3度目の正直で漸く結婚すると言わせる事に成功したのは、2年程前だ。その後結婚の為に1度東の海へ行き、ナミの家族に挨拶方々式を挙げて……現在。
クルーには蜜月をいつまで続けるつもりだと冷やかされるが、俺としては代わり映えのない幸せな時間が流れていた。確実に幸せだと断言出来る時間が過ぎている。
その中で、コレだ。今朝船を降りると言ったナミに着いていこうとしたら、キラキラした瞳で新しいインクが発売になったから試したりするから時間かかるけどいい?と聞かれて見送ったのが悪かった。
嗚呼、俺のミスだよ。あんなにも可愛く美しい妻が、狙われねェ筈が無かったんだ。
だが……言っちゃ何だが、ナミを捕えられる相手は限られる。俺でも隙を見せればナミに逃げられるんだって事を考えれば相当だぞ、あいつの実力は。
だが同時に、何かを守る時のナミは簡単に自分を犠牲にする癖がある。居場所は分かるが、さて……どうしたものか。
呼び出された場所に偽りはないだろう。時間もまだある。
俺1人とのご指名だ。……ある意味で良かったな、お前達。
俺1人ならば、普通に死ねる。だが、ベックが1緒なら……死なせてもらえねェぞ?
俺は殺してやる方が優しさだと思うんだが、ナミは泣くだろうか。優し過ぎる妻の悲しげな顔を思い浮かべつつ、そっと船を降りる。
多分近くに隠されてる筈の、ナミが守った存在を探して保護しておかねェとな。ナミを捕らえる条件は、女子供年寄りのどれかを人質にするか何かしたとしか思えねェ。
……あっちか。煙の上がる場所を見付けて向かえば案の定雷が落ちたであろう形跡が見受けられる。
ならばこの近くで不自然に綺麗な所はと見渡せば、あった。姿は見えないが、相手が動けば見えるようになるだろうと思い、声をかける。
「無事かー?俺はオレンジの髪の女の身内だ。助けに来た」
「……あ、あかいかみだ!ねぇちゃん、あかいかみ!」
「ほんとだぁ!おじさん、お姉ちゃんのだんなさん?」
姿を見せた2人の子供に、やっぱりかと思うのと同時に既視感を覚える。なんだろうかとじっと見て、気付く。
こいつら……ナミとルフィみたいなんだ。賢そうで警戒心の強い少女と、無邪気な様子の何も考えてなさそうな素直な少年。
しゃがんで視線を合わせれば少年は何の衒いもなく話し始めて、少女は少年を背後から抱きしめて少し警戒している様子を見せるが、同時に少し何かを考えている様子だ。そんな所まで、よく似ている。
「……あァ、そのお姉さんどっちに連れていかれた?」
「あっちのイワヤマのほうだよ。そんでね、あかいかみのおとこのひとか、くろいかみのたばこすってるおとこのひとがくるから、まっててっていわれたんだ!」
「……なんでか分からないけど、わるい人たちわたしたちがここにかくされたあと、わたしたちのことが見えなくなったみたいだったわ。お姉ちゃんがうごかなかったら、だいじょうぶって……」
「お姉さんは隠したりするのが得意なんだ。大丈夫だ。あのお姉さん強ェんだぞ」
言いながら笑えば、少女はホッとした様子で肩から力を抜いた。おいでと手招くと、二人共素直に寄ってきたので抱き上げて1旦船に帰る。
俺の姿と、2人の子供の姿を確認した面々は少し笑い、何人かが迎えに来た。そして、2人を託せばベックが静かに問い掛けてきた。
「本当に、1人で行くつもりか?」
「……ご指名だからな。だから……ベックは皆とコイツらを頼む」
「子供は、苦手なんだかな」
「なァに言ってやがる!ナミとルフィに激甘だったじゃねェか!」
笑って茶化してみれば、ベックは煙を吐き出しつつ笑った。そして、静かに言葉を口にするが、その表情は酷く優しい。
「ナミを子供扱いした事はねェぞ。……アレは、昔から子供らしくなくて、しっかりし過ぎていた。ルフィはお頭と似てたからな」
「どういう意味だよ、それ」
「そのままだ」
そう言って笑ったベックの瞳は少しも笑って等いなくて、俺も同じだろうなと思う。ベックはいつもそうだ。
いつでも、ナミの事になると優しい顔をして、そしていつも余裕がねェ。結局の所、俺もベックも同類なんだろうな。
そして、ベックはナミが幸せならばそれでいいと、本気で思っていて、俺は俺の腕の中に居てくれないなんてのは耐えられねェって訳だ。さァて、龍の逆鱗に触れたらどうなるか……心行くまで堪能して貰おうか。
歩き出した俺に誰も何も言わなかった。そんな中で、背後から飛んで来たのは、助けられた姉の方の涙声。
「お姉ちゃんのこと、助けてあげて!お姉ちゃんを買いたい人がいるって、そう話してたの!」
俺はそれに片手を上げて反応すると、そのまま足を進める。闇に通じていて、ナミを即座に買いたがる奴なんざ、そう多くねェ。
鷹の目ならば、見せろとか言って乗り込んで俺の船に帰すだろう。鷹の目はアレで義理堅い上に、ナミに嫌われる事を恐れている。
まァ、帰す前に味見はするんだろうが、それはある意味不可抗力だ。だが、迷い無く〝買う〟事を選択したのならば、天夜叉だろう。
まだ、諦めてなかったのか。そう思うと無性に苛立つ。
指定された場所には、ナミは居なかった。ならば普通に殺して回って問題ねェな。
ナミが居たら覇気で眠らせる予定だったが……連れて来なかった己の浅はかさを呪え。ただ、覇気で眠らされたんじゃなくて良かったと、お前達は思うかも知れねェな。
それならば、ナミを俺が連れ帰ってから……大量の兄貴や父親に、お前達……何も残しては貰えなかっただろうからな。それにしても、ナミは何処だ。
「ナミは無事か」
「ん?あァ……奥の部屋で、ご主人様好みになる為にいい子にしてるぜ。そして、お前の首を取り俺達が四皇になる!」
それから鬨の声をあげるのを聞いて、ナミに何しやがったと睨む。それだけで声が消えて、何人かはそれだけで立っている事さえ出来なくなった。
ナミならば、俺の覇気を受けても睨み返してくるってのに、その程度の奴等がナミに何をしたのか。何が四皇だ……俺1人倒した程度でそれがつとまるかバカ者め。
「馬鹿だな……お前ら……」
「あん?」
「ナミに手を出すとは……余程、地獄を見たいらしいな」
さァ……望み通り見せてやろうか。狂宴の時間は、そうして幕を開けた。
返り血を浴びねェように切り刻んだが、それでも少し臭ェな。ナミが気が付いて嫌な顔するんじゃねェかと考えると、それが憂鬱だ。
微かにさえ動く者のない中で、風が血の臭いを散らして行く。そんな中で俺は先を……ナミを目指して歩き出す。
先へと進めば動く者があり、それを斬り捨てていく。狭い道になると、血を躱しきれずに多少は浴びちまうな。
俺のコートが黒いのは、いざと言う時に血の汚れを目立たせない為と言うのもある。そうしねェと、ナミが気にする。
責めたりはしねェし、俺をまずは心配するがやはり誰かの命を奪う事には抵抗があるらしい。海賊とは思えない甘さだが、そんな所も含めてナミだからな。
覇気で探って見付けたナミは、あの日を彷彿とさせる真っ白なウエディングドレス姿で吊るされている。舌を噛ませない為か猿轡をされている状態にありながら、ナミは焦点の合わない瞳で侵入者である俺を睨み付けてくる。
苦しそうな呼吸だったのに、誰かが入って来たと気付いた瞬間からその呼吸さえ落ち着いた。そんなナミに俺は、深い溜息を落としてしまう。
それは俺だとわからない事ではなく、その反応が男をその気にさせると理解してない所にではあるが。そっと歩み寄りその体を抱き締めて腕や肩にかかる負担を軽減してやると、その瞳が俺だと認識した事を告げて来る。
「意識があって、怪我も特に大きなものは無さそうだな」
そう言いながら鎖を解き、猿轡を外してやればナミは長時間吊るされていたのだから、まともに動かすのも痛いだろう腕で俺に抱き着いてきた。弱々しいそれに、売られてなくて良かったと思う。
売られていたら、四皇と七武海の戦争となっていただろう。天夜叉の為に着せられたであろう白のドレスが、似合っているのもまた苛立つ原因だろうか。
「シャンクス……助けに、来てくれた、の?」
「当たり前だろ」
「だって、私……呼ばなかった。巻き込みたくなくて、何も言わなかったのに……」
「ナミ、ちゃんと俺の名を呼べ。そうすれば少しは牽制になる」
それに対してナミはいやいやと首を横に振る。涙を浮かべた瞳で真っ直ぐに俺を見て、囁くように言うのだ。
「嫌よ。皆に迷惑かけるくらいなら、私は死にたい」
「巫山戯るな!ナミの全ては俺のモノだ。死神にも、ナミは渡さねェ」
「シャンクス……」
その場でナミに苛立ちをぶつけるように口付ければ、その瞳から涙が漸く零れ落ちた。……泣いとけ、この薬は感情を溜めとくと良くねェからな。
近くに使われた薬のケースがあり、それにより判断したが……泣き顔に唆られるとか言ったら、ベックとヤソップに撃ち殺されそうだな。そっと唇を離すと、こんな状態なのにナミは言う。
「シャンクス、子供達が森にいるの。助けてあげて」
「お前な、今自分がどんな状態にあるか認識してるか?媚薬で体可笑しくされて、吊るされてたから身動きもまともに取れなくて、意識があるのが奇跡だって分かってるか?」
「シャンクス、お願い。女の子と、男の子で……「もう保護してあるから、安心しろ」」
俺の言葉にナミはホッとしたように笑うと、良かったと呟いてその体から力が抜けていき、直後に意識を失った。そんなナミを強く抱き締めて、俺もまた漸く体を震わせられる。
ナミが生きていてくれた。自我も保っている。
他の所はこれから治療するとしても、ナミが無事だったと言える状態にあり、漸く理性を取り戻せた気がする。切り刻んだ道を通らずに帰るのは無理だったから、眠ってくれて良かったと、意識のないナミに思う。
さァ……帰ろう。怖いお兄ちゃん達が、残党狩りをしたくて待っているだろうからな。
さァ……帰ろう。俺達の大切な仲間の元へ。
もう二度と、こんな目には合わせねェと誓い、俺は意識のないナミの頬にキスをしてから立ち上がる。俺の愛妻は、今日も変わらず美しい。
結婚式のリクエストは受けてるので、来月か再来月には書けるかなと思ってます。