだけどな。

 そんな俺に、その強さと優しさは誇るべきだと笑ってくれたナミに、俺は甘えて、溺れて行く。だが流石にやり過ぎたと気付いた時にはナミが声をからして、随分な時が経過していた。

 

 「ナミ、悪い……やり過ぎた。大丈夫か?」

 

 そう声は掛けてみたが、無論大丈夫な筈も無い。なのにナミは唇の動きだけで落ち着いたかと聞いてくるのだから、どこまで甘やかす気だと問いたくもなる。

 ごめん、そして、ありがとうの言葉を繰り返す俺に、ナミは困ったような顔で俺を見て、そのまま意識を失った。目元にある隈に、俺の為に眠る事も出来ずにいた現実を知らしめられた気がして胸が痛くなるのは、それだけナミが大切だという事だろう。

 そっとナミを風呂で清めて、部屋を整えてベッドに寝かせてから、マルコを呼びに行こうとドアを開けるとまるでわかっていたかのように待機してるマルコがいて、無言で中に入って来た。押しのけられた俺が驚いてる間にも、マルコはナミを診察して治療する。

 無言で行われたそれの最後に点滴をセットしたマルコは、立ち尽くす俺の肩を掴んで甲板まで連れ出すと覇気を纏ったその足で容赦無く俺を蹴り飛ばした。それに対して俺が頭を下げると、今日は寝かせとけよぃと言われちまう。

 

 「ありがとう。助かった」

 「……つらいのは、お前だけじゃない。他の生きてる兄弟に頼ってもいいんだから、大切なら、傷付けるなよぃ」

 「……あァ、気を付ける」

 

 大切な家族であり仲間を喪う度に、それぞれが気持ちを持て余している。それはつまり、冷静になればナミも同じ筈だと気付く。

 寧ろ……ナミの方が重症かもしれねェな。誰に対しても優しくて、誰とでも仲良くなっちまうナミが苦しんだり傷付いたりしない筈もねェんだ。

 部屋に帰ればナミが目覚めていて、俺を見てポロポロと涙を落とす。それにより俺が部屋を出たから起きたのだと気付いて慌てて駆け寄ると、フイッと顔を背けられた。

 

 「ナミ、ごめん」

 「サッチは、狡い。怒らせてもくれない」

 「……ナミ」

 「狡いよ……」

 

 声を震わせるナミの涙が俺の胸を締め付ける。ごめんと謝り強く抱き締めると、俺の胸元が即座に湿っていく。

 この泣き顔も、涙も、俺にしか見せようとはしない辺りで察してやるべきだった。俺が部屋から居なくなると起きちまう時点で、甘えてくれてるんだと、強がりなナミがそこまで心を開いているのだと、俺は自覚するべきだったんだよな。

 

 「ナミ……もっと泣いてくれ」

 「……ちょっと待って、サッチ、それはおかしいわ。そこは、泣かないでくれって、言うところ……よ?」

 「ナミは泣くのずっと我慢してたろ。だから、泣いてくれ。んで、俺が虐めた詫びに何か我儘を言え」

 「……おかしいわ。泣く事や我儘を強要する彼氏なんて、聞いた事ない」

 

 笑ってるらしいナミに、ほらしっかり泣けよと言って頭を撫でれば、おかしい、おかしいと繰り返すそれにおかしくていいから、笑っていて欲しいと願う。そして少し静かに泣いていたナミが、衝撃の言葉を向けて来た。

 

 「……私、思いついたわ」

 「ん?」

 「私、1人で買物に行きたい」

 「なんだと!?」

 「お詫びなんでしょ?良いじゃない。我儘を強要したのはサッチなんだし」

 

 言葉を失った俺に悪戯な笑みを浮かべたナミは、珍しく年齢より少し幼い顔で笑う。それを見れば、白旗をあげる他に俺には選択肢なんて残されては居なかった。

 そうして泣き疲れたのもあるだろうが、俺のせいで疲弊していたナミが俺の腕の中で眠ったのを確認して、ナミを抱いたまま俺も少し眠った。それでも時間になると勝手に目覚める身体に、けれどナミを起こしたくなくて困る。

 その時点滴を変えに来たマルコを捕まえて、寝かせてやりたいから後を頼むと言って部屋を出れば、マルコの舌打ちが聞こえた気がしたが多分部屋に居てくれるだろう。俺がいつものようにキッチンで戦っていると、イゾウが病人食を2人分と言って来たので、ラジャーと言って即席のそれを作る。

 牛乳をメインにしてほうれん草とベーコンを入れたそれに、ペンネと生クリームで仕上げ、最後に卵と胡椒を使い味を調えたら、オリーブオイルをひと匙垂らしてパセリを散らせば完成だ。それと1緒に焙じ茶を持たせれば、笑顔でそれを持って行った背を見送り、次の作業に入る。

 これだけの大所帯だ。コックに休む暇なんて、ある訳もねェ。

 そうして夜中に戻り、また翌日も似たような事をして過ごす俺の元に届いた荷物。見れば大半が食材で、何だろうと首を傾げて……ナミが1人で買物に行った事を思い出す。

 突然不安になった俺がキッチンから顔を出せば、疲れた様子のビスタが見えた。どうしたんだ?

 

 「……サッチか、いつもありがとう」

 「どうしたよ?」

 

 飲み物を差し出しながら問い掛けると、親父がナミの後を追って行ったと聞かされて何してんだかと笑う。親父もナミには甘いよなァ。

 その後暫くして帰って来たナミに話を聞けば、明日が節分と呼ばれる日であるとの事。なので、元気な弟達の為に遊べそうな島へとモビーを進めつつ明日は恵方巻きや大豆料理を作る事に決まった。

 大豆は大半を1晩水に漬け込み、他はそれぞれ明日美味くなるように下処理を済ませておく。そんな俺にナミは、申し訳なさそうに小さくなっている。

 

 「なんか、全部やって貰っちゃって悪いわ」

 「買物はナミがやったし、本来ナミはコックじゃねェんだから良いだろそんなの」

 「でも……」

 

 落ち込むナミの頭を軽く撫でて、視線を合わせると捨てられた子犬みたいな顔をしてた。どうやら自分に厳し過ぎるそれに関しては、治る見込みが無さそうだ。

 

 「なら、明日は1緒に作るか。恵方巻きと豆料理」

 

 俺の言葉にパッと顔を明るくするから、最初の手本品を2人で作って、それは俺とナミで食う事にすれば良いかと思う。他は弟達が分担で作るだろうし、遊んで来たメンバーが追加の食料を得てくるだろうから、そっちも少し使って……。

 そんな事を話しながらナミと共にその日は早めに休み、翌朝エプロン姿のナミに感涙する。慌てるナミに、なんでエプロンの下に服を着てるんだと言って殴られたのはご愛嬌だ。

 

 「サッチのばぁか!」

 「分かってねェな。ナミの裸エプロンは俺の夢だ」

 「……マルコに頭みてもらったら?」

 

 胡乱な瞳を向けてそんな事を言うが、ナミがエプロンだけとか永続的に貪る自信があるぞ?

 そもそも普段からビキニ着てるだけなんて事もよくあるんだから、その状態でエプロンでも構わねェぞ。前から見たら裸エプロンだ。

 後ろに邪魔な紐とかがあっても、そんなもんなんの障害にもなりはしない。美味しく食べてやろうじゃねェの!

 ……これを言えば、本気で怒りだしそうなので言わなかったが。そうしてキッチンでナミの提案の元作る王道な恵方巻きと、俺の発案した斬新な恵方巻きが作られる。

 サラダ系もいくつか作ったのは、ナミが喜ぶからというのは勿論ある。だが、やはり肉が胃もたれするなんて奴らも1定数いるのと、放置すると野菜を食べない阿呆が多いからだ。

 魚がメインになる太巻きに、ナミが懐かしいなんて呟くから故郷でやってたのかと少し思う。摘み食いしそうな奴らが島に行ってるのもあり、穏やかに料理を終えた俺達は完成した見本品を皿に盛り付けると、ナミと共に部屋に帰る。

 どうせこの後また忙しくなるんだから、少しくらいゆっくり2人で飯食うくらい許されるだろう。西南西を向いて食べるとか、そんなのはいいからと輪切りにしたそれを互いにああでもない、こうでもないと言いながら食べていると始まった掛け声に俺とナミは同時に笑う。

 鬼は外福は内!これで皆が1秒でも長く生きてくれたら……。

 縁起のいい事は、良いと言われる事は何でもしておきたい。これから先少しでも、1秒でも長く家族と笑い合っていたいから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。