※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

182 / 284
バースデーイベント(光源氏18)side

 幼い頃からずっと見守り、育てて来た。途中1度は手放したが、紆余曲折を経て手元に戻って来た愛しい温もりを俺は二度と離せそうにない。

 再会してからずっと、3月になるとナミが俺に誕生日プレゼントを寄越すようになり、それが元で宴まで開くようになったが……待てよ?

 ベックの誕生日やルーの誕生日、ヤソップの誕生日だって祝った記憶がある。なのに、最愛の妻を祝った記憶がねェ!

 

 「ベックー!!」

 

 叫ぶ俺に無言のまま、なんだと言わんばかりに視線だけ向けて来る優秀な俺の右腕に俺は言葉を放つ。そうだよ、ベックなら知ってるだろ!

 ナミのビブルカードを俺にも本人にも言わず、勝手に作ってるような奴だ。何も知らないなんて、ある訳がねェよな!

 

 「ナミの誕生日いつだ!?」

 「知らん」

 「……嘘だろ」

 

 ベックが知らない?

 絶対にスリーサイズだって好みだって知ってて、ナミの立ってる姿で体調まで理解する男が、知らないだと?

 

 「聞き出そうとはしたが〝知らない〟とか言っていたんでな」

 「おい、それは……?」

 

 どう言う事だよ。なら、年齢はどうやって数えてんだよ。

 あんなに嬉しそうに家族の事を話すのに、その家族からもそうなると祝われた事はねェってのか……?

 

 「ナミは、戦災孤児で義母に義姉と共に拾われ、義姉は当時既に3歳で自分の名前も誕生日も知っていたから伝えられたが、当時1歳になるかならないかだったナミにそれは不可能だった」

 

 ベックは報告書を読むような無感情さで、淡々と現実を伝えて来る。それの意味する所は分かるが……そうか、その後は……!

 軽く殺気が漏れる自分を自覚しながら、拳を握る事で必死でそれを霧散する。守る為には、自分を全て消すしか無かっただろう過去を思えば苛立ちが募る。

 

 「なら、誕生日の代わりになる日はねェのか?」

 「あるらしいが、ナミが〝俺にも口を割らなかった〟んでな」

 

 それにより思い出すのは、私なんかと自分を蔑ろにするナミの言動。未来を見てしまう事があるナミだからこそ、自分の存在そのものを罪悪と看做しているのだと分かる。

 その為に、恋人となり2年、結婚して更に2年経った現在も、俺に何も教えなかったのか。自分は周りの奴らを祝う癖に、祝わせねェとは……どう言うつもりなんだ。

 

 「宴を開くぞ」

 「……どうやって聞き出すつもりだ?」

 「ん?そこはほら、チョットばかり……本気で襲って聞き出してみようかと思う」

 「…………殺すなよ」

 

 かわい子ぶって言ってみたが、長い間を開けてから言われたそれに、善処すると口にすれば呆れたような顔で3日と呟かれる。どうやら時間制限付きらしい。

 酷いなと言えば、それ以上はナミが持たないと言われれば確かにと思う。2時間で死にかけた売り物の女(夜の蝶)もいた事を思えば、それも当然の判断か。

 そういう意味では、か弱く脆いと思っていたナミも随分普通の女よりは頑丈なんだと知る。まァ、俺達と比べるのが悪いか。

 そうして部屋に居たナミを襲い聞き出したそれが数日後だった為に、慌てて部屋を飛び出して船医に叱られつつナミの誕生日を伝える。ありがたいと言うか、奇跡的と言うか、数日前では無かった事に内心で感謝した俺はおかしくないだろう。

 祝われる筈のナミが寝込んでる間に島に船を付けたが、人のいる島では無かったのもあり誕生日に贈る物に困らされる事となる。それでも……何かを送りたいんだよなァ。

 そう思って無人島としか思えない島を歩き回ると、妙に煌めく湖を見付けて足を止める。湖の底に何かあるのかと思う程で、だからこそ俺はグリフォンを置いて衣服を脱ぐと湖に潜ってみた。

 そして丸っこい石が幾つも落ちているのが分かれば、それに手を伸ばす。宝石じゃ無さそうだが、なんだこれ?

 最初に触れたそれはただ黄色っぽい透き通っている物だったが、次に手にした物の中に虫が居るのを確認して琥珀かと気付く。そうなるとここは最近出来た湖で、長い事土の中にあったのかと1人納得する。

 水の中でその姿を保ってるとは奇跡だなと思う。それに、色も豊富だ。赤や青もあり、これだけあるなら色々と加工できそうだ。

 本来琥珀だけは他の宝石と異なり、中に何かがある方が価値が高いんだが、ナミは虫が苦手だからなと中に何も無い形の良い琥珀を拾い集めて行く。その途中で、中に鳥の羽が入り込んだ物を見付けてそれは拾う。

 そうしてそれらを持って湖から出るとベックがタオルを投げて来て、読まれてたらしいと気付く。タオルの代わりに戦利品を渡せば、それを眺め始めて楽しそうに口の端を僅かに上げた。

 

 「何にする?このまま渡すのか?」

 「琥珀を連ねたネックレスと、羽が入ってるのだけネックレストップにしたいと思ってる」

 「なら、船大工にでも託しておく。……ネックレストップの方がナミは身に付けやすいだろうな」

 「だから、両方なんだろ。琥珀でそんなネックレスは普通ねェから、使う場所選ぶだろうが、琥珀のネックレストップなら笛と共に身に付けさせられる」

 

 俺の言葉に喜ぶといいなと言って笑うベックにタオルを投げ返し、身支度を整えると並んで船へと戻る。そこでふと思い出して、ベックに問い掛ける。

 

 「エースもナミの誕生日知らねェのかな?」

 「あァ……多分な。ナミが16歳の時だったか、エースが挨拶に来たのは」

 

 懐かしそうに瞳を細めたベックに、そうだなと言ったが視線を反らしちまう。それは、漸く恋人となったばかりの頃であった為、共に行こうと誘うエースを笑って見ていたナミを虐め倒した気まずさを隠す目的もある。

 だがそれはベックには効果が無くて、大切にしてやってくれと笑われちまえば、頷くしか出来ない。何をしても許して受け入れちまうナミだからこそ、俺が気を付けないといけないのは分かってるんだが……つい、やり過ぎてしまう。

 それがベックには不満であり、心配なのだと分かる。可愛い妹って事になってる表向きと、内心の違いは分かってて……それでも俺は、ベックにでさえナミは渡せそうもねェ。

 

 「……妙な事は考えなくていい。俺は、アイツが笑っていれば、それだけで充分だ」

 「ベック」

 「俺の命と忠誠、夢はアンタに託してある。それにアイツが加わっただけの事だ」

 

 そう言って優しく笑うベックに、こんな顔を女に向ければ誰でも簡単に落とせるだろうなと思った俺は、非道かも知れないな。ベックが他の女に意識を向けるなんて、考える事も出来ねェんだからよ。

 

 「……そっか、ありがとな。これからも頼むぜ、相棒」

 「あァ、アンタの隣は俺にしか務まらんだろうからな」

 「どういう意味だそれ!?」

 

 叫ぶ俺にベックは喉で笑うと、琥珀に視線を移し小さく虫はいねェなと笑った。そんな姿に、心で1度だけ謝罪して、同時に感謝する。

 最悪の時、どちらかだけでも生きていれば、ナミを守っていけると信じられる相棒だから、自然と笑みが浮かぶ。さて、ナミの産まれた日を共に祝おうか。

 俺達にとって恐らく他ではどうにも出来ない程に大切な愛しい存在だから、必ず守りたいと願っているのだ。そんな護られるべき相手が、自分を蔑ろにするのをそのままには出来ない。

 俺はベックとナミがいて、漸く立っていられる。ベックが右腕ならば、ナミはきっと俺の左腕だ。

 そうして準備が整ったのは当日の昼で、内心の焦りを隠しながら宴の主役を迎えに行けば楽しそうに歌う姿が見えた。聞き惚れそうな程に優しい歌声に、少し泣きそうになったのは、何故なんだろうな。

 蜜柑の世話をしながら歌う姿は何処か神聖なものに見えて、きっとナミは海賊になりたくてなったんじゃねェんだよなと思う。お前は、それしか生きる術が無かったんだよな……と。

 そう思ったら自然と抱きしめていて、柔らかいその身体が細くて頼りないから、消えちまうんじゃねェかなって不安になる。どこにも行かずに、ずっとこの腕の中に居てくれと願う俺に、そんな事を知りもしない癖にナミは当然のように身を預けてくる。

 

 「帰りたくなったか?」

 「何処に?」

 

 何を言われてるのか分からないらしいその表情に、ただ、愛しさが募る。ナミ、俺の女神。

 そっと唇を落とせばそれに迷わずに応えてくれるのは、愛情からだろうか。俺より若いから長生きするなんて、そんな保証が無いこの海で、お前だけは喪えないとの想いを乗せて深く貪れば角度を変える為の僅かな隙間でナミが笑う。

 幼子を見守る母親のような雰囲気で、けれども歳に見合わぬ妖艶な笑みを浮かべて。そっと俺の頬に触れて、ナミは甘やかな声を出す。

 

 「……ばかね……」

 「ん?」

 「私の帰る場所は、ここだけよ」

 

 その言葉に衝動的に抱き締める腕に力を込めれば、苦しそうに声を漏らす。それを聞きながら、耳元でそっと囁くフリをして大声で言う。

 

 「たまには苦しめ!」

 「シャンクス最低!本気で苦しいんだけど!?」

 「そうだろうな、俺は苦しめる為に抱いてる」

 「威張るな!」

 

 ギャーギャーと騒ぎ合う、こんな些細な事が俺は楽しいんだよ。俺はナミがいれば、いつでも笑っていられる気がするんだ。

 その状態からヒョイッとナミを抱き上げて皆の所へ連れて行けば、突如始まる宴。それにはナミも驚いた様子で、それから困ったような顔をする。

 だから俺は既にあるネックレスに重ねるように、完成したばかりの琥珀の連なったネックレスをかけて、小さなその手に琥珀のネックレストップを持たせる。それに驚いたような顔をするナミの耳にそっと唇を寄せて言う。

 

 「愛してる、ナミ。これは俺の気持ちだ」

 「え、でも……なんで……?」

 「ナミの誕生日だろ。祝わせろ。……それにな、お前が産まれてくれたから、お前の村は助かったんだぜ?」

 

 ナミが関わってなきゃ、俺は助けたりしなかった。東の海に行く予定が無かったからだ。

 そう言えばナミは泣きそうにその表情を歪めて、小さく聞いてくる。震える声で。

 

 「私、産まれてきて、存在してて、良いのかな……」

 「存在して貰わねェと困る。俺の為に、生きろよ」

 

 それにより漸く笑ったナミを抱き寄せてキスをすれば、ナミの目尻から涙が1筋流れ落ちる。それが美しく神聖なものに見えたのは、俺がナミを神聖視してるからだろうな。

 Happy Birthday ナミ。男が女に贈ったネックレスに使われてる琥珀が持つ石言葉は、長寿、抱擁、大きな愛……そして、家族の繁栄。




エース、会いに来てたのか。と、書いてて思いました(何)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。