※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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ヤミヤミの実(光源氏18)side

 フライパンを振り回すと中にある米が踊る。いい香りが漂い、仕上げの味付けを何にするかと考える。

 キムチもありだが、醤油……バター醤油もありか。いや、ケチャップを使ってやればそれも喜びそうだよな。

 今回は二番隊が出てる筈だな。なら、簡単に片付くだろう。

 そういう意味では、1番隊(マルコの隊)と2番隊(エースの隊)については心配して無い。1番隊は、人体を知り尽くしてる頭脳集団な上に戦闘民族が多数いると言う恐怖の部隊だ。

 2番隊は大半がスペード時代からのメンバーで構成されているのもあり、バランスが良い。この2つが組んで敗けるなど考えられない程だ。

 ……にしても、決着がまだつかないとはな。仕方ないかと溜息1つ。

 フライパンを隣にいた弟に任せれば、続きやっときますといい笑顔を向けられた。よくできた弟だと思った直後、表から歓声が上がりその中にナミー!というものが混ざっていれば焦って表に出ようと言うものだ。

 そんな俺に残された弟達が爆笑してたなんて、気づく余裕は無い。俺の世界はナミを中心に回っている。

 

 「……ナミ!?何したんだ!?」

 「サッチお前……本当に余裕ねェなぃ。クリマタクトで相手の船に電撃落として突っ込んでっただけだよぃ」

 「なんでそんな事に!?」

 「ナミの所属は、俺の隊だよぃ?」

 「ぐあああ!そうだったァ!!」

 

 戦闘の大半を別の隊の日だからと遠ざけ、1番隊が担当でも親父が酒呑もうとしてるから抑えとけとか、ナースが体調悪いから看ててくれとか言って参戦させない方向に持って行ってくれてるから、たまに戦う事があると言う現実を忘れていた。だがたまにはナミも戦わせないと、新人のクルー達からの圧が酷くなる事があるのだ。

 ナミの戦い方は頭脳戦で、基本的にはマルコのサポーターだと言われても、納得しない奴も当然居るのだ。ナースでもないのに、女の戦闘員は乗せない筈なのにと。

 どうしてもの時は俺の恋人だと言って納得させるが、ナミは必要最低限なら戦うわよと苦笑して戦闘に出る。それでも遠距離戦が基礎なのにどうして今回は……と見れば、海楼石の銃弾が転がっていて、見ればエースの足から血が流れていた。

 ……アレは、ダメだな。うん、そろそろ取り押さえに行くか。

 

 「マルコ、理由は理解したから、協力してくれ」

 「ははは!最近五月蝿いのがいたから見せつけておきたかったんだがねぃ。どれ程強くても〝戦わせない方が良い〟と判断された理由なんてのは、口で言っても理解されねェだろぃ」

 「あー……戦えるって知ってから騒いだのがいたのか。護身術程度ってのじゃねェもんな」

 

 赤髪もここまで鍛え上げなくても良かったろうにと内心で文句を言いつつ、マルコと共に敵船に乗り込む。そしてナミを取り押さえつつついでに宝を得て帰れば、俺の顔を見てへにゃへにゃとしたナミが甘えて来たのでその頭を撫でる。

 本人はこれで、護身術程度しか出来ないか弱い存在だと言い張るのだから恐ろしい。まァ、そう思わせていた方が無鉄砲に飛び出しにくいから、そのままにさせてるが。

 

 「良く頑張ったな。エースは無事だから、安心しろよ。それにしても、エースが少し怪我するだけで理性無くすの辞めような?」

 「だって、エース、ロギアなのに怪我した。エースが……」

 「ハイハイ。エースの怪我はもう治ってるから、安心しろよ。心配なら少し顔見てきたらどうだ?」

 「うん。ありがとう」

 

 そう言って目元を擦ろうとするナミの手を掴んで止めると、そのまま目尻に溜まる涙を唇で拭う。それにより真っ赤になったナミに、擦るなと言えばごめんなんて謝られる。

 どうしてこうナミは無垢なままなのか。夜、もっと恥ずかしい事を散々してきたのに。

 

 「サッチ……」

 「ん?」

 「大好き!迎えに来てくれて、ありがとう」

 

 そう言って俺の腕を振りほどいたナミは、なんの衒いも無く俺の頬にキスを残して去って行く。それだけで赤くなった自分に、俺も変わらねェかと苦笑してから、持ち帰った宝を検分していく。

 基本的には宝の半分を船に、戦いに参加したメンバーで残りを山分けとなる。今回俺は予定外の参加だったから、宝はどれか1つだけ貰うってのが良いだろうなと思いつつ開けた箱に、俺の待ち望んでいた物が入っているのを見た。

 震える指先を自覚しながら手にしたそれは、偽物ではなく……明らかに本物だ。いくつもの本物を見て、いくつもの偽物を見てきたから、それが本物の〝悪魔の実〟である事はわかる。

 何の実であっても構わねェ。これで俺も、少しは隊長らしくなれるだろうか。

 半数近い隊長が悪魔の実の能力者で、残り半数が違う。俺だけが違う訳でもないが、隊長が悪魔の実の能力を持っているかにより、隊員の生存率や怪我の発生リスクが変わるのは間違いない。

 基本的に戦いに出る事の少ない隊とは言え、やはり大切な家族だ。無事でいて欲しいと願っちまうのは、当然だろう。

 もう……間に合わなくて喪うなんて事が減るのだ。後で何の実かを確認しようと思いながら、親父に報告へ向かう。

 そんな俺に群がって来た弟達に、今回参加したから手に入れたんだと見せた悪魔の実。それによりおめでとうと喜んでくれる弟達に笑いながら、親父の元を目指す。

 その時、俺は欲望の視線が俺を見ている事に、少しも気付けずにいた。もしもこの時気付けていたら、何か違っていたのだろうか。

 親父に宝を報告しながら見せて託した後で、俺が貰う事にした悪魔の実を見せれば親父が楽しそうに笑った。グラララララララと響くその声に、ありがとうと笑う俺。

 その声に反応して現れたマルコが、俺の手にしてる物に気付き笑顔でおめでとうと言ってくれて、ナミが宝の集計をする為に顔を覗かせる。そんなナミに貼り付いて剥がれないエースに苦笑した直後、ナミが俺の手にしている悪魔の実を見て顔色を変えた。

 

 「……ナミ?どうした?」

 「サッチ、それ、まさか〝ヤミヤミの実〟じゃ……?」

 

 悪魔の実の名を言い出したナミの様子がおかしい。血の気の失せた顔色は今にも倒れそうだ。

 それにしてもその名前が正しいのなら、これはロギア系なのか。だとしたら、エースやマルコのように戦える様になるのかと胸が僅かに高鳴る。

 

 「あ?そんな名前なのか?なんだ、顔色悪いけど……」

 「サッチ、私、どうしよう……!私はサッチを喪いたくない……!」

 「ナミ!?」

 

 突然取り乱したナミに慌てる俺。だが親父がそんなナミをそっと抱き上げれば、泣きながら親父に縋るナミの姿に嫌な予感がした。

 

 「ナミ、何が見えた?……俺の、死か?」

 

 問い掛ける俺の声にビクリと身体を揺らして、親父の腹に顔を埋めた。その反応が答えだ。

 それを受けて俺は、手にしていた悪魔の実をその場で口に運ぶ。それに気付いた親父が口を開いた時には、既に吐きそうな程に不味いそれを、俺は飲み込んでいた。

 直後にそれに気付いたマルコが顔面蒼白になり俺へと手を伸ばした時、ナミも異変に気づき俺を見た。齧った悪魔の実と俺を見て、意識でも失うかと思っていたのに、ナミは真剣な顔で俺を見て親父から離れると容赦無く俺の頭を蹴り飛ばして来る。

 

 「ナミ!?何じゃが「サッチの馬鹿ぁ!どうやってサッチを守るか考えてる途中だったのに、どうしてそういう事するのー!?」」

 

 見れば大粒の涙を流していて、これは不味いと気付く。だってよ、ほら、ナミの涙は俺専用の筈だろ。

 そう思ってナミの頬に手を伸ばす。触れた俺の手の上を、ナミの涙が流れて行くから、悪い事したなと微かに思うが……これから先が俺の作戦だ。

 この場にいるのは俺とナミの他は、悪魔の実の能力者である。その事から、これは俺とナミのどちらが食ったか分からなくすると言う方法でもあり、狙いを定めにくくする為の行為。

 ……巻き込んで、悪いとは思うがな。それでも、どちらかを人質に取り、殺すなんて事もこれなら出来なくなるだろう。

 それを説明すれば、寝る時も同じで基本的に誰かと行動を共にするか、2人で過ごすのだから有効かも知れないなとマルコは賛同してくれる。そこでエースだけが、よく分からない顔で首を傾げた。

 

 「エース、イゾウを呼んできて。お願い。それから、悪魔の実はサッチが手に入れて、私と取り合ってたって甲板で話して来て。……どっちが食べたのか聞かれたら、知らないって言えばいいから」

 

 ナミの言葉に余計混乱したらしいが、とりあえず即座にかけて行ったエースを見送り、ナミの判断能力の高さに頭をかく。俺が説明するまでもなく、どちらかだけが狙われると言う状態を回避してくれた。

 それからナミに、解決するまでそういう意味では触らせないんだから!と生殺し宣言された俺は、シクシクと嘆く事になったが、それは不可抗力だろう。どうやらナミがイゾウを呼んだのは、服の下に着られる薄手の鎧が欲しかったかららしい。

 悪魔の実の名前からしてロギアなんだろうと思っていたが、ナミが言うにはロギアであってロギアではない悪魔の実らしい。最強であり、最悪の悪魔の実なのだと説明するナミに、俺達は静かに耳を傾けた。

 ヤミヤミの実が出来る事の説明を受けた俺達は、素直に怖いなと思わされる。その知識を有しているナミもだが、何よりも……それを理由にして親友や家族を殺し、裏切る事を厭わないティーチが。

 俺達の取る作戦は守備のみ。それでも、全員が無事に生きられる未来を、俺達はまだ諦めたくはなかったのだ。

 どちらが得たのかわからなくなり、残りの実が存在しなくなれば、殺すリスクに対して得られる物は少な過ぎる。どちらも食ってなくて、隠してる可能性を信じてる内は……ティーチも何もしないだろうと、そう思っていた。

 それから半月程、何事も無く過ぎて行った。結果的にそれまでより甘えてくれるナミを抱き締めて、隙あらば共に過ごす俺達に暑苦しいと言ったのはハルタだったか。

 そんな日々で少しばかり俺は油断していた。俺はナミと共に居るのが当然であり、その時もナミと共に居たからと言うのもある。

 だが、冷静になれば答えは出た筈なんだ。どちらが食ったにせよ、食われた以上は殺さなければその実は復活しない。

 つまり、特定出来なければどうなるのか、考えれば分かろうものだったのに。甲板でナミと過ごしていたその時、向けられた殺気に振り向いた時には、俺の目の前でナミが凶刃に倒れていた。

 ナミは警戒を続けていたのだ。恐らくは、ずっと。

 だからこそ、ナミはティーチからのそれに即座に気付いた。そして、俺を躊躇い無く庇ったのは……初めからそうすると決めていたのだろう。

 俺の叫びが谺響して、見張りが警鐘を打ち鳴らす。飛んで来たマルコが青ざめたのを確認するより早く、ティーチへと俺はその能力を発動していた。

 隠すべきだっただろうとか、何も考えられない。俺の、大切な、愛しい女を……!

 

 「闇穴道(ブラック・ホール)」

 

 闇へ、引きずり込んでやる。赦さねェ、ティーチ……お前を俺は、許さねェ……!!

 初めて使う能力である為に、怒りに身を委ねてるが故に、制御なんか出来ない。そんな俺に怒りをその瞳に宿らせ、欲望にギラついた様子でティーチが言う。

 

 「それは、俺が手にする筈だった能力だ!返せ……!!」

 

 親友だと信じていた。家族だと想っていた。

 叶うなら、平穏無事にこれまで通りに生きて欲しいと願って……だが、その結果がコレだ。許すものか、俺の最愛の女に手を出した事、許す筈があるか……!!

 

 「……チ……」

 

 ティーチを闇の中へと引きずり込んだ直後に聞こえた微かな……けれども甘やかな声。掠れていても、答えなんて1つしかない。

 その声を、俺が聞き間違える筈が無いんだ。振り向けば、困った人ねと言わんばかりに微笑むナミが居る。

 

 「ナミ?」

 「さっ……ち、だいじょ、ぶ……だから、ね、おち、ついて。おねが……」

 「ナミ、喋るなぃ!まだ傷口は開いてんだ、大人しくしてろぃ!」

 

 叫ぶマルコに笑いかけて、それから俺を見つめる愛しい女。紫色になっている唇で、紙より白くなってるその顔で……。

 

 「さっち、それいじょうは、だめよ。さっちが、くるしむ、から……」

 「ナミ……」

 「だいじょうぶよ、さっち、だいじょうぶ」

 

 その声に、その言葉に、俺の理性が帰って来る。肩から力を抜いて、自分からフワフワと出ているその黒い能力を押さえ付けた。

 ティーチの他には何も飲み込まなかったらしいと確認してから、親父に視線を向ければ頷かれる。ナミが死んでない以上、今なら追放で済ませられるという事も分かってはいるんだ。

 ティーチがもし、俺のこの能力で死んでいたとしても、それは責められるものでは無い。そして、生きていたとしたらそのまま小舟を与えられて追放となる。

 誰も死なない未来が、結末が待っている。ともすればティーチが俺の命を狙い続ける可能性はあるが、それでも白髭海賊団を追放されたと言う事は大々的に宣言されるのだから、罰には充分なるだろう。

 細く息を吐き出して、マルコへと視線を向ければ大丈夫だと頷かれる。つまり、ナミは死なねェ。

 傷口をマルコが治療してから、姿を鳥に変えたのを確認して俺も口を開く。初めてだから、少しばかりどうなってるか不安だが。

 

 「解放(リベレイション)」

 

 そうして投げ出されたティーチの身体は、パッと見は問題なさそうに見える。つまり、部位的な欠損は無い。

 だが、恐らくダメージだけは相当なものだろう。親父もそれをわかっていて、治療をしようとする船医達を制する。

 そして、小舟を1艘用意させると静かにそこへとティーチを移動させた。そこには水の入った樽を1つと、銃弾が1発だけ入った銃を共に乗せ、他の荷物を与えずにその能力で船から小舟を突き放す。

 これは、ある意味で最も寛大な追放である。本来ならば、水は与えられずに小舟に乗せられるのだから。

 銃弾の使い方は……当人に任せられる。通常ならば生きられないと悟った人間が自らの命を絶つのに使えるようにという慈悲として与えられるその銃弾。

 だが、時にその1発で軍艦を奪い取り生き延びたなんて奴も中には存在する。恐らくティーチも、この程度では死なないだろう。

 そうして俺達は1人の友であり家族であった筈の男を追放し、他は誰一人欠ける事なく生きている。だと言うのに、火が消えたように静かなのは、お人好しな妹が1人……目覚めないからだ。

 ……後は、お前が目覚めてくれるのを待つばかりだぜ。血が抜け過ぎたナミが、長い眠りについたのは当然の事だろう。

 俺はナミが目覚めるその時までとの条件で、仕事を免除されナミの傍に張り付く。ナミの手を握ったまま眠りに落ちた俺が、頭を撫でる細い指により起こされるのは……それから少し経ってからの事だった。

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