何故か分からないけど、皆から生き別れの妹扱いされるぬいぐるみに洋服を作っていたら、表が騒がしくなったのに気付く。……そんなに、似てるかな?
猫のぬいぐるみを気にしながら表に出てみれば、海坂に遭遇したらしい事が分かり、私は即座に指示を飛ばし始めた。そうして皆の協力を得て海坂を乗り越えたのに、妙な動きだったからなのか三半規管をやられた兄弟達が多発してしまう。
それを見て、情けない!と笑う親父様の指示の元近くの無人島へと向かう事に決まる。親父様は本当に皆を大切にしてくれてるのだとしみじみ思うのは、こんな時。
「ちょうど良かったかも知れないわ」
「どうした?」
「天候が崩れそうなのよ。だから多分、それも重なって三半規管が悲鳴上げてるのね」
私の呟きに親父様が反応するので、素直に答えればマルコが納得した様子で頷いた。それにより船大工達が調整も入れておこうと提案して、夏島でのバカンスが突如決まったけど、海賊なんてのはこんなもんである。
行き当たりばったり。無計画の船旅。
「ねぇ、折角だからモビーを修理する時生簀作ってみない?魚を網漁で獲られると違うと思うのよ」
「さっすがナミ!俺達からもそれ提案する!」
「親父の許可が出て、使えそうな材料があったらな!!」
私の言葉に便乗したサッチのそれを受けて、船大工のお兄ちゃんが笑えば親父様が鷹揚に頷いた。お金がかからない事は、大概何でも受け入れてくれるのだ。
……だって、親父様ケチだもん。まぁ、それに対して不満も無いけどね。
そうして到着した島で、皆が雨が落ち着いたらバカンスだと喜ぶのを眺める。船大工達は皆が遊んでる間に修理してくれる事になってるので、労いに何かしてあげたいところだけどね。
雨が止むのを待つのは、夏島特有の理由がある。そう……夏島の雨って、スコールなのよ。
ゲリラ豪雨みたいな感じ?
「こりゃ、なかなか激しいな」
「そうでしょ?到着してからで良かったわ。海上だと波も高く荒くなるから」
「この後ナミはどうする予定でいるんだい?」
考えてもいなかった問い掛けに少し考える。まずは測量するとして、その後どうしようかしら。
夏島でバカンスって事を考慮するなら、泳ぐか日焼けよね。……うん、この間クーちゃんから貰ったビキニもあるし、久々に泳ごうかな。
「んー?測量してから、ナースのお姉ちゃん達と海水浴かなぁ」
「海水浴は無しにして、俺と逢い引きでもしないか」
珍しい上に、無人島で?と思うけど、それもまた楽しいと知ってるので頷く。折角だから測量だけでなく、色々散策して、何か珍しい食べ物とかあったら皆に教えてあげよう。
そうと決まればと、歩きやすいようにパンツスタイルに着替えれば、イゾウが何故かホッとした様子を見せる。何か心配だったのかしら?
「泳がないなら、ビキニで測量したりしないわよ?」
「……泳ぐなら、ビキニの予定だったのか」
「うん。それだと着替えなくて良いじゃない」
手間を省くのは大切よね。そう思って頷いたら何故頬を両側から引っ張られて、何するのー!と抗議したのにやめて貰えなかった。
イゾウの暴挙の後、頬を擦りながら雨上がりの島へと降りると、1人にするものかとついてくるイゾウに素直に過保護ねと思う。そんなに年中、誰かに襲われたり拐われたりする訳無いじゃないの。
そう思いつつも、賢明な私は逆らわずに歩き出す。すると、この島は案外広いらしいと気付く。
あら……。このままだと、今日だけで測量を終えるのは難しいかしら?
「小高い丘とか何かがあるといいんだけど……」
「行くか?」
「へ?」
「おとなにしてな」
言われるままにじっとしていると、ヒョイッと抱き上げられて移動が開始される。あ、切り立った崖発見。
あれ、あの辺はもしかして前は沼地だったのかな?
おお!珍しい花が咲いて……ん?あれは道?
無人島なのに?違う、あれは川が干上がった跡だわ。
「……ほら、ここでいいかい?」
下ろして貰えた所に立てば、確かにこの辺りを1望できる。どうやらここに至る前の場所も緩やかな傾斜になっていて、ここは分かりやすく丘と呼べる場所らしい。
さっき見掛けた植物は、マルコや若先生にお土産で持って帰ろう。例え毒草でも、船医チームなら何かに活用してくれる筈だわ。
「うん!ありがとう!!」
「運んでる間も測量していたようだし、本当に色気の無いお姫さんだよ」
「……お仕事はちゃんとしなきゃでしょ?それに……ビキニ着れば色気もそれなりにあるわよ」
「誰が着させるか。俺以外に、色気なんぞ見せ無くていいさね」
……言ってることに大いなる矛盾を覚えたけど、突っ込むと良くない気がして黙る。とりあえず、測量は無事に終えられそうだわ。
ウキウキした気持ちで辺りを見れば、海岸線までよく見えるので、これならばすぐにでも測量が終わるだろうと思う。そんな時何か嫌なものを感じてその場を飛びのけば、それはイゾウも同じだったらしく居た場所が変わっている。
ただ、私は避けただけなのに対して、イゾウは当然のように避ける事になった原因に攻撃を仕掛けてるのが、異なる点よね。その上で、無闇に私を庇おうとしないとか……これ以上惚れさせてどうしたいのかしら?
「イゾウ、ありがとう」
「……庇わずにいて、礼を言われるとは思わなかったよ」
「愛してるわ」
だって、本当に嬉しいから。それだけの信頼を向けてくれると分かるし、足手纏いになってない事が自分でもわかったんだもの。
親父様やマルコ、ジョズなんかも当然のように私の前に出て庇うのよ。例えば、銃弾が向けられただけでも。
その程度なら躱せるのに……と溜息を落とせば、イゾウはさもおかしいと言わんばかりに笑い出す。その笑顔に、私は見惚れてしまうの。
「本当に、想定外なお姫さんだ」
「イゾウ……」
「ナミ……」
そのまま視線を絡めていたら、襲撃者が嫌そうに舌打ちした。て言うか、なんで突然襲ってきたの、この人。
初対面であるのに、誰なのかわかる程の有名人は、つまらなそうにイゾウを見る。そうなると、狙いはイゾウだったのかな?
「主が剣を手にしたと聞いた故、楽しみに来たというのに何故銃を用いるのか」
「何処からその情報を得たのかは知らねェが、俺は昔から双銃で戦ってるだろう。残念がられても困るさね、鷹の目」
「天夜叉を信じた俺が愚かだと?……だが銃を抜く時の動きが、確かに剣士のそれだったがな」
「……昔、手慰みに使っていた時期があるだけだ。その癖が抜けないからと責められてもな」
「そうか。……では、もう1方の用件を済ますか」
その言葉にイゾウは眉を寄せて、私はクリマタクトを構える。パッと見単なる棒術の使い手にしか見えないのが、油断も誘えるから有益なのだ。
だからって、私の戦い方では先制攻撃は悪手。イゾウの動きに合わせて、幻を使ったりするサポートに専念するのがいいと思うけど……覇気を使える人達には、これって無意味に近いのよね。
そうなると、相手は剣を使うから……雷かな。そう思って何時でも雷雲を生み出せるように待機していたら、鷹の目は口を動かした。
「ナミと言ったな?戦争になるぞ」
「……どう言う、こと?」
この間起きかけた戦争は、シャンクス達も巻き込んで何とか終わりになったし、建物の1部を破壊しただけで海軍にそれ程の被害は出て無い筈だから恨まれる筋合いも無いわ。それに、この男が伝書鳩のように動くなんて、おかしすぎる。
ビジネスの関係で関わるドフラミンゴと、優等生でいるしかない熊は別として、他は集まらないからこそ七武海みたいな空気さえある癖に。そう思って睨めば、ふっと笑われてしまう。
「天夜叉が宝玉を伴侶とし、海賊王の血の繋がった息子を処刑した後、四皇の1角を海軍の組織に組み込める……等という夢物語を語る阿呆がいる。そして、当然それを面白く思わぬ者が戦争を起こそうと動き出し、それを利用する形で海賊の殲滅を目論む者が現れた……」
「随分、壮大ね」
「きっかけは主だ。故に、その顔見てみたくてな」
「もう、見たから安心してお帰りくださいな。私は、白髭海賊団のクルーよ」
他の肩書きは、私にとっては微々たるもの。大切なのは、白髭海賊団に所属する者達は全員家族であると言う真実のみ。
エースを殺されるつもりは無いし、私もイゾウを悲しませたりしたくない。だから、必要ならば血にまみれる事も厭わないわ。
これ以上、この男は情報を寄越すと思えないから、それならば帰って貰えると嬉しい。無理なら……戦うしかないけどね。
戦争が起きると言うなら、相手の全力は少しでもそいでおきたい。僅かでも減らせれば……それに越した事はないもの。
「……天夜叉が執着する理由が、わかる気がするな。望むならば、俺が娶ってやるが?そうなれば戦争は回避で「私はイゾウのお嫁さんなの!!」」
「……ほお、それは、本腰を入れたくなるな」
「宣戦布告だと言うなら、海賊らしくその流儀でお帰り願っても構わねェが?俺としても、恋女房にちょっかい出されるのは気分のいいもんじゃねェ」
「ここは、下がろう。……そう遠くないうちに……荒れるぞ」
その時に奪ってやるとでも言わんばかりのその背を見送り、私はイゾウに抱き着く。私の意見を、海賊達は誰も聞いてくれない事を痛感しながら。
私はイゾウじゃなきゃ嫌なのに。……酷い。
「ナミ」
「や、離れない」
「ナミ」
「やだ!イゾウとくっ付いてる……!」
イゾウが言いたい事はわかってるけど、もうすぐ雨も降ると知ってるけど、今は離れたくない。こうして甘えていたいの。
そう思って顔を押し付ければ、撫でてくれる手。本気で嫌がってはいない模様。
「可愛いけどね。親父に報告しないと不味い」
「もう少しだけ、こうしていたい」
「なら、言い訳が必要だね。……雨?……ナミ」
「降ってきたわねー。雨宿りしなきゃー」
「棒読みだよ、ナミ」
そう言いながらも、そこそこの高さがある崖の下に降りて、勝手に横穴を用意して雨宿りするのだからイゾウも大概だと思う。この島の規模にしてはそれ程酷い雨にはならないけど、少し止むのに時間はかかる。
穴の中で外を見ているうちに、無意識で歌い出した私の頭を、イゾウは優しく撫でてくれる。それに甘えるように擦り寄った時、掠めるようなキスが降ってきた。
「んっ……」
「ここで襲う訳にはいかないから、今はここまでだね」
「イゾウ……」
「不安か」
疑問符さえつかない確定的な問い掛け。それは、本当に真っ直ぐに私の心を揺さぶる。
ここで誤魔化しても、無意味。そう判断して、私は頷いた。
「うん。だって、私のせいなんでしょ?」
「慰めは無意味だから、否定はしないが……そうさね。何か歌ってくれないか」
突然の言葉に、けれど今も適当に歌ってたんだしと思えば拒否する理由も無い。雨……と、考えて、イゾウを見て、自分の心情を鑑みて、歌う物を決めれば頷いていた。
イゾウは下手に慰めたりしない。でも、責めたりもしないで、ただ私の事を案じてくれている。
今も突然歌を望んだのは、私が考え込み過ぎない事を願っての事だろう。それが分かるから私は歌う曲を決めた。
「ヒカリ断つ雨」
私が曲名を告げれば、イゾウはそっと離れる。歌いにくいだろうって配慮なのは分かるけど、寂しい。
イゾウのばぁか。今夜、1緒に寝てあげないんだから。
今回は不可抗力ではあるけど、アカペラになる。笛を吹きながらでは歌えないから仕方ないけど、間奏等は笛で補う予定。
「ーーー」
きっと
でも、それならこの咎は誰が負うべきなの?
この運命に抗い続ける先には、どれだけの現実があるのかな。それともこの悲劇は、変えられない運命なの……?
「ーーー」
刻む秒針を追い掛けるようにして進めば、置き去りにされる悲しみ。それをこの雨が消してくれるだろうか。
「ーーー」
それでも今進むしかない。知らない未来の中、それでもリスクは知っているから……。
我が身を犠牲にしてでも、誰を悲しませても譲れないものはある。鼓動を止めても良いと考えるこれを、もしも世界が許せないなら偽善と呼ばれても構わないわ。
「ーーー」
変わらない日常を、
「ーーー」
溢れ出す感情。涙も含めた全てを呑み込むように、また雨が降り出した。
「ーーー」
悔やんでも悔やみ切れない過去のように、雨が濡らした大地は乾かない。その雨に冷やされて、私は何も握れなくなってしまいそう。
それでも光が正しいというのならば、私は正しくなんて無くていい。例えば生きる為、生かす為には誰かを傷付けるしか無いのだとしても、私は抗う事を辞められないもの。
「ーーー」
いつまでも降り続く雨が、容赦無く心と身体から熱を奪う。冷え切れば、人を傷付ける事に戸惑う事も無くなるのかしらね?
「ーーー」
胸の奥で優しく鳴る音は、皆に護られた証。なら、私が戦う理由はそれだけで充分だわ。
「ーーー」
止める事も、変える事も出来ない時間の流れのように、降り続く雨が視界と思考を遮る。このまま、悲しい事が何も見えなくなれば良いのに。
そんな事を願っても、進むしかない現実があるから、用意された
歌声は反響して、何だかお風呂場で歌ってるみたいと思った時正気にかえる。それと同時に、笑みを深めたイゾウが怖くて、つい逃げたくなったのはどうしてかしら?
「ナミ、帰ったら……話し合おうか」
「は、なしあい、なら、ここでも……」
なんでそんなに怒ってるの!?私、何もしてないよ!?
「寝台の中で、話し合いたい事がある……と、言ってるつもりだよ」
「イゾウ……」
「離れたくないんだろう。俺も、離してやるつもりはない。しっかり、俺の為に生きると誓わせてやるさ」
どうやら私の歌に込めたものを敏感に感じ取ったらしいイゾウから、逃げる手段が無いらしいと気付く。それにより私は、誤魔化すのを目的にひしっと抱き着いて精一杯甘えてみたけど……雨が止んだ後で、私がどうなったのかは推して知るべしである。