誕生日を祝われるなんて経験、した記憶が無い。いや、アーロンに諸島が襲われる前はしてたんだけどね。
それでも修行してたりお金に余裕が無くて、お祝いと言っても手作りの写真立てや新しいペンを贈られる事がそれに該当するだけだった。お金に余裕が出た年からは、私が海の上にいて祝う事が出来なかったし……私も、祝われるなんて考えてもいなかったからそれに合わせて帰った事が無かったのだ。
そう思うと、何だか泣きそうになる。祝ってもらえるなんて、ずっと……考えた事も無かったから。
生きている事を、存在する事を許して貰えるなんて、思わなかったの。食事をちゃんとするようにと言われて目の前に出されたお茶碗達を指先でそっと撫でながら、ふと泣きそうになる自分を自覚する。
「ナミ、食欲が無いのか?」
「そんな事……」
「なら、不味かったか。サッチにそう言っ「そんな訳無いでしょ!?……暖かい食べ物って、それだけで価値があるものよ。勿論、恐ろしく美味しいけどね」」
「……ナミは、長く1人で海賊やってたと言っていたね。いくつの時からなんだね?」
イゾウの問い掛けに少し考える。シャンクスの所に居たのは見習いだったけど、でも海賊の見習いなんだから海賊として換算すべきよね。
そう思って味噌汁を1口飲む。私とイゾウだけスープでは無く味噌汁にしてくれてるのは、今日がチリを使った辛めのスープで私の胃が心配だからと言うのが理由らしい。
確かに味噌汁って、1人分作るのってちょっと面倒なのよね。味噌玉溶かすなら別だけど。
お弁当用にラップに包んで、人数分の味噌玉と紙コップ持って行ってたのをふと思い出す。……人数分って、何だろう?
ふと前世に触れた時、それが1定の範囲を超えるとこの世界の原作を知ろうとした時と似た症状に襲われる。……皆、喜んで、くれて……でも、皆って?
こんな時いつも、シャンクスやベックが私を抱えて部屋に運んでくれてた幼い頃を思い出す。情けない、な……私、どうしてこんなに弱い……んだ、ろ……?
「ナミ!?ナミ、どうしたんだね?」
「イゾウ、だいすき……」
誤魔化したくて、でも、嘘つくと怒られるからと考えて口にした真実。それにイゾウは眉を寄せる。
「……部屋で休もうかね。相当つらい様子だからな」
「ごはん……まだ……」
「いいから、帰るよ」
そのまま抱いて運んでくれるイゾウの首に腕を回して精一杯の力で抱き着くと、力抜いてても落としたりしねェよと言われるけど、成人した人間である以上は重いと思うのよ。そんな事を言ったら、怒られそうだけど。
だからこそ、その代わりにイゾウからの問いに答える事にした。……イゾウの顔が近い。
「わたし、6歳の時から、かいぞくしてたわ」
「……そりゃァ、確かに昔からだね。それじゃァ、赤髪んとこの奴に甘えるのも仕方ねェか」
その言葉を聞いて、私の意識はまだイゾウと付き合い始めたばかりの頃に戻る。つまりは、眠ってしまったのだろうけど。
七武海の縄張りは案外狭い。寧ろ1国とか、1つの島の主としている程度なのが普通。
それに対して四皇を含めた名のある海賊は広い範囲の縄張りを持ち、その縄張りは他の縄張りと重なっている事が多いのだ。その関係で接触する事が禁じられている筈の四皇同士でも、島に行けばばったり遭遇なんて事もある。
惚れてるからと助けてくれたイゾウは、14歳の私と付き合い始めた。勿論14歳の私にキス以上の事……つまり性的な意味で手を出して来たりはしなかったけど。
それでも唇だけは拒ませないと、そう言って笑ってくれた。イゾウは私の事を大切に、大切に、守って育ててくれたと思う。
イゾウに全てを貪られるようになったのは18歳になってからで、つまりこの記憶は随分古いものだと言う事になるわね。そんな事を思い出しつつ、私は記憶の波に沈んで行く。
「ナミ……?」
かけられた声に驚いて振り向くと、そこには赤い髪の見知った人がいて……息を飲む。そんな私の様子に気付かないまま、隣にいたイゾウとマルコが嫌そうに顔を歪めた。
「赤髪……また、ウチのクルーにちょっかい出してんのかよぃ」
「ナミ、これは変質者だから近付くと危険だよ。さァ、こっちにおいで」
「2人とも待って!シャンクスと私は知古なのよ」
慌ててシャンクスを庇うように間に入ると、背後から降ってくる声。それに振り向きつつ見上げると、身長差が随分と少なくなった事を知る。
「……本当にナミなんだな。大きくなったもんだ」
「8歳の時と比べないでくれる?」
呆れてしまった私は悪くないだろう。よりにもよって、その頃と比べられると流石に切ない。
とは言え、まだまだ幼いのは自覚してるけどね。だから、その、イゾウを待たせてる訳だし。
「ナミ……なんで白髭のクルーになってんだよ。俺の船に乗れって何度言えば分かるんだ。俺はそもそもナミを俺のクルーから辞めさせた覚えはねェぞ」
「もうっ!シャンクス執拗い。私はあの時は見習いで、ちゃんと正式に挨拶して抜けたでしょ!?」
「何言ってんだ。元々ナミは正式に俺のクルーだったし、俺は1時的な下船しか認めてねェよ!!ナミは俺のクルー!!」
「違うってば!私は、仲間なんていない単独の海賊だったのよ!!それに、シャンクスのクルーにはならないって何度も断って……「お二人さん、相当目立ってるから、場所変えようか」」
イゾウの呆れた声にしまったそうだったと思って頷き、その勢いで振り向いた時、その顔を見て硬直してしまった。声が呆れしか感じさせなかったから、油断してたのだ。
……やだ、なんで怒ってるの!?
イゾウが怒ると怖いのだ。確かに性的な事はされないけど、その、キスの雨が降り注いで、ペンを奪われると言う拷問が待っている。
「イゾウ!?イゾウ、なんで怒って……」
そこまで言って、マルコも不機嫌そうなのに気付けば泣きそうになる。どうして?
……私、なんにもしてないのに。2人とも、怖い。
半泣きでイゾウの袖を掴んで顔を見上げたら息を飲んだイゾウが、直後に困った様子で笑った。そして敵わねェなと呟いて優しく抱き締めてくれるから、どうやら機嫌が直ったらしいと気付いてホッとしつつ甘えるように擦り寄る。
すると何故かイゾウが上機嫌になったかと思うと、軽く髪をひっぱるからそれにより顔を上げると、当然のように重ねられた唇。すると背後から雄叫びが聞こえて来てビクリと肩を揺らしたけど、イゾウが私を離してくれないので離れられないし逃げられない。
「んぅっ……!?ぁ……イゾ……っ!」
「なァぁぁあ!?イゾウお前!ナミに何してんだよ!?」
「俺の女に俺が何しようと、責められる謂れはねェな……ナミも、恥ずかしがってるだけだろ?」
「イゾウ……」
明らかにさっきより目立ってるからと思い、イゾウに抱きつく事で顔を隠す。するとシャンクスが余計に騒いで周りに人が集まって来る。
その直後、イゾウが私を抱えてその場からヒョイヒョイと移動を開始した。それに動揺して強く抱きつく事で、落とす心配が無くなったからかその動きが加速する。
どうやらシャンクスからの攻撃を避けたり、止めさせようとするマルコの手から逃げているらしい。なんという軽やかな動きなのか。
「イゾウ!いい加減にしろよぃ!!」
「お頭、もう騒ぐな。……悪かったな、騒ぎをでかくして」
その声に思わず顔を上げて、手を伸ばしたのは仕方ないだろう。だって……。
白髪になってるけど、相変わらず優しい眼差しを向けてくれるのだから。シャンクスに苦労させられてるのねと思いながら、泣きそうになるのを自覚しつつその人物を呼ぶ。
「ベックー!!」
「ナミ、相変わらずお頭が悪かったな」
「イゾウとシャンクスが虐めるの!」
「可哀想にな。この馬鹿は連れ帰るから安心していいぞ」
その言葉にありがとうと笑ってイゾウから離れてベックに飛びつこうとして……ガシッと背後から首に腕を入れられて、引き戻される。それにぐえっとなった私に、低い声が向けられた。
「ナミ、他の船の男に飛びつこうだなんて、悪い子だね?」
「……ごめ、んな「ナミの前にお前が反省しろぃ!」」
そうしてマルコとイゾウが戦い始めて、騒ぐシャンクスをベックが抑え込むというカオスな空間になり、私はオロオロと4人を見て泣きそうになっていた。それが、私とシャンクス達が久々に再会した時の騒ぎだ。
「ナミ、大丈夫かい?ナミ、目を覚ましておくれな……」
泣きそうに震えるイゾウの声が聞こえる。泣かせたくないから、早く起きなきゃ。
「イゾウは少し落ち着けよぃ」
「落ち着けるか!!これから
「たまにあるだろうが。多分未来を見たか何かだろぃ」
「冷静に言ってるが、重い病じゃねェだろうな……?」
「俺を疑うのかよぃ?」
イゾウがそれに舌打ちした所で意識が完全に浮上する。そっとイゾウの手を握り、落ち着いてと無言で伝えればイゾウがマルコとの喧嘩を辞めてくれた。
「ナミ……大丈夫かい?」
「ありがとう、なんか、マルコと喧嘩してた?」
「俺が誰かと喧嘩なんてする筈無いだろう。マルコにはナミの容態を確認していただけさね」
「なら、良かった……」
ホッとして笑うとマルコから、少しは疑う事を学べよぃなんて言われるけど、夢の中だけでなくこっちでも喧嘩してたら悲しいじゃないと内心で言い訳する。勿論内心だから、誰にも伝わる筈もないけど。
「折角のご飯、残しちゃってサッチに悪い事をしたわ」
「仕方ないさね。サッチの腕が落ちて、料理が不味かったからナミも倒れたに違いないからね」
「……おい、何さりげなく人のせいにしてんだよ」
そう言って嫌そうな顔で様子を見せてくれたサッチに、ごめんねと謝れば優しい兄の顔で笑ってくれる。私はそれに幸せだなと痛感して笑うのだ。
あの頃も、今も、私は優しい家族に守られている。ここにいてもいいのだと言ってくれる暖かな家族に、心を満たされ幸せを謳歌しているのだ。
「イゾウ、愛してるわ」
「……分かった。部屋に行こうかね」
「ドクターストップだよぃ。一人で行け」
なんで部屋?食事しないのかな?
そう思ってたらマルコがダメだと言い、イゾウは機嫌が急降下した。そんな2人を見て肩を竦めながら私の隣に移動して来たサッチが、そっと頭を撫でてくれる。
「さっきナミに問題は無いとマルコが言ってたんだろ?」
「イゾウの頭が花畑過ぎて危険だよぃ。感染しない保証がないから隔離が必要と判断した」
それから2人で甲板に向かい手合わせを始めるから、私はサッチの用意してくれた飲み物を飲みながら、仲良しねと言って笑う。そんな私に、ナミが見てる世界だけ、俺達の見てる世界と違うらしいと笑う兄達に首を傾げれば、余計に笑いが起きてしまう。
その時感じ取ったそらはいつものもの。だから軽い感じで伝えてしまう。
「あら、サイクロンが来るわ」
「どっちから何分後だ!?早く指示よこせ!!」
どこで聞いてたのか、即座に戦闘態勢に入る皆に私は指示を飛ばす。今日もまた、いつもと変わらない幸福な日常が過ぎていく。