船が島に着いたのは、突然騒がしくなった船内の空気でわかる。今回はいつもより周期が短いけど、それは何人かのナースといい感じになった家族が船を降りるからだ。
そしてそれは同時に、傘下であるかは置いといてこの船に乗りたいと言っている人達の入団テストを行う為でもある。傘下の海賊船から、この本船と呼ばれるモビーへの移動希望って案外少ないんだけどね。
入団テストの選別は持ち回りで隊長たち数人が行い、それから親父様が直々にテストする。ある意味で私も、それは経たと言えるのだろう。
隊長達に拾われて、助けられて、親父様の許可を貰ったのだから。ずっと白髭様と呼んでたのに、父と呼ばれたいと言う可愛い酔っ払いに負けて、お父様と呼んだら何故か倒れられて、色々揉めた後で親父様に決まった。
親父様はアレで意外とケチだ。でもその理由までは知らないし、知らなくていいと思ってるのよね。
だけど必要なら親父様の物は、私の執筆料で全て賄っても良いと心から思ってる。この船に乗っていると時たまシャンクス達と会う事があって、その度にマルコとイゾウが不機嫌になるのは困った事だと思うけど、他には変わった事もない。
私に欠番の2番隊隊長をやらないかと打診された時は、打診して来た皆の頭がおかしくなったんだと思って、皆の事を心配した。だけど、そんな私に皆が折れる形で、2度とそんな話は出なくなった。
その騒ぎの中でティーチまでもが、女で隊長になるのは歴代で初めてだったのに、勿体無いななんて言っていたのが何となく耳に残ってる。……実際共に過してて思うけど、私案外ティーチって嫌いじゃないのが困りものなのよね。
彼がサッチ隊長を殺すのかと思うと、何とも言えない気持ちになる。私も随分長くお世話になってるけど、ティーチはそれよりも長い。
それだけ苦楽を共にしてきた友人であり家族を殺せるなんて、私には信じられない。震えそうになる体を抑える事しか、今の私にできる事は無いのが悔しい。
喪いたくないのよ。なのに、その諸悪の根源に成りうる人物さえ、私は嫌えない。
「ナミ」
声をかけられて振り向けばイゾウがいて、私はイゾウに駆け寄るとそのまま飛び付いた。それを難なく受け止めてくれたイゾウはいつも私を子供扱いするけど、そうさせてるのは私だ。
肉体は16歳になったし、中身は相当な婆だけど……その、そう言う雰囲気になるのはまだ、怖いと言いますか。恋人と呼ばれる関係になったのは、ここに来て数ヶ月後だったから、14歳の時の筈なのに。
だから待たせてるのは分かってるけど……けど!もう少し、子供でいさせて欲しい。ごめんね、イゾウ。
「ナミはこの後予定はあるのかい?」
「消耗品の買い足しと、親父様に何か買って来ようかと思ってる位よ」
「……ナミ、親父を甘やかすとマルコに叱られるぞ?」
そうだ……と、この間も親父様が好きだという珍しい銘柄のお酒見つけて、ついあるだけすべて買って帰った時の事を思い出す。数本は隠しておいたけど半分をお土産にってあげて、残りを宴の時にも好きでしょうと言って小出しにしてたらマルコに叱られたんだった。
でも、私お金の使い道無いからなぁと、空を見上げてしまう。親父様が喜ぶなら、それでいいと思うのに。
親父様の病気は、実はクロッカスさんに診てもらって回復に向かっている。だから今の白髭海賊団は、比較的平和なのだ。
「ナミを着飾りたいって言っても無駄の1言だし、俺の心が萎れたらどう責任取ってくれるんだい?」
「……っ!彼女より綺麗な恋人が、何を言ってるのでしょうかね?」
「確かに俺は綺麗だが……ナミは、誰より可愛い」
この、天然タラシ!
そう言えたら良いのに、言えないので私は顔を見られないようにイゾウの胸に顔を埋める。そんな事をしていたら、イゾウが今回のナース担当らしくて買い物楽しんでおいでと言われて、離れられてしまう。
どうせ同じ部屋なんだし、気にしなくていいのかもしれないけど、少し寂しい。そんな思考を振り払って1人で買い物に出た私は、消耗品をいくつか購入して届けてもらうよう手配してから和物の店を見付けて入ってみた。
どうしても和物は懐かしくて、同時に今の髪の色では似合わないなと思って切なくなる。それでもイゾウに似合いそうな物をと選んでいたら、マルコが顔を覗かせた。
「何見てるんだよぃって、装飾品とは珍しいな」
「マルコ!ちょうど良かった。ねぇ、イゾウにどれが似合うと思う?」
笑顔で問い掛けたのに、何故か微妙な顔をされてしまった。何だろう、お腹でも痛いのかな?
「……なんで自分用は選ばねェんだよぃ」
「私には似合わないもの。でも、好きなのよ。和物。……あ、琴も売ってるんだ、懐かしい」
「三味線ならイゾウができるだろぃ」
「三味線は難しくて私が扱えません。でも、琴は場所取るからなぁ……」
マルコはそんな私に文句も言わずに何故か付き合ってくれるから、変なのに絡まれなくて助かる。それから結局ノジコとベルメールさんに手鏡を選び、イゾウには櫛を選んだ。
そんな私にマルコは溜息を落とすけど、文句は言わないでいてくれる。文具店でインクを選ぶ時はマルコと私の意見は合致するけど、同時に喧嘩の元になる事も多い。
「だから、これは船の備品として買うから好きに使えばいいだろぃ!?」
「でも、私のは趣味で使ってるのよ!仕事用と趣味は分けなきゃ!」
「どこまでが趣味かナミの場合線引き難しいから、気にしなくて良いって言ってるだろぃ!」
「私のインク消費量舐めないでよ!?」
「備品管理やってるの誰だと思ってるんだよぃ。分かってて言ってるんだから、気にするなぃ」
「でも!私それ位は稼いで……「そこまで」」
私が執筆活動等をしているのは、1部の人にしか知らせて無い。海賊と宝玉を結び付けるのは、今後の為に良くないから、大所帯では知らない人が多い方がいい事もあるのだと言われれば納得で……。
だからこそこうして時折止められる。マルコは大人で、いつも優しい。
実際仕事においては上司だし、私を助けてくれるのは大抵がイゾウかマルコ、たまにサッチ隊長。だから、本当に兄のように思ってるけど、時々寂しそうな顔をするから心配になるのよね。
「マルコ、あのさ「すみません!」」
言葉を遮られてそちらに視線を向ければ、1つ前の島から乗っている新米ナースさんだと気付く。確か、私と同じ歳だと記憶してる。
マルコは顔を顰めるけど、そんなに怖い顔しなくても良いのに。確かに隊長と先輩に対する態度としては問題だけど、そんなに怒る程酷いものでもないと思うのよ。
「あの、女の人にしか相談出来ないことで、その……」
「マルコ、悪いけど」
「だが……」
マルコは渋るけど、女にしか話せない相談事って色々あるのよ。本当に、船だと特に。
そう分かるからマルコを追い払って、2人で近くの喫茶店に入る事にした。ドアを開けると珈琲の香りがして、同時に麻薬の臭いを感じ取る。
「……ごめん、この店辞めましょ。私珈琲苦手なの」
「え、でも……入ったんだし悪いじゃないですか。何かしら飲めますって!」
違うんだよこのボケー!とは言えないので、私が守ればいいかと向かい合わせで席に着く。それにしても、この花の香りは不味いと思うのに、目の前には危機感の無い顔で笑う女の子がいる。
そうか、本当なら……ナミちゃんも何事も無ければ、こんな感じの子だったのかも知れないなと思ってしまう。こんな時、私がナミちゃんの立場で産まれたので良かったと最近は思えるようになった。
無駄に苦しむ必要は無い。例え救われるのだとしても、何も知らなければベルメールさんも喪われて居たのだから、私がここにいる意味はあるのかも知れないと。
「……ですよね!だからー」
「ああ、ごめんなさい。メニュー見てて聞いてなかったわ」
話しかけていたらしい女の子に謝ると、いいんですよー。許してあげます!なんて笑われる。
相談に乗ってもらう立場の側がこれだと、マルコが渋面になったのも解るなぁ。マルコは長く上に立ってるからか、礼儀にうるさい所あるし。
「飲み物、決まった?」
「私は珈琲にします」
「そう、私は……ウーロン茶にするわ」
メニューにある中で1番麻薬が入ってる時わかりやすい物がウーロン茶だから選んだ。けど、何故か本当に珈琲苦手なんだー?なんて言う女の子。
この違和感は何かしら?
この子……なんか、おかしい気がするのは気の所為?
「……それで、イゾウさんと別れてくれない?」
「は?」
注文しようとした時に聞こえた謎の言語に思わず聞き返せば、ナースだなんて信じられない程に、真っ黒な笑みを浮べていた。知らず体に緊張が走る。
「だってナミって、海賊のオモチャだったのを助けてもらったんでしょ?汚いし……それにマルコ隊長とも仲良しなんだから、イゾウさんは私に譲ってよ」
声を失い、石像のように硬直する私の前に飲み物が置かれる。いつそれを頼んだのかさえ、記憶にない。
「そもそも、あんたのお守りさせられてイゾウさんも迷惑に思ってる筈なのよ。だから、消えて欲しい所なのに、マルコ隊長ならあげてもいいって言ってるんだから、喜びなさいよ」
何を言われているのか分からない。脳内にマルコの声がリフレインされる。
『家族だとは言っても他人だし、話には尾ひれがつく。必要最低限の事しか話さないのが、上に立つ者としては必要なんだよぃ。ナミは俺の補佐だから、上の立場として行動しろぃ』
『家族に隠し事って、なんか嫌ね』
『家族騙し切って、守り抜こうとしてた英雄が何を言ってんだよぃ』
呆れたような、困ったような、マルコの優しい笑顔が浮かぶ。同時にイゾウの愛おしそうに私を見詰める、その眼差しを思い出す。
この子は危険。私の本能がそう言った。
「くだらない。そんな話の為に呼び止めたなら、私帰るわ」
「何処に?ここで貴方は船を降りるんでしょう?」
……成程、薬に慣れていなければ今ので私は暗示にかかっていた。だとするならば、この子はこの薬の常習者ね。
かかったフリをして様子を見るか、いや……それはちょっとじゃなく危険ね。でも、他にこの場を離脱する手段は無い、か。
私は仕方なく暗示にかかったフリをして、フラフラとした足取りで表に出て行く。外に出るのと同時に囲むように現れた男達に、私はついて行くフリをして途中でクリマタクトを使い姿を消す。
突然消えた私に男達は驚き探し回るけど、これはいよいよ放置出来ない案件かなと思う。そこにイゾウが通り掛かるのが見えて、私は丁度良いからと話をする為に1歩足を踏み出したところで、動きを止めた。
だってイゾウに、先程の子が何かを泣きながら訴えているから。イゾウはその子の話を聞いて、少し表情を変化させた。
……近付きたくない。あの顔は、怒り狂ってる。
なんであの子、あんな近くで平気でいるの?
……勇者だわ、あの子。私には、できない。
ある種の尊敬の念を向けながら様子を見ていたら、突然腕を掴まれて何事かと振り向いたらマルコがいた。そして、無言で私を引っ張って行こうとするから、とりあえずイゾウの事は後でもいいかと判断してマルコに付いて行く事にする。
だってイゾウがナースに何かされるとは思えないし、あの子もイゾウが好きみたいだし……。もしもイゾウが、他の人が良いと言うなら私はいつでも身を引く決意は固めているから。
「……無理に連れて来て悪かったよぃ。だから、泣くなよぃ」
マルコに抱き締められて、私は自分が泣いていたのだと知る。あの程度の事、影で言われているのも思われてるのも知ってたのに、どうして……こんなに心が痛いんだろう。
耳にこびりついて離れない言葉達は、まるで麻薬のようにジワジワと私の中に浸透して行く。それよりも、イゾウを譲ってと、マルコをあげると、2人を物のように言われた事が、痛みになっている気がしなくもないけど。
「マルコ……私、船にいて、良いのかな。イゾウの、迷惑に……なってるの、かな」
「アレに、何を言われたんだよぃ?」
私はそれから先、嗚咽を抑えるのに必死で、何も言葉を口にできなかった。それをマルコはただ抱き締めて、落ち着くまで頭を撫でていてくれた。
当然泣き止んだ私は、羞恥のあまり穴が無いなら掘って埋まるからスコップくださいな気分になってた。けど、マルコは穏やかに微笑むからいつまでも甘えて居られなくて、離れようとした所でイゾウの声が聞こえて来た。
「何してるのかって、聞いてもいいかい?」
「あァ、それは俺も聞きたいねぃ。イゾウ、そんなの連れて、何してるんだよぃ?」
「ナミさんが、ナンパしてきた人達に付いて行ったので、1人で心細くて……1緒にいてもらってたんです!イゾウさんは、善意で!」
女勇者は怒りのブリザードを振りまく2人の間に入って行くと、そんな事を言った。それは……凄いとしか言いようがない光景。
細い路地だからこそ、逃げる事も出来ないで怯えている私。そんな私にはただ、女勇者に刺激しないでくれと祈るのが唯一できる事だ。
「……ナミがナンパしてきた人達に付いて行った?馬鹿も休み休み言えよぃ。俺と、イゾウと、親父以外が触れると怯えたような瞳になる女が、そんなに簡単に男について行くか!」
「まァ、それはそうだが……。あァ、赤髪の所の船長サンと副船長サンにも触れられて平気だったかい?」
「あの2人は、師匠と兄みたいなもので……」
「……なんの師匠?まさか、夜の事?得意そうだものね、ナミってば」
マルコの怒りを受けてイゾウが何かを言いかけた。それにより、何故か怒りの矛先が私に向いてしまったのを慌てて押さえようとした時、聞こえた台詞。
なんでだろう、不快なのは。……私がとやかく言われるのは、この際どうでもいいのよ。
……そっか、分かった。大切な人達を蔑まれたからだわ。
シャンクスの事も、ベックの事も、何も知らない相手に……どうしてそんな事を言われなきゃならないのよ。彼等は……生意気盛りな私の、保護者みたいなものだったのに。
プツンと、何かが切れる音を聞いた気がした。勿論気のせいかも知れないけれど。
「……お黙り、小娘。私の事は何を言っても構わないわ。でもね……私、大切な人を馬鹿にされて黙っていられる程、大人じゃないのよ」
イゾウを譲ってくれと物のように言って、マルコをあげると自分の物のように言った。師匠とベックを幼女趣味に仕立てて……許せない。
師匠は言動から誤解されても仕方ないけど、ベックの方は許せる要素がない。大切な人達を侮辱されて、黙ってなんて居られないわ。
「イゾウも、マルコも物じゃないし、貴方の自由に出来る人じゃないの。……シャンクスはともかく、ベックを幼女趣味の変態みたいに言うなんて……許さない」
クリマタクトを振り回し、サンダーボルトテンポを女勇者に落とす。そして私は、動けなくなっているのを分かっていて近付く。
「……基本的にね、私女の子と子供には手をあげない主義だけど、許せない事もあるのよ」
「こ、んなことして、許される、はず……」
「貴方、麻薬やってるわね。寧ろ親父様は……それ許さないと思うけど?」
麻薬は連鎖する、そして抜けられなくなる。だから、親父様は麻薬を許さない。
あの時暗示をかける方法を知っていたと言う事は、私の様な経験をしてない限りは中毒者。この子が麻薬を知ったきっかけが、何だったのかは知らない。
寂しさからなのか、興味からだったのか。それとも付き合いからとか、無理矢理かも知れない。
でも、廃人になる程に使われたのでなければ、最初の1回で辞めれば抜けられる筈だった。なのに……続けているのは彼女の意思。
「それと……私はね、海賊のオモチャじゃなくて、アーロンのオモチャだったのよ。おかげで今でも、サッチ隊長が目の前で作ったもの以外安心して口に出来ないわ」
他の人では駄目なの。それに、目の前で作ってもらわないと、駄目なのよ。
サッチ隊長は分かっているから、私には愛を込めてなんて笑いながら作ってくれてるだけ。私が食事の時間をズラして行くのは、それを目立たせない為。
サッチ隊長は、賢い。普段馬鹿な言動を繰り返してるから知られてないだけで、あんなに賢い人はそう多くないわ。
「……ねェ、逃げ場所のある貴方には分からないでしょうけど」
私にはずっと、逃げ場所など何処にもなかった。哀しみの捨て場所なんて、何処にもない状態で生きて来たのよ。
逃げたら殺されるのを知っていたの。それも、殺されるのは私では無く皆がと言う現実。
それは、死も、薬も、それ以外のなんであっても同じ。逃げ場所を求めた時点で詰んでしまう、デスゲームに強制参加させられていたの。
「……同じ歳で、こうも違うのね。その薬、すぐに止めないと、貴方が1番嫌だと思う記憶に永遠に追い回されるわよ」
アーロンでさえ、私に麻薬は投与しなかった。臭いを嗅がせたり、どんな効果があるのかを教えたりはしてきたけどね。
使わせなかったのは、廃人になられたら道具としての価値を失うから。二度と使えなくなるからって、そんな理由だったけど、絶対に使わせなかった。
そう言うシロモノなのよ、麻薬ってのは。1度中毒者になれば、完治なんて有り得ない。
治ったと言われる人達も、永続的に緩慢な中毒者。使ってる人を見ただけで、誘惑に負ける人の多いシロモノ。
自制心だけが、戻らない唯一の道。手を出す事が絶対に許されない物。
1度無理に使われただけならば、求めようとする気持ちが産まれないから、抜けられるだけなのよ。自ら求めてしまう事は絶対の禁忌。
「……ナミ、コレについては親父に任せるしかねェよぃ。ここは俺が預かるから……そんな顔、するなぃ」
私は今、どんな顔をしているのだろう。顔を上げると、痛みに耐えているような顔をしているイゾウと視線が絡む。
「……ナミ、おいで」
私はふらりと立ち上がるとイゾウに飛び付く。優しい温もりに、甘えてばかりだから、不安になる。
私はイゾウの荷物になってはいないだろうかと。イゾウには、もっといい人がいるんじゃないかと。
離したくない、離れたくない、だけど迷惑なら、荷物になる位なら、私は側に居られない。大切だから、側に居られない。
何より口付けしかさせられないような私では、流石に辛いんじゃないかって思う訳で……。前にそれで花街行っていいよと言ったら、その……最後まではされなかったけど、散々泣かされたので2度と言わなくなったけど。
「……ナミが男達に誘われて付いていくなんて、考えもしなかったし、有り得ないと鼻で笑い飛ばせるがね。……マルコといるのは……マルコに抱き着いてるのは、看過出来そうもねェんだよ」
「イゾウ?」
「ナミが実家の家族以外に心許してる男は、全員俺の敵さね」
イゾウの言葉に私はルフィ達三兄弟を思い出すと、即座に止めに入る。特にエースはこれから、家族になる筈だものそれは不味い。
既に新聞を賑わせているし、多分この後船を出して最初に行くのがエースの所だと思うから。エースを守らなきゃ!
「……それは、困るわ。イゾウが知らない敵が、後三人居る事になっちゃうもの」
「……それは、大事だねェ。撃ち殺していいかい?」
微笑みながら本気の視線を向けてくる恋人に、私は駄目だと言ってその唇を指で塞ぐ。どうして、イゾウは時々こういう意味のわからない意地悪を言うのか。
「三人とも、私の弟みたいなものなのよ。だから、辞めて」
「相手から見ても姉なら問題ねェさ」
そう言いながらイゾウわ私の指先を舐めるから、ヒャッと言って離れる。でも腰はいつの間にか腕が回されているから、離れられたのは指だけだったけど。
「……さっきの、アーロンのオモチャって所。聞かせてくれるね?俺も、大人である前に男だから、惚れた女の事では理性なんて常に風前の灯なんだよ」
イゾウはそう言って私を甘やかす。不安にならなくていいと、求めているから側に居ろと言ってくれる。
だから私は笑ってそれに応えられる。昏い過去も、哀しい記憶も、イゾウの前でなら丸裸になれる。
これからすぐに忙しくなるのは分かっているから、束の間の休息兼ねて、私はゆっくりと語り始める。まさかそれがイゾウの想像していたオモチャとは全く違っていて、それなのに怒り狂ったイゾウがインペルダウンまで始末しに行くと騒ぎ出して、止めるのに苦労する事になるなんて、思ってもみなかったの。
まァ実際は、アーロンはインペルダウンじゃない所に居る筈なんだけどね。そんなどうでもいい事を、脳内で呟きながら。