助けられて、そのまま誘って貰えたからと言うのを言い訳にして、私は白髭海賊団にて邪魔をさせて貰っている。子供とはいえ1応女の子だから、ナースの部屋を借りるのかと思ってたけど、どうやら違うらしい。
アーロンの所にあった海図を私が描いたというのもあり、ナースでは無く測量士として乗るのが正しいのではないかと言われて所属場所さえ決まらずに居るらしい。つまり、面倒をおかけしてる訳だ。
そんな訳で私は、無言でやり取りを黙って聞いてるんだけど……。イゾウさんは私を抱き締めたまま、離そうとしない。
「所属は後にして、部屋は俺の部屋で良いやね」
「待てこら、そんな危険な事誰が許すか」
「親父、ナミは俺のお宝だ。所有者の元に居させる事になんの問題があるってんだ?」
所有者と言う単語に肩が震える。それに気付いたらしいイゾウさんが、即座に悪かったと言って抱き締めてくるその腕に力を増した。
その温もりは優しく、暖かい。その状態で、イゾウさんは白髭さんを睨み付けた。
「俺の恋路の為に遠征してくれたんだろうが!ナミは俺の女だ!!」
「だからダメなんだろう。人として流石にその何も知らない小娘を、飢えた狼の巣で同室させるなんざ出来るか!!」
「海賊が人としてとか言ってられんのかよ!?俺は、ナミが欲しくて「イゾウさ、ん?」」
何が起きてるのかと思う。確かに助けてくれる時なんか、似たような事言われたけど。
あれは私を宥めたり気負わないでいいように言ってくれただけだと……。え、まさかイゾウさんって、幼女趣味とかなのかな?
「ナミにそういった行為を無理強いする気はねェが、手元に置いて守りたいと思って何がおかしい。姿形は幼くとも、中身は立派に大人だ。……ナミが成長するまで、手は出さねェから、安心しておくれな」
私を見て細く息を吐き出した後、イゾウさんは白髭さんにそう言った。ただ、最後の部分は私を見つめながら、とろけるような笑顔で言われたのだけど。
私はどうやら、イゾウさんの顔に弱いらしい。すっごい美人なんだもん、仕方ないと思う。
だからこそ、この空気を変えないと。何か、言わなきゃ……!
「あ、の……。私、測量士じゃないです、よ?」
話題を変える為に口にした言葉でその場が静まる。何言ってんだこいつって顔で見られて、でも、事実だから伝えておくべきだと思う。
それにしても、そんなに変なこと言ったかな?
「ナミ、ここで〝海賊〟とか〝蜜柑農家〟とか言えば流石に怒るよぃ?」
「違いますよ!……私、航海士なんです。測量士としてのそれは、趣味の範囲で「趣味の範囲で、これか?」」
マルコさんの言葉に慌てて答えていたら、白髭さんにそう言われて頷く。アーロン達は測量士としての、趣味の部分の私を必要としてたけど、洋服のデザイナーが自分でデザインした服を自作できるのとこれは近しい。
できない人はできないし、できる人はできるって感じかな。やれた方が色々便利だけど、やれなくてもそれはそっちの本職がやればいいって話なのと同じ。
私は自分の航海術で世界を旅をする為に学んだから、航海士が第一優先される私の本業。次に夢を叶える為には地図や海図を読めなきゃだし、描けないと話にならないから描けるようになった。
最後に1人で旅する為に必要だから、そうだ技術も船の知識もそれなりにはあるし、料理や裁縫も必要な時に困らない程度にできる。でもここまで来ると既に趣味ですらなく最低限の知識って感じの枠になると思ってるわ。
白髭さんは私の描いた海図を見て、私を見て、イゾウさんに視線を向けた。そして、困ったような呆れたような顔をする。
「随分と優秀なお宝だな、イゾウ」
「俺としては、他にもあるんじゃないかと踏んでるところさね。……サイクロンの発生を予知できるのは確認済みだし、あの怪我でも理性を失わない気高さ、そして、拷問に耐えきる我慢強さがある。ここまで来れば、他にもあって可笑しかねェと思うところさね」
「……マルコ、イゾウ、それとナミ。それだけ残って後は1旦解散してくれ」
白髭さんの言葉に従い皆が部屋から出ると、白髭さんから問われたのは予想外の事。だけど、なんでそんな事を聞かれてるのか分からない。
「村で、姉とよく歌ってたと聞いたが、それの作詞作曲は、誰がやっていたんだ?」
「え?」
「村の奴らがな〝新曲が楽しみ〟だったと言ってたもんで、気になってたんだ」
私は思い出したのを譜面にして、ノジコとそれを元に歌ったりしてたから、私と言えるのかな。でも、それを売ってお金にしてたんだから、1応は私が作詞作曲してたって事になるのかも。
そう言えば家を出る時、仕送りはするなって言われちゃったのよね。困ったな、突然作家活動辞めるってなったらファンだって言ってくれてる人達を悲しませちゃうし、クーちゃんが困る事になるかも知れない。
でもなぁ、盗作の枠だし、執筆したりしてるのが私だって言っていいのかな。でもここで他の人の名前は出せないもんね。
書かない事は難しいし、そうなれば仕方ない、か。覚悟を決めよう、この先も……本当にそれを生み出した多くの人達への敬意を忘れずに。
1度目を伏せて、深呼吸する。よし、この先私は作家である事から、逃げない。
「私が、作詞作曲をしてました」
「……料理も、珍しい物を作ってたな。村の奴ら」
「嗚呼!それは、私がレシピを教えました」
皆新しい食べ方だって喜んでくれたんだよね。だからつい色々教えてたのよ。
まだアーロン達が攻めてくる前は、童話を読み聞かせたりしてたな。小さい子って可愛いから、なんかすごく楽しかったのよね。
そう思って笑った時、何故か皆が驚いたような顔をした。どうしたんだろうと思って首を傾げたら、白髭さんが言った。
「お前ェ……〝宝玉〟だな」
「え?はい、そうですけど……?」
アーロンには稼ぎ口があると知られない為に隠してたけど、ここではそれを隠す意味なんてない。続きを待ってるって人もいるから、叶うなら雑用時間を免除してもらって執筆出来たら嬉しいからと思って頷く。
その瞬間、イゾウさんが今まで以上に強く抱き締めてきたから、何事かと思う。でも、イゾウさんは私の顔を胸の所に押さえ込んでるから何も見えない。
「親父……!」
「分かってる。少し待て。……予想はしてたんだが、と言うか予測したから聞いたんだが……これは……困ったもんだな」
「本人がこれだけ価値に無自覚だと……サッチには話しておいた方が良いだろうねぃ。ナミは飯もろくに食えない事を考慮すれば、サッチの協力は必須だよぃ」
「なら、ハルタもだな。あいつがうろちょろしてて勝手に気付いた時が厄介だ。さり気ないサポートって意味ならビスタが適任かね」
3人の会話に着いて行けなくて、1人で首を傾げる。そんな私に動くんじゃないと言うイゾウさんの声が、少し甘い。
でも、何も見えないし、暇なんだもん。会話にも入れないし。
そう思ってイゾウさんの服を掴むと、少し隙間を作ってくれた。どうやら、私が呼吸もままならない程に、強く抱き締めてた事に気が付いたらしい。
「あの、話が全く見えないんですけど……執筆とかしたら、駄目ですか?紙とインクの代金なら、支払いますよ?」
「そんなみみっちい事じゃねェよぃ。今世界が〝宝玉〟を探してるんだよぃ。それがろくに戦えない美少女って事が知られれば、リスクしかねェ。だから守る手段を考えようって話だよぃ」
背後から聞こえたそれに私は首を傾げる。だって、おかしい。
「なんで、守ってくれようとするんですか?村の方はまだ分かります。アーロンが関わっていて、ジンベエさんが関わってましたから。ですが、私個人を守る理由が分かりません」
「俺が、ナミを求めてそれを認めて貰った。もう、親父から見ればナミは娘なんだよ。そうなりゃ、マルコには妹だ」
「へ?」
「自己評価の低い俺のお姫さん。俺はナミに惚れてる。流石に今すぐ手を出したりする気はねェがね」
冗談とか、なんかの方便だと思ってた。なんて、言ったら怒るかな。
息をするように自然に、イゾウさんが私の頬にキスをする。それを呆然と見詰めて、何も考えずに答えていた。
「私も、イゾウさんが好きです。感謝してますし、ずっと守ってくださってて、惹かれてて……でも、だからこそ現実感がないです」
「ゆっくり、現実だと教えてやるから安心し「イチャつくのは、問題が解決してからにしてくれねェかねェ?」」
言葉と共に重なろうとしていた唇が、苛立った様子のマルコさんの言葉で止まる。私はマルコさんの言葉を受けて、ビクリと身体を揺らしたけど、それを見ていた白髭さんに苦笑された。
それからも話し合いは続いて、私は1番隊に所属して、マルコさんのサポートをする事で話が纏まった。これはマルコさんの傍に、堂々といられる理由付けにする為の肩書き的なものだと思ってる。
戦闘能力が高くそれでいて書類仕事の多い人だから、力仕事の出来なさそうな子供を傍に置いておくのは皆から見てもおかしくは無いとの事。実際書類仕事なら案外得意だし、協力できると思ってる。
食事の時はサッチさんが対応してくれるし、部屋はイゾウさんと同室だから狙われたとしても守りやすくなる。でも、リスクを考えたら私が宝玉だと言うのは、白髭海賊団の皆に伏せておくべきだと言われてしまう。
それを伏せたとしても、海図と地図の完成度と天候を読む能力は充分狙われる理由になると言われては、それに頷くしかないけど……。でも、何となく納得いかない。
「でも、
「家族だとは言っても他人だし、話には尾ひれがつく。必要最低限の事しか話さないのが、上に立つ者としては必要なんだよぃ。ナミは俺の補佐だから、上の立場として行動しろぃ」
マルコさんの言葉は正論だと分かってる。でも、なんだか寂しい。
「家族に隠し事って、なんか嫌ね」
「家族騙し切って、守り抜こうとしてた英雄が何を言ってんだよぃ」
私は、英雄なんかじゃない。私は結局、何もできなかったのだから。
イゾウさんに、泣き付いて、甘えてるだけの……。そう思って俯いた時、イゾウさんが言った。
「ナミ、皆を家族だと認めてくれるなら、そして俺を恋人と認めてくれるなら、呼び捨てて頼むよ」
「ふぇ!?」
「敬称なんて、付けないでおくれな」
顎を掴まれて、瞳を覗き込まれる。それに勝手に赤くなる顔は、なんて正直なんだろう。
「い、ぞう……?」
「そう、今後はそう呼んでおくれだね?」
拒否はさせない、認めないと瞳が伝えてくる。頷く事は顎を抑えられていて出来ないので、はいと小さく返事をした時、マルコさんと白髭さんにも同じように呼び捨てでと言われてしまう。
でも、白髭さんを呼び捨てなんて出来ないと叫んでいたら呼び方について大騒ぎになり、出て行った筈の隊長達が戻って来た。結局全員を呼び捨てにして、白髭さんは親父様と呼ぶ事で落ち着いたのだ。
この時から私は、白髭海賊団の秘蔵っ子としてその名を知られていく事になる。イゾウさ……いいえ、イゾウを恋人として、マルコの書類仕事をサポートをしながら。
その後私が有名になった事で慌てて姿を見せた赤髪海賊団のメンバーにより、私が護身術程度はできるのだと知った面々から〝無自覚って怖い〟と言われるのは遠くない未来。見た事の無い世界を、大切な人達と共に見る為、私は今日も元気に声を出す。
「皆ー!!サイクロンが来るわよ!持ち場について!!」
慌ただしい日常に笑いながら、私の時はゆっくりと進み出す。波間の向こうを、明るい未来を目指して。