※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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ホワイトデーイベント(光源氏16)side

 思い返してみれば、バレンタインは男の願望と夢である〝プレゼントは、わ・た・し〟って奴をやって貰った訳で、俺は何を返せば良いだろうか。……ここでローに相談したら文字通りバラされそうだなと思い、俺は静かに溜息を落とした。

 そんな時にナミの部屋に、ニュースクーが入って行くのを見付けて立ち止まる。何か新作でも書けたのか?

 それとも推敲された本が持ち帰られたのだろうか。どちらにしても、新しい本は常に誰かが待っているのだからと部屋に入ればナミはニュースクーに何かを渡して、楽しそうにしている。

 優しい顔でニュースクーを見送ったナミは、机に残されている箱を開けて幸せそうに微笑んだ。その顔には嫌になる程に覚えがある。

 ……あれは、家族からだ。その表情で分かる。

 箱から取り出された手紙にはノジコと書かれていて、あの姉じゃ勝てねェと1人で落ち込む。ナミのベッドに腰を下ろして、深く溜息を落とした時唇にそっと細い物が触れて、口の中に甘味が広がる。

 その犯人に視線を向ければ、困った人ねと言う時の顔で俺を見ているナミがいて、特別よなんて言って笑う。どうやら俺を元気づけようとしてくれたらしい。

 情けないなと自分に思いながら、自分を責めるように言葉を口にすればナミは得意気に頷いてみせる。いつもは、恋愛以外の人の感情の機微には即座に反応するのに、姉と言う存在で全ての機能が停止しているらしいとわかる。

 軽くその頭を撫でると、擽ったそうにしてから飲み物を用意して手渡してくれる。それを飲みながら、ふとナミに視線を向ければ窓の外を嬉しそうに眺めていて、今日は1日晴れているらしいと知りクルーに洗濯させておこうと決めた。

 ホワイトデー用のお返しは、もう少し考えてみるかと考えて立ち上がった。そんな俺をナミは見送ってくれるから、今日も俺は幸せだと実感する。

 それから数日後のホワイトデー当日。何も決まらずに困り切っている俺がいた。

 そんな俺にベポが何かを手渡して来て、それを受け取るとベポが言う。辺りを気にしながら、声を顰めるようにして。

 

 「キャプテンから、今日そこに行けって。でも、キャプテンからだってのは、内緒にするように本当は言われてたんだ。コラさん気にするだろうからって」

 「……教えて良かったのか?」

 「コラさん頭抱えてるし、ナミが喜ぶなら俺は何でもいいから。それに、確かにそれナミは喜ぶと思う」

 

 中身を見てみるとハーブ園をメインに置いた、ホテルの宿泊券だと分かり内容を確認してみる。どうやらここはレストランやカフェが併設されており、ホテルの周りをぐるりとハーブ園にしてあるようだ。

 そこで育てたハーブをレストランやカフェで提供してくれるらしいと分かれば、成程ナミが喜びそうな上にローらしい。自分がハーブを調べるつもりだったのを、俺の様子を見兼ねて切り替えてくれたんだろう。

 そうと決まればとナミを誘いに向かえば、いつものように机に向かっている姿が見える。新しく発売された医療機器を購入する為の予算ぐりをしているようだが、今は俺と出かけて欲しい。

 

 「ナミ、気晴らしに出掛けないか。そろそろ煮詰まってるだろ」

 「……わかる?」

 

 へにょんとした顔で見てくるナミに、こりゃ相当参ってるなと思う。こんな弱った顔は、俺かローにしか見せないのだから随分甘えて貰えていると思う。

 

 「あァ……花でも見に行こう。ハーブ園があるんだ」

 「行く!すぐに着替えるわ!ありがとう!」

 

 そう言って俺に抱き着いてから、1瞬で離れるそれに微かな寂しさを覚える。離れるなよと、着替えなければならない相手に思う程度には、ナミに依存しているし、その自覚もある。

 着替えるからと追い出された俺が部屋の前で待っていると、着替えて出て来たナミはそんなもの持ってたのかと言いたくなるようなシンプルなワンピース姿で、確かにハーブ園に合いそうだと思う。それでも歩きにくいだろうと言い訳してナミを抱いて船を降りれば、ナミが心配そうに俺を見て来た。

 

 「転ばないでね」

 「お前なァ……」

 「ほら、前を向く!あ、そこ窪んでるから気を付けて」

 

 何故横抱きで運んでる男と運ばれる女なのに、こんなにも恋愛的な要素が無い会話なんだ。俺はそんな事を思いながら歩き、舗装された道に到着するとナミを下ろした。

 それによりナミはそっと俺の腕に触れると、その腕を抱き締めるようにして来る。その様子が可愛くて、そっとその髪に口付ければそれだけで赤くなるナミに行こうかと声をかけた。

 途中ハーブ園関連と思われる店で、花を模した飾りのついた帽子を見付けて1つ購入するとナミに被せる。ラベンダーにしておいたが、うん……ナミが可愛い。

 

 「ロシー?」

 「花に夢中になっても倒れないようにと思ってな」

 「ありがとう……ロシーって、いつも優しいわよね」

 「元、海兵さんだからな」

 

 笑う俺にナミはそうだったわねと頷き、それによりやはり知っていたかと思う。ナミは、やはり未来で俺達の過去を助けるのだろうか。

 だが、それはあるとしても未来だ。それなのにナミはそれを、記憶では無く知識として有している。

 これじゃ狙われるよな……と小柄な恋人を見つめて思う。そんな俺の心を知らず、園内の散策をナミは楽しそうに行い、薬効等を確認してメモして行く。

 そのうちハーブの本が出るなとその様子に思いながら、苗とか少し欲しいわねと呟くそれを受けて辺りを見ればカフェの隣で販売しているらしいと分かる。だが……潜水してる時間が長いから育つのかが疑問だ。

 それを伝えれば、ミントなら育つと思うなんて言い出してカフェに向かう事になった。カフェでお茶とケーキを楽しみつつ、どのミントがいいかななんて俺に笑いかけてくるから、花が咲くのが1つは欲しいなと答えておく。

 最近教えられて知ったんだが、どうやらミントにも色々種類があるらしい。だからなのかナミは、花かぁなんて言いながら少し考える様子を見せる。

 それから何かを思いついたのか、俺の目の前でナミと言う名の蜜柑の花が笑う。それに俺は癒されている。

 

 「あら、ここ白のラベンダーもあるのね」

 「珍しいのか?」

 「ラベンダーの6割はブルー系で、3割がピンク系、残る1割がホワイト系なのよ」

 「……何が違うんだ?」

 「色が違うだけよ。香りも咲く時期も何もかも、違いが出るのは色じゃなくて種類だから」

 「ラベンダーはラベンダーだろ?」

 「違うんだなぁ、それが!」

 

 そう言ってナミは、ラベンダーが数百種類あるのだと語り始めた。その説明を聞きながら、目の前に広がるハーブ園に視線を向けていると、ふと思い至る。

 ラベンダーは夏のイメージだったが、今咲いている時点でいくつも種類があると言うのには、納得出来るなと。その内に何故か他の客が集まって来て、ナミを質問攻めにし始める。

 どうやら専門家だと思われたらしい。……俺とのデート中だから、俺にだけ笑いかけてくれと少し思う。

 その時ナミが俺に視線を向けて、そっと前髪を退けて来た。それになんだろうと思った時、ナミが優しく笑った。

 

 「オールバックとかにしたらキリッとした感じになるのに、こうして瞳を隠しちゃうと可愛い印象なんだなって思って。普通にイケメンなんだから、顔を隠さなくてもいいと思うのよ?」

 「……ナミは、俺をどうしたいんだ」

 

 褒め殺して襲って欲しいのか。受けて立つぞ。

 まぁ、そうなればナミはベッドから離れられない生き物になるだろうがな。俺にはナミに関してのみ、理性が欠落している。

 

 「ロシーを……?そうね、でも素顔知ってるのは仲間だけって言うのも、なんか特別な気がするからそのままでいいと思うわ」

 

 ……違う。そう言う意味のどうしたいじゃない。

 そう思いつつナミの頭を撫でれば、はにかんだように笑う。それから自分のケーキを少しフォークで切って差し出してきた。

 

 「はい、アーン」

 

 つい口を開ければ口の中に広がる甘みに、何頼んだんだと驚いてケーキを凝視する。俺の頼んだ物より甘いぞ。

 

 「ここのハーブ園で蜜蜂の養蜂してるらしいのよ。その蜂蜜使ってるケーキなんですって」

 「成程。……って、今、俺声に出してたか?」

 「ううん、でも驚いた顔してたから、気にしてるのかなって思っただけよ」

 

 本当に、賢い女だよなと思う。そして珈琲を零した俺にナミは慌てて近付いて、やっぱり並んで座れば良かったわねなんて申し訳なさそうに言う。

 そうなると互いに食べさせ合う形になっていて、食べるのに異様に時間がかかるだろうと思ったが、それなら互いの事しか見えないからそれでも良かったかなと少し思う。そんな俺の服を拭いたりしてから、珈琲の染み取れるかしらと不安そうに言い出す。

 

 「俺は気にしない」

 「そんなんだから、そのドジが治らないのよ!心配だから……気を付けて」

 

 落ち込んだ様子で言われた俺は素直に頷きそっと、ごめんなと言いながらキスをする他の選択肢を俺は持たない。それにナミが何故か慌てた様子を見せるが、理由が分からない。

 

 「んっ……まっ、ロシー、待って!お願い……」

 「もう少し……」

 「や……見られてるから!」

 「ん?」

 

 ここがカフェだと言う事を、すっかり忘れていた俺は集まっている視線と、真っ赤になっているナミを見比べる。だが、何か問題だろうか。

 

 「ナミが可愛いから、皆自然と見てるだけだろ。気にするな」

 「違う!見られてる理由それじゃない!……2人の時に、して欲しいな」

 「……よし、すぐ部屋に行こう」

 「部屋??」

 

 混乱してる様子のナミを抱き上げて、隣接するホテルに連れて行けば券を見せただけで案内された。……後でローには何か礼をしないとな。

 いくらしたのかとは流石に聞きたくもない。ローはナミの為なら本気で金に糸目をつけねェからな。

そうして部屋に入ればもう2人きりだ。何をしても良い筈だろう。

 可愛い部屋だと喜ぶナミを抱き締めて、お風呂も買い物も明日ゆっくりさせてやるから今日は俺に、愛されろよと囁く。それに頬を染めたナミは小さく頷いたので、そっとベッドにその身を沈める。

 ホワイトデーだからなんて言ってるが、ただ男は女を甘やかし、甘やかされたいと願うだけ。女もまた、男をただ慈しみたいと願うだけなのだろう。

 2人の時間は、甘く長く、ゆっくりと過ぎて行く。まだ時は、夕刻にさえなってはいない。




楽しんで頂けていたら幸いです。
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