船の揺れが着岸した事を報せる。食事を作り続ける必要のある四番隊は、隊員全員が揃っての休みを貰える事はまず無い。
多少の例外はあるが、基本的には交代での休みのみである。なので島が近いとわかった時に組んでおいた予定を元に、半休全休等を弟達に告げながら料理を作り続ければ、休みを貰った弟達がはしゃぎながら船を飛び出して行く。
明日やそれ以降に休みが与えられた弟達も、夕飯さえ作り終えれば明日の朝食のそれ迄は降りたければ降りられる。なので陸にいるこの機会に、女と過ごしたいなら過ごす事は可能なのだ。
……そういや、ここはどんな島だったかな。島により手に入る食材が変わるからと、到着した島の情報を得て来る事を告げて後を任せたが、それはいつもなので誰も気にしない。
厨房から出て直ぐに見掛けたエースに話を聞けば、何度か来た事のある島だと思い出す。……今は、何やってんだろうな。
来る度に違うイベントやってる島だからと、視線を島に向ける。その時下が騒がしいと気付く。
「どうした?」
「あ!サッチ隊長!」
話を聞いてみれば見知らぬ荷物が届いたらしいと知る。ふぅん?と話を聞きつつ届いた物を確認すれば危険な物は無く……てか、成程な。
「これ、うちで頼んだ物で間違いねェわ。親父の所に運んどいてくれ」
「あ、そうなんですか。分かりました!」
「ついでにこれ、親父に渡しといて」
親父も見れば分かるだろうが、念の為ナミがイベント用に揃えたと思われる事を書いたメモを託しておく。皆の妹であり、俺の最愛の恋人はいつもと変わらず無防備だ。
……怪我から回復してまだ間も無いのに、1人で出歩くなよな。そう思って細く息を吐き出した時、聞こえて来た声。
俺はその声の元へと駆け出して行った。部屋に到着すると、干された地図が見えて、歌うナミが見える。
綺麗だな……。それは、地図もそうだがナミ本人に対してそう思える。
歌声が止まると同時に拍手して俺がいる事を知らせれば、ナミは俺に驚きの表情を向けてから頬を染める。可愛らしいその様子にそっと近付いて、机に置かれている譜面を見た。
「ナミ、もう1度歌ってくれ」
「なんで!?」
「冒頭聞いてねェ。……それとも、ベッドで歌「仕方ないわね。歌うわよ!」」
俺としてはベッドで歌って貰っても構わなかったが、普通に歌を聞かせて貰えるならそれもまた嬉しい。実際歌い始めれば、それまでの照れも動揺も消え失せるのだから不思議なものだと思う。
……今月は、ナミの誕生日だったな。何もしてやれてねェし、明日は休みだから出掛けるか。
それにしても、ワノ国っぽい歌だよな。ナミの頭ん中ってどうなってんだろう。
歌い終えたナミに感謝を伝えてから、イベントやるなら親父にちゃんと報告しておけよと笑う。それにより慌てて立ち上がったナミを追いかけるように、俺は言葉を続ける。
「俺、明日休みだから……出掛けるぞ」
「え、うん、分かった」
「怪我もまだ完治した訳じゃねェんだから、無理はすんなよ」
今日はもう出歩いたんだから、後は大人しくしてて欲しい。書類仕事程度なら動かないから良いかも知れねェが、動き回るのは駄目だ。
「……もう、治ったもん」
「なら、明日の夜はホテ「もう少し、待ってください!ごめんなさい!!」」
そうだろうな。少し動くと息を乱してる時点で、本調子の筈がねェんだよ。
軽く頭を撫でて、親父に叱られて来いと笑ってから俺は今日の仕事に戻る。そうして翌日、まだ俺の部屋に帰らせて貰えてないナミが部屋のドアをノックするから、それを出迎えて……。
「可愛いな。どうしたんだ、その服」
「昨日、笹竹買った時1緒に買ったの。1目惚れ」
「うん、可愛い。……髪型整えたら出掛けるぞ」
「その髪型が決まらなくて下ろしてたのに」
困ったように言われるとそれもわかる。だが、可愛いには可愛いんだが……。
「浴衣にそのクルクルした髪はちょっとなァ……」
「それは、わかるけど……分かった。待ってて。お団子にして来る」
そう言って去って行くナミを見送り、厨房へと顔を出すと隅で簡単な弁当を作る。屋台はあるが、ナミは屋台の物食べさせんの大変だからな。
簡単に用意したそれを手荷物に入れて部屋に戻れば、その途中でナミと合流出来たので揃ってモビーを出る。手を繋いで歩いていたが、時折ナミの足元がおぼつかなくなるので、腕をくませればそれだけで恥ずかしそうにするナミに俺まで湯だりそうだ。
「何か、欲しい物とか、あるか?」
「うーん、そうね。そろそろ岩塩とペン先が減ってき「備品とかじゃなくて、ナミが欲しい物だよ!」」
「……サッチとこうしていられたら、他に欲しい物なんて無いわ」
暫し無言になって空を見たのは、許して欲しい。手を出せない今、なんでこんな可愛い事言われてんの、俺。
新手のいじめかな。それとも、俺の理性への挑戦状?
震える俺に心配そうな顔をするナミは、どうしてこんなにも可愛いのか。思わずその細い身体を抱き締めれば、混乱した様子を見せるが、もう存在自体が愛しい。
「サッチ……どうしたの?」
「ナミが欲しい」
「……あの、もう少し、待ってね?マルコがまだ、駄目って……言ってたから」
「聞いてくれたんだ?」
「だって、昨日……サッチが……」
あァ、昨日も求めたな。うん。
恥ずかしそうなナミに、ありがとうと笑ってその瞼にそっと唇を落とす。そのまま腰を抱いて歩き出せば、支えがある事で楽になったのか少し呼吸を楽にしてるのがわかる。
途中いくつかの屋台や店を冷やかしながら歩いて、噴水の見えるベンチに腰を降ろすと、少し顔色の悪いナミに作って来た飲み物を差し出す。それを受け取ったナミが驚いた顔をするのが、何だか妙に嬉しい。
「サッチ、これ……」
「その体調だと、買ったもん警戒しながらってのは、キツイだろ」
「ありがとう」
「弁当もあるぞ」
「え!?休みなのに!?」
弁当を取り出しながら言った俺に驚いた視線を向けてくるから、笑っちまう。冷静に考えてくれよ。
「ナミと俺の分作るくらい手間でもねェよ。普段何人分作ってると思ってんだ」
「人数分作るのも、1人分作るのも基本的な作業変わらな「人数増え過ぎると、変わるんだよ。もう、料理ってか作業だぜ?」」
俺の言葉に分からなくもないと言って笑うナミに、そっと髪飾りを着けてやる。色々な店を冷やかしてる時、気にしてた店があったからその中で似合いそうなのを選んだつもりだ。
ただ、今日の七夕というイベントにも合わせられるように、星の形をした物を選んだが……。気に入ってくれるだろうか。
「デートの記念と、少し遅れたが……誕生日プレゼントだ。怪我が完治したら、ちゃんと祝おうな」
「サッチ……」
「俺の織姫、彦星を独りにしないでくれよ」
「……うん、ごめんね」
少し目を離した隙に死にかけた俺の愛しい女。生きて、年齢を重ねてくれた事に、俺がどれ程喜んでるかきっとわかってねェんだろうな。
そんな俺の心を読み取ったかのように、ナミは困ったように笑う。その顔、可愛いけど……泣いてくれた方が見てて心が楽だ。
「心配かけて、ごめんなさい」
「本当に、な」
「もう、離れないから……ずっと、傍にいるから……」
「……そうしてくれ」
そうして自然と重なった唇。もうこの2人にはこの場が外だとか、そんな事はどうでもいい事なのだろう。
ただ、互いの鼓動を感じられる事が嬉しいと、1つの弁当箱を抱えて食べさせ合う熱苦しいカップルが居るだけだ。今日も織姫と彦星は、年に一度の逢瀬なんて耐えられないと、引っ付いたまま離れない。