書庫の整理をして居て、オレンジ祭りという物の記述を見付けたマルコが、それを親父に報告したのが全ての始まりだった。それを聞いた親父がナミを呼び、ナミはその話を聞かされると小首を傾げる。
「オレンジデーじゃなくて、オレンジ祭りですか?」
なんて言うもんだから、親父からオレンジデーの説明を求められたナミ。その時しまったと言う顔で、渋々オレンジデーについて説明をしているのは案外可愛いものだったと思う。
結果、全ての情報を精査した親父が、オレンジを使った祭りを開こうじゃねェかと言い出したのだ。全員参加にするには色々と準備不足なのも有り、更には実力差を考えて隊長がその隊の代表として出て戦う事に決まった。
このオレンジ祭りにて優勝した隊には、2週間の休みが与えられる事になれば、目の色も変わろうと言うものだ。勿論それは丸々ではないし、隊によってはそんな事されたら困るのでその場合は親父と2人の写真を撮って貰える事になっている。
その為、どの隊も血眼になっているのだが……その日が近づいてきたら不満がでた。そう、ナースから。
男達だけ狡いわと言われた親父が、ナースの代表としてナミを出したらどうかと言い出したのは、逃げの速さを親父が認めているからだろう。ただ、それにより参加人数が割り切れなくなったので、男達だけで前半は試合をして数が少なくなってからナミは参戦する事になった。
今日はそんなオレンジデー当日で、第1弾のゲームを終えた俺は甲板の端で転がって寝ていたと言う訳だ。そんな俺に近付いて、そっと頭に触れてきたのはナミだろうと見なくても分かる。
撫で方が優しくて、それだけで愛情が伝わってくるのに間違える筈もねェさ。そして、優しいその手が動きを止めると、代わりに聞こえて来たのは波の音楽で掻き消されそうなあえかなもの。
「愛しているわ」
その後俺の髪に何かついていたのか、そっと触れてきて小さく笑っているのが伝わる。そしてそのままそっと額に口付けたと思ったら、俺に抱き着いてくる愛しい子兎。
「お休み」
その囁くような声を聞いて、そっと目を開ければ本当に眠っているのが分かる。本当に……愛しい子だ。
寝ている今の内にその首筋に跡を遺す。オレンジデーには、大切な人にオレンジの贈物だろう?と、オレンジと言うよりは赤いその跡を見ながら内心で呟いた。
そのまま小さな頭を撫でていると、甲板の中央が騒がしくなった。どうやら半数のふるい落としが終わったらしい。
残ったメンバーを見れば、案の定と言うか面倒そうと言うか……なんとも言い難い面子だと思わされる。マルコ、エース、サッチにビスタとジョズ……そして、ハルタだ。
この中だとハルタが厄介だねェ……親父命なマルコも想定内だし、何事にも全力なエースも分かる。サッチは休み欲しさに命をかけそうな勢いだと言うのもあり、ここはビスタかジョズ辺りと戦わせて欲しいと心から願う。
「ここからは2人1組のチーム戦だ。勝利したチームは両方景品があるぜ」
そう親父が言った後くじ引きだと言ったんだが……俺が軽く手を振ると親父は俺の腕の中で寝ている子猫に気付き、笑い出した。そして、野郎共だけでくじ引きだなと言って、猫と座布団はセットだろうと言って俺達が組む事になった。
それによりナース達はナミを遠巻きに見て可愛いと喜んでるが、お前達の為にナミは寝不足なんだけどねェと少し思う。くじ引きの結果、サッチとエース、ビスタとジョズ、マルコとハルタ、俺とナミ、と言う組み合わせに決まった。
嫌な組み合わせだと心から思いながらナミを起こす為にその唇を奪えば、寝惚けたナミが俺の首に腕を回して来る。世界中の誰よりも愛しいナミだが、これを続けた場合恥ずかしがるのは俺じゃなくてナミだろうに。
「んっ……イゾウ……」
「あァ、そろそろ起きな。お姫さん」
「もっと……」
「俺は構わねェが、皆いるぜ?」
その瞬間ナミが覚醒したと分かっていて、再び唇を重ねれば、ナミは真っ赤になって俺の胸を叩く。もう少し堪能したかったが、仕方ないかと離れてやれば涙目で俺を見詰めて酷いなんて言うが、求めたのはナミだろうに。
直後にそろそろ良いかと親父に問われたので、にこやかに頷けば、親父に程々にしろよと苦言を呈される。だが、こんなに可愛い子がいたら、手を出さねェ方が無礼だろうさ。
「ナミ」
「……何よ」
「俺も、愛してる」
「や、やっぱり、あの時起きてたのね!?」
「撫でられたから起きたが、気持ち良かったからそのまま寝ていようかと思って大人しくしていただけさね。騙した訳でも無けりゃ〝寝ています〟なんて嘘をついた記憶も無いよ」
俺の言葉を聞いて、耳まで赤くしながら無言で俺を殴ってくるナミに、大人しくてなと言って軽く口付けると親父からいい加減にしろと叱られちまった。だが、ナミが可愛すぎるのが原因だぜ?
「親父、俺は悪くねェ。ナミの愛らしさが罪深過ぎるだけさね」
「良いから始めろ、アホンダラァ!」
そう言って渡されたのは布袋で、オレンジの詰め放題だと言う。合図の音と同時に箱まで走り、オレンジを1番多く詰めたチームの勝ちらしい。
詰めたオレンジは詰めた奴にやろうと親父が言った瞬間、ナミの瞳がキラリと光った。……これは、勝ったかもな。
「最終的に袋に入ってる数が物を言う。1人1袋だ。頑張れよ!」
親父の言葉の直後に響いた合図に合わせて動き出すが、ナミは合図の音が聞こえた時には既にオレンジの箱の前に居て、その素早さに舌を巻く。蜜柑が絡むと強いなと笑いながら参加していたが……本当に手癖が悪い。
ナミは箱から入れていたのはスタート直後だけで、その後は袋に多くのオレンジの入ってる相手それから当然のように中身を自分のそれに移していく。それに盗まれている誰も気付かねェ。
親父はそれに気付いていながら、楽しそうに笑うばかりだから、良いんだろうな。サッチは無意識でいいオレンジを選別してるのか、異様に遅い。
合図の音が聞こえて、この試合は俺達と言うか、ナミの勝利で終わった。その結果を受けてビスタがナミに言う。
「……やられた。ナミ、俺の袋から盗んだな?」
「あら、だって親父様は〝最終的に袋に入ってる数が物を言う〟って言ったもの。ルールは守ってるでしょ?」
ビスタの言葉にナミが笑えば、マルコが成程ねぃと言って苦笑した。続くオレンジの皮剥きでは、エースがオレンジの皮を焼いてサッチが怒り狂い、ナミはオレンジを愛しそうに丁寧に扱って遅くなり、結果的にビスタチームが勝利した。
オレンジに水を当てるなんて俺の為にあるゲームでは当然俺が圧勝したが、まさかのナミの腕前に皆が言葉を失った。それを見てエースだけが、相変わらず上手いなとか言っているから子供の頃から上手かったらしい。
「銃とか、使えたのか……」
「ベルメールさんに武器の扱い方は1通り使い方教わったし、それに」
「それに?」
「接近戦じゃ無ければ、罪悪感が少ないから少しは役立てるの。それに気付いたベックとヤソップに遠距離の物は随分仕込んでもらったから、それなりだと自負してるわ」
そう言ってから1瞬言葉を切ったナミは、俺を見て穏やかに微笑む。それから鈴が鳴るような声で、可愛い事を言う。
「それでもイゾウには遠く及ばないし、私は雷を落とす方が得意だわ」
この可愛い生き物は俺の傍で今後も戦ってもらおうと、心から思わされた瞬間である。そうしていくつものゲームを終えて少しの休憩となった時、ナミが小首を傾げた。
「あの、イゾウ。これ、勝ちたい……?」
「ナミとゆっくり2週間、2人きりで旅行も良いだろうと思ってるだけさね」
「イゾウ……」
「ナミ……」
思わず手を取り合い見つめ合った瞬間に、声が割り込んでくる。マルコやサッチなら銃弾ぶち込むところだ。
「そこ2人!休憩は終わりだ。最後の試合だぞ!」
親父に邪魔されて、俺は仕方なくナミを伴い戦場に足を踏み入れる。休みを貰えたら、温泉旅行にでも連れて行けば、ナミは喜ぶかねェ?
最後のゲームは陣地の中にある紙人形を水風船で濡らして壊し合う物だ。最後まで無事だった紙人形のチームが勝ちとなるので、守りと攻めに別れるのが上策だろう。
「イゾウ」
名を呼ばれれば分かる。頷きひとつ返して、俺が水風船を持ち前に出ると、ナミが紙人形の前に立った。
合図と同時に始まる水風船の投げ合いは、既に船員の殆どが殺人ゲームだと宣う勢いである。エースは水風船を燃やしちまうし、ビスタとハルタは水風船を簡単に切り落とすのでなかなかに当たらない。
俺は勿論撃ち落としていて、勝負は拮抗状態を保っている。それが崩れたのは、何故かハルタの動きが少し変わった事に端を発している。
なんだ?と思った直後顔を赤くしたエースが勝手に燃えてサッチに蹴られたりして、動揺が広がる。そんな中で、観客となっているメンバーから歓声が聞こえて視線を向ければ、その瞬間にニンマリと笑うハルタが視界の端に映り嫌な予感に振り向くと、人形を庇って水に濡れているナミがいた。
服が肌に貼り付いて、何も着ていないよりも扇情的な状態になっているナミは、その歓声に首を傾げている。それにより親切心からかナースが叫んだ。
「ナミちゃん、透けてるのよ!」
「え……あ!いやぁぁぁ!!」
ナースの声で理解したナミがその場で蹲ると、俺はゲーム所では無くなる。咄嗟に帯を解いて投げ捨てると、1番上に着ていた着物を脱ぎつつナミに駆け寄った。
着物をふわりとナミに掛けて、そのままその中に隠すと震えるナミを抱き締めた。誰にも見せないから、大丈夫だ。
「ナミ、大丈夫だ。もう、誰にも見えねェから……安心しな」
和服は余裕が多いので、こんな時は便利だがね。俺の腕の中で微かに震えているナミを抱き上げて、親父に棄権すると宣言すると部屋に戻る。
そんな俺に親父は、今日と明日の仕事は二人共免除してやると言ってくれたので、ありがとうと笑っておく。部屋に戻ると、ごめんなさいと小さく謝るナミが居て、どうしたのかと思う。
「ホントなら恥ずかしいとか、無いと思ってたのに。アーロンの所にいた時は、無かったのに……」
「ナミ……お前さんは、羞恥心を押し隠していただけさね。背負う者、守る者があって、恥ずかしがってる場合じゃ無かった、それだけさ。……今は素直にそれを表に出せるようになった。いい事だろうさ」
「でも、私のせいで負けちゃったし……」
「構わねェさ。こんなにも扇情的なナミの姿を、他の野郎共に見せてまで得る価値は無い。……俺にだけ、楽しませてくれるね?」
笑いかければいつもならば顔を赤らめて頷くのに、今回は落ち込んで反応出来なくなっているナミに、そっとオレンジダイヤの髪飾りを付けてやる。それに驚いた顔をされるので、それに微かに笑ってその耳に口付けを落とす。
それにより漸く顔を赤らめたので、落ち込みは随分解消されたらしい。ナミは、本当に可愛い。
滴る水がいつもより強く蜜柑の香りを感じさせているのか、服が透けて肌に貼り付いているそれに喉が鳴る。俺は今、ナミに酔わされていると自覚しながらも、言葉はいつもの様相を保つ。
「ナミに似合うと思って、用意したんだが……気に入ったかい?」
「ん、ありがとう。でも、あのね……私からもあるの」
「ん?」
オレンジデーだからと言ってナミから差し出されたのは、ネックレスだった。見れば、その石がファイヤーオパールだと分かる。
「ナミ、これは……」
「私の色で、イゾウだから……その〝イゾウの私〟を、身に付けてて貰えたら嬉しいなって思って」
この可愛い生き物は俺をどうしようというのか。良いだろう、受けて立とうじゃねェか。
何処までも今宵は甘やかして、可愛がってやろうと決めるには充分すぎる。だからと思いその素肌に舌を這わせた時、甘いそれに気付く。
「あの水風船、中身はオレンジジュースか」
「やだ、イゾウの着物がベタベタになっちゃう!……あ!イゾウ、帯は!?」
「帯なら、咄嗟に投げ捨てたよ。お前ェさんの方が明らかに大切だからね」
本当の事を言っただけなのに、ナミはその瞳に涙を浮かべて、ごめんなさいと言うから首を横に振る。喜ばれるなら良いが、悲しそうに私のせいでなんて言われちまうとどうしていいのかと内心で焦っちまうよ。
「そんなもん気にしなくて構わねェが……ナミがいつもより美味しくなっていそうだね」
「え?」
「全身くまなく舐めとってやるよ」
耳元でそっと囁けば、ナミは真っ赤に顔を染めて、優しくしてねと呟いた。お望み通り、おねだりされる迄、優しく舐めるだけにしてやるかねと内心で嗤う。
すると、何かに勘づいたらしいナミが微かな怯えをその瞳に宿したが、もう辞めてやるつもりはねェさ。今宵は俺に舐め尽くされる運命さね。
Happy orange day……蜜柑の香りどころか味迄するようになった愛しい女を、男は心ゆくまで堪能する。女はそれに抵抗すると言う概念を持たないのか、何時までも鳴かされ続ける事となるが……双方が幸せならば、それで良いのだろう。