助ければ、助けられる。愛されれば、愛したくもなる。
まァ……俺の場合は俺が愛して、ナミが応えてる感じだがね。それでも、恋愛って意味でさえ無ければ、ナミは愛情を振りまいて生きている。
つまり、誰からも愛される存在だって事だ。今もほら、その証拠にカモメにすら愛されてやがる。
「クーちゃん、いつもありがとう」
俺の存在に気付きもせずにナミは笑う。置いてある藤の椅子に腰掛けて様子を眺めていれば、受け取った箱を愛おしそうに見詰めるナミが居た。
送り元の名を見ればノジコと書かれていて……アレかと思えば勝てる筈も無いかと苦笑する。ナミの世界の大半は、あの家族で構成されている事は知っているからな。
その時口の中に押し込まれたのは甘く柔らかな、ナミとよく似た物。なんだ1体と押し込んだ犯人を見てその手首を掴むと、軽くその指を舐めてやる。
それだけでビクリと反応する愛しい存在に笑いかけると、頬を少し染めながら特別よなんて言う。涙が出そうだと返した俺にナミは調子を取り戻したのか、そうでしょーなんて言うので指先に吸い付くようにキスをしてからその手を解放する。
慌てたように俺から離れたと思ったら、飲み物を手に戻るのだから、ナミがどれだけ無防備なのか分かろうというもの。差し出された飲み物は梅昆布茶で、なんでも作れるなと少し笑う。
飲み終えると俺も余りサボっては居られねェからと部屋を後にするが、部屋を出る前にナミの首筋に紅い華を咲かせて行く。それにより首を押さえて座り込んだナミに、続きはまた夜になと囁いた。
俺もバレンタイン以降、随分と無理をさせてる事も理解はしていたが、止められそうとねェんだよ。そうでもしなければ、また奪われちまうかもしれないと不安になるんだ。
そうして爛れた日々を過ごす中で、ホワイトデーは何をしたら喜ぶだろうかと考える。……隊員達を使うか。
思い付いた事を即座に紙に描き出して説明すれば、小さなブーイングは起きたが、俺が笑えば全員黙った。うん、素直でいい子達だ。
その数日後、ホワイトデー当日。ここ数日はナミの体力を鑑みて抱き締めるだけに留めていたお陰か、顔色が少し良くなっているのを見てホッと息を吐き出す。
無理だとか言わないでなんでも受け入れようとするナミに、困ったもんだと思いながら髪を弄んでいたら擽ったかったらしくゆっくりと目を覚ました。その寝惚けた顔が少し幼い。
「起きたかい?」
「ん……イゾウ?」
「他の誰だと言うのかね、この子は」
「もう少し、寝たい……」
「今日ナミにやる事が無かったなら、俺も休みだから付き合うさね」
俺の言葉に嬉しそうに笑ったナミは、そっと腕を伸ばして俺に抱き着くとそのまま眠った。蛇の生殺しのような状態に、流石に笑えねェなと思うのは成長し過ぎたその体が理由か、甘やかな香りが理由か。
……どちらも違うかね。ただ、ナミである事が理由だろう。
同じような体型の別な女に、反応するかと言われたら……物理的には反応してもここ迄追い詰められはしない。仕方ない、襲わない為にも俺ももう1眠りと思った所でドアが叩かれ、仕方なくどうぞと声を出せばハルタだった。
「あ、ナミの寝顔初めて見た」
「可愛いだろ」
「疑問符もないんだね。イゾウらしいけど」
その言葉に内心で俺か親父の傍じゃねェと寝ないからなと思っていたら、持って来た箱を机に置いてからハルタが人の悪い笑みを浮かべた。なんだと眉を寄せると、ハルタはこの後どんどん人が来ると思うよなんてほざく。
……そうだ、ナミは全員に配ったんだから全員から返される筈だと今更気付く。仕方ないかと寝ているナミの唇を奪う事で起こせば、目覚めたナミに普通に起こしてくれる!?と叱られた。
「……物足りなかったかい?」
「違ぁーう!」
「あのまま襲わなかっただけ、褒めて欲しいくらいさね」
「イ、ゾウのそれ、は……狡い」
何が狡いのか。ナミの可愛さ程、凶悪な物は他に無いだろうに。
そんな事を考えている俺の目の前で、ナミにお返しと称して男共が群がる。困った様子を見せながらも、同時に嬉しそうにナミは笑うから俺は何も言えずにその様子を見守るしかない。
恋人となってからは長いと思うが、その肉体を得てからは短く、そして……1つ得る毎に求める事が増えて行く。もっともっとと際限なくナミを渇望している自覚があるだけに、ナミが微笑みながらお返しを受け取るのを邪魔する事も出来やしない。
「わ……可愛い……」
「迷子札代わりに付けとけよぃ」
会話が聞こえて視線を向ければ、ナミが手にしているのは白髭のマークが裏側に入ったブローチで、蜜柑の花をモチーフにした飾りになっている。それに目を奪われているナミの傍を離れたマルコは、俺に紙を手渡して来た。
見ればそれはビブルカードで、思わずマルコを見れば小声であのブローチに半分を入れてあると言う。現状だと同じサイズになるとマルコは言いながら端を切り取り持って行く。
「これで、アレが1番大きな物になったよぃ」
「なんだって、こんなもん……」
「この間、攫われた時の事を考えれば必要だろぃ。手遅れになってからじゃ、イゾウが壊れる」
「ありがとう」
素直に言葉が滑り落ちるように出て、そんな俺にマルコが笑う。優し過ぎる兄弟に小さく笑い、俺もナミのそれを少し細長く切り取り、簪に巻き付ける様にして身に付ける。
「イゾウ、何してるの?」
「お守りを身に付けてただけさね。ナミは他に何を貰ったんだい?」
「んー……色々あるのよ。基本はお菓子だけど。今度1緒に食べましょ」
「ナミにって貰ったのに、良いのかい?」
俺の問い掛けに素直に頷いたナミは、1人だと食べ切る前に腐るかカビるわと肩を落とす。律儀なナミらしい答えに、菓子と共に辛口の日本酒でもどうかねと問い掛ける。
貰った物に合わせて飲み物を変えるのも面倒だろうと思ったに過ぎないが、酒ならば大概なんにでも合う。するとナミがベッドの下から、何やら箱を取り出して見せた。
「親父様には、ナイショよ?絶対欲しがるし、あげたらマルコに私が叱られちゃうもの」
「そんな所に隠してたのか。……うわ、凄い銘酒ばかりだね」
見れば箱には新世界と書かれていて……他にも箱があるらしいと知る。コレは今度、ゆっくりと探してみても楽しいかもしれないな。
「誰に内緒だって?ナミ」
「親父様!?」
「グラララララ!1本寄越せ。それと、これがお返しだ」
「……おかしいわ。私が貰う日なのに、私からもあげたら駄目な気がする」
「気にするな。……そうだな、その抱えてるそいつでいい。寄越せ」
親父の言葉にナミが逆らえる筈もなく、オズオズと差し出した酒を手に親父はご機嫌で去って行く。落ち込んだ様子のナミの頭を軽く撫でて、親父からのプレゼントを見ればアルバムらしいと分かる。
……これに思い出をって所かね?
そう思って眺めていたが、ナミがさり気無くそれに手を伸ばして開くと中からは俺の写真が出て来た。……待て、これいつ撮った!?
「わー、イゾウが少し若い……」
「ナミ、それ寄越せ」
「やだ!私が貰ったのよ!?」
「肖像権の侵害だ!返しなさい!」
「いやー!それに、海賊には法的に守って貰える制度は無いんだから、そんなの無効だもん!」
「だもんじゃねェ!返せ!」
俺の手が腰に触れるとナミがビクリと体を反応させて、キッと睨み付けてくる。それから地を這うような声で言う。
「これの元々の持ち主は親父様だから、イゾウに返す事はありえないわ」
「ナミ、落ち着け。わざとじゃねェよ」
「やだ、知らないもん。これは私のだもん!」
プイッと顔を背けたナミは、アルバムを抱いて離さない。こうなれば実力行使だとナミに襲いかかり揉み合っていたら、いつの間にか来ていたサッチが腹抱えて笑っていて妙に苛立つ。
俺がここに所属した当時の写真だぞ!?他人事だと思いやがって……。
「そうかい……。お前さんに恋人が出来たら、お前さんがここに来た当初のフランスパンになってない写真を同じように贈ってやろうかねェ」
「八つ当たりかよ!?」
そんな会話をしている隙にナミはアルバムを何処かに隠して、後で見るんだーとハートを振り撒きつつ楽しそうにしている。……これは後で、親父にガツンと言う必要があるかねェ……?
その間にサッチはナミにネックレスチェーンを渡していて、なんだって皆ナミに何か身につけさせようとするのかと苛立つ。だがよく見れば確かにナミのネックレスチェーンは随分と弱っているから、サッチのそれは正しかったのだろうが。
……理屈は分かる。だが、感情が納得しねェんだよ。
そんな事をしている間に時は流れて、随分と辺りが暗くなった事に気付く。アルバムの争奪戦が時間の感覚を狂わせたのだと分かるが、っとに親父なんて事してくれやがる。
食事を終えたらナミを連れ出そうと決めて、隊員にそれを伝えておく。失敗は許さねェぞと、苛立ちを込めて言い放てば八つ当たりだと言われたが、ナミに関しては余裕なんざねェさ。
夜になり、だいたいのメンバーが部屋に帰った頃、俺はナミを甲板に連れ出した。真っ暗な甲板を見下ろせる位置で、俺が合図を送ると用意させたキャンドルに1斉に火が灯される。
「え?なに?」
慌てて俺に抱き着くナミに下を見てみなと囁けば、そこにはキャンドルで作ってある文字がゆっくりと浮かび上がるところだ。鈍すぎるウチのお
キャンドルで描かれているのはシンプルにした。詩的な物をとも思ったが、ナミに伝わらなければ意味なんて無いからね。
〝ILoveナミ〟
即ち、ナミを愛していると、それだけだ。それだけが、俺の素直な気持ちさね。
「え?……なっ?……え!?」
俺はそっと膝をついて、混乱して戸惑うナミのその右手の薬指に指輪を嵌める。外すなんて事は許さねェさ。
「ナミ、今はまだ〝右手〟でいい。ナミの心がもう少し定まったら……左手に、嵌めさせてくれるね?」
「イゾウ……」
「答えは〝YES〟か〝はい〟だ。さァ……答えは?」
俺の言葉にナミは小さく〝はい〟と答えてくれる。それから指輪を見て、驚愕にその瞳を見開く。
「プレシャスオパール?凄い、こんなに多くの色があるなんて……」
「ナミに贈るのに、適当な物を用意する筈ねェだろう。……少しばかりマイナス思考なナミのそれを改善させたいのもあるが、オパールは俺の誕生石だ」
そう言って立ち上がるとナミを強く抱き締める。俺を常に身に付けてておくれな……そう耳元で囁いて、想いをそのまま唇に乗せる。
ホワイトデーだからと所有の証を贈る男に、女は驚きつつも喜びを持ってそれ受け入れた。オパールの石言葉は希望と幸福。