その日も当然のように宴が催された。理由なんてのは、なんでもいいのだろうけど、流石に今回の〝寒さに乾杯〟はどうなんだと思う。
……寒いよぉ。そう思って毛皮のコートに入って丸くなっていたら、暖かそうなのが近付いて来たのでそれに抱き着く為に手を出して……引っ込めた。
「こら、引っ込めるな」
「だって、手が寒かった」
「仕方ねェな」
そう言いつつシャンクスが私を抱き締めてくれるから、そのコートの中で手を回すようにして抱き着く。うん、暖かい。
寒い事の何が嬉しくて乾杯してるのかは知らない。ただ分かるのは、こうして寒い日はシャンクスから離れると私が凍死すると言う事実のみ。
湯たんぽをその為に入手した事もあるのだけど、何故かシャンクスがそれを見付けると破壊してしまうので、病人用に幾つか船医に託した。低体温になってる時や、病で身体を温める必要がある時だけ、私も使用許可が降りるような謎現象が起きている。
「……本気で暖房器具扱いだな」
「猫は寒いと死ぬんです」
「俺は兎だと思ってる派だがな」
そう言ってシャンクスは私の頬に軽く口付ける。唇が少し冷たくて逃げれば、酷い奴だなと笑われてしまう。
「私は猫です。炬燵が欲しいです」
「ダメだこりゃ」
そんな事を言いながらシャンクスで暖を取っていたら、ベックが私の背後から毛布を巻き付けてくれて、肩にはコートを掛けてくれた。それに視線を向ければ、寒がりだからななんて笑う。
それに私がお礼を伝えると、ベックは優しく笑って軽く頭を撫でてくれた。だけどシャンクスは、それに対してなんだか不機嫌そうな様子を見せる。
今居るのは吹雪を防ぐのに便利そうな、岩をくり抜きましたって感じの洞穴の中だ。そこで火を起こしているのだから、1酸化炭素中毒とかになっても誰にも責められない勢いの状態にある。
そんな中で私は気付いてしまう。この吹雪が明日の昼まで続く事を。
「やっぱり、船に残れば良かったわ」
「残すか阿呆。穴が空いてんだよ!」
分かってる。その修理の為にこの島に寄ったのだから。
そして、その為にこの洞穴は作られたのだから。そんな事に使われたら……グリフォンが泣くんだから。
こういう事を言うと、シャンクスからは海楼石の短剣で果物の皮を剥く奴に言われたくねェと返されるのだ。……うちの子は優しいから、人を傷つけたくないと思うのと言えば、ハイハイと頭を撫でられて終わるのがいつもなのだけどね。
つまり話を戻せば、吹雪が落ち着いて木材を入手して、船を修理する迄船には帰れないのだ。分かってるけど……寒い。
「船と共に散るならそれでもいい。死ぬ瞬間しか寒くない方がいい。もうヤダ寒い。明日の昼までずっと吹雪よ……」
「なら、ずっと俺に抱き着いていたら良いだろ」
「……暖房器具に徹してくれるなら、それもいいんだけど……シャンクス、悪戯してくる」
むうっと膨れるとベックが背後から頭を撫でてくれて、いざとなったらベックを暖房器具にしようと決意した。その時、足音が聞こえて全員の視線が入口に向けられる。
吹雪の中である事を考慮すれば有り得ない程に薄着で、でも1応冬っぽい格好をした青年が1人。なんの気概もなく、呑気な様子で歩いてくるのが見えた。
その瞬間、私は呼吸さえ忘れてその人物を見つめていた。だって、思ってなかったから、こんな所で会えるなんて。
「此方に赤髪海賊団がいると聞いて来ました」
「分かってて来たって事は、なんだ。俺と戦ってみたいって事か?」
「いいえ、弟が世話になったと散々聞かされた恩人に挨拶をしたくて。それと……ナミが……」
「ん?弟……?ナミ……?黒髪って事は、エースか!?」
私とルフィから聞いていた特徴で判断したらしいシャンクスは、良く来たなと笑ったけど、直後に私から視線を外さなくなったエースに首を傾げる。そして、私の頭をわしゃわしゃと撫でながら、コレがナミだと言葉を音にした。
「ナミ……?何してんだ?」
「再会を喜んで飛びつきたいけど、寒くて動けないでいるの。あ!エースって、悪魔の実もう食べた!?」
「ん?あァ、食ったけ……」
最後まで聞く必要は無かった。最高級の暖房器具が、歩いてきたでは無いか!
再会を喜ぶ気持ちは勿論あるけど、今はエースが暖房器具以外の何にも思えない。飛び付き抱き着き、そのまま私よりも頭1個分位大きくなってるそれに少しの違和感を抱きつつ頭を預ける。
暖かい……生きてる。まだ、この姿なら白髭海賊団には入って無い筈よね。
この間見た新聞に載ってたのも、ルーキーの少年としてだった。スペード海賊団船長……か。
「ナミ?」
「大きく、なったわね」
「……そうだな。十年ぶり、くらいか?」
「まだ、8年だと思うけど、四捨五入したら十年だから間違いじゃないわね」
そう言って笑うと、エースがそっと私の背に腕を回して抱き締めてくれた。再会を喜んでくれてるのだと分かれば、頬も緩もうと言うものだ。
……暖かいから幸せだななんて、そんな事は……思ってるけどね。その時、エースが軽い感じで聞いて来たのは現状の私がどんな立ち位置にいるのかと言う事。
なので素直に、航海士の1人であり、非戦闘員枠で護られていると伝えれば、驚いたような顔でエースが見下ろして来た。何か変な事を言った記憶は無いんだけどな。
「ナミが、非戦闘員!?」
「……嗚呼、うん。そうよ。この船をなんと心得る。恐れ多くも四皇が1つ、赤髪海賊団本船であるぞ?」
「……なんだ、その喋り方」
呆れたようなエースの声につい笑ってしまう。でも実際、そんな風には思えないわよね。
「実感は無いからね。いつもはただの酔っ払いだし」
私の言葉に周り中から、笑い声と冷やかしが飛ぶ。その中には憤慨した様子で、ただの酔っ払いじゃないと言うのもあるけど、ならなんだと思ってしまう。
「俺達はただの酔っ払いじゃねェ!陽気な酔っ払いだ!」
「……そうね、絡んだり泣いたりしてたら酒取り上げてるから、それは間違い無いわね」
そんな訂正要らない。そう思いながら頷けば、ベックがエースに問い掛けた。
「エースは、火拳の2つ名持ちだったな。ロギアか?」
「あ!はい!そうです!その、こんな状態で言うのもなんですが、弟がその説はお世話になりました。ありがとうございます!」
頭を下げたエースにベックが抑揚に頷いた。そして、シャンクスに視線をチラリと向けてから、その唇を動かす。
「……人とは成長するもんだな。お頭も見習え」
「ベックそりゃどういう意味だ!?てか、ナミそろそろエースから離れろ。帰って来い」
「やだ」
今エースから離れたら死ぬ。物理的に。
そう思って抱き着く力を強めたら、エースの体温が1気に上昇して、少し熱くなる。でも、離れるものか、私の大切な暖房器具から!
「……なァナミ、このまま俺と船に乗らないか?」
「え?」
船に帰っても良いの?
船直ったの?
「俺は、ナミとずっとこうしていたい」
「エース、私も離れたくないわ」
愛しい熱源よ。離れるものか、この寒いのに、離れたら死ぬわ。
そう思ってエースに顔を埋めたら、エースが嬉しそうにホントかなんて言うので、明日の昼までこうしていてとお願いしてみたら、何故かんん?と言って首を傾げられた。そして、何故か不機嫌そうなシャンクスと、何かに納得した様子のベックが背後で何か会話してるのが聞こえる。
「……ナミ、俺の船から降りたいって言うのか?」
「え?降りないわよ。私寧ろ今すぐ帰りたい」
シャンクスは何を言ってるのか。私は、今すぐ船に帰って船大工と考案した炬燵に篭もりたいのだ。
「……だから言っただろ。ナミは寒さで脳まで凍り付いてるって。……杞憂だ」
ベックが何やら言って、お怒りのシャンクスの肩を叩いてるけど、なんだろう?
カルシウム不足だと人は苛つくから、それかな。今度シャンクスのメニューに小魚増やすように、コック達にお願いしてみよう。
「え?ナミ、俺と来ねェの!?」
エースの驚いてる様子の言葉に、うちの船に帰るそれを送ってくれるんだよね?と確認したら、何故か頭を抱えて座り込むから、私もそれに合わせてその場に座る。
その様子を見て、皆が成程と頷き、シャンクスが徐に立ち上がったかと思うとそのまま私に手を伸ばしてエースから引き剥がそうとして来る。それに対して離れるものかとしがみつけば、周りは笑いの渦に変貌した。
「ナミ!抱き着くなら俺にしとけ!」
「ヤダ!エースがいい!」
「子供か!」
「エース暖かい……」
そんな訳でエースに抱きついたまま、暖かさにより幸せに包まれながら眠ってしまった私は、船に帰ってから待っている地獄を知らなかった。なので私は平和な時間を満喫していたのだ。
この時、何故シャンクスが怒り狂っていたのかも、エースが何に落ち込んでいたのかも、皆が助けてくれない理由も分からないままにしていなければ、何か変わったのか。けれども、私は結局何も知らないままに、暖房器具から離れたくないとしがみついていたのだった。
結果は……推して知るべしである。