※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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欲しいのは(光源氏16)※side

 俺の腕の中で、最後まで演技をし通したナミは、元の姿に戻ってからまるで本当に何も無かったかのように振舞ってみせた。ただ、いつもの様に抱き締めて寝ようとしたら、肌は俺を覚えたようで時折ピクリと反応しているのが分かる。

 それが無ければ、全て俺の妄想だったと言われても納得できそうな程に変わらないナミに、流石に心が折れそうな心持だ。だが、何が来ようとも俺はナミを手放せない。

 溺れきって、愛という名の沼に沈みこんだ俺はきっと、ナミが望むなら世界を滅ぼす事だって厭わないだろう。……それを望まない存在だから、これ程に愛しいのだろうが。

 守ってみせるさ、俺以外の厄災全てから、ナミを……。何せ俺自身がナミにとっては、最悪の厄災と成り果てているのだろうからな。

 朝になり俺はナミにくれぐれも船から出るなよと言葉を向けるが、ナミはあまりにも普通にしている。なので、内心ではと言うか予定としてはと言うか、またコッソリと船を飛び出して来た所を捕まえる気でいる俺としては不安になる。

 本当にまさかこのまま引きこもるつもりか?

 なら、なんであの日1日だけ俺の言い付けを破ったんだ。と言うか、何故言い付けを守らなかったのか。

 何か理由があるのだろうか。惚れた相手がいるとか?

 想像しただけで、嫌なものが込み上げてくるような気持ちになる。その感情を抑えつつ、ナミに船内から出るなよと難易度を上げてやれば、少し困ったような顔になりつつも頷いた。

 そもそもあの変装衣装はどこに隠してあったんだろうか。その後船内を探してみたが、見つからなかった。

 別な変装衣装はいくつか発見したが、あの時の安っぽい娼婦の衣装は何処にも無かった。だが、あれを途中で脱いで帰る事は不可能だった筈だと考えながら、酒場で少しばかり時間を潰す。

 もしもナミがまた変装して外に出れば騒ぎが起きるだろう事は、考えるまでもない。だから待てば良いだけだと考えていたその時、権力者がスられた筈の貴重な宝石を旅行者が売りに出したと言う騒ぎが起きた。

 ……金が必要なのか?

 だが、もう誰かに金を送ったり貯めたりする必要は無いだろうに。そう思いつつも表に出れば、男達が清楚な装いの女性を探しているらしいと分かる。

 今回は娼婦じゃねェのか、だとしたらどうやって口説くかだな。名を呼んでも恐らく変装中は反応したいないだろう事は、嫌でもわかる。

 騒ぎの起きてる通りの近くにあり、それでいて船への近道になりそうな脇道で壁に寄りかかって待機していれば、清楚な装いでは無く、更には先日とは明らかに異なる様相のナミが歩いて来た。いつもの香りと、時折足音が消えるそれが無ければ恐らくは大抵の人間は騙せるだろう。

 いつも抱いてるその体は、シルエットでナミだと分かるし、香りを香水で誤魔化してもいつもの香りが混ざっていては俺を騙す事は出来ない。その姿は高級娼婦か、誰かの情婦を思わせる。

 俺の付けた跡をあえて見せているナミの装いに、喉が鳴る。夢ではなかったのだと、それにより実感出来たのも大きい。

 あの髪色は見覚えがあるな。確か、ナミの姉と同じ色だ。

 何やらホクホクした顔で歩いているから、恐らく買い物がしたくて飛び出しただけらしいとその手にあるものを見れば理解出来て、ホッとする。これで男と逢引しているとかならば、相手を殺してナミを監禁していた事だろう。

 俺の傍を素通りしようとするナミの腕を掴んで、引き寄せようとしたら回し蹴りが飛んで来た。反射的にその飛んで来た足を掴みその流れを利用して壁に押さえれば、鋭い視線が1瞬揺らぎ俺の顔を見て息を飲んだのが分かる。

 これがナミでさえ無ければ、単純に手配書で見た顔だと思われたのだろうと、その程度の変化だ。それでも相手がナミだと分かっている俺には、1瞬演技を出来なくなったナミからの信頼が少しばかり痛い。

 

 「随分な、ご挨拶だな」

 「……突然女に触れる野蛮人には、当然の挨拶で御座いましょう?」

 

 挑発的でありながら、妖艶なその表情。声も、口調もいつもとは明らかに別人で、お前は何者だよと思った直後有名な女泥棒だったのだから、身を守る為にこの程度出来てもおかしくないかと考え直す。

 だがこれは、既に泥棒としてよりも役者としてそれを誇るべきだろう。いつもの姿、安っぽい娼婦、清楚な旅行者、そして……妖艶な最高級の〝売り物〟となっている今の姿。

 ナミ、その姿をしていたのは失敗だったな。売り物である限り、何処へ連れ込まれようと騒ぎにはならねェんだよ。

 

 「……いい女だな。少し早いが、お前に決めた」

 「……断らせて貰いましょ。私の男は私が決めさせて貰います。その手をお離しよ」

 

 艶やかな笑みで妖艶な声と視線で、いつもとは異なる口調で話、笑ったナミだが……問題はその表情や声ではなく、言葉だ。まず〝断る〟と言われた事で、ナミに拒絶された事で頭の芯が冷えたような気がした。

 続いた〝私の男は私が決める〟の言葉に、お前等お呼びではないと、演技だと分かっていてもナミに言われたそれが冷静さを奪う。その上で、離せと冷たい視線を向けてきたのだ。

 怒りを抑える事が上手くできない。このままではナミの足を砕きそうだと手を離せば、これ幸いと逃げようとするその姿に、覇気が抑えきれなくなる。

 逃がすつもりはねェし、ナミが俺を拒絶する事は許さねェ。手にしていた物を落としながら倒れるその華奢な体をそっと抱き留めれば、その体が安心したように力を抜いたのが分かる。

 それにより少し落ち着いた俺の理性が、ナミの買った物を拾わせたがそのままナミを抱き上げて、1番近くにある上等なホテルに連れ込む。……今回は、いい部屋で抱いてやるよと、意識をギリギリ保っているナミに無言で語り掛ける。

 部屋を〝数日借りる〟と言って宝石を置けばごゆっくりと鍵を差し出されたので、部屋の番号を確認しつつ運び込む。少しでも覇気を緩めるとナミが身じろぐ為、逃げられるような気がして部屋の鍵をかけるまで覇気を緩める事さえも出来なかった。

 部屋に入り鍵を掛けてから、緩やかに覇気を抑えればナミの胸が大きく動いた。それにより、呼吸さえ奪いそうだったらしいと気付くが、これに耐えられた時点で単なる権力者の情婦か高級娼婦の演技としては失格だろう。

 

 「……乱暴な男性、私を買おうだなんて……安くは無いと、わか「先日の何倍欲しいんだ?」」

 

 演技を続けるナミの言葉を遮って言葉を口にすれば、その表情に1瞬隠しきれない緊張が走った。臨戦態勢を整えた時のような気配を纏い、それでありながら戸惑いと怯えをその瞳に宿している。

 

 「何方と勘違いされて「その体にある跡は、俺が付けたものだ。分からない筈ないだろう」」

 

 俺が勘違いする筈も、間違える筈もない。ナミだけは、何があっても間違えたりはしねェという自信がある。

 だが、言葉を遮ったからではなく、俺の言葉を受けてナミはその頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。わかりやすくそうなの?と書かれている無防備な表情に、吹き出しそうになるのを耐えるのに必死だ。

 

 「俺は……1度でも〝抱いた〟女を間違えたりはしない」

 「……それ、は…………?」

 

 怯えたような、戸惑ったような眼差しでナミは俺を見詰める。間違っていて欲しいと、その無駄に優秀な頭が導き出した答えを否定してくれと、俺に縋るような視線を送って来る。

 だが……その希望打ち砕かせて貰うぞ。今日はもう、ナミをナミとして抱くと決めている。

 

 「……本気で、俺を騙せると思っていたのか?ナミ」

 

 ヒュッと音を立てて息を止めたナミは、カタカタとその体を震わせる。その直後無謀にも〝俺から逃げようと〟窓に向かって駆け出した。

 その華奢な体を抑える事は、少しも苦ではない。ただ、この様子では優しくしてやれそうも無いなと、その服を剥ぎ取りながら思うだけだ。

 現れた素肌に舌を這わせれば、ナミの体は素直に反応を示す。必死な様子で声を抑えてるナミに、それは無駄な事だと教えてやらないとな。

 跡を遺してやれば、ビクビクと震えるその体。それでも尚身を捩り逃げようと画策する愚かな兎に、俺は想いを込めて、縋るような気持ちで言葉を口にする。

 

 「……逃げるな、ナミ」

 

 その瞬間、女がナミに変わるような……いや、ナミの演技の仮面が剥がれ落ちたのか。小刻みに体を震わせながら、涙を孕んだ声で謝罪を始める。

 

 「っ、ごめん、なさい」

 「……ナミ?」

 

 それは……初めてを奪った、買い取ったあの時にやるべきだっただろう。ナミが今更そんな言葉を口にする理由が分からねェ。

 何故今更になって……?

 

 「言い付け、守らなかったから、よね。分かってる、から……もう……許して」

 

 苦しそうな声で……縋るようにナミは言葉を紡ぐ。怯えたような声で、だが……違う。

 俺は言い付けを守らなかったから怒っている訳じゃねェよ。ナミが逃げようとするから、俺を拒もうとするから、だから俺は……。

 

 「お願い、怒らないで……」

 

 まるで大人の肉体に子供が入っているかのような幼さで言葉を紡ぎながらも、ナミは涙を流さずに泣く。大人でも出来ないような、1番後を引く泣き方で……。

 

 「っ……!ナミ、俺は……」

 

 そんな風に泣かせたい訳じゃねェよ。俺は確かに、あの日まではナミの泣き所だった筈なのに、それを俺はあの夜壊していたのか……?

 頼むから、泣くなら普通に泣いてくれ。いつもの様に、素直にその感情を見せてくれ。

 そっとナミのものではない異物に、鬘に触れるとそれを本物の髪を傷付けないように丁寧に外してやる。それに伴い落ちた髪は、いつもの香りを強く俺に感じさせ腕の中に居る存在が、紛れも無く素のナミだと実感させられる。

 その瞬間ナミが愚かにもまた、俺から逃げようとする。頼むから、俺を拒まないでくれ……壊してしまいたくなるから、俺はナミを簡単に、壊せてしまうから……頼む。

 俺から逃げないでくれ。俺を拒まないでくれ。

 細いその腰を抱いてしまえば、それだけで身動きなんぞ取れなくなる癖に、それでも俺を拒むように微かな抵抗を見せるナミ。理性が、吹き飛びそうになる。

 その香りに誘われるように、ナミを背後から強く抱き締めて肩に噛み付く。お前は、俺のモノだ。

 

 「やっ!痛、い!」

 

 まだ、拒むのか。俺のナミなのに、俺を拒むのか……?

 何も考えずに既に何も身に纏っていないナミをベッドへと放り投げ、その状態にありながら逃げようと、ベッドを降りようとする愚かな兎の上に覆いかぶさると、その首筋に吸い付く。それに体は素直に反応するが、それが理由なのかナミは言葉で拒絶して来る。

 

 「やっ……だ!シャンクスッ!」

 

 それなのにナミは、俺を呼ぶ。救いを求めるように、助けを求めるように、襲いかかっている俺を信頼を込めて呼ぶ。

 俺が欲しいのは、信頼でも、尊敬でもねェんだよ。ただ……ナミの愛が欲しいんだ。

 

 「ナミは、俺のものだ」

 「……シャンクス?」

 

 俺は今、餓えている。心も体も区別なく干からびそうな程に、餓えている。

 俺はナミが欲しい。だけどな、本当に欲しいのはその体じゃねェんだよ……!

 体から篭絡すれば、俺のものになるのか?

 だがだとしたら何故、今ナミは俺のものになっていないんだ。体の反応は、既に俺を拒む選択肢を持っていないかのように従順であるのに、抵抗を見せるナミの言動。

 どうしたらいい。大切にしても、得られるのは信頼と尊敬。

 甘えてみせれば穏やかに優しく包むが、それは幼い子供に向けるそれと同じもの。俺が求めているのは……それじゃねェんだよ。

 

 「……シャンクス?」

 

 ナミが、俺の名を、呼ぶ。繰り返して、名を呼ぶ。

 俺の顔を覗き込んで、俺がその視線から逃げられないように両手で俺の頬を包むように、触れる。俺が、ナミを振り払える筈もねェってのに……残酷にも、無邪気な瞳で俺を見つめながら、名を呼ぶ。

 

 「……ナミ、ナミッ!」

 

 想いが溢れる。ただ俺はナミが欲しいだけだと言うのに、それが上手くいかない。

 騙したのか、騙されたのか、それすらも分からないような酷い状況下において抱いたのは事実だ。体を手に入れれば、なし崩しに手に入ると思っていたその心が、実際に肉体を手に入れてから遠のいた気がした。

 傷付けるような抱き方はしなかった筈なのに、壊さないように気を付けた筈なのに、どうしてだろうな。俺の心が、愛しい存在である筈のナミに触れた分だけ、抱いた分だけ渇いて行く。

 頼むからどうか……俺の傍に……。俺はナミを初めて見た時から求めていたんだ。

 想いの形は違ったとしても、攻撃をヒラヒラと躱して冷たい日本刀のような空気を纏いつつも、傷付ける事を恐れるその矛盾した甘さに……惹かれていた。1度抱き込めばその温もりがどれ程俺を癒したか、無条件に寄せられる信頼と尊敬にどれ程支えられたか。

 それでも俺は傲慢にも、それだけでは足りないと思うようになった。俺のものになれと、俺だけのものになれと……祈るように、縋るように想う。

 俺に頼って甘えてばかりだとナミは言うが、逆だよ馬鹿。俺が、ナミ無しでいられねェんだ。

 その時、ナミが俺を大切そうに優しく抱き締めた。その細い腕が、俺を包むように……。

 

 「シャンクス、お願い……」

 

 優しい声が、俺に言う。俺がナミの願いを拒める筈も無いのに、その願いは恐らくもうやめてと言うものだと分かっているのに、言葉を遮る事さえ出来はしない。

 大切で、愛しいからこそ傷付けられず、同時に壊したくなる。ナミを、俺の全てが求めている。

 

 「抱いて……」

 

 予想外の言葉がナミから聞こえた。宥めるように、慰めるように、その腕は俺を包む。

 まるで愛しているとでも言うように、優しく俺を……。……馬鹿な事を、期待してどうなる。

 歳の差を考えろよ。これ迄の関係を考えろよ。

 どうしたって俺は〝師匠〟で〝兄〟で……ナミから向けられる愛情と、俺の向ける愛情には大きな隔たりがある。それを分かっていて、壊す覚悟で抱いた筈なのに、やはりそれを失う事が……今更になって怖い。

 

 「大丈夫だから、シャンクスは何も悪くないから……」

 

 そう言ってナミは俺に微笑みかける。優しく包み込むように、母親が泣くのを我慢する少年に語りかけるように、穏やかに言葉を紡ぐ。

 

 「私が勝手に、シャンクスに片想いしてるのよ。だから……シャンクスは、それに付き合わされてるだ「誰が、誰に、片想いだって?」」

 

 願望からの幻聴か?妄想か?

 俺はそこまでおかしくなっていたのか?

 そう思いながらも聞かずにはいられない。それ程の威力を持った言葉だ。

 にも関わらず、まるで叱られる事を怯える子供のような顔で、捨てられるのを分かっていて待つ子犬のような雰囲気で、ナミは声を震わせながら言葉を繰り返す。その瞳から、涙が1雫……零れ落ちた。

 

 「私が、シャンクスに、片想いして……」

 「馬鹿野郎……」

 

 それはどちらに向けての言葉なのか。自分でさえ分かりはしない。

 優しく抱くか、何も考えられずに衝動的に犯すか、そのどちらかになるだろうと自分でも分かっていはいた。だが、想いを告げられて持て余した陽の感情から犯す事になると1体誰が考えただろうか。

 防衛本能からか、それともこれまで抵抗してはいても本当に俺を想ってくれていたからなのか。ナミの体は特に前座らしい事をしていなかったのに、素直に俺を受け入れてくれる。

 

 「ナミ、ごめんな……」

 

 多分、死んでも離してやれねェ。そう思って謝ったが、ナミの体は俺を受け入れ、震える。

 欲しい欲しいと足掻いていたものは、既に俺の手の中にあったのだと知ったその歓びで、俺はナミを抱き潰しそうだと思う。悪いな、ナミ。

 多分もう、とまれねェ。だから……今は何も考えるな。

 

 「ごめんな、ナミ。手加減出来そうもねェ……」

 「シャン……クス……?」

 

 呼び掛けられた瞬間、俺がナミの中で膨張する。その声でその唇で、名を呼ばれただけで反応してしまう自分の情けなさ。

 この広い海をおさめる4人の王、その1人だと称される俺の全力が何の力もない非力な少女に牙を剥く。加減しなければ殺してしまうかも知れないと、頭では分かっていても、もう止まれそうもねェんだよ。

 王であれ、神であれ、結局は雄でしかない。ただ愛しい女に拒まれるのを恐れる、1人の男でしか無いのだ。

 

 「ナミ、ほら、声を抑えるな。聴かせてくれ……ナミの声を」

 

 囁くように言えばそれに逆らえないと言わんばかりに声をあげるナミに、愛しさが溢れ出す。俺が命じても、頼んでも、言えば逆らう事を知らないかのように素直に応じるナミは、全身で俺を愛していると伝えて来る。

 求めていたものは、常にここにあったと思い知らされる。ナミはずっと、俺を愛してくれていた。

 

 「シャンクス……愛してる……ごめん、なさい。愛しているの……」

 「ナミ!」

 

 愛してると言いながら、涙を流すナミは、愛している事が罪であるかのように謝罪する。俺はそれにただ、名を呼ぶ事で応える。

 やっと……俺のモノになった。俺だけの、ナミにできた気がした。

 ナミは何度も意識を飛ばして、その度に刺激を与えて呼び覚まして、また悲鳴と共に意識を失う事を何度も飽きる事無く繰り返す。何度中に出せば気が済むのかと言いたくなる程に放出し、ナミを翻弄し、いつの間にか翻弄される事となる。

 時折ナミに水を飲ませたりはしたが、基本的に繋がっているのが殆どの状態でどれだけの時が過ぎたのか。次第に声が掠れて、体に力が入らなくなっていくナミを感じながら、それでも止まる事が出来ない。

 そんな俺をナミは拒む事無く、受け入れ続ける。時折休ませてと甘えるように言うが、そんな余裕も今の俺には無い。

 

 「も……っ……!」

 

 無理と言うか、休ませてと言うか。どちらかは知らねェが、この場合どちらも聞いてはやれねェな。

 そっと髪を梳くように撫でれば、荒い呼吸の中でナミは俺を愛おしげに見て来る。

 ……だから、煽るなよ。そんな顔されたら、止まれる筈ねェだろうが。

 

 「分かってる。〝もっと〟だろう?」

 

 言いながら突き上げれば、息を吐き出す音が聞こえた。既に声はかれている。

 せめて水を飲ませてやるか、もう少しだけこの幸福に浸ってから。そう思った時、禍々しい程の怒りの気配を感じて、だがそれを無視してナミの中にもう1度放ったその時、部屋のドアが粉々に砕け散った。

 見事なもんだなと感心しつつ其方に視線を向ければ、ベックが俺を真っ直ぐに睨み付けてからナミを心配そうに見詰めた。その視線に兄として以上のものをもしも感じ取れば、俺はベックとでも本気で戦えそうな気がする。

 

 「お頭、ナミを殺す気か。1度帰るぞ」

 「無粋な奴だな、ベックお前……「アンタの全力で4日だ。いつ死んでもおかしくねェから1度休ませろ。普通なら、死んでるぞ」」

 

 言いながら俺を遠慮も容赦も無く蹴り飛ばしたベックが、ナミを自ら持ってきたシーツとタオルでクルクルと巻き、そのまま抱き上げた。その手付きは優しく、労りに充ちている。

 そうか、4日経っていたかと思うが……確かに良く生きてたと思う部分と、まだまだ足りねェと思う部分がある。そんな俺の目の前でベックがナミに声をかけて、優しく笑う。

 ……そんな顔、他の誰にも見せねェってのに、特別じゃねェと言い切るベックが理解出来ん。ただ今ふと思い出したのは、いつだったかベックが言っていた、アンタ以外にナミを任せるつもりは無いという言葉だ。

 基本的にナミの愛した男となら、1緒になって貰って構わねェが、どれ程ナミが望んでも、自分以下の男には渡さねェと呟いていたのは、ベックが相当に酔っていた時だったのは覚えている。即ちベックはナミが俺を愛しているから俺との仲を応援すると言っていたのだと、今ならばわかる。

 もしもナミが他の男を愛していたのならば、きっとベックはそれを応援するのだろうと思えば、少しばかりやるせない気持ちになる。それ程に大切に思う癖に、自分のモノにしようとしないベックは、何を考えているのか。

 数日ナミは眠り続け、その間にナミのビブルカードをベックが勝手に作っていた。それから俺の持ち物にあった紅玉を手にすると、勝手にベックがどこかにそれを加工するよう依頼しているのが見えた。

 紅玉、即ちルビーはナミの誕生石であり、俺の石だと言われている。宝石の王と呼ばれるこれの石言葉は、情熱・熱情・純愛・勇気・自由。

 俺の持っている中で特に上質の物だったと言うのに、何を考えているのか。そう思っていたら、それをペンダントトップとしてから、俺とナミのビブルカードを中に入れてナミに渡しておくと言い出す。半分になって帰って来た俺のピジョンブラッドを眺めて、まァナミが身に付けるなら構わねェかと笑う。

 それも、ビブルカードが中に仕込まれてるなら、何かあった時も探しやすくなる。俺の石、ナミの誕生石、何の因果かと少し思うが、ナミは確かに赤が良く似合う。

 海を眺めていたらベックが大声で俺の名を呼んだ。珍しいなと皆で笑いながら足を向ければ、ナミの意識が戻っていて、自然と笑みが浮かぶ。

 

 「……お頭、いや……シャンクス。ナミは今も、シャンクスに片想いしてるぞ」

 「……はァ!?」

 

 思わず大声を出した俺はこの場合正しいだろう。だからなのか、ベックも疲れたような顔で俺に続きを丸投げして出て行ってしまう。

 残された俺にナミは本気で片想いしている事を伝えて来るから、どうしてあれだけ抱かれて解らねェんだよと心から思う。だが、確かにここで手を出せば永遠に想いは伝わらないだろう。

 言葉を尽くして愛を囁いても、信じる事は無く、のらりくらりと躱してしまうナミに、凄いなと思わされる。そんなナミの胸元には、俺が気に入っていたピジョンブラッドがニュース・クーを呼ぶ為の笛と共にかけられている。

 俺の心を胸元に置いているかのような状態に、少しの笑みが浮かび、俺はナミの頭を撫でてから、少し待っていろと言って部屋を出る。残っていた半分のピジョンブラッドをくり抜いて、ペンを持つ時邪魔にならないシンプルな指輪に作り直させると、それにより粉になるピジョンブラッドで砂時計を作らせる。

 砂時計はまた何かの時にナミに贈るとして、今回はこれだなと贅沢にもピジョンブラッドをくり抜いて作った指輪を手にナミの元へと戻る。するとまだ顔色の悪いナミが寝ていて、俺がやりすぎたんだよなと少し反省する。

 そっとその髪を指先で整えて、眠るナミの見詰める。弱っている様子のそれに罪悪感は確かにあるんだが……きっとこれからも似たような事をするだろうと思う情けない自分が存在している。

 本棚に視線を移せばナミの書いた多くの書物と、それに伴う資料、机の横には海図や地図が積み上げられていた。いずれこれも本にして出すのだと、楽しそうに笑っている姿を思い出す。

 そっと本棚に手を伸ばせば、ナミの文字が印刷物のそれに変わり書籍となっているのが確認できる。家族の為に始めただろう執筆活動は、今ではナミの1部だ。

 それを手に椅子へと座り、ゆっくりとページを捲っていけばどうやらこの本は白い街の生き残りの話だと分かってしまう。もしも生き残りが居たのならば、確かにこうなっておかしくはねェだろうと小さく息を吐いた時、ナミの声が聞こえた。

 

 「シャンクス?」

 「……起きたか。っとに、こんな形で苦労するとは考えても見なかった。……ナミ、これが俺の想いの形だ」

 

 そう言ってナミの左手の薬指に、無駄に輝く指輪を嵌める。返そうとなんかしたら、それこそ犯り殺すぞと思いながらナミを見れば、ナミからは戸惑いの視線が向けられているのがわかる。

 

 「愛してる、ナミ。俺だけのものでいてくれ」

 

 お前を、殺さない為にも。お前を、傷つけない為にも。

 頼むから、頷いてくれ。俺には、ナミが必要なんだ。

 そう思っていたら、ナミが突然泣き出して、俺はどうしたらいいのか分からなくなる。嫌がっている雰囲気ではないが、なんだ1体と思い泣き止ませたくて試行錯誤を繰り返すが、ナミの涙は止まる気配を見せない。

 その様子を少し離れた所で見ているベックがいる事に、気付く余裕さえこの時の俺には無かった。ただ目の前にいる愛しい存在の事しか、見えていなかったから。

 俺の贈った指輪を大切そうに握り、涙を落としつつも幸せそうに笑うナミに、きっとこれから先も俺は翻弄され続けるのだろうとわかる。だがな、俺はそれでも構わねェと思っている。

 傍にナミが居てくれるのならば、それだけで構わない。必ず幸せにしてやるから、何処へも行くなとその小さな体を抱き締めて、俺の服を濡らすナミの頭や背を撫で続けた。




前回のお話の、シャンクスsideですね。
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