※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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元海軍中佐、元ドンキホーテファミリー2代目コラソン、現ハートの海賊団副船長ドンキホーテ・ロシナンテ
偶然の遭遇(光源氏14)side


 それは、本当に奇跡のような日だったと俺は思っている。ローを俺の用事に付き合わせる形で連れ出した偉大なる航路(グランドライン)の入口付近で、俺達は探し続けていた待望の人物と再会を果たす事となったのだから。

 何となく目の前を通り過ぎる小船を見送った後で、その背後に違和感を感じたらしいローが鬼哭(きこく)を振り抜く。迷いの無いその動きに感心していたら、それにより現れた船が何故か4つに割れて沈んで行った。

 どうにかして彼らを助けられないだろうかと考えながら海を見ていると、背中に蹴りを放たれたようで地味に痛い。無意識の内に恨みがましい視線を送る俺に、ローは冷静な言葉を返してくる。

 

 「……アレは明らかに悪人だ。放置しないと被害者を増やすぞ」

 

 ローが顎で小船を示すのを見れば、確かにと思わざるを得ない。あんな少女を追い回す時点で悪人だろう。

 そうは分かっていても、人が死に行くのを眺めているのは気分の良いものでは無い。それはローとて同じだろうに。

 

 「そうだな」

 

 返事をしながら沈む船を見ていれば、その船の浮き上がってくる残骸に紛れて見覚えのある髪色が現れるのを確認して、俺と同時にローが視線をそこに集中させた。願望が見せる幻だろうか。

 まさかそんな事が起こり得るのかと思う。何しろアレから……最後に会ってから7年だ。

 なのにあの頃よりも幼い姿をしている等と、普通ならば考えられない。それでもどうしてかソレをナミでは無いのだと判断する事が出来ない。

 ローは即座にroomと言って能力を発動すると、樽に絡まっている少女を船に移動させる。樽ごと甲板に落ちた少女はその衝撃で転がり、そして血を吐いた。

 それを見て駆け寄り抱き起こすと、幼い姿ではあるが明らかにナミもしくはその関係者だと分かるその姿。苦しそうな呼吸の中でその少女は俺を視界に捕らえ、その後ローに視線を向けると動きを止めた。

 その視線の動きで、まさか本当にナミなのかと期待が膨れ上がる。そして暫し待てば少女はゆっくりと唇を動かした。

 

 「トラファルガー・ローと、ドンキホーテ・ロシナンテ……?何が、起きてる、の?」

 

 驚愕に満ちたその声は、やはりあの頃よりも少し幼いもののナミと同じだ。それと、あの日の記憶が本人に無かったとしても、コレは間違いなくナミだと判断出来た。

 あの時もそうだったが、何故か俺の名を知っている少女。手配書も無いローの名を、簡単に言い当てた事から見て間違いないだろう。

 

 「……大人しくしていろ。今、治療する」

 

 ローがそう言って手を伸ばすと、大概の人間は怯えるのに対して少女……ナミはローのそれを微笑んで受け入れた。何故ここに居るのだと警戒していた筈なのに、自分に危害を加えないと確信している……いや、信頼しているような顔で……。

 ローが衣服を剥ぎ取ると、ナミの身体には恐ろしい程の拷問を受けた跡が確認出来て、俺は怒りで目の前が赤く染まるのを実感した。そしてローは黙々と治療を進める。

 誰がナミをこんな目に合わせた……?

 沈む船を見て、あいつらかと思えばゆらりと体が動こうとするが、相手はすでに海底へと向かっていて悪魔の実の能力者たる俺にはどうにも出来ない。だが、この煮えたぎるような怒りをそれならばどうしたらいいというのか。

 

 「……ナミだな」

 「そうだけど、どうして私の名前を……?」

 

 ローからの問いかけに不思議そうな視線を向けるナミは本当に幼い。歳はまだ10代の半ばくらいだろうか。

 その様子を見て、俺は1気に冷静になる。今俺が取り乱す事は許されない。

 

 「……俺も混乱している。7年前にお前に会った時は、お前は20歳前後に見えた。だが今のお前は……10代半ばか?」

 

 ローが問い掛ければナミがあの日のように、思考の波に飲み込まれたのが分かった。その表情は、真剣にローを助けようと悪魔の実を手に入れる方法を考えていた時と酷似している。

 それから治療を終えたローにナミは真っ直ぐに視線を向けて、小さく頷くと動かすにはまだ苦痛がある筈なのにそれを感じさせずに、体を起こすと静かに頭を下げた。

 

 「助けて下さりありがとうございます。……お話にあった、過去に未来の私に会ったと言う事ですが、現在の私には身に覚えはありません。そして恐らくはその未来も私には訪れません」

 

 頭を下げたままそう言い切ったナミは頭を上げてから、真剣な表情でローと俺を見てから少し苦しそうにその瞳を揺らした。そして、小さく無理頼めないと呟くと、その表情を絶望に染めた。

 それからスクリと立ち上がると海を見て、小さく息を吐き出した。その直後俺達に視線を向けて、船を3時の方角へと指示して来るから、咄嗟にそれに従う。

 何故かナミの言葉を疑う気にも、問い詰める気にもならなかった。船を反らせて少しすると、今までいた辺りにサイクロンが発生したので驚きナミに視線を向けると、ナミは何故か切なそうにそのサイクロンを見つめているのが印象的だった。

 何がナミをこれ程までに、苦しめていると言うのか。サイクロンと言う船乗りには予測出来ない恐怖を、1瞬で消し去ったと言うのに。

 

 「ロシナンテさん……小船を頂けませんか?私、帰らないといけないんです。お礼はいつか必ずしますから」

 

 突然のその言葉に、俺が口を開く前にローが巫山戯るなと怒鳴る。その思いは同じだ。

 漸くナミを見つけたと言うのに、逃がしてたまるか。いつかっていつなんだ。

 また、残して消えるつもりなのか、あの日のように、今回はサイクロンから俺達を庇って、それだけの為に現れたかのように。お前は妖精か何かなのかと叫びそうになり、それを耐えながら無意識でナミの体を強く抱き締める。

 この体を離せば消えてしまいそうな気がして……。それに対して痛みを感じたのかつらそうに息を詰まらせるが、ナミは声も出さない。

 弱味を見せればそこを攻撃されるとでも言わんばかりのその反応に、俺は嫌な予感がした。これは、長年暴行を受けていた人間の反応だ。

 咄嗟にナミの左肩を確認する為に服を剥ぎ取れば、そこには見覚えの無いマークが刻まれており、ここが大きな分岐点なのだと理解した。恐らくこのナミはあの時のナミの過去の姿。

 そして、今ナミは誰かに囚われている。それから解放された後のナミが、何かの弾みで過去へ飛ばされその後どうなったのかは定かではない。

 そして恐らくは、あの時のナミは今のナミとは少しズレた軸を生きたのだろう。それでも俺は構わないと思えた。

 互いに名前の他は何も知らない同士、1から始めればいい。どちらにしてもナミであるならば、俺に手放すなんて選択肢だけは無いのだから。

 それからすぐに俺のコートをナミにかけて、何故か抵抗しないナミを見据える。それはローも同じで、どうやらローと共に1人の少女を取り合う事になりそうだと気付くが、抑え等きく筈もない。

 抑えが効くのならば、俺もローも海賊になんてならなかっただろう。どこかでひっそりと隠れて生きて行くと言う選択肢を選ばなかった時点で、自制心なんて持ち合わせちゃいねェんだよ。

 

 「……帰りたい所を教えろ。全て解決してやる」

 「今のローくんでは適わないわ。だから、言えない」

 

 ナミの言葉を受けてローが黙ったので、俺は前に出ると膝を折って視線を合わせた。それにビクリと反応したナミを安心させるように笑えば、何故か遠くにあるオアシスを見るような眼差しを向けられて、妙な気持ちになる。

 

 「……その戦略に俺も入れているか?必ず助けてみせるから、話してくれないか。過去に、未来のナミに救われたお礼をさせて欲しい」

 

 その言葉にナミは、私が2人を助ける未来なんて無いかもしれないのにと呟いてから、向かって欲しい島の名前を答えた。船をそこに向けて動かしている間に、ナミはまるで他人事のように村に起きた事を語る。

 それから俺達の名を知っていたのは、予知夢によるもので、本来ならばナミが18歳の時に偶然シャボンディ諸島で会う予定だったのだと語る。それ以前に俺達に会う予定はなく、その夢の通りならば俺は過去で……未来のナミが現れたその時、ドフラミンゴ……兄上に殺されている筈だったのだと言う。

 それから視線を俺の顔に向けると、そっと手を伸ばして頬に触れてくる。何かを確かめるように触れた状態でゆっくりと、言葉が放たれた。

 

 「温かい。生きてるのね。……本当に、生きてる……」

 

 その言葉に俺は泣きそうになり、幼いナミを全力で抱き締めた。それをナミは受け入れて、大人しく抱き締めさせてくれる。

 あの時のナミも怯えるでも無く、ただ、俺やローを心配してくれていた。早く悪魔の実を手に入れないとねと、俺に笑いかけていたのを覚えている。

 

 「……lemonって歌を、知ってるか?」

 

 俺の突然の問い掛けにナミは少し考えるように瞳を閉ざして、小さく頷いてからあの時と変わらない歌声を俺の腕の中で響かせる。歌い終えたナミは、これかしら?なんて言って儚く笑う。

 ここでナミの抱える問題に手を出せば恐らく、あの時俺達を助けたナミにはならない。それでも構わないと、俺は思えてしまった。

 本質が同じなら、それだけで充分すぎる。もしもそれで俺が生きているのがIFとなるのだとしても、過去で俺が死んでしまうのだとしても、今腕の中にいる温もりを手放したくは無いと……そう、思ってしまったのだ。

 身長も力も、戦闘能力も含めて全て今ならば俺の方が上なのだろうから傍に居させて、全てから守ってみせる。後悔するような事はしたくない。

 強大すぎる敵に何の関わりも無い子供を守る為だけに立ち向かい、見返りも求めなかった高潔なナミは、今幼い姿でも変わりなくここにいる。ローに視線を向けて、珀鉛病は治ったのねと微笑むその暖かさは、天性のものだろう。

 村人からの感謝なんて求めて居ない。村人を騙して、嫌われて、それでも守ると決めているナミは、幼いのに美しい。

 家族と大切な村人の為ならば、奴隷に身を落としても恥と思わないその気高さは、真似しようと思って出来るものではないだろう。その時ローがいつもより声を低くしてナミに声を掛ける。

 

 「……過去に俺を助けてくれたナミとは違う事を理解した上で、助けてやる。ただし、その魚を倒し終えたら、俺の船に乗れ。俺は海賊になるが、そのクルーとしてナミが欲しい」

 

 そんなローを俺の腕の中で、迷いのない瞳で見つめたナミは、小さく笑って頷いた。疑う事の無いその瞳が、見る者の心を縛る。

 

 「ええ、解放してくれたら何処までもついて行くわ。キャプテン」

 

 それから俺の腕を抜け出して、紙を広げたナミは村の地図を描いて行く。その素早さと美しさに息を飲んだのは俺だけでは無く、ローも声を失って呆然としている。

 これでは狙われて当然だと思った俺は、おかしくない筈だ。同時に兄上に見つかればただでは済まないと、戦慄にも似た悪寒が身体中を駆け巡る。

 それから何処に、何という村があるのかなどを追記して行くナミは、真剣そのもので怯えている場合では無いと気を引き締める。俺が作戦を立てればそれをナミが修正し、それの粗を指摘すれば即座に別な案を出して来た。

 頭の回転も早く、このレベルの地図をこの時間で描けて、容姿は美しく心根は優しい。世界に狙ってくれと言っているようなものじゃないか。

 嘆きたくなる俺の気持ちに気付かない様子で、ナミはキョトンとしているから、俺は笑ってナミに得意な戦い方を確認する事で多くの事を誤魔化す。だが俺も、恐らくはローも、この戦いにナミを参加させるつもりは無い。

 この怪我だ、動いている今がそもそもおかしい。何よりもトラウマを植え付けているだろう相手と、まともに戦うなんて出来ないだろう事は想像にかたくない。

 話し合いと能力の情報を確認し終えたところで、緊張の糸が切れたのかナミは倒れてそのまま意識を失っていた。船が島に近付くと、話にあった通りに魚人が確認の為に姿を見せる。

 その時意識の無いナミを抱き抱えるローを見て、魚人は送ってくれたのかと問い掛けてくるから、こちらも世話になったから、その礼に連れて来ただけだと答える。それにより魚人は納得したのか姿を消して、俺の存在は隠し切れた。

 元海軍の伝手で俺が〝昔馴染み〟に連絡してから始まったこの作戦は、恐ろしい程簡単に進み、無事にナミを解放する事が出来た。それからナミの肩から刺青を消すと、代わりに入れて欲しいと言われたのは見覚えのあるマーク。

 家族を意味するその印を刻み、荷物を纏めたナミを俺達は当然のように貰い受ける。行ってくると笑うナミと、それを見送る村人とナミの間に涙は無い。

 開放されたとわかった時と、刺青を変え終えた時の2度幼い子供のように泣いたナミは、それ以降1切涙を見せる事は無かった。それから俺達について北の海(ノースブルー)まで着いてきたナミは、物珍しそうに辺りを見ているが、これで実は測量しているのだから世の測量士達にはたまったものでは無いだろう。

 そんな時にローの友人達に会うと、迷う事無く白熊のベポに飛び付き、大喜びしたナミは幸せそうにベポを撫で回す。その姿は明らかに年相応なそれで、18か20になる頃には本当にあの時の女になるのかと少し疑わしくなった程だ。

 だが、間違いないと言いきれる要素の方が多いので、俺は気長にナミの心が安定するまで待とうと決める。もうナミは消える事無く、俺達の側に居てくれるのだから。

 潜水艦を作ると話しているローは、何故かナミの部屋を作るつもりは無い様子を見せる。だから俺は慌てて、女の子は荷物も多いしナミは船に必要な戦力だぞと言って部屋を用意するよう勧めた。

 結果としてローの船長室と、俺の副船長室の間に参謀であるナミの部屋として参謀室を用意する事になった。そんな図面を見て満足していた俺達に対して、ナミだけは納得いかないと言葉を口にする。

 肩書きを知ったナミが恐れ戦き(おそレおののキ)、私は航海士か測量士でしょ!?なんて言っているのだ。だが、それはベポが既にやる事で決まっているのだと話せば、私頭良くないから役立てないわよー……なんて、弱々しく言い出す。

 どうやらナミは自己認識が甘過ぎるようだ。いや、自己評価が厳し過ぎると言うのが正しいかも知れないな。

 その頭をそっと撫でれば、涙に潤んだ瞳で俺を見上げてくるから、これは猛毒だと思う。襲いたくなるのを耐えて、ただ抱きしめる事で耐えた俺の自制心を誰かに褒めて欲しい位だ。

 怪我の治ったナミが実は覇気使いであり、謎の武器で雷を発したりしながら戦える戦闘員としても優秀な人材だと知るのは、ハートの海賊団として活動を初めて間もなくの事だった。薬学に強く、料理も裁縫も出来るナミはいつの間にか船の中で、皆の母親の様な立場に落ち着いていて、だからこそ、皆の父親たる位置に立つ者として、俺とローは水面下での戦いを強いられていく事になるのだが……当の本人たるナミには、預かり知らぬ話のようだ。




ここからはロシーの話になります。既にHPにて掲載完了してる所まで載せた後は不定期更新となりますので、ご了承ください。
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