※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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この作品は各キャラのラスト固定です。
この作品には、ヒロインの年齢設定がございません。


俺のお姫さん(子拾/光源氏)side

 俺のお姫(ひー)さんはどうしてこう、いつもいつもトラブルに巻き込まれちまうのかね。そう思った俺は間違いなく正しいだろうさ。

 突然他の誰にも見つけられなかった島を見付けたナミが声を上げれば、言われてみればあるよ!と言うか何で気づかなかったんだ?となるくらい近くに、木々の生い茂る島が出現した。覇気持ちにしか見えないのだとしても、それならば親父と隊長格は全員見えて然るべきだ。

 その上、島に到着するやいなやナミは姿を消して、親父は誰も降りるなと命じてきたのだからたまったもんじゃない。危険は無いと親父は言うが、それならば何故俺達に降りるななんて言うんだか……。

 

 「苛立ってるな、イゾウ」

 「当然だろうに、で……その茶はなんだい?」

 「ナミから、ストレス軽減を目的にブレンドしたって渡された茶葉で作った物だが、飲むか?」

 

 言葉と共にサッチから差し出されたお茶は、薬草茶……と言うとサッチは嫌がるから言い方を変えると、ハーブティーってやつだ。飲むか?なんて言っておきながら、俺が飲まない筈も無い事をコイツは分かっているんだから嫌になる。

 

 「元々マルコとか、ビスタ、それと俺がストレスの発散が上手くいかない時用にって作ってくれた物なんだぜ」

 「……これ、俺の為でもあるだろ」

 「何で、分かったんだよ」

 「……俺の好きな香りがする。それを飲みやすく改良してくれたって所かと判断しただけさね」

 

 誰がとも言わないサッチだが、分かろうというものだ。俺の好む花の香りから導いた答えを口にすれば、サッチは嫌そうにその顔を歪めて、それからつまんねェと言いながらも何処か楽しそうにしている。

 その時漸くナミが帰って来るのが見えれば、無事で良かったと空になったカップをサッチに押し付ける。怪我は、無さそうだが……。

 サッチはそれに抵抗せず、それを受け取り困ったような顔で笑う。それに対して、ナミは妙に重い足取りでモビー迄帰って来た。

 その腕には、降りた時には無かったお包みがある。何だそれはと思い近付くと、ナミが僅かに怯えたような色をその瞳に映した。

 

 「ナミ?」

 「イゾウ、あの、イゾウって街で女の人買う事あまり無かったわよね?」

 「……まァ、そうだね。知っての通り枯れちゃいねェが、ナミにしか興味も無かった上に、多忙だったから無駄に体力を使いたくはねェからな。それがどうしたね?」

 「…………イゾウって、よく似た兄弟とか、姉妹とかいる?」

 

 真剣な顔で問い掛けられて、だが本気で意味が分からね……ん?まさか、そのお包みが原因か?

 だとするならば、似てるのか、俺と。……何処かでそんな話を読んだ記憶があるな。

 ……あァ、思い出した。嘘つき達とか言う本だったね。

 

 「……その〝子供〟は俺に似てるのかい?」

 

 問い掛けると驚いた顔でナミが確かに頷いた。親父が船を降りるなと言った謎も、コレで解けたな。

 

 「ナミ、それは俺に擬態してくれてるだけさね」

 「擬態?」

 「あァ……女が最も〝愛する存在〟に植物が擬態するんだそうだぜ?そうする事で、愛してもらおうとすると本にあったのを今思い出してね」

 

 俺の言葉を反芻したのだろう。暫し無言でいたが、直後に爆発する勢いで赤くなったナミは、お包みを誰にも見せまいとするかのように抱き締めて、数歩俺から遠ざかる。

 だが、もう俺に似てると口にした後である事から考えても、既に無意味。兄弟達からは視線で、虐めてやるなと言われている。

 だが、こんなにも可愛い反応をされれば多少虐めても仕方ねェだろう。そう考えて手を出した時、お包みが動きを見せた。

 ん?と思った直後に指先に噛み付かれ、それを咄嗟に振り払う。見れば指には立派な歯型があり、コイツはとお包みを睨み付ける。

 

 「犬か……お前ェさん」

 「……イゾウと似てるじゃない。気に入らない事があると、私に噛み付くところあるし」

 「ナミ!」

 「何よ!首にキスマークじゃ無くて歯型がついてたのよ!?大体ね、イゾウももういい大人なんだから、こんなに小さい子いじめないのよ!」

 「俺が虐められたと思うんだが……?」

 

 歯型はまァ、俺が悪いな。それにしても何故か、全面的にお包みの味方をするナミをつい睨む。

 そんな最中にハルタの笑い声が聞こえて来て、思わず銃口を向けると親父が口を挟んで来た。どうやらずっと見ていたらしい。

 

 「止めねェか。……その子供はイゾウで間違い無さそうだな。……ナミ、その顔を見せちゃくれねェか?」

 「親父様に言われたら、逆らえません……」

 

 そう言って顔が晒されれば、黒髪の美少女にしか見えないそれの頭上に双葉が生えているのを確認しちまう。それにより、コメカミが引くつくのを感じたが、親父は満足そうに笑った。

 そして、3日の停泊を指示すると俺を手招きつつナミが甲板で休めるように指示を出してくれた。ナミの傍には護衛を兼ねているのか、医者としてなのかは不明だが、マルコが居るので少し任せる事にした。

 

 「親父?」

 「3日、女の愛情を受けて育った植物は、この島に残る。必然的に別れが来る。……分かるな」

 

 親父の言葉を受けてハッとする。3日、その腕に抱き続ける確かな温もり。

 それを無条件で愛しているだろうナミがどうなるか……。だが、気を付けようがねェだろうが。

 

 「そういう事だから、あまり虐めてやるな」

 「……親父、回避出来ねェ問題にしか思えねェんだが、どうしたら?」

 「いつもいじめ倒してんだ、たまには悩め!自分の半分も生きてねェ女を好きだからといじめ倒して、甘やかされてるって事を痛感しろ」

 

 そう言ってグララララララと笑う親父に、舌打ちしたいような気持ちになる。それでも確かに、ナミに甘えてる自覚があるだけに何も言い返せなくねェ。

 

 「エースは……人をすぐに骨抜きにしちまう所が、あの男(・・・)とよく似てるな、親父」

 「なんだ突然。……ついて行けば良かったと思うか?」

 「思わねェよ。俺は、あの男よりも親父が良い。傍に置いて欲しいと望んだんだ。……今更、追い出そうとしないでくれ」

 「追い出すか馬鹿。……お前は大事な俺の息子だ」

 「……っ!分かってる。親父!……本物はその内な」

 

 ニッと笑えば親父は嬉しそうに笑い、確かに頷いてくれた。親父との会話を終えてナミの方へと視線を向けると、ナミが優しく笑っているのが見えた。

 

 「ナミ!何で俺の姿じゃなくてイゾウなんだよ!?」

 「そんな事言われても困るけど、エースも可愛いと思ってるわよ」

 「……可愛い、か。まぁ、イゾウと比べられたらそうだよな」

 「え?比べてないわよ。エースは昔からヤンチャで可愛いと思ってたのよ。昔はすぐに熱を出てたけど、火になってからは熱があるのか判断出来なくて困るわ」

 

 エースとナミの、噛み合ってるようで噛み合わない会話を耳にして、エースが少しばかり哀れになる。……昔からヤンチャか。

 

 「ナミ、それをずっと抱いてて疲れてねェかい?」

 

 声をかければ、ナミは俺に視線を向けて笑う。その笑顔が少しいつもより優しいのは、子供を抱いているからだろうか。

 照れた顔や怯えたような顔をさせてばかりだと気付けば、確かにいじめすぎていたかもしれないと気付く。とりあえずナミの近くに腰を下ろせば、子供が俺を睨み付けていた。

 どうやら1丁前に、俺相手にナミを守ろうとしているらしいと気付く。こうして見ると、俺はガキの頃から気が強かったのか、それとも今の俺が反映されているのか、どちらかねェと思いつつそっとナミの額に触れる。

 ずっと外にいるからと思ったが、熱等は無さそうだね。それでも水分は補給して置いて欲しいところだな。

 

 「イゾウ?」

 「子供ばかりでなく、お……」

 「お?」

 「……お前さんは、自分の事も少しは気に掛けろよ。いくら非戦闘員とは言え、重要な役割を担うクルーであり、家族だろ」

 

 まさか、いつもの調子で俺も構っちゃくれねェかいなんて……言えやしねェだろうが。俺にだけは常に敵意を向けて来るおチビにデコピンを入れつつ、ナミに囁く。

 

 「何よりも、俺の大切なお姫さんだって、自覚して貰いたいね」

 「イゾウ……」

 「ナミ……」

 

 自然と唇が触れ合うと言うタイミングで、おチビさんが俺を殴りつけて来て、思わずその頬を摘み伸ばせばナミが虐めるなー!と叫び甘い空気は霧散した。

 そんな訳で、尽く俺とナミの時間を邪魔してくれるおチビさんに苛立つ日々を過ごす事となった。だが、喧嘩すればする程にナミが怒るので、俺とおチビさんは表面上はにこやかに、ナミの目を盗んでは互いに小さな攻撃を繰り返す。

 だが、子供の蕾が花開く頃、ナミにバレていたと知り二人揃って叱られる流れとなっちまえば、親父達に散々笑い者にされちまう。それを回避する為に謝罪の糸口を得ようと言葉を向けてみる。

 

 「何でわかったんだい?」

 「イゾウがこの子を攻撃すると、その痛みがダイレクトに私に来るのよ。おかげで腕に摘まれた形の痣があるでしょ?」

 「そりゃー……すまなかったね」

 「私は良いの!それより、子供に攻撃しないのよ!まぁ、この子も色々やってたみたいだからある程度は仕方ないかなって思ってたけど、本当にやめてあげてよ」

 「あァ、もうしねェさ」

 

 そう言って笑いながら過ごした翌日、俺はナミに付き添い島に降りた。そのナミの体が震えている事に気付いていながら、声の1つもかけられない自分の愚かさに泣きたくなる。

 着いてこようとしたエースを見て、ナミが〝姉〟の顔をして笑う事でその震えを止めたのを確認した俺は、サッチとマルコに視線を向ける。それだけで通じたらしい2人は、困ったような笑みを浮かべて着いてきた。

 ……今だけは、強がらせてでも別れさせねェといけないからね。元々強がりで、弱さを見せる事を苦手とするナミが、エースの前で泣ける筈も無い。

 分かっていて同行を許した俺は、酷い奴かもな。それでも、別れが終わるその瞬間までは、崩れずに居てもらう必要がある。

 森の奥へと進み、甘えた様子を見せる子供を強く抱き締めるその腕が震えている。エースがいても尚、その震えが止まらねェとは余程深く愛しちまってたんだな。

 

 「まー、ぁ?」

 「……大丈夫よ、私は。心配しないで、アンタは立派に育つのよ!」

 「あい!」

 「……っ!このー、愛いやつめ!」

 

 その震えを笑って誤魔化し、別な理由に見せ掛けて、けれども愛しさは隠す事無く強く抱き締める。それを受けて子供は無邪気に笑うとその腕からそっと抜け出して、日溜まりの中へと歩みを進めて行く。

 その背にナミは1瞬手を伸ばしかけて、動きを止めた。そして、そっとその掌を強く握り〝母親の顔〟で笑う。

 自分の生きる場所を決めた子供は、その場所からナミを見て、笑顔で手を振る。それにナミは優しく笑いながら頷いた。

 直後に光りを纏った子供がその姿を植物に変じれば、ナミは呼吸をしているのかも怪しい程に動かなくなっちまう。そこで漸く、俺は2人に視線を向けてエースを連れ帰って貰うと、ナミの体を抱き寄せた。

 俺の胸に顔を埋めて、微かではない震えを俺に伝えながら、けれども泣く事が上手くできない様子だ。その頭をただ無言で撫でる事で、俺はナミに好きにしていいと伝える。

 泣いてもいい、泣かなくてもいい。震えても良いし、叫んでも構わねェ。

 どんな姿を見せても、見せなくても、好きでいい。よく、耐えたなと、偉かったなとの言葉を飲み込んで、俺はただナミが壊れないように抱き締める。

 

 「いぞ、う……わた、しっ!」

 「あァ、ゆっくりで良いから、聞かせておくれな。ナミの話は、何でも聞いていたい」

 

 辿々しく紡がれる掠れて震えた言葉を聞きながら、俺はナミと共にその森の中で長い時を過ごした。いつかまた、その腕に小さな命を抱かせてやるからと約束して。

 後にこの島は、宝玉の書いた手記によりカップル達で溢れかえる有名な観光地になるのだが、それはまだ、誰も知らない小さなこぼれ話。




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