サッチは生きていて、エースもモビーに残ってて、だからこそ戦争は回避出来る……筈だった。そう、つい先程までは。
私はナースのお姉様達と買物に出て、下着を選んだりビキニ選んだりして楽しんでいたのだ。そして、いつものように絡んで来た男達をお姉様達が蹴り飛ばして、私はそれを微笑ましく見てたんだけど……。
嫌なものを感じて慌てて短剣を引き抜いてお姉様達を庇えば、目の前に現れたのは大男が1人。戦えない人達を巻き込めないと即座に判断して背後に庇いつつ、声を出す。
「皆、逃げて!!」
庇いながらでは戦えない。地力が違い過ぎる。
そう思いながらも私としては善戦したつもりである。問題は、鳥籠を使われてしまった事にあると思う。
時間稼ぎをと足掻いてみたけど、相手の間合いに入った時点で私の場合は詰みだと言える。身動きを封じられて、掴まれた顎。
そのまま当然のように、けれども戯れにだと分かるけど、されたキスが不快でキッと睨み付けた。けれども直後に反応が変わって、そのまま私は捕らえられてしまう。
その真意はよく分からない。そして現状、私は牢とは思えない立派な部屋に閉じ込められている。
目の前に座る大男に、その目的が分からないのもあり苛立ちを向けてしまう。冷たい声が自分から発せられるのは理解していても、それの止め方さえ今は分からない。
「……私を捕らえて、何になるの。私に掛けられてる懸賞金なんて、たかが知れてるわよ」
「俺がナミを手に入れたいだけだ。その為には、白髭は邪魔でな……考えた」
「何を?」
「どうしたら手に入れられるか。ナミの夫は白髭の隊長。そして、弟は〝火拳〟のエース。白髭の掌中の珠であり懐刀。……ならば、白髭を消すしか無いだろう」
その言葉で思い浮かぶのはひとつ。エースが本来そうなる筈だったのと、同じように考えるのが妥当。
これが、修正力だろうか。運命を捻じ曲げた代償に、私が死ねば終わると言うなら構わないけど……もし私が処刑される事が発表されれば、間違い無く白髭海賊団は動く。
そして、ルフィがもし処刑される人間が私だと知ってしまえば……エースの時にそうしたように、助けに来ようとするだろう。ルフィは、私を姉として慕ってくれてるもの。
エースの代わりに、私がルフィを庇って死ぬならそれは構わない。でも、それで親父様が死んだりしたら……この世界に与える影響と損失は大き過ぎる。
「……私を、公開処刑でもするつもり?」
「ああ……。そう、触れを出して貰った。実際の狙いは、助けに来るメンバーを始末する事だ。その中に〝海賊王の実の息子〟が居るのならば、世界政府としては始末したいだろうからな」
「私は、ちょうどいい餌って事ね」
運命を変えたつもりだったのに、ここに来てこんな形で修正力が働くなんて誰が思うのよ。どうしたら、皆を戦争に巻き込まないで済むんだろう。
皆を傷付けたくないよ。その時、ドフラミンゴは私へと海賊らしい冷たい笑みを浮かべて見せた。
「……安心しろ。ナミは公開処刑にはならねェ。白髭海賊団が壊滅した後は、俺の妻になる事で世界政府と話はつけてきた」
「私の意思は何処にあるのよ!?巫山戯ないで!!」
私の言葉にドフラミンゴは笑い、服を斬り裂いた。糸で自由を奪われている私には、抵抗さえできはしない。
嫌だと叫んでも、身体は操られて自らドフラミンゴのモノを胸に挟む。それでも、四肢は操れても心までは操れない。
強く睨み上げて、従う気は無いとの意志を伝えればドフラミンゴは独特の笑い声を響かせる。何がそんなに楽しいのか、全く理解できない上に、背筋に冷たいものが走った。
「性欲処理したいだけなら、いくらでも他に望む人がいるでしょ!?もう辞めて!!」
「俺は……ナミが欲しいと言った筈だ。しっかり奉仕して、俺のモノになると言うなら、戦争は起こさないでやってもいい」
「なっ……!!」
「俺の
「私は、イゾウの……っ!!」
そこまで声に出して、でも、皆がそれで助かるなら……私1人が我慢すれば、皆は生きてくれるのだと気付く。被害は最小限で抑えられるわ。
皆に怪我も無いし、当然死ぬ事も無い。何も問題が起きなくて済むなら……。
でも……動かされているのに、身体がこれは違うと拒絶する。心が、イゾウじゃ無ければ嫌だと叫ぶ。
「イゾウッ……!!助けて……っ!!」
「残念だな……」
無意識の内に叫ぶような声を出していた私に、ドフラミンゴは何に対してか分からない呟きを吐き出した。それに怯えるよりも早く操られ立ち上がる身体は、ドフラミンゴの反り立つモノを受け入れようと足を開く。
そうして私は、ドフラミンゴに濡れてもいない状態で穿かれた。痛みと圧迫感で目の前が白くなり、チカチカと明滅する視界。
それでも声は出したくなくて、必死で唇を噛み締めれば唇をこじ開けられて差し込まれる舌。喉の奥まで舌が攻めてきて、息苦しさに喘いだ時……崩れ落ちたのは建物の壁だった。
マリンフォードのその場所に、迷い無く飛び込んで来たのは……私の愛すべき家族。巻き込みたくないと願ってやまなかった人達が、マリンフォードで暴れていた。
「人の妻に……何してくれてんだい?」
「イゾ……ゲホッ……」
「見て分からねェか?俺の女にしてくれとナミから誘われたから、可愛がってる所だ」
「うちのお姫さんは、慎み深くてな。そんな事は、口が裂けても言わねェ女さね」
そうして、イゾウは刀を振り抜いた。元々侍だったとは聞いていたけど、いつも二丁拳銃で戦ってたのに、今は……。
美しい、舞うような動きでドフラミンゴに斬りかかり、私を穿いたままドフラミンゴはその場を避ける。その刺激に私は思わず呻き、身体が勝手にドフラミンゴを強く締め上げてしまえばドフラミンゴは嬉しそうに笑った。
「ほら、こんなにも求めてるじゃねェか!!」
「俺の愛妻の細腰が砕けたら、どうしてくれる!!解放してもらおうか!!」
「断る……と言ったら、どうする」
「……白髭海賊団と、赤髪海賊団を相手に戦って……勝てると思うなら、言ってみると良いさね」
なんで、赤髪……と考えて、迷い無くイゾウが助けを求めたのだと気付く。そういう事に、この人は迷いをみせないから。
結婚式の時にちゃんと会って話をしてたもの。今回私が拐われたと連絡しても、何も不思議はないわ。
「〝四皇〟が二ヶ所か。それは流石に御免被りたい所だな。良いだろう。今回は返してやろう」
そう言って私の身体を持ち上げるから、ドフラミンゴのモノがずるりと抜ける。その衝撃で私の意識が朦朧としてしまう。
声を出さないで耐えたのは、私の意地だと思う。その直後に浮遊感を感じたと思ったら、私はイゾウの腕の中に戻っていた。
……私を投げる事で隙を作り、その場を消えたのだと理解する。愛しい温もりに抱かれて、でも、わた、し……いま……!!
「いやぁぁぁ!!見ないで、見ないでっ!!」
「ナミっ!!」
イゾウに、私が他の男に犯されている姿を見られた衝撃で叫ぶ私を宥める為、重ねられた唇。悲鳴も、嘆きも、慟哭も、全て受け止めると言われている気がした。
重なる唇は、優しい。いつものイゾウからの口付けで、でも、落ち着けと言われてるのが分かる。
涙が勝手にこぼれ落ちた時、イゾウの唇が静かに離れた。そして、私の頬を伝う涙を唇で拭い、目尻にそっとキスをしてくれる。
「ナミは何も悪くないさね。よく、頑張ったな」
「イゾウ……」
「よく、ナース達を守り抜いた。もう、大丈夫さね」
優しく言葉をかけながら、イゾウは私の肩に自分の着物をふわりと移動させ、そのまま私にそれを着させてしまう。着物は元々が大きいから、素肌を全て隠してしまえて……そんな私をイゾウは優しく抱き上げて歩き出す。
優しく柔らかな声で私に語りかけながら。でも、これで本当に戦争が消えたと断言出来ない。
「皆が待ってる。無事な姿を、見せてやらないとな」
「うん、でも……」
「大丈夫。俺はもう、ナミを離したりしないから……今は力を抜いて、俺に身を預けてな。守り抜くと、誓うから」
その言葉に頷いた時、意識が薄れるのを感じた。まだ戦争がどうなるのかも定かでは無いのに……。
恐らく裂けてしまったのだろう下腹部から流れ出ているのが、血液だけなら良いのだけど……。何処か他人事のように思いながら、私は深く己の意識が沈み込むのを感じていた。
目が覚めた時にはナースのお姉様達に囲まれていて、消毒液の香りが妙に強く感じられた。それに首を傾げたら、皆が1斉に振り向いて、大騒ぎとなる。
直後にマルコと若先生が入って来て、泣きじゃくるお姉様達を部屋から追い出しつつ私の体調をチェックして行く。そのまま少し待ってるように言われて、二人が部屋を出て行くと途端にシン……となる室内。
珍しく外からの音が余り入らなくて、何だか世界に1人だけ取り残されたような……そんな不安な気持ちにさせられてしまう。そんな時、先程泣きじゃくっていたお姉様の1人が迎えに来て、車椅子に乗せられてしまった。
瞳が赤くなっていて、本当に心配かけたのだとわかってしまう。私は、皆が無事だったんだから、それだけで良いのに。
「あの、歩ける……んだ、けど?」
「安全のために、それと、私達の安心の為に暫くは車椅子使って。……そうしたら、1人にはならないでしょ」
最後に、必ず次から助けを連れて戻るまで待ってて……と涙声で言われてしまえば、心配かけた上に無理させたんだなとわかってしまう。だから私は逆らう事を辞めて、案内されるままに移動すれば甲板には大切な人達が揃っていた。
「イゾウ……。親父様、皆……」
「グララララララ……。意識が戻ったなら、それでいい。五体満足な事もマルコから報告は受けている。ナミ、よく、家族を守ってくれた。ありがとう」
「親父様……っ!!」
「いらねェ苦労、かけちまったな……」
苦しそうな、泣きそうなその言葉に反応して私が立ち上がるよりも早く抱き上げられて、私は親父様の膝に乗せられる。そこから腰に抱き着いて、スリスリと甘えれば指先で頭を撫でてくれる優しい温もり。
本当は、慰めたいけど、親父様は悪くないと言いたいけど、言えば嗚咽になりそうで……。甘える事がきっと1番親父様を安心させられるからと、盛大に甘えておく。
そんな時に聞こえて来たのは、シャンクスの声。居たんだ?と驚いて視線を向けたら、それが伝わったらしくて酷い酷いと嘆かれてしまった。
「俺もマリンフォードまで助けに行ったし、陽動とか色々手伝ったのに……ナミはそうやって師匠たる俺を蔑ろにするんだ」
「ご、ごめんなさい!!だって、1応は敵船だし、四皇同士でいつまでも1緒にいるとか普通は聞かないし……!!」
「ナミの言い分が正しい。病み上がり所か病んでる俺の可愛い妹を虐めないで貰おうか、お頭」
「お前……俺に対して冷たくないか?」
シャンクスが呆れたようにベックに言うけど、私はじっとベックに視線を向けて、硬直してしまった。何があったのか知らない筈も無いのに、今も私を〝可愛い妹〟と呼んでくれる兄と言う存在に、声が震えてしまう。
「ベック……助けに、来てくれたの?」
「可愛い妹の為なら、地の果てからでも駆け付ける。当然だろ」
「……ありがとう……」
グズグズと泣き出した私に、皆が笑い、シャンクスが吼えた。どうして俺にはお礼言わないんだ!?って、言わせてくれなかったじゃない。
話の流れでお礼が言えなかったのだとどう言えば伝わるかと思案していたら、突然の大声と火球によりその場は騒然とする。どうやら今度はエースが暴れだしたらしい。
モビーが燃えると困るから辞めて欲しい。シャンクスがエースに負ける筈無いのわかってるから、そっちは大丈夫だけど。
「ナミは弱ってんだから、虐めないでくださいよ!!」
「1応俺はナミの師匠で、今回は助けに入ったってのに、その扱いは無いだろエース!?お前から見ても〝兄貴〟みたいなもんだと思ってたぞ俺は!!」
「ナミの害になるなら、全員敵だ……っ!!〝火拳〟っ!!」
「容赦ねェなおい!?」
嫌だわ。なんか、感動する暇も、泣きながら甘える隙さえない。
その騒ぎの中、静かな声が鼓膜を揺らした。ずっと黙って私を見ていたイゾウが、親父様に声を掛けたから。
「親父、そろそろナミを休ませたい。……返しておくれな」
「……甘やかしてやれ」
「勿論、そうさせてもらうよ。……ナミ、おいで」
その言葉に頷くと、親父様が私をそっと降ろしてくれて、イゾウがそんな私を抱き締める。大丈夫だと言うように頭を撫でてくれるその手が、少しだけ震えているから、それだけ苦しんでるのだとわかってしまう。
強がりな所があるから、支えたい。私の事なんて気にしなくて良いから、そんなにつらそうな顔をしないで欲しい。
「イゾウ……」
「部屋で、休もうか。さ、帰るとしよう」
そのままふわりと抱き上げられて、部屋へと連れ込まれれば私は何をどうしたらいいか分からなくなる。イゾウがどうしたいのか、分からないから。
ベッドに私を優しくおろして、心配そうにその瞳を揺らす。それは、なんとも言えないくらい切なそうで……。
「今すぐナミを抱こうなんて阿呆な事はしないから、安心してお休みよ」
「イゾウ……私、抱かれたい」
「……っ!今は、俺に余裕が無い。だから壊れるよ、お姫さん」
切なく揺れる瞳が、その言葉が本心だと告げている。でもね、私は……本当は私の方こそ、イゾウに嫌がられるの覚悟なんだから。
イゾウ以外の男を知った私を、イゾウは嫌がるかも知れない。だって、貞淑を重んじるワノ国の出身なのだから。
なのに、イゾウは私を責めない。気遣って、大切に大切にしてくれる。
それはつまり、気にし過ぎてそのまま触れられなくなるリスクを秘めていると言う事。それに、私の身体には、まだ……あの時の感触が残ってる。
「イゾウに、壊されるなら本望だわ。そんなに泣きそうな顔で、私に触れる事を恐れないで。私……イゾウに上書きされたい」
「……なら、まずは回復しておくれな。ナミが本調子に「私の怪我なんて大した事無いわ。無理に挿れられて、その場所を少し怪我してるだけ。他は……イゾウにしか治せないのよ」」
真っ直ぐに見つめて言えば、イゾウが笑った。その拍子に1筋流れ落ちた涙が、後悔と絶望を宿してる事くらいわかる。
私を守れなかったからと、イゾウは己を責めてる。それはきっと、大切な人を幾度も目の前で喪ったことが原因。
「イゾウ……私を愛して……」
その刹那、イゾウが私に覆い被さる。壊れ物を、繊細なガラス細工を扱うように丁寧に、微かな怯えを宿しながら。
だから今は、私がイゾウを抱こうと思う。本来性行為と言うのは、女が男を喰らっているのだから。
下の口と呼び、男の身体を体内に取り入れているのは女の方。ならば今は、自分を呪い、責めて苦しんでいるこの愛しくも脆い人を、甘やかしたいと思って何がおかしいのか。
「イゾウ……来て……」
「……本当に、怖い女だ」
「あら、今更知ったの?」
上書きして欲しいのは本当だけど、それよりも今は、愛しい人の心の隙間を少しでも埋めたいと願っている。愛しい貴方には、少しでもその苦しみから解放されて欲しいと思うのは、きっと当然の事。
どちらがより傷付いたとか、苦しんだとか、そんな事はどうでもいい。今はただ、互いの温もりに溺れてしまえたらそれだけで構わないの。
この日から2日程、二人が部屋から出る事は無かった。彼等の心を癒せるのは、互いの存在をおいて他に無いのである。