※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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お正月イベント(光源氏18)side

 舞台稽古は直前の流し稽古まで俺とナミを会わせない事で、恋に落ちる瞬間をとの話だった。だから俺は実際にナミが舞うところを1度も見ていない。

 その為に、ナミに静御前を演じきれるのかと微かではない不安を抱きつつも、黙っている。舞台でさえ無い時は、相変わらず共に過ごしているのだから、文句を言えはしない。

 各隊長及び女クルーは、何かを正月に披露するとなったんだから仕方ねェよなと息を吐き出す。俺は舞うつもりなんざ無かったんだが……。

 それに対してナミはずっと演奏するとか言い張っていたが、親父がナミの書いた本を読んで静御前をと指名したのだ。そうなれば、ナミに拒めるはずもない。

 ナミは親父を好き過ぎる。……妬くわけじゃねェが、気分は良くねェ。

 多分俺よりナミは親父を優先すると分かっているから、余計に。……妬いてねェからな。

 誰にともなく再度脳内で呟いて、寧ろそう自らに言い聞かせてから、大掃除をしている筈のナミを部屋まで呼びに行く。衣装合わせをして貰わねェと、蕎麦を食い終わると同時に舞台が始まる予定の為に、間に合わねェ。

 ドアを開けた俺の元にナミが飛び付いてきて、可愛い奴だと抱き締めればナミは俺に嬉しそうな笑みを向けて来た。無邪気な笑顔が、俺への愛情と信頼を物語っている。

 

 「イゾウ、大好き」

 「俺はナミを愛してるぜ?」

 「掃除終わったから、少しだけこうしていたいの……。ダメ?」

 「許可してやりたいのは山々だが……衣装合わせしねェと間に合わねェんだよ。残念だがね」

 

 俺の言葉に寂しそうな顔をして来るナミに、本当に可愛いなとその額に唇を触れさせる。それだけで照れてしまう愛しい彼女を優しく抱き締めてやれば、俺の方が癒される。

 

 「聞き分けて、くれないかい?」

 

 聞き分けたくねェのは、俺の方さねと内心で呟きながら、ナミの美しい髪に指を絡ませる。その瞬間、早く来てくださいと呼ぶ声が聞こえた。

 無粋だねと囁きを落とす。そうして、名残惜しいが行かなくてはなとナミの細腰を抱いて移動すれば、ナミが戸惑いの声を出した。

 

 「1秒でも長く、触れ合っていたい。……嫌かい?」

 「……嬉しいけど、恥ずかしいのよ」

 「……このまま攫って閉じ込めたくなるような事、お言いで無いよ。俺は、いつでもナミに飢えているのだからね」

 「イゾウ……」

 

 2人で見つめ合っていたら、半泣きの声が早く来てくださいと呼ぶから仕方なく歩き出した。本当に、全て投げ出してナミと2人だけで過ごしたくなるねェ。

 拉致されるように俺から引き離されて行くナミは、心細そうに俺に視線を向けて来る。だから思わず手を伸ばしてしまえば、隊員にその手を掴まれた。

 

 「隊長!イチャつくのは後にしてください。可愛い彼女で羨ましいから邪魔してるなんて、そんなの少ししか無いですよ!」

 「……少しはあるのかい。素直だな」

 「あのスタイルで、中身と顔が可愛いとか隊長を羨まない男はまず居ません!狡いです!リア充爆発しろです!」

 「……近い感想持ってる奴、集まんな」

 

 俺の声にワラワラと集まって来た全員に舞台の設置と掃除、後片付けを命じると悲鳴が上がった。ナミは俺の女なのだから、求める奴は全員お仕置きして当然だろうに。

 狩衣なんぞ終ぞ着た覚えは無いが、成程動きやすい。これならば、舞いの動きも阻害はしないだろう。

 衣装合わせを終えて表に出ると、半泣きのナミが飛び付いてきてそれを抱きとめる。愛しい温もりにどうしたのかと尋ねれば、着せ替え人形にされたと嘆かれ……着せ替え人形にしたくなるその気持ちはわかるが、それこそ狡いだろうと思う。

 

 「悪戯は、されなかったか?」

 「イタズラ?」

 

 分からないと言いたげに首を傾げるナミの素肌に指を這わせ、耳元で囁くように、こんな事や、もっと恥ずかしい事、されなかったか?と問いかけると真っ赤になって首を横に振る。

 

 「されてない!大丈夫!」

 「されてたら、何をされたのか教えてもらうつもりだったが、残念だ」

 「……されてなくて、本当に良かったわ」

 

 俺がクスクスと笑えばナミはもうっと言いながら俺の腕を抜け出し、お風呂入ってくるーと呑気な声で告げる。確かに見た目と行動は、酷くアンバランスだとその背に想う。

 クリスマスの日にナミから貰った簪を常に付けているが、俺からのプレゼントは人前で着させるつもりはねェ。だからと言って2人になればすぐに全て脱がせちまうんだから、あれ以降ナミが着てる所は見てないが、それは俺に責任があるので文句も無い。

 今度は日常的に身に付けられる物を贈ろうかねと思いながら、そろそろ年越し蕎麦を食べる為にと集まっているだろう場所へ向かう。先に何かを見せる予定のある奴等は既に食べ始めていて、どうやら皆親父に褒められたくて必死らしいと知る。

 そんな所へ髪の毛から雫を落としつつナミが姿を見せるから、手招き肩にあるそれを奪うようにして髪を拭いてやる。それに対してありがとうと微笑むナミは少し幼い顔をしているが、幼い顔を見せて貰えるだけで実際充分だったりするのだから俺も手軽なものだ。

 信頼出来る、甘えても大丈夫な相手の前でのみ見せる蕩けきった顔に、優越感を感じずにはいられない。そんな事を思いながらナミの髪を整えてやると、2人で蕎麦を食べる。

 その途中でエースが火の輪を作り、それを潜るという技を見せれば、それは凄いけど狡いとの声が上がる。エースは輪を抜ける時、自分が火だから絶対に燃えないのが狡いと言われる理由だろう。

 

 「んな事言われても、俺ゲイなんか出来ねェもんよー!」

 「グララララララ……!喧嘩するな息子達!盛り上がれば良いだろォ!何かしてやれる事がある訳でもねェんだからな!」

 

 そんな事を言う親父だが、出来が良けりゃ褒めてもらえるのは皆分かっている。なかなか褒められる事がねェからこそ、こんな時は皆張り切るんだと親父には自覚して欲しいところだ。

 

 「ナミ、そろそろだ。着替えに行くぞ」

 

 蕎麦を食べ終えた所で声を掛けると、ナミは緊張した面持ちで頷くから大丈夫かねェと思わされる。そんな俺の心配を余所に、舞台の幕は上がる。

 ジョズが弁慶役という事で、薙刀を振り回し、俺がその傍で舞いながら避ける。五条大橋の話だ。

 それにより兄弟もナースも息を飲み、真剣に見ているのがわかる。親父もほォと言いながら口元を歪めて楽しげにしているので、気に入って貰えているらしい。

 弁慶であるジョズが牛若丸である俺に膝をつき頭を下げた所で幕となり、内側でジョズと成功に笑う。続いて雨が降らないと嘆く人々の為にと、雨乞いの儀式が神泉苑にて行われる事となったとナレーション宜しくハルタが語れば、ナース達の数人が付け焼刃の舞を順に披露して行く。

 全員設定は白拍子である為に、衣装は同じだ。だからこそ、妙な色気がある。

 

 「確かにこれなら、華やかで大人数が演し物に参加した形を取れる。上手いな……ハルタは楽して終わらせられるしなァ?」

 「親父、そりゃ無いよ。台本とかの方で俺、結構頑張ったんだよ?」

 

 ハルタが親父に笑われて舞台の上でしょげれば、その場の空気が弛緩する。その直後、ナミが白拍子姿で舞台に現れて、舞い始めた。

 その舞に、誰もが息を呑む。付け焼刃の舞では決して無いとわかる洗練された動きだ。

 何故、これ迄1度も見せなかったのかと問い詰めたくなる程の完成度に、俺は予定に無いのに舞台へと姿を見せていた。それに慌てたのかハルタがアドリブを入れる。

 

 「舞に込められた清浄なる祈りが天に届いたのか。舞を終えた静御前のそれに呼応するかのように雨が降り出した為、その先の舞手は舞う事なく雨乞いの義は終わりを告げた。その場に後白河法皇の護衛として呼び出され、偶然居合わせた義経が静御前に1目惚れをしたのだった」

 

 その後本来ならば悪漢に絡まれる所を助けられた静御前が義経に惚れるシーンだったが、義経が想い人を助けた形に微調整された。それは大筋に問題は無いが、義経はその後すぐに京都を離れる事となる。

 この次の幕で、互いに背を向けて同じ曲で別な舞を舞う事になっている。離れて居ても、やる事は違っていても、想いは通じている恋人であるとする為に。

 俺は自分が舞うよりナミの舞を見たかったと思いながら、背後で舞っているだろうナミを想う。そして、頼朝であるビスタが俺を捕らえようとするのを演じ、勧進帳に入る。

 ジョズのまさかの名演技に、ナレーションだけだと不味いとの事で門番役をやっていたハルタが舞台の上で涙ぐむ。それにお前なァと思いながらも舞台を終えると、その先はナミとビスタに移行して行く。

 俺は、この先の出番までは少しあるからと親父の傍で飲み物を口にしながら舞台を眺める事にしたら、親父が俺を見て面白そうに笑った。どうやら本当に、楽しんでくれているらしい。

 

 「大筋は掴める流れの演目だな」

 「静御前の舞に全てかかってるがね」

 

 親父に気に入ってもらえた照れと、ナミを見世物にしているような不快感との入り交じった、微妙な顔で俺が笑えば親父はその眼を細めて優しく笑う。あれは本物の動きだろうがと言いながら。

 頼朝に義経を呼び出す為に、そして治世繁栄の為に舞えと静御前は命じられる。それを毅然と睨み付け拒むが、力及ばず舞台へと引きずり出された静御前は、白拍子とは違う装いをしている。

 舞台の中央で立ち尽くし、動きを見せずにいる静御前に頼朝は苛立ちを募らせる。それを舞台として見ているだけの兄弟がざわめくと、静御前たるナミはゆっくりと舞い始めた。

 それは、義経を慕う歌と共に、義経への想いを込めた舞。それに思わず見惚れたのは俺だけでなく、本来舞うべきものと違うだろうと止めなければならない頼朝たるビスタもだった。

 それに伴いナミは、続け様に愛を唄いながら舞い続ける。音はナミの声と、その身に付けている鈴の音だけ。

 見惚れる俺、魅入られる兄弟、その中で途中ハッと我に返ったビスタがそれを責め牢へと入れる。その後舞台は進み、子を海に沈められた静御前が自らもそれを追って自ら海に沈むと、俺の最後の幕……弁慶の仁王立ちとなる。

 1人生き残った義経が静御前を求めて日本中を旅して回る事を決意して、舞台は終わった。もうこの世に居ない恋人と、会う事も出来なかった息子の存在に感情移入し過ぎて泣く兄弟達。

 その中に、何故かサッチが混ざっていてむさ苦しいなと思いつつ舞台袖へと向かう。さて、ナミは疲れ果てて倒れてたりしないかね?

 そこでビスタにいじけながら、酷いと訴えているナミを見付けた。あれは明らかに、怒ってると言うより、いじけている。

 

 「何で止めてくれないんですか?私、ひとさし舞うだけの予定だったのに……」

 「悪かった!つい見惚れてたんだ」

 「嘘だ。嫌がらせだ。ビスタさんは私を虐めて楽しんでたんだぁ……」

 

 そんな様子につい笑いながら近付き2人を労えば、ナミはビスタにべーッとか言って俺の元に逃げて来た。それに悪かったと本気で謝るビスタの様子が、妙に楽しい。

 疲れただろうナミを休ませると言う名目で部屋に連れ帰り、部屋に用意しておいた炬燵を見せればその瞳が輝いた。どうやら機嫌は治ったらしい。

 

 「イゾウ、炬燵!炬燵!」

 「そんなに喜ばれるとは思わなかったが、良かったよ。それにしても……なんだってあんなに見事な舞を舞える事を隠していたのかねェ?」

 「……私のは、巫女舞だもの。普通のじゃないから」

 「……綺麗過ぎて、閉じ込めたくなってきたよ」

 

 そっと……静御前の姿をしているナミを押し倒せば、ナミは小さく、1日は姫始めを許されないのよ、義経様……?と笑う。それに俺は仕方ねェかと言って体を起こす。

 蜜柑をナミの傍に置いて、茶を入れてくるから待っておいでと声をかけてやればナミは嬉しそうに微笑んでくれる。そうして茶を入れて戻った時には、疲れ果てて眠っているナミがいた。

 お疲れさんとそっと抱き起こして膝枕をしてやれば、眠ってる癖して甘えたように俺の体に抱き着いてきた。隠された姿がどれ程あろうと、きっともうこの想いは枯れないだろう。

 明けましておめでとう、2人で過ごせると言うのならば、これ程目出度い年明けもないだろう。眠り姫が目覚めるその時まで、この膝はお前さんだけのものだと髪を梳くように撫で続けた。




義経の正月公演ってリクエストだったんですよ。
書けないだろうって思いながらリクエストしたと言われました。
え?
根に持ってますよ?(笑)
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