結婚して大分経つような気がしているのだが、中々ナミと同衾する事が出来ずにいる。俺も責任ある立場だと言うのはあるが、ナミに対する皆からの甘えを全て受け入れちまうのが1番良くない要因だろう。
その為に熱を出して倒れたナミは、凶悪に美味そうだった。それに惑わされて手を出そうとした俺をハルタが蹴り飛ばして来て、そのまま剣まで向けたれちまえば、楽しそうだと何故かビスタまで参戦してきやがって……。
つまり、現状俺が行っている事の半分は八つ当たりだ。わかっていて休みなく鳴かせている俺は酷いのかも知れないが、どこで抵抗したらいいのか分からないらしいナミが受け入れ続けるから、つい甘えて貪っている。
それを辞められたのは、ナミが俺の指に噛み付いてきたからだった。それも、そんな状況にあっても気遣ったのだろうと分かる指……薬指にそれをされたのだから、正気にも還ろうと言うものだ。
銃を扱うにあたり、唯一怪我をしていても支障のないその指を狙った所が、精一杯の反撃なのだと気付けば、素直に謝るしかない。そんな俺にウー……と唸るばかりのナミは妙に幼く、清めるのも抵抗を見せる程に俺を警戒してる。
「許しておくれな。ナミが可愛くて、歯止めが効かなかったんだよ」
「も、無理って、何度も……!」
「俺のお姫さんが、愛らし過ぎて、それを聞き入れる理性が無かったんだよ。悪かったね」
「くるし……ぃ……って、何度も……!!」
嘆いている筈のそれが煽ってるようにしか思えないのはどういう事なのか。俺がそんな風に育てたのだろうかと、思わず天を仰いだ時ナミが言った。
「私に自由時間をちょうだい!そうしたら、その……許してあげるわ」
「分かった。自由時間だね」
「言質は取ったわよ。……もう、撤回はさせないわ」
妙に楽しそうなその声に嫌な予感がしたが、その理由は即座にわかった。ナミが、1人で買物に行きたいのと言い出したからだ。
内心では収まらなかった舌打ちにナミは笑みを深め、自力では指もまともに動かせない状態で約束は守ってねと念押ししてくる。それに俺は苦々しい思いを抱きつつ、仕方ないかと溜息で返事を返す。
そうして動けないナミには今日1日寝ていて貰う事にして、その分俺の仕事が必然的に増やされた。ナミを動けなくした責任を取れと言う事なのだろう。
結局俺は仕事に忙殺され、ナミの買物は気付いた時には終わっていると言う状態にあった。しかし、ナミの買い物にはジョズが護衛として変装してついて行っていたらしい。
アレだけ目立つジョズのそれに気付かない位、ナミは買い物を楽しみ情報も得て来たらしく、帰ってからは当然のようにマルコや親父と難しい顔で話し合いを行っている。……必要な事なのはわかってるが、気に入らないね。
「ナミ」
「イゾウ?」
声をかけると不思議そうに首を傾げるナミに、そっと触れてみれば甘えるようにその瞳を細めるから、つい、強く抱きしめてしまう。そんな俺の動作にマルコは呆れたような視線を向けて来るが、少しも気にならない。
今は腕の中にある温もりが俺の世界の全てだ。蜜柑の香りが本人だと、傍に居るのだと伝えてくれる。
「イゾウ、何年も会えなかった訳じゃねェんだから、少しは控えろよぃ」
「愛妻を抱きしめて、なんの問題があるってんだ。俺の恋女房であり、俺だけのお姫さんだぜ?」
「イゾウのお姫さんが、茹だってるよぃ」
「あァ……食べ頃かね?」
赤くなっているナミを見て素直に言葉を吐露した瞬間、ナミに涙目で暫くしないと宣言されちまう。だが、俺は喰いたいもんでどうしたものかね……。
困ったお姫さんだと小さく笑うと、マルコに背後から鳥足で蹴られた。そんな事のあった翌日には、近くにある島に到着してエースを含む元気の有り余ってる奴らは遊びに行き、ナミはサッチ達の知らない料理を教えながら呑気に笑っている。
昼近くになった頃、ナミが太巻きを数本持って来て、味見して?なんて言ってくるから……ナミを味見しようと手を伸ばした瞬間、サッチに殴りかかられた。……何しやがる。
「邪魔するな」
「今、恵方巻きじゃなくてナミちゃんを喰おうとしただろうが!!」
「なんの問題がある?俺の恋女房だぞ」
「……え?もしかして、恵方巻きじゃなくて、私が危なかったの!?」
漸く気付いたらしいナミが叫ぶと、サッチがお兄さんの所においでと言うが、行けばその後に酷い事になるのはわかっているのか1瞬で血の気を引かせたナミが首を横に振った。その様子にサッチが虐めんなとか言うが……可愛いのも1種の罪だろう?
その後は仕方なく恵方巻きを食べようとするが、何故か帰って来ちまったエースに恵方巻きを奪われたり、ハルタが揶揄って来たりして、中々食べられない。疲労を感じて部屋に戻るとマルコの手だと分かる紙が1枚と、恵方巻き、そして豆まき用の豆が置かれていた。
その手紙によれば、部屋にいる分には邪魔されないから落ち着くまで中でゆっくりしてろとの事で、俺はナミと共に恵方巻きを西南西に向かって食べ始める。俺がそれを1本食べ終わった後、ナミに視線を向けると妙に苦しそうに食べる姿があり、いつも咥えてるのより少し太いと気付く。
「可愛いね」
最高に隠微だと思いながら言葉を口にしたら、文句を言う事も出来ないナミは無言で食べ進めて行く。それを見つめながらナミへの賛辞を送り続ければ、食べ終わると同時に真っ赤な顔で俺を睨み付けるナミ。
それが余計に言葉を重ねたくなるのだと、何故わからないのか。愛しい子だと笑った瞬間に投げ付けられた豆、その上で定型文らしい言葉を口にするのだから、多少意地悪しても許されるだろう。
「鬼は外!福は内!」
「俺が鬼だって?……なら、鬼らしく行こうか」
「既に鬼としか思えないじゃない!イゾウの馬鹿ぁ!!」
俺もならばと豆をナミに向けて投げるが、狙うは胸の飾りのみ。初めは首を傾げていたナミだが、俺を攻撃しようとすれば自らも攻撃される状態に気付き、泣きそうな顔をする。
「ゃ……イゾウの、意地悪……!」
「先に投げ始めたのはナミだろう」
俺が狙いを外す筈も無く、いつの間にか逃げ回るナミと豆を投げて遊ぶ俺の構図に変わっていた。今宵鬼は美味しく熟した蜜柑を食べられそうだと内心で嗤い、節分と呼ばれるイベントを堪能している。