※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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別人として(光源氏16)※side

 あの日、ナミがフラミンゴの野郎に狙われてから気が気じゃねェ。姿が見えなくなると、不安のあまりに吐きそうになる事もある程だ。

 ……情けねェな。どれだけ依存してるんだ。

 確かに麻薬のようだと思う事はよくあったし、大切過ぎて手を出せなくなってる自覚もある。安眠効果の高い、無垢な生き物。

 ずっと……守るべき存在だと思って来た。能力も高く仲間に欲しいと幼い頃から思って来たが、そう思わなければ壊してしまうと分かっていたから否定して来ただけで……ずっと、愛してきたんだ。

 傷付けるのも怖いが、あの無邪気な笑顔を向けられなくなるのが1番怖い。俺の傍なら安心して眠れると微笑むナミのそれを、壊す気がして手を出せねェ。

 ふぅと溜息を落とせば、ベックに肩を叩かれた。その気配は明らかに心配していて、同時に呆れを多大に含んでいる。

 

 「……抜いて来い」

 「は?」

 「無駄に色気を振り撒くな。知らん女が船に迄押し寄せて来るのは鬱陶しい」

 「……俺、今そんなか?」

 「あァ、それに本命には手を出せねェんだろ、お頭?」

 

 揶揄うように笑いながら煙を吐き出す腹心に、意地けたような気持ちになりながら船を降りる事を決める。だが、ナミを残して行くのは……。

 

 「船にいれば安全だろ。全員が出払う訳じゃねェんだから、降ろすなとアンタが命じれば見張ってるだろうさ」

 「そうだな、気晴らしも必要か」

 

 このまま色々と溜め込んでいたら、襲い掛かるのも時間の問題な気がして頷く。出来るだけ……背格好だけでも似てるのを探すか。

 残るクルーにナミをくれぐれも降ろすなと命じて、ナミにも絶対に降りるなと言ったのはこの島は歓楽街が広すぎるからに他ならねェ。そう、変なのに何処かへ連れ込まれたら大変だろうと言えば半数は確かにと言ったが、残りの半数は普通に相手が殺されそうだと宣った。

 ……馬鹿共め、ナミの甘さは砂糖菓子に蜂蜜かけて、チョコレートでデコレーションしてあるようなレベルだぞ。自分の命がピンチになっても、攻撃を仕掛けるのに躊躇うお人好しだ。

 戦える技術はあっても、そういう意味じゃ最弱なんだよと心から思って溜息を落とす。ベックはイザとなれば俺が守るから弱くても構わんとかほざいてたが、とりあえず心配なもんは心配なんだ。

 手頃な女も見当たらず適当な店で酒を呑んでいれば、表が騒がしくなった。どうやらこの島を牛耳ってる悪党の親玉から、希少な宝石の入った財布を盗んだ娼婦が居るらしいと酒場が盛り上がる。

 何処にでも手癖の悪い奴は居るものだなと、その娼婦がいつ捕まったと言われるのかと賭け始める男達を見るとも無く眺める。だが、幹部の男達も含めて財布をスられ、しかもその相手の女が見付からないと言うのだから、嫌な予感にも襲われるというものだ。

 

 「……その娼婦、長い棒を持ってたりしなかったか?」

 「いや、武器は何も持ってなかったと聞いてるが?」

 

 クリマタクトや短剣無しで船を降りたなんて、そんな馬鹿な事……あるかもしれねェな。クリマタクトと短剣と毛布を使えば、部屋で読書でもしてるような幻を作り出すくらいナミには容易い。

 その為に武器を置いて行った危険性がある。その場合母親から貰った武器も置いていくだろう。

 万が一幻が見破られた時の為に、それがあれば近くにいるとクルーに錯覚させられるからと言う理由で。実際、それに騙されないのは俺とベックだけだろう。

 ルーもヤソップでさえも騙されていたんだ、他のクルー達じゃ無理がある。そう思えば何か考えるよりも先に、体が動く。

 金を置いて外に飛び出したが、情報がある訳もなし……。さて、どうしたものかと髪を掻きあげればベックの言っていた意味が分かった。

 女が勝手に寄って来やがる。……だが、待てよ。

 見慣れない可愛い系の新人を見なかったか聞けば、分かるかもしれねェ。見慣れない女に、こういった仕事をしてる女達は敏感だからな。

 そう思って話をチップで聞き出して居た時、この辺りのボス的な女達が近付いてくるのが分かった。丁度いいかもな。

 情報もそれなりに集まってきたし、特に大きな問題も無さそうな事だから、帰ったら説教する程度で済ませられそうなのもある。帰る前にその女達を相手にしようかと会話を始めた時、視界の端にナミとよく似た背格好の女が目に入って来た。

 ガラスに向かって髪型等をチェックしてるその様子は、別に珍しくもない。男に買われる為に居るのだから、容姿のチェック位するだろう。

 だが、硝子に向かって納得気に頷く娼婦が多いかと言われたら、答えは否だろう。……まさか。

 髪の色は違う。それでも……そう思って見ていると、数歩足が動いた。

 その瞬間にナミだと確信する。足音立てずに歩く娼婦がどこの世界に居るんだ、あの馬鹿!

 男を器用にあしらいながら人混みを抜けて行くそれを、女達を伴い自然な様子で近づいて行く。少し気だるそうなナミを見た時、脳裏で悪魔が囁いた。

 ……気付かなければ、売りもんなんだから買っても可笑しくはねェだろうと。今なら、気付かなかった事にして、手に入れられるんじゃねェのかと。

 抑えていた欲情が、ナミに向けられるのが自分で分かる。その時、俺の視線に気付いたらしく、流れるような動作で振り向いたナミと視線が絡んだ。

 驚いた様子で息を飲むナミは、顔もいつもとは随分変わっていて……普通なら気付ける筈もねェなと思えば、笑いそうになる。その変装技術は、十分に誇れるだろう。

 明らかに娼婦としか思えない安っぽい姿で、その男好きする体を平然と晒している。視線だけでナミを犯す勢いで見ていれば、熱に浮かされたような顔でナミがその身を強く抱き締めて数歩下がった。

 随分と初心な反応だ。まァ……そりゃァそうだよな。

 ナミに近付く男は、可能な限りは全て形は色々あれども始末して回った。クルー達は俺とベックが傍に居て手を出す筈もねェ。

 だからこそ、何も知らねェ無垢な小娘なんだから、その反応は正しい。あの魚共にもそういう意味では、手を出されて無かった事は分かっている。

 

 「悪いな、今日はやっぱりやめておく」

 

 女達の肩を叩いて解散を告げる。その間にナミが謝るか逃げるかすれば良し、もし俺にあてられて動けなくなっていたならば……その肌に俺が触れた時点でタイムアップだ。

 女達の胸元に宝石を置いて、去って行くのを見送りながらナミの反応を見定める。……これ迄に、充分過ぎる時間はやった筈だしな。

 

 「さて……」

 

 俺の子猫は、どうしているか。

 視線を向ければ、怯えた子兎と化していて……成程これは、もう逃がしてやれそうもねェなと、自分の余裕の無さに笑うしかない。それでも、泣いて拒まれれば手放すだろうとも本当は分かっている。

 これ程に余裕がなくても、ナミは愛しい。甘く優しく、暖かく穏やかで、賢い子を……無闇に傷付ける事はきっと出来やしねェだろう。

 だが……悪いな、ナミ。全力で行くぞ。

 子兎を狩るという容易い筈のそれ為に全力で挑む俺は、それだけ餓えている。他の子兎や子猫に興味を持てねェ程に、お前に溺れてるんだよナミ。

 怯えた眼差し、火照った顔、震える体。それなのに信頼を、親愛を含むその気配。

 ……馬鹿だな、こんな状態になってる俺をまだ、信用してるなんて。逃げるなら今だぞと、逃がす気もない癖に思う。

 無意識か逃げようとするように動くナミを、けれども逃げる時の癖を知り尽くしてる俺から、逃げられる筈もねェ。蜜柑の香りが、ふわりと風に乗って香る。

 俺に逃がすつもりが無い今、逃げられる筈は無いんだ。壁に追い詰めれば、ナミはハッキリとしまったと顔に出した。

 ……詰みだな。さて、玉将は俺が好きにさせて貰おうか。

 顎に手を伸ばし、猫なら鳴らすだろう辺りを含めて撫でながらその肌を楽しむ。震えるその体で、けれども崩れ落ちる事の無いその心。

 気丈で気高い、その精神。屈する事の出来ないプライドの高さ。

 本当に……どこの国の女王なんだかな……?

 無意識で唇を奪いそうになり、途中で止める。泣かれたら、そこで終わりだと分かるから、必死で待ったを自分にかける。

 

 「今夜はお前に決めた」

 

 そういった意味で熱の篭った声が出た。どうやら俺の理性は既に、帰ってこられない程遠い所に旅立っていたらしい。

 その時、ナミが女の顔で泣きそうにその表情を歪める。まるで、俺に恋でもしているかのように。

 ……何を、都合のいい妄想をしているのか。有り得る筈もねェ事は、俺が1番よく分かってるってのに。

 抵抗する事も出来なくなっているナミの腰を抱いて、その体からナミの蜜柑の香りを感じ取れば、もう逃がせる筈も無い。悪いなナミ、俺に目を付けられた不運を嘆いてくれて構わねェから、俺のモノになれ。

 部屋に連れ込めば、未だ震えるその体にどうしたものかと声をかける。いつ、名乗るつもりかと様子を見ていたが、それ程叱られるのが怖いのか……?

 

 「……怯えなくて良い。痛くはしないと約束してやる」

 

 処女なのは分かってる。だがナミ……俺だから着いてきたと思っていいんだよな?

 興味があったから、適当に着いてきたとかなら……犯り殺しそうだ。様子を見れば、声を出せない程に怯えているのだと分かる。

 ……成程、それなら名乗れねェよな。なら、もうタイムアップだ、ナミ。

 

 「念の為に言っておくが〝お前が誰であっても辞めるつもりは無い〟から、覚悟しておけ」

 

 今更名乗られても、辞めてやれねェよ。そう思って服を脱がせ始めるとナミが俺の手を掴んだ。

 瞳を閉ざして、それからゆっくりと開かれたその瞳には決意が見える。まさか、抱かれる覚悟を決めたのか……?

 俺の様子がおかしいからとか、そんな理由か?

 なら、この状態になってるのが他の幹部でも……同じように覚悟を決めるのだろうか……?

 なァ、ナミ。俺だけのモノになってくれよ。

 伝えられない想いは渦を巻いて、ナミを壊しそうな勢いで溢れ出す。それでも決意を秘めたナミの瞳は初めて会った日のように、真っ直ぐに俺を射抜く。

 いつもとは違う愛らしい声をその口から出したナミに、別人として抱かれるつもりなのだと理解する。どうして、お前はこんなにも甘いんだろうな?

 シャワーを、時間をと頼むナミは、その左肩を隠したいのだとわかり、仕方ないかとそれに乗る。許可を出せば即座に手を離れて飛び立つその体に、本当に兎とか猫としか思えねェなと笑う。

 すばしっこくて、攻撃力はあるのに怯えるばかりで……喰われる為に存在してる、愛玩動物。シャワー室のドアに映る影が巻き終えた事を報せた瞬間に、そのドアを開けてナミを安物のベッドに連れて行く。

 大切な初めてだろうに、素敵なホテルでも、華やかな衣装でもなく、それどころか本人として抱かれる訳でもない事を選んだナミ。……甘やかすなよ、俺はそんなに強くねェから、甘えちまうじゃねェか。

 ベッドが軋むと、それに怯えた様子を見せる。そういや、ナミはこんな安物のベッド初めてだと今更気付く。

 怯えたような表情に、けれども熱に浮かされたような眼差しで、切なそうに瞳を揺らす。それを見て、手加減も気遣いもなくその唇を貪る。

 俺のそれに抵抗はせず、それどころか全てを受け止めようとするナミに泣きそうになる。お前、誰かを甘やかす事に関しては誰にも負けねェだろうな。

 俺の手の動きに合わせて素直に反応するナミの体に、可愛いもんだと思う。唇を離した時、ナミの唇が俺を呼ぶ時のように動こうとして止まる。

 そんなに、俺に気付かれたくないなら……そういう扱いをしてもいいんだが……俺はこれで終わりにするつもりはねェんだよ。そう思って傷付けないように指で慣らしてやろうとしたが、ナミはそれを拒否した。

 

 「痛くても、良い。だから、早く」

 

 その先の言葉を聞きたくなかった。早く終わらせてとでも続いたら、怒りで壊しちまうだろう。

 早く入れてとでも言われたら、貪り殺すだろうと自分で分かってるから、何も聞きたくないと思った。その心が欲しい筈なのに、体の他は手に入れられそうも無いから、余計に……。

 俺を想ってくれ。俺を愛してくれ。

 俺にはナミの居ない日常なんて、既に考えられそうもねェんだよ。兄でも、師匠でも、船長でもなく、俺を想ってくれ。

 俺のモノを押し当てると、それだけで体がビクリと震えた。それでも、逃げる様子は見せない。

 それどころか俺を包むようにそっと抱き締めてくる。それは自分が縋る為でなく、俺を慈しむ為とでも言うような様子で抱き締めるナミ。

 それに、俺を迷い無く受け入れるナミに、荒れ狂っていた感情が落ち着いていくのを感じる。幾つ歳が違うと思ってんだと言いたくなる程に甘やかして来るナミに、心が溺れちまう。

 愛しくて、可愛くて、何よりも残酷な……俺の小さな女神。この体をどれ程好きにしたとしても、きっとその心までは奪えやしない。

 俺が全て中におさまると、ナミは優しく俺に向けて微笑んだ。慈愛に満ちたその眼差しに、俺は何を返せるだろうか。

 私は与えられてばかりで、皆から多くのものを奪ってばかりで……強くしてもらって、護られてるとナミは言うが、それは俺のエゴだ。俺が誰にも奪われたくなくて、必要以上に強くしちまって、それなのに足りなくて籠に閉じ込めてるだけなんだよ。

 

 「……動いても、大丈夫そうか?」

 

 俺の問い掛けに小さく頷く事で応えたナミは、俺に気遣うような視線を向けて来る。だから、俺の事は気にしなくて良いと、ゆっくりと善い所を探して動かす。

 可能な限り声を押し殺すのは、恥じらいからか、それとも、声で俺にナミだと判示させない為か。どちらにしても……鳴かせてェな。

 声が、聴きたい。その時ナミが幸せそうに微笑みを浮かべた。

 俺に抱かれている事が、幸せだとでも言うようなそれに、甘やかな猛毒に俺は溺れて行く。俺を愛していると全身で表現してくるのに、1言も声を発しないナミの本心がわからねェ。

 俺の限界が近付いて、当然中に放つつもりでいた俺から逃げるように動き出したナミに、逃がすかと思う。いっそ孕めば俺の傍を離れられ無くなるだろうと、凶悪な考えが俺の中を支配する。

 常に子供と自分の命を狙われるんじゃ、守ってくれる俺やベックの傍を離れられなくなるだろう?

 

 「シャンッ」

 「逃げるな、ナミッ!」

 

 思わず叫んだ時、ナミの表情が青ざめたのが分かった。それ程迄に、俺に抱かれたのは自分だと知られたくないのか。

 何故、そんなにも頑なに知られまいとするんだ?

 容赦無く、1滴の残滓も許さんと言わんばかりに中に注ぎ込めば、その衝撃に悲鳴をあげるナミ。その声は、明らかにナミのもので……。

 なのにその衝撃から立ち直ればナミは平然と演技をしてくる。少しおしゃまな年頃の少女のような顔と声で。

 

 「……お客さん、割増してよネ。それはルール違反ヨ」

 

 確かに娼婦にやれば面倒な事になるか、初めからそうされていいように対処してるかだ。先程の紙のように白くなった顔色を思い出して、その演技に乗れば、素早く身支度を調えてナミは脱兎の如く逃げ出した。

 去り際にありがとうネと笑ったその顔が、悲哀に満ちていて……それ程望んでなかった行為だったかと、胸が痛む。それなのに体ばかりスッキリして……いや、まだまだやれそうだが、それをやればナミが間違いなく死ぬ。

 即座に帰れば、きっとナミは眠る事も出来なくなるだろう。俺に気付かれる事を恐れて。

 それならば、帰れねェよな。そう思って近くの酒場で酒を呑むが、全く酔えもしねェ。

 翌朝帰れば、本当に昨夜の事が夢だったんじゃねェかと思う程にいつも通りのナミがいて、信頼と愛情の篭った瞳で、女を買ったと思える筈の俺に、微笑む。嫉妬とか、そういやして来た事ねェよな。

 ……やっぱり、ナミにとって俺は、兄貴とか師匠だって事なんだろうな。

 それでも、その程度で諦められるなら、手を出したりはしてねェんだよと思う。どうせ今日か明日にでも何か買い物の為に抜け出すだろうと考えて、その時は別人としてそこに居るだろうから、気付かないフリで買って部屋に連れ込んでから〝ナミ〟を抱こうと決める。

 泣いても喚いても、逃がしてやれねェんだ。もしもそんな事されたら、多分俺は……縛り付けてでも全てを奪い尽くすだろう。

 大人の余裕って何だったかと考えながら、眩しいだけで何の役にも立たない太陽を部屋の中から、八つ当たりと分かっていて睨み付ける。獰猛で野蛮な海賊としての俺が、暴走しかけているのを確かに感じていた。




前回のシャンクス視点ですね。
次の話までがセットで、思い付いて一気に三話、書いちゃった奴です。
たまにそういう事あります。
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