漸く、1人でも物に掴まらずに歩ける程度に回復したナミと、散歩をかねたデートに行く予定でいるんだが……役職があると面倒だね。やるべき事が乱立していて、ゆっくりと愛しいお姫さんとの時間を持つ事も出来ない。
「俺の、恋女房……」
「隊長、ナミさんが愛しいのは分かってますから、突然切なげに呟かないでくださいよ。……あ!なんか騒がしいですね」
言われてみれば騒がしい。また厄介事かと視線を向ければ、明らかに堅気の空気を出してるのが集まっているのが見える。
今度は何をしでかしたのがいるのだろうかと、億劫な気持ちを隠して足を向ける。すると、困りきった顔した双方の意見を聞く事になった。
要約すれば、ここに届けるように言われた荷物を持ってきた商人と、そんな物がある筈ないと言うウチのクルーがいると言うだけの話だ。確かにまだ1番隊が買出しのリストを作ってる所だから、四番隊の食料の他は届く筈もない。
そして奴らは、買った物を届けるのでは無く基本的に自分で持ち帰る。……送料が勿体ないからだ。
途中で何かトラブルがあり食料だけ逃がしたなら、人を代わりに寄越してくれと言う筈なのでそれでも無い。ふむ……だとするならば、と届いた荷物を確認して納得した。
「嗚呼、うちのが頼んだんだね。届けてくれてありがとう。通達ミスで迷惑かけたね」
そう言って商人達から荷物を受け取ると、親父に1筆書いてそれと1緒に荷物を親父に届けるよう伝える。そうしていると聞きなれた愛らしい声が聞こえて来て、仕事を放棄して会いに行けば真剣な顔で歌っていた。
どうやら作曲中らしいと気付けば、邪魔しないようにベッドに腰掛けて様子を眺める。近くを見てみれば干されている地図があり、この島だと気付けば世界に狙われるのも理解できちまう。
……それでも、俺の妻であり、白髭海賊団の逆鱗だ。誰にも……渡すかよ。
歌が終わった所で拍手してみれば驚いた顔で振り向き、俺を認識した瞬間に茹だる。なんと愛しいのだろうか。
そう思いつい近付きそのまま丸呑みしてしまおうかと思ったが、机にある懐かしさを覚える譜面に動きを止めた。先程はしっかり聞かなかったが……。
「ナミ」
「え?」
「もう1度、歌っておくれな」
「……仕方ないわね」
何を思ったのか、俺を見て微かに困ったような顔をしてから、ナミは静かに歌い出す。縁側に腰を降ろして、菊やおでん様と共に過ごした日々が、脳裏に浮かぶ。
その歌が終わるとありがとうと告げて唇を重ねたが、その瞬間に仕事が隊員の姿で現れたので、仕方なくナミから離れる。このまま、頂くつもりだったんだがねェ。
勿論、怪我してるからそこは考慮しながら……ね。だと言うのに、本当に空気読まねェなと不満に思いながら、その頬に触れて、誘惑するように微笑みかける。
「ナミ、夕刻また迎えに来る。それ迄おとなにしてな」
「う、ん」
「……逢い引きだよ。艶姿を、楽しみにしてるさね」
「む、無理だから……!!どう足掻いても、イゾウには勝てないからっ!!」
叫ぶように言うナミを残して仕事に行けば、恐らくナミが必死で姿見の前で悩むだろう事を想像している為なのだろうが、仕事が妙に捗った。そんな俺に隊員達は早く出掛けてくれと涙ながらに言い出したが、そんなもの聞き入れるつもりは無い。
……俺とナミの時間を邪魔してくれたんだ。今ある仕事はキッチリと片付けて、後は何があっても邪魔させないさね。
「キリキリ仕事しな」
「鬼だ……ナミさん以外には、悪魔だ……」
「……なにか、言ったか?」
「「「いいえ!!」」」
夕刻、屍と化した隊員達を残してナミを迎えに行けば、愛らしい浴衣姿で出迎えてくれた。それが嬉しくて、俺はナミをそっと抱き寄せるが、そうなるとその姿が見えなくなりそれもまた惜しい。
悩ましいね。抱き締めていたいが、その姿が見えないのも惜しい。
「よく似合ってるよ」
「おかしい所、ない?」
言われてからマジマジと見直して、困っちまう。これ以上俺を虜にしてどうしたいんだか、このお姫さんは。
「……おかしいね」
「え!?」
「……ナミが可愛すぎて、誰にも見せたく無くなる」
「イゾウ……」
「ナミ……」
そのまま脱がせようとしたらナミに手の甲を抓られ、うるっとした視線を向けられちまう。これで怒ってるつもりだと言うのだから、俺の理性を試してるとしか思えないんだがね。
仕方なく約束を守る為に、けれども何もしないのは耐えられずに、首筋に軽く跡を残してから連れ出す。するとやはり、ナミの歩く速度がいつもより少しばかり遅い。
リハビリに丁度よさそうだと判断して、甘味処を挟みながら店を冷やかして歩く。揃いの簪でも買うかなんて笑いながら、それとも扇でも見るかなんて言って、笑い合う。
飲み物2つと甘味1つを休憩する為に入ると頼み、それぞれをシェアすれば、ナミもその意図に気付いたらしく頬を染めてありがとうと呟く。だが、俺もこれはこれで楽しんでるのだと知って欲しい。
「それ程食べられないだろうから、店ではひとつしか甘味を頼まずに、二人で食べような」
「もう、そうやって甘やかすんだから……」
「ナミが普段、俺に甘いからね」
「イゾウ、私「ナミ~!!無事だったのか!?」」
突然ナミの言葉を掻き消す声が響いて、俺は眉間に皺を寄せる。……この声は……。
「シャンクス!?」
「ナミが怪我したって聞いて、色々吹き飛ばしてここまで来ちまった」
「……過保護にも程があるわ。少しは弟子を信じてよね」
少しばかり幼い顔で膨れるナミを、ぎゅうぎゅうと抱き締める赤髪。……気に入らねェなァ……。
俺が不快に思っているのに気付きながら、赤髪は俺を挑発するように言葉を選びつつ、ナミに笑いかける。恐らく普通の女がやられたら、コロッとよろめくような色気まで振り撒きながら。
「ナミだからな。赤髪海賊団の女神……その自覚はしとけ。……守りきれないような奴らには見切りつけて、こっちに来てくれると嬉しいんだがな」
「何言ってんの。私が!自分から!勝手に!怪我したのよ。私は大切な人に、生きて欲しいと願ってるから」
その言葉で、俺は〝男は子を守る為子を抱き寄せる。女は子を守る為身を呈す〟と言う言葉を思い出した。ナミにとって、大切な人というのは全員我が子なのかも知れないね。
「だが……顔色も悪い」
そう言ってナミの顎に触れて顔を上げさせるそれは、そのまま口付けでもしそうな様子で、俺は耐えられなくなりその手を振り払う。それに不愉快そうな顔をされるが、ナミは俺の妻だぜ?
「リハビリ中でな。歩けなくなっても困るから、連れ出してる。……俺の妻に、無闇に触れないで貰おうかねェ?」
そう言ってナミを抱き寄せると、そのまま唇を重ねる。恥ずかしそうにしながらも抵抗しないナミに、赤髪が憎々しげな視線を寄越すが、そもそもナミは俺の妻だって言ってんだろ。
先に出逢っていようが、そんなもの関係あるかよ。どんな理由があれど……手放したお前が悪い。
「イゾ……ゥ……」
「俺の織姫……あちらで願い事書けるようだから、参加してみるかい?」
「後で、皆と……」
「船での準備は今進められてる筈さね。だが……それはそれ、これはこれだよ。船だと俺は、隊長らしい事書かないとならないからね」
「あ、そっか。なら、私とイゾウは願い事二つ書けるわね」
そう言って無邪気に笑うナミの頭を撫でて、そっと支えるようにして立ち上がる。その様子に赤髪は、無事なら良いと溜息ひとつ。
ナミはそれにありがとうと笑って、そのまま少しばかり雑談をするから、その間に俺は願いを書いてしまう。俺の切なる願いを。
『ナミに近付く虫が減る事を願う』
何でもかんでも魅了して、変なもん惹きつけるのはやめて欲しい。そう思って吊るした瞬間、ナミが顔面蒼白で俺に言った。
俺の腕を掴んで。必死な様子を隠しもせずに。
「イゾウ、私今日帰りたくない!!」
「……どうしたね、そんな可愛「あの部屋今虫いるんでしょ!?ヤダヤダ!!帰りたくないよぉーー!!」」
震えながら涙声で抱き着いてくる愛しい妻。豊満な果実を押し付け、潤んだ瞳で縋るような視線を向けてくる。
……そういや、虫駄目だったね。そう思ったら笑えて来て、その誤解をそのまま利用しようと決める。
負担をかけないやり方はある。怪我を悪化させないように、たっぷりと慈しんでやろうかね。
「なら、今夜は宿を取ろうか。折角だから怪我に効く温泉のある宿にしよう」
「温泉!?」
「あァ、温泉。好きだろ。ゆっくり……楽しもう」
逃げ場を封じられてるなんて気付かない織姫を、彦星はにこやかに腕に閉じ込める。今日も織姫と彦星は、年に一度の逢瀬なんて耐えられないと、引っ付いたまま離れない。