腕の中で身じろぐ温もりに、もう少しこのままでいろと無意識で抱き締める腕に力を込めれば、大人しくなった。それからその温もりはまだ寝ぼけているのか、単純に寒いのかは知らないが、俺に甘えるように擦り寄る。
その吐息が俺の胸にかかり、蜜柑の香りが鼻腔を擽る。その柔らかな温もりが、本当に愛しい。
薄らと眼を開ければそこには幸せそうに眠る恋人の姿があり、この可愛い生き物をこの腕から離したくないなと思わされちまう。昨夜は眠ったのが遅かったから、今日は少し遅くまで眠るだろうと思いつつ、眠ってくれるようになった事に、自然と笑みが浮かぶのが自分で分かる。
そこにドアをノックする音が聞こえて、仕方無くベッドから抜け出すともう少し寝てなと思いながら軽く頭を撫でる。同じ部屋から俺が居なくなれば起きてしまうから、俺は部屋から出ずに対応しようとドアを開けて、閉じた。
「ちょっと待てよ!なんで閉じるんだ!?」
「嫌な予感しかしなかったからだ」
開けた瞬間にフランスパンがいたら、思わず閉めようと言うものだ。そう言うとフランスパンはいじけた様子でナミちゃん起きてる?なんて聞いてくる。
「何故、ンなこと答えてやらにゃァならねェんだ」
「クリスマスの食事について、聞きたい事があってな。今夜やるだろ、皆で」
「俺とナミは居ないぞ」
「は?」
「プレゼントはナミでいいって事で、今日は1日俺だけのものになってる」
「……あれか、プレゼントは、わ・た・しってヤツか」
本気で殴りたくなったが、概ねその通りだ。だが、それは俺が無理矢理そう決めただけだがな。
「サッチの腕なら、レシピがあるなら充分過ぎるもの作るだろ。ナミの事はゆっくり寝かせてやれ」
「……やっぱり昨夜船の全員の枕元に、プレゼント置いて回ったのはナミちゃんか」
その言葉に流石に俺も1瞬ナミを振り返った。待て待て、嘘だろ?
配ってたのは気付いてたが、全員だ!?
約1600人の戦闘員の他にナース達もいる。その上……と考えれば、何処にその大量のプレゼント隠してたんだよと頭が痛くなる。
「なんだ、イゾウも知らなかったのか?」
「……配ってたのは気付いていたがねェ、まさか全員とは思わなかっただけさね。ナミは、本当に海賊に向かない性格してるな」
「皆おかげで大騒ぎだぜ?ま、それなら早めに逃げ出せよ、こんな事するのも、やれるのもそう多くねェから、既に皆ナミちゃんにお礼って言って騒いでるからさ」
「ご忠告どうも。それなら、さっさと連れ出すかね」
そう言ってナミに近付くと、毛布にクルクルと巻いてそのまま抱き上げる。それを見ていたサッチがぎょっとした顔をするが、起こしたくねェと言っただろうが。
そのままナミを連れて外に出掛ければ、サッチが後ろで何か言っていたが俺には既に関係無い。近くのホテルにて交渉し、ナミをベッドに下ろしたところでナミゆっくりと目を醒ました。
「ん?……イゾウ?」
「あァ、おはようさん。悪いね、船が騒がしくなったから連れ出したよ」
「……イゾウにしか出来ない事よ、それ」
その言葉の意味も理解出来てつい笑えば、ナミは恥ずかしそうに笑った。信頼出来る相手で、抱かれて安心出来る相手だからナミを連れ出せたのだから、当然だろう。
「今日は何かやりたい事とかあるかい?」
「今日の私はイゾウのものでしょ?それに、プレゼント船にあるし……」
「プレゼントはナミだから、他は……と言いたい所だが、帰ってから有難く頂くよ。何を用意してくれたんだい?」
「簪よ。見た時似合いそうだなって思って……衝動的に」
その言葉を聞いてナミに俺からも何か贈る必要を感じた。それ故に、毛布の中から出ようと藻掻くそれを押さえてまた抱き上げる。
「イゾウ?」
「洋服、見立てさせてくれるね?」
俺が顔を覗き込んで問いかければ恥ずかしそうに、けれども嬉しそうに笑った。それに、寝巻きのままだからねとは言えないが。
俺の用意した白のワンピースは、フレアタイプである為に、いつもより幼く見える。それでも、雪の精霊のような姿をしてもらいたかったのだから仕方ない。
「似合うな。だが、ウエディングドレスはマーメイドにしようかね」
「へ?」
「ナミは白が似合うから、ウエディングドレスも似合うだろうね」
「あの?」
「それとも……ドレスは自分で選びたいか?」
「ふぇ!?」
混乱しているナミで遊ぶのはこのくらいにするかと、可愛い精霊が風邪をひかぬようにコートを着させてからその手を掴む。混乱の余りに反応の無くなっているナミを連れて店の外に出れば、タイミング良く雪が降り始めた。
それを理由に抱きしめようかと振り向けば、何故か無言で涙を流すナミがいる。その視線の先には、街並みと今降り始めた雪しかない。
クリスマスリーフやら何やらが飾られた街並みは、緑と赤にデコレーションされている。だが、他には特に変わった様子もないと思うんだが……。
これだけ寒いのに涙を流せば、そのまま涙が氷かねェと思う。それにも関わらず、何故か声をかけるのも憚られてナミをそっと抱き寄せるだけに抑える。
顔が凍傷になるのはつらいだろうと思っての事だったが、ナミは甘えるようにそっと俺に腕を回すからそのまま好きにさせる。ただ、その身も心も凍えないで欲しいと思いその頭を撫でれば、ナミは小さくその体を震わせた。
「イゾウ、ごめんね。なんか……そう〝空想の世界〟が突然目の前に現れて、動揺しちゃったの」
「クリスマスは確かにナミの書いた物だが、その世界と合致してるのかい?」
何かが違うのは分かっているが、それを口には出さずに問いかければ小さく頷かれた。それに対して、そうかと言って暫く雪の中でナミを抱き締めていたが、このままではナミが風邪をひく。
だからと思い、ホテルに帰る為に抱き上げればナミは驚いた顔をした後、嬉しそうに笑う。それから俺の首に腕を回して、お姫様の気分なんて言うのだから、本当に可愛くて仕方ない。
「俺から見ればいつでもナミは、愛しいお
囁くように言えば馬鹿にしてっ!などと言ってむくれるが、俺の言葉は何時も本心なんだがねェ?
どう言えば信じてくれるのか。可愛い雪の精霊が笑ってくれるよう少し考えて、何か食べたい物があるかを尋ねれば温かいものとか言われてしまい、どうやら寒いらしいと分かる。
「ナミの涙が凍りつく前に、何か食べに行こうかね。最悪酒場になるがそれは良いか?」
「イゾウがいるならそれだけでうれしい」
「無防備な様子だから教えておくが……」
言葉を切れば不思議そうに俺を見詰めるナミに、今着ている服がブレゼントだと伝えてみるが意味を理解していないと分かる。全く、変なところが子供で困るなと思うのに、それがまた可愛いと想わされるのだからどうにもなりはしないだろう。
「男が女に服を贈るのは、脱がせる為だ」
「え……?」
「自分で用意した物なら、脱がせ方を知ってるだろう?それに、プレゼントのお返しに、中身をって事になる」
「なっ……!?」
顔を真っ赤にしているナミだが、今更でもある筈なんだがね。可愛いナミの反応に、小さく笑うと部屋を取ってあるホテルに戻る。
そのホテル内で食事が出来そうか確認すれば、部屋食ならと言われるのでそれに頷いてナミを抱いたまま部屋に戻ると、ナミが妙にソワソワしているのに気付けば、笑いそうになる。……流石に食事位させるつもりだが、この反応は可愛いな。
「そんなに警戒されると、すぐに脱がせたくなるから落ち着きな。メニューを選ぶといいよ」
「……私ばっかり、動揺させられてて、なんか狡い」
「俺の方が長生きしてるからね。ナミは、子供時代を子供として過ごしていないんだ、俺の前では子供で居ていい」
「……その、子供に手を出しちゃうんだ?」
「それはそれ、これはこれさね」
そう言って艶やかに見えるように意識して笑えば、それだけで真っ赤になるナミに、クリスマスに合いそうなメニューを見繕う。さて、この初心で子ウサギな雪の精霊を、この後どうしたものだろうかと考えてしまう辺りが、俺のダメなところなのだろうか。
「ナミが嫌がらないなら、ウエディングドレスの件、本当にしても構わない位には愛してるぜ?」
それだけ言ってフロントに食事の注文をすると、後ろで床にぺたりと座って動けなくなってしまった可愛い生き物に、小さく笑う。そんな俺はきっと〝悪い大人〟と呼ばれる部類なのだろう。
Merry Christmas、1夜限りの聖なる夜等意味が無いと言わんばかりに、2人の時は毎日が聖なる夜である事を教えようと狡猾な狼が牙をむく。牙をむかれているとも気付かずに、雪の精霊は真っ赤になって翻弄される。
変わらぬ日常が1番の平穏だと、2人は語り笑い合う。聖なる夜に似合う穏やかな顔で。