先月のバレンタインの日に貰ったナミ色の指輪は、大切に身に付けている。そして、もうすぐそのお礼をする為のホワイトデーが来る。
……それにしても、おかしいだろうと心から思う。俺はバレンタインよりも以前にナミに指輪を渡す形でプロポーズした筈だ。だが、ナミは気付かず普通に恋人同士と言う状態になっている。
……いや待て、冷静になれ、気付かないもんか?指輪嵌めたんだぞ。
それも俺の石だ。気付くよな、普通。
はァと溜息が落ちた時、ニュースクーがナミの部屋に入るのを見て俺も中に入る。インクの臭いと、蜜柑の匂いが混ざるこの部屋は、ナミらしいと言えばらしいのかも知れない。
あ……知らない本が増えてやがる。後で借りてくか。
そんな事を考えている間にナミはニュースクーから箱を受取り、お礼の菓子を手渡していた。そうしてそれを見送ってから、受け取った箱を開けて1人で感心したような声を出しつつ楽しそうに笑うナミが居る。
贈り主はどうやら姉のようで、ナミの顔が蕩け切っているのは少し気に入らない。お前は俺の女だろう。
そういや、変装してた時にあの姉の髪色だった時があったな。あの時は、後少しで殺しちまいそうになったが、あれば不可抗力の部類だろう。
その時ナミが俺の唇に触れた。細いその指先で押し込んできたのは、甘い物で……お前の分身かと言いたくなるのを堪える。
するとナミは俺を気遣うような眼差しで、特別よなんて言って笑ってみせた。本当に可愛いな、お前。
それに対してありがたいと思っている事を伝えれば、ナミは少し調子を取り戻してそうでしょうと笑う。こんな顔してる時だけ、ナミも年相応に見える。
そんなナミの頭を軽く撫でて部屋を出たのは、これ以上ここに居たらナミを余す事無く食べ尽くしそうだと判断したからだ。甲板ではヤソップが釣りをしていて、調子を聞けば坊主だと言われる。
ナミに言われて網を下ろすようになったから少しは食糧事情が安定したが、暇があればこうして釣りをしている姿も相変わらず良く見かける。戦いも何も無い海は、意外と暇なもんだ。
「お頭はナミを嫁にするつもりなのか?」
「したいとは、思ってるが……どうした?」
「この先の所に見えてる岩場、あの場所は夜満潮になって、昼間は単なる岩場らしいんだがな。朝日が昇る頃、岩がハートの形で飛び出すようになるらしい。……んで、そのハートを見ながら愛の告白をすると朝日なのもありそのカップルは永遠に結ばれるんだとか」
「ヤソップ?」
「女は好きだろ、こういうの。ホワイトデーも近いから、教えとく」
ヤソップの言葉にありがとうと返して、今度こそ伝わるだろうかと期待して船室のついている買出し船の調整を行う。目的がある訳でもなく、急ぐ旅でもないからこそ俺はその場所でのんびり過ごして来ようと決めた。
そうして迎えたホワイトデー前日。日付変更線を超えたらナミを連れ出そうと考えていたが、ナミはホワイトデーの事などすっかり忘れて居るらしく、落ち着かない俺には気付かずに寝てしまっている。
まァ、俺が同じ部屋にいるんだから、寝れるよな。そう思って溜息を落とす俺の目の前で、幸せそうに微笑みを浮かべているナミ。
そっとその頭を触れると小さくシャンクスと呟くから、無意識でおぅと答えていた。珈琲を飲んだりして時間を潰して、日付が変わるのと同時にナミを起こせば、ナミは寝ぼけているのか幼い顔で笑い俺に抱き着いてくる。
「シャンクス……あっ……たかい」
「そこは、愛してるだろ。なんだ、あったかいって」
「シャンクス、あったかいって言うのはね「誰が暖かさとは何かって聞いたってんだ。ナミは馬鹿なのか!?」」
「なんだ、あったかいってって言ったじゃない」
「変な寝ぼけ方しやがって……重要なのはその前だ」
思わず呟いてからナミを連れて外に出る。その瞬間他のクルー達が待機していてナミにプレゼント攻撃を開始するから、ナミは1気に覚醒したものの荷物に埋もれてしまう。
何してんだと呆れ半分に見ていたら、ナミは部屋にプレゼントを片付けに行き、戻って来た所をベックに捕まった。そしてベックは髪が乱れてると言いながらナミの髪を勝手にセットし始めて、鈴蘭の髪飾りをその頭に挿した。
「ナミ、鏡見てみろ。気に入れば良いが」
「ん?うん」
よく分からないって顔でナミは手鏡を取り出してそれを見ると、1瞬で表情を輝かせてありがとうと言ってベックに抱き着く。……抱き着くなよ、ナミは俺にしか抱き着くな!
そう言いそうになってそれでも耐えた俺に、ベックは気付いているだろうにナミを抱き締め返すとその旋毛にそっとキスをする。それから、優しい顔で笑う。
「想像とは少し違ったが、ナミが気に入ったならいい」
「違ったの?」
「あァ、想像ではもう少し可愛いかと思ったが……想像していたよりも、ずっと、綺麗だ」
「ベック……」
そうして照れた様子で俯くナミに、お前の恋人は後ろにいる俺だぞー!と叫びたくなり留まる。ベックはそんな俺を見てニッと笑うとナミを抱き締めて唇の動きで、羨ましいだろうと言ってきた。
アイツ、俺で遊んでやがる……!
「ベック、いいから返せ」
「お頭の女で女神かも知れねェが、俺の可愛い部下で、大切な花なんだよ。たまにはいいだろ」
「良くねェよ!」
言いながらベックからナミを奪い返せば、ベックの煙草の匂いがナミに移っている。それが少し不愉快で、ナミに出かけるぞと言えばナミが小さくあっ!と声を上げて、部屋に戻った。
慌てた様子で部屋から出て来たナミは、俺に抱き着き、お待たせなんて言うが、どうしたというのか。それでもナミを連れて船に乗り込み、朝日を待つ間少しばかりどうでもいい事を語り合う。
そんな時にナミが俺に箱を1つ差し出して来て、それを開けば中から俺を模したであろう人形とナミを模したであろう人形のついたケースが出て来た。ネジがついているのを回せば2つの人形がクルクルと踊りながら、音楽が鳴る。
そして、ナミの歌声が聞こえてきた。ハッピーバースデーと歌うそれに、まさかと視線を向けるとナミは小さく笑ってみせる。
「シャンクスの誕生日に、宴やると思ったのにやらなかったから……作ったのよ。人形はヤソップに頼んだけど」
「へ?」
「数日前、シャンクスの誕生日に生で歌うつもりだったけど、やらないから……気が向いた時に聞いて欲しくて、作ったの。気に入ってくれた?」
……俺の誕生日とか、忘れてた。よし、帰ったらやろうと決めて、こんな可愛い事をする恋人にキスを落とす。
朝までは時間もあるから、少しくらい俺もナミで楽しんでも良いだろう。そう思ってそっと薄い衣を脱がせれば、ナミの素肌が俺に食べてと誘い始める。
朝日が登るまでナミを鳴かせてから、丁度良い頃にハートの岩を見せながら愛を囁いたが、ナミは嬉しそうに微笑み私もよと言う。漸く伝わったかと胸を撫で下ろし、それ用の指輪も用意しないとなと小さく笑った。
男は通じたと思った愛の告白は、情事の睦言の1つと思われて女が何も分かっていなかったと男が気付いたのは、それから約半月後の事。メインイベントまで手を出さずに待つ事の出来なかった己を責める事になるとは、この時の男には知る由もなかった。