形あるものは壊れてしまうから、もしも何かをくれるのならば手に入れても無くしても気付けない様な想い出とかが嬉しい。そんな言葉を口にしては、形有る書物等を生み出して行くナミの矛盾に少し笑う。
モネがそろそろこの国を出て、長いミッションを行うのだとナミに告げてから僅か30分で開始されたお茶会には、モネの妹だからなんて理由でシュガーも呼ばれていて、ベビー5とジョーラがそれに途中から参加している。王宮の中庭で繰り広げられているそれを、同じく中庭にあるソファで眺めていたが日差しも心地よくて少し寝るかと体を伸ばす。
今日は蜜柑のスコーンと紅茶よなんて話しているナミの声を聴きながら眠り、ふと誰かに撫でられているような感触で意識が浮上する。そうだよな……俺が触れられる迄近付かれて起きない相手なんて、ロシーや母上、父上の他にはナミだけなんだから〝誰か〟なんてわかり切っていた。
優しく撫でてくれるその手が気持ち良くて、また眠りそうになる。そんな俺にナミは囁くように、恐らくは周りに聞こえないように小声で呟いたんだろう。
「愛しているわ」
あァ、知ってる。俺も愛している。
いや、俺はお前に溺れて依存してるのかもな。日々美しくなっていくお前に、俺ばかりが……。
そう思って何かを答えてやるべきか、なんて考えている間にナミが俺の額にそっと口付けた。寝ていて良いよと言われているような気持ちにさせられて、コイツは甘やかな、緩やかに内側から駄目にする猛毒かと思いながらも、手放せねェ。
「お休み」
そう言いながら俺に抱き着いてきた小さな温もりに、これの中にいつも突っ込んでるんだよなと少し思う。実際壊してないのが不思議な体格差だが、ナミは笑って受け入れてくれるから……甘やかされ続けている。
いつか、このナミが過去の俺を助けに行く時が来るのだろうか。だとしたら……放置してくれて構わねェと思う。
お前があんなに苦しむと分かっていて、行かせたくねェよ。それでもきっと、いつか助けに行くのだろう。
あの時のナミとは違い、恋人が俺だから何か変わるところもあるんだろうがな。覇王色の覇気は、強い想いが引き金になるから、ナミが居なければその引金が得られねェ可能性もあるのかとそんな事を思う。
本当に眠ってしまったナミを起こさねェように体を起こしてその頭を撫でながら、まだお茶会をしているファミリーに視線を向ける。近付いて良いのかと戸惑う奴らに、そっと自らの唇の前に指を立てて、シーとやれば何故か赤くなった。
お前達が触れたら、折角寝たナミが起きるだろと内心で呟きながらその頬にキスをしてやれば髪に花弁が着いているのが見えた。その花弁を取って風に乗せて飛ばしてから、囁く。
「ナミに触れていいのは、俺だけだってのに……花弁だの木の葉だのがよくナミについてるのは、どういう了見なだろうなァ」
「んっ……」
「……まだ、寝てろ。今日は、良い天気だ」
暖かな風が2人を包み、ナミの髪を揺らせば蜜柑の香りがそれにより辺りに広がった。その日の夜、暇を告に来たモネがもう少しするとオレンジデーだと俺に教えた。
なんだそれはと思うのと同時に、何故教えるのかと視線を向ける。そんな俺にモネは困ったように笑いながら、言葉を口にした。
「ナミの為にあるようなイベントですから、ナミは若様に教えないのでは無いかと考えたのです。シュガーよりも、私にはナミの方が妹のように思えてなりません。どうか、優しくしてあげてください」
「……心配するな。それに、必要なら会話くらいさせてやる」
「ありがとうございます。若様」
俺だけでなく、ファミリーもナミと居ると人間らしくなる。まァ……ピンクの窮地をまるで知っていたかのように救ったナミだからこそ、それもある意味で当然なのかも知れねェけどな。
子供が産まれたと喜んでいたピンクに、銀行の覆面監査してるから銀行に連絡されても困ると、監査用の部署だと言う事にして自らの番号を渡させて、その電伝虫をナミが必死の形相で見詰めていたのは、まだナミが14歳の時だったか。あの嵐の日、ナミが電伝虫で応対した為に医者を派遣する事が出来て、ピンクの息子は助かった。
そんな事を思い返しつつ、モネの去った部屋でナミへの贈物を考える。花嫁衣裳をオレンジ色で用意してやるのも、反応が面白いかもな。
だが……ナミには白を着て欲しいからとその考えを消し去り、オレンジ色の小箱でも用意してやるかと思う。小物入れとオルゴールを兼ねた物にしてやれば、ナミは喜びそうだ。
そんなある意味で平和な日々も、必要で船を出していたその日に崩れる事となった。船を出す時は航海士としてナミを連れていたのが、災いしたとも言える。
「争う意思はねェよ。ちょっと〝俺の女神〟に逢いに来ただけだ」
軽い調子で言われたその言葉が、女神の単語が確かにナミの事だと簡単に理解出来る。そんな状態にあるのに、ナミは少しの戸惑いと喜びを持ってそいつにその顔を晒す。
「シャンクス……?」
「……本当に綺麗になったな。どうだ、俺の所に嫁に来るか?」
「赤髪、寝言は寝てる時に言って貰えるかァ?ナミはうちのファミリーなんだよ」
俺の女だと言うには、相手が悪い。こんなにチャラけていても、カイドウやビッグマムと同じ四皇だ。
「ふふ、変わらないわねシャンクスは。もしかして心配してくれたの?」
「鷹の目や白髭ならともかく、天夜叉じゃ心配にもなる」
「悪い噂しか聞かないものね。でも、ドフィは優しいのよ。少し、やり方が過激なだけで」
楽しそうに笑うナミに、イラッとした俺が手を伸ばすより先に赤髪がナミを抱き込み……俺の目の前で濃厚な口付けをした。戸惑い、抵抗も出来ずにいるナミを慌てて救出したが、ナミは小首を傾げてよく分かってない様子だ。
「ナミ、俺以外に触れさせるな」
「ドフィ……でも、シャンクスのあれは、挨拶よ?」
「……本気で、言ってんのか。なら、何故俺には無いんだかな?」
「……そう言えば、そうね。不思議だわ」
真剣に首を傾げるナミに、そもそも挨拶で毎度あの濃度のキスをする奴が何処にいると苛立てば、赤髪も何やら落ち込んだ様子を見せる。……コレに想いを伝えるのは確かに難し……待てよ、挨拶と言ったという事は、過去にもされているという事か?
……その頃はナミはまだ10歳にもなってねェんじゃ……?
「赤髪、お前ロリコンだったのか」
「その言葉そのまま天夜叉に返してやるよ」
「俺は手を出しても平気な歳まで待ったが、お前は……」
互いに睨み合い、けれどもそんな険悪な空気も事が恋愛に関する時だけ〝
「どうした?」
「会う予定じゃ無かったから、何も渡せるものが無いのよ。折角オレン……なんでもないわ」
そうか、赤髪は今でもそんなに大切な相手か。だが手荷物の中にはラッピングされた物が入っていて、という事は……それは、俺の分か。
可愛い奴めとナミにキスをすれば赤髪が騒いだが気にする必要もねェ。ナミは戸惑いつつも俺に教えられた通り、俺の首に腕を回してそれに応えるからそれで良しと思えた。
「ふっ……んっ……」
「……ナミ、俺の分はあるんだろう?早く寄越せ」
「な、なんで知って……!?」
「今日は〝ナミの日〟だからな」
笑いかければ真っ赤になったナミは、私の日じゃなくてオレンジデーだもんなんて言いながら包みを押し付けるようにしてくるからそれを受取り、その場で開ける。そこには無地のネクタイが5本入っていて、オレンジと関係無さそうに思えるがどういう事か。
そっとそのネクタイの裏を見れば、蜜柑から双葉の出ている刺繍がされており、裏側ならば無地のネクタイが必要な時に使えるという配慮だと気付く。本当にナミは……どうしてこう可愛い事をするのか。
俺よりも先に赤髪が唇を堪能していた事や、戦い方を教えていた事、懐き具合等からどうしても気に入らなかったが……それを全て昇華してしまうような贈物に、つい笑みが零れる。だからと思い俺も小箱をナミに渡せば、初めは驚いた顔をしていたがそれを開けた瞬間楽しそうな笑顔に変わった。
蜜柑の木を模した飾りの周りで、猫と兎がクルクルと回りながら音楽が鳴る。〝蜜柑の花が〟と前にナミが歌っていたそれを元に造らせたオルゴールだ。
そのオルゴールの台の下には小引出しがあり、小物を入れられるようになっている。貝殻だの押花で作った栞だのを入れるのに使えるだろう。
「可愛い」
「気に入ったか」
「うん、ありがとう」
蜜柑木も、兎も猫も、全てがお前をイメージしているのだとは言えないが……喜んだならそれで良い。そんな様子を見ていた赤髪が、小さく舌打ちしてまた来ると言って去って行く。
二度とナミが居る時は来るなと心から思いながら、ナミを抱き上げて部屋に向かうナミは悪くねェと分かっていても、気に入らねェんだから仕方ねェだろ?
「早速ネクタイを使ってやるよ」
そう言って俺はナミから貰ったネクタイでナミをベッドに縛り付けて、妬かされた分身悶えさせてやろうと愛撫して行く。甘やかな声が啜り泣きに変わるまで、俺を求めるその瞬間まで……少しばかり俺に遊ばれてろと内心で嗤う。
Happy orangeday……可愛く無防備な恋人に、欲望のたけを押し付けるように男は翻弄する。それに振り回されつつも、結局は惚れた弱みで全てを許す女に、男は更に溺れて行く。
これは確か、シャンクスと遭遇とか、取り合うとかして欲しいってリクエストだった気がします。もう、よく覚えてませんが。
この先は現状書き上がってる作品の掲載が終わりましたので、不定期更新となります。
再投稿もこれにて完了しましたので、今後は本来のペースで掲載させて頂きます。