明け方、ニュースクーが俺を尋ねて来たのでナミを起こさないようにそっと部屋を出る。いつもはナミに用事なのだが、そろそろ年末だから何か贈物を用意しておかないと不味いと俺が判断した事で呼んでおいたのだ。
年末はイベント事が多いからな。それに……俺がやり過ぎた時、ナミが少しでも抵抗できるようにしてやりたい。
もしも何でも好きな実を食べられると言うなら、迷わずエースのメラメラの実を貰いたいが、誰かを傷付けてまで欲しいとは思わない。つまり、今この身に宿る能力も俺が求めていると言うものでは無いのが、正直なところ切ない話だ。
「クー!!」
「ありがとう。これならナミが、喜ぶと思うんだ」
笑う俺にニュースクーはそれならば良しと言わんばかりに頷くから、どれだけ愛されてるのかと笑っちまう。そうしてナミの為の贈物を手に部屋に戻れば、ナミの姿が無い。
……どこに、消えやがった?
慌てて部屋を飛び出すも、行先で思い付くのはそう多くない。真っ先に親父の元へ向かった俺に、親父は爆笑したが……居場所は教えてくれなかった。
使えなくはないが、見聞色の覇気苦手なんだよ……。そんな事を1人で呟くように言いながら蜜柑畑へ向かえば、蜜柑泥棒を見付けて縛り上げる事となる。
「エース……お前な……」
「美味そうな匂いがしたんだもんよ……」
「ナミに泣かれるぞ。この間も枝が折れてる……って落ち込んでたのに」
「ゲッ……!!」
「犯人はお前か!!」
とりあえず仕方ないから縛ったまま甲板に放置して来たが、そのやり取りを聞いていたらしいビスタに説教される事になった様子で、持つべき者は友だなとしみじみしちまう。だが持ってる贈物の関係で、身体がダルくなったのもあり俺は部屋に戻る事にした。
ドアを開ければ窓の外を眺めるナミが見える。その時ナミの髪が風で動き、イヤリングが見えれば無事だったのだと理解は出来た。
「やっと見付けた」
驚いた顔で振り向いたナミが、カレンダーと外と俺を順番に見て首を傾げた。その仕草で思考回路がよく分かる。
約束してたかな?してないよね、なら、天候?
うーん、問題なさそう。なんで探してたのかな?
って所だろう。……可愛いが、そうじゃねェよな。
「早朝部屋に居なかったら何かあったかと思うだろう!ナミは優秀な航海士だ。その上でこんなに可愛いんだから、狙われたとか誘拐されたとか考えちまうだろ!?」
「……誰かさんが無理させるから、身体は痛いし、ベタベタしてるしで、シャワー浴びたかったの!!」
在庫管理をやりたいと言ったナミを、これ幸いと捕まえて倉庫の大掃除をさせたのは確かに俺だ。そりゃ、汗でベタつくし普段とは違う筋肉使うんだから身体も痛くなるよな。
「無理させてごめん」
でも、助けを求める事も無く全てを1人でこなしてくれたナミは、在庫管理も掃除も他の誰もやらなくていいようにしてくれている。その優しさが愛しくてつい微笑めば、少し照れたような困ったような顔で頷いてくれた。
「薬は飲んだし、もう大丈夫よ。所で、忘年会やりたいから協力して」
「あー……そうだな。ナミがこの間手に入れた、大量の酒も使っていいのか?」
「うん。使う予定」
「よし、それなら話も通しやすい。皆が喜びそうだな」
近年大き過ぎる事件が多かったからこそ、こういうイベントは大切にしたい。細かい所までよく見てると思って笑えば、ナミが聖母のような顔で笑う。
ナミは……自分も海賊なんだって、わかってるか?わかってねェよな。
そもそも、蜜柑の枝が折れただけで落ち込むんだぞ。何だこの神々しい生き物は……って、天使か、成程。
「どうしたの?」
「ナミにだけは、永遠に勝てる気がしない」
「勝てた記憶が、無いんだけど……?」
キョトンとした顔で俺を見たナミは、その直後に胸元から取り出したペンと紙を手に、キリッとした顔を見せる。その変化率が面白くて、素直過ぎるだろと思えばこそ笑っちまう。
「楽しそうで何よりだわ」
「ナミといると、常に笑えるよ」
「それ、どういう意味?」
少しムスッとした顔をするナミが可愛くて、腕に抱き締めればそっと腕を回してくれた。甘えたように擦り寄るナミは、今も昔も俺を強く想ってくれている。
だからこそ願う。もう二度と、俺の為でもその生命を捨てようとなんてしないで欲しいと。
「忘年会の準備なんだけどね、私も料理手伝っていいかな?」
「ん?大歓迎だが、珍しいな」
「コックの戦場だから近付くのはって思うけど、私の……えっと、考えたメニューがね、あるの」
「それは……皆が喜ぶ。〝宝玉〟のレシピは革新的だからな」
荒削りだからこそ、各自改良出来るナミのレシピは、それでもそれ迄誰も考えなかったようなものが多い。余白も多いから、色々書き足せるのは俺らには本当に助かる。
自前の創作レシピノートに、追記するのと近いからな。そんな事を考えながら親父への報告を済ませれば、そこからはナミと共に果実酒を作りながら新たな料理についての話合いである。
「クリスマスなら赤をメインに持ってきたりするんだけど……今回プレゼントが間に合わないし、色々あったから忘年会がいいと思うのよ」
「成程。だとするなら、鶏系の肉に拘らなくてもいいよな。それなら……」
そんな話をしながら色々と話し合って行く。今回はナミが手に入れた大量の酒もあったが、果物も豊富なので果実酒を作る事になった訳だ。
綺麗に洗った果物から水を取り、煮沸消毒された入れ物に氷砂糖と共に入れる。そこへ焼酎を注ぎ込み寝かせる。
日に1度入れ物を動かして中を撹拌させてやり、カビなどの発生を防ぐようにする必要はあるが、基本的には放置でいい。水が残ってなければ腐る心配はほぼ無いが、駄目になったら潔く諦めるしかないのが酒という物だ。
これは呑めるまでに数ヶ月かかるので、今回の忘年会では使えないけどな。氷砂糖により潰されない果物ならば、何でも果実酒にできるので、硬い梅は果実酒を作るのに向いている……という訳だ。
「当日はカクテルでも作る?」
「ナミは辞めた方がいい。あれは手が荒れるんだよ」
「……なら、当日は何か別な事しないとね。何が良いかしら?」
そんな事を話しながら、共に料理をしたりして迎えた当日。近くの島に寄ってその海岸で忘年会をやる事になったのは、酔っ払いにモビーを破壊されない為だ。
「ナミ」
「なぁに?」
「これ、プレゼント。クリスマスじゃ無かったが……何かしらやるだろうと思って用意していたんだ。使ってくれ」
「ありがとう。でも、私何も用意してな……「無事でいてくれるなら、それだけでいい」」
その為に用意したんだからな。そう思って笑えば、ナミは頬を染めて頷く。
それから小さな声で、開けていいか聞くからそれに頷いた。その瞬間嬉しそうにベッドに戻り腰掛けたナミが、それを開いて……。
ソワソワしている俺の前で、ナミは動きを止めた。そして、瞬きもせずにそれを取り出すと、俺にゆっくりと視線を向ける。
「サッチ……これ、いいの?」
「ナミには必要だろ」
「用意するのも大変だったと思うけど、それよりも、サッチ……これ持ってて大丈夫だったの?」
「多少、キツカッタけど……ナミを喪うよりマシだ。二度と、あんな事にならない事を願っての事だからよ」
もう二度と……あんな思いはしたくない。あのまま世界を滅ぼしたくなったのは、きっと俺だけじゃない筈だ。
俺の事を案じてくれるのは嬉しいけど、俺はナミに自分をもっと大切にして欲しい。ナミは、自分の価値を知らなさ過ぎる。
「今日、早速使うね」
物思いに耽ってた間に言われた言葉。それにより硬直してる間にナミはありがとうと言って、駆け出してしまう。
表から聞こえる怒号のような歓声を聞くに、ナミはあの武器で何かしようとしてくれてるんだろう。そんな事を考えて小さく笑うと、俺もまた料理を作る為に動き出した。
宴開始の声が聞こえても、俺の手が止まる事は無い。大抵の宴は、どうしてもそうなっちまう。
その時突然マルコが飛び込んで来て、何事かと思えば俺無しでやれるかを弟達に聞いている。……いや、でもよ、俺っち抜けると不味いと思う訳よ。
「後は同じ事の繰り返しなので大丈夫です。お気を付けて!!」
「え?俺の意見は?」
「早く行くよぃ!もう時間がねェ!!」
余程の緊急事態かと慌てて厨房を飛び出して、スカーフを少し強く結び直す。そうして到着した俺が見たのは、舞台の幕が開く瞬間で……舞台の中央に立つのは、ナミだった。
無言で足を止めた俺に、ナミは微かにその瞳を大きくしてから、無表情に戻る。そして、動き出した。
俺の贈った武器……鉄じゃなくなって海楼石になった鉄扇を手に舞うのは明らかにナミで、その動きに息を飲む。美しくて……そして、戦争の時のナミを思い起こさせる。
あの戦争は今年の事では無いが、後処理等もあったから何だか年が変わった概念が無くて、今年の1部にさえ思えるような戦争だった。確かにナミの努力により、エースが囚われての戦争が消えたのは間違いない。
だが……その対象が変わっただけで、結局戦争は起きた。あの戦争は……俺達に大いなる傷を残したのだ。
マルコが頑張っちゃいるが、ナミの身体にはその時の傷が痛々しく残ってるからな。どうして、もっと早く助けてやれなかったのか。
自分を責めつつ、愛しいナミのその動きに見惚れる。戦争の時も思ったけど、本当にナミは舞ってる時と戦ってる時の動きが同じなんだな。
舞うように戦うと思っていたけど、舞うその姿があまりにも美しくて……そのまま消えちまいそうに思える。最後に動きを止めたナミは、その後幕が降りるその瞬間まで微動だにしなかった。
駆け出した俺は幕が降りるのと同時に舞台袖にナミを引きずり込み、腕の中に抱き締める。消えないでくれと願いながら。
「サッチ?」
「消えないでくれ」
「……消えないわよ。サッチがいつも、私を引き止めてくれるもの」
その時になって漸く宴の喧騒が俺の耳に届いた。それでも俺は、緊張から冷え過ぎた指先に熱を戻す事も出来ずに震える腕でナミを強く抱き締めている。
そんな俺に、ナミは笑う。そして、兄弟が笑いながら集まって来た。
大切で愛しい人達に囲まれて、嫌な事も悲しい事も忘れる宴に酔いしれる。最愛の人を腕に抱いて……。