ウチの隊は銃撃や狙撃の隊だと言うのに、何故寄りにもよってビスタの剣術隊との手合わせなのか。俺はもう、刀を持つつもりは無いと知っていてのこれなのだから、始末に悪い。
ビスタの相手ってだけで、疲れるのによ……。はァ……ナミに癒されたい。
「イゾウ!ほら、本気出せ!」
「剣や刀は……苦手なもんでね」
「嘘つきやがって……なら、槍でも使うか?」
そんな事を言い合いながら行っていたそれは、直後にニュースクーが俺の部屋に入った事で小休止に入る。それにどうしたねと問いかければ、新妻の顔を見ないと暴れそうなのがいるからなと言われればそれに甘える事にした。
部屋に入ればニュースクーと戯れるナミがいて、巨大な物に喜んだ直後に受け取った封筒の中身を見て寂しそうに瞳を揺らすのを眺める。その後にニュースクーへと言い放つ言の葉から中身を理解して、今度休みを貰うかと決めた。
そんな俺の存在に気付かないまま、ナミは窓に向かい歌い出す。ナミが歌うそれは、皆の楽しみの1つなので自由にさせている。
本当はその歌声も俺だけのものにしたいが、歌うのを禁じると皆が五月蝿いからなァ……。それに、ナミも萎れるしね。
歌い終えたナミは俺の存在に気付くと、瞳だけで泣くという器用な真似をして来る。それに安心させる為、笑みを浮かべて手を広げると飛び込んで来る愛しい女。
甘えるように擦り寄るそれに、何かあったのかと不安になる。この船にナミを傷付ける存在なんて……とそこまで思った時ナミがエースの為にと注意喚起をしていた事案を思い出す。
「ナミ、どうしたんだね。まさか、何か予兆でもあったかい?」
「ち、違うの!そんな、大変な事じゃなくて……!」
「ナミ……」
隠し事をするなと視線で咎めれば、ナミは少ししょげた様子を見せてから、凛とした顔をする。けれどもそれは、多少でなく無理をして作ってるだろうと分かる空気を醸し出していて……。
「よく、覚えててくれたわね。大丈夫、まだその時じゃないわ。あの、ね。海賊一番くじが当たったの。重箱に卵焼きとか詰めて、お花見とかどうかしら?……でも、難しいわよね」
後半で突然、言いにくそうに言われた言葉に笑いそうになりながら、その頭を撫でる。するとナミは驚いたような顔を俺に向けるから、素直に賛成してやる事にした。
泊まりとはまた別案件として、対応してやろうかね。親父も宴は好きだから拒まれる事はねェだろう。
「ナミが望むなら〝兄貴〟達がそれを叶えてくれるさね。もう、そんな時期とは、気付かせてくれてありがとう」
俺の言葉に嬉しそうに笑ったナミは、そのまま俺の胸に顔を埋めるからナミが満足するまで、好きにさせてやろうと決める。たまにはこんな、甘えたなナミを俺も満喫していたい。
だがいつまで休憩してるつもりだと外から声がかかれば、ナミは抜けてきたの?なんて言いながら困った顔をするから仕方なく訓練に戻る。当然、戻る時に女神への口付けは忘れなかったが。
その後親父に花見の件と休みについて話をすれば、親父は隊長達を集めて話し合ってくれて、宴は無事に執り行われる事が決まった。だが、ナミと2人での休暇については数人が嫌がり話が纏まらねェ。
「俺が、俺の妻と、休暇をとる事になんの問題がある」
「イゾウはやり過ぎる事があるからねぃ」
「ナミが居ないと寂しいじゃねェか!俺の〝姉貴〟だぞ!!」
「俺っちとしては、マルコが過労死しそうで心配な訳よ」
上からマルコ、エース、サッチだ。その他ハルタも悪ノリで嫌がってやがる。
「……なら、花見の席でイゾウとナミで何か見世物をしてくれたら、それの出来が良ければ休暇をやるのはどうだ?ナミは芸達者だが、イゾウもとなればそれなりに苦労する案件だろう?」
「ふむ、花見の宴に何か演物と言うのは良いと思う。イゾウ、それならば褒美として休みを貰っても文句は誰も言えなくなるのではないか?」
親父の言葉に続いたビスタの言葉を受けて、俺は仕方ねェかと頷いた。流石に正月にやったのと同じって訳にはいかねェだろうから、何か考えないとならねェな。
部屋に戻り俺は執筆中のナミにそっとショールを掛けながら、どうしたものかと考える。すると無意識の内に俺は唸っていたらしく、ナミから誰何されちまう。
「イゾウ、どうしたの?隊長達しか知っちゃいけない事でなければ、教えて欲しいの」
「花見の宴は許可されたんだが、何か芸を見せろと言われてね。勿論、ナミと1緒にさね」
本当は休暇を得る条件だが、そこはあえて言わない方向だ。伝えたらサプライズにならなくなるからね。
そんな俺にナミは真剣に考えてくれる。ナミも何処の流派かは不明だが、舞うのだからそうなるよな。
「……お正月は義経と静御前だったから……花見に合う演目何か考えて、舞う?」
「俺が舞ってナミが唄うんじゃ、納得して貰えそうに無いから……仕方ないね」
俺の言葉にナミは首を傾げるから、舞姿は俺だけのものにしておきたいと囁いて、そのままベッドに運んじまう。それにより赤くなったナミに、今宵は俺だけの為に舞って、歌っておくれなと言って強制的に話し合いを中断した。
その数日後、エース達が食べ物を狩りに行ってる間にナミと話し合った結果、演目が決まった。なので俺達は、仕事の隙を見て稽古に入る。
勿論俺達の他にも何かをやる奴が居るので、それらも含めて花見の宴迄はその準備期間として休みを貰っていた。だがそれでも、ナミと俺は仕事内容が特殊な為完全な休みとはならなかったのだ。
つまりは、狩りに行く組みと、演物組の仕事は他に均等に振り分けられる事となり、4番隊はいつも通り料理をするだけだと笑っている。ある意味、この船で1番権力を持っているのがこの4番隊だ。
彼等がもし仕事をしなくなれば、俺達は即座に立ち行かなくなる。胃袋を管轄する母親が、絶対的な権力を持つのと道理であると考えて貰えたらわかりやすいだろう。
そうして迎えた花見の宴当日。美しき舞姫と、それに釣り合うように設えた俺の姿に、互いに見惚れていると迎えに来たジョズから飽きないなと言われちまった。
「ナミに飽きるなんて、天地が逆転しようとも有り得ねェ事さね」
「イゾウ、綺麗。かっこいい……」
「ナミ程には、美しくなれねェさね」
「イゾウの隣にいたら、私なんて見劣りするわよ。酷い人ね……」
「良いから行け。そろそろ順番だぞ」
その言葉に仕方なく、俺とナミは歩き出す。この艶やかなナミを人に見せるのは、本当に惜しいんだけどねェ?
選んだ演目は桃李花…… 赤白桃李とも言うこれは、作曲者不明のもの。中国の唐の時代に、草木に関する曲が21曲作られ、この桃李花はその中の1曲だ。
桃花の盛りに催される曲水の宴で演奏される事が多かったと伝えられている。元は女舞だが、それでも2人で舞えるよう調整しての舞台だ。
ここで筆者より補足。
この曲は伎女舞で、奈良・平安時代に活発だった女性の雅楽の教習所で伎女が教え伝えた女舞だったのですが、舞が途絶えてしまったので央宮楽の舞を借りる事にしたと云われています。しかし、イゾウさんはご存知だった様子で2人は途絶えた筈のそれを舞える事になりました。
ナミ視点であれば地球の地理が含まれる説明も入れられますが、イゾウさんにそこは不可能な為このような形を取らせて頂きました。
音楽は無い。風の音が、舞い散る花が興を添えてくれるので、それ以上は不要だと判断した。
誰かに演奏を頼むというのも考えたが、ナミとの2人の時間を邪魔されたくなかった。例えそれが、単なる舞いの稽古なのだとしても。
桃と杏の花が咲く頃と言うのは、桜の咲く頃でもある。詳しい者で無ければ、花の段階では桃か桜かそれとも杏かは、見分けるのも難しい程だ。
だからこそ選んだ演目に、言葉無く見つめる兄弟に内心で笑う。どうだ、俺の妻は美しいだろうと鼻高々になりながら。
舞い終えて動きを止めると暫しの静寂。その後に沸き起こる割れそうな程の歓声に、ナミが不思議そうな顔をする。
……これで自分の実力を分かってないんだから、空恐ろしい。この実力は、どれ程努力したとしても到達するには難しく、当然の事ながら一朝一夕で身に付くようなものでは無いと言うのに。
そっとナミを抱き上げて、親父に視線で合図をすれば頷かれたので舞台を降りてそのまま目的地へと歩き出す。汗もかいたし、丁度いいだろうからね。
「イゾウ?」
「2人の休みを得ておいたんだ。このまま温泉に行こう」
「……おんせん……」
「ナミが隠し持っていた券なら持って来てるさね。安心しな」
俺の言葉に焦った様子を見せるナミは、少し幼い。いつまでも兄弟や花に、俺の妻を貸し出しておきたくはないんだよ。
花より団子と人は言うが、俺は世界の何よりナミが欲しい。喜んでくれと願いながら、その微笑みを見る為だけに俺は温泉宿へと足を進めた。