結婚して約2年、色々な事が落ち着いたかに思われた頃ナミが攫われ、連れ帰ってからはそれはもう恐ろしい事態になった。俺はその時に誓った。
ナミだけは敵に回すまいと。何せ俺のクルーが総員、全力で暴れだしたのだ。
俺に何かあってもここまでじゃ無いだろうなと思う程の勢いで暴れるクルー。それに、まさか俺がこれ止めるのかと意識のないナミを抱えて寒気にも似たものを感じたのはつい先日の事だ。
それからナミも回復し、クルーも落ち着いたので少し2人の時間を作ろうとナミをホテルのBARへと誘って見たのが今朝。で、現在2人で呑み明かす勢いで呑み続けているところなんだが……。
「夜景が綺麗だと聞いてきたが……失敗した」
「え?」
「この世に、ナミより綺麗なものなんか何も無かった」
「シャンクス……」
そう言って少し俯いたナミは、綺麗より可愛いの方が合っているかも知れないな。そう思って見ていたら、ナミがメニュー表を見て楽しそうに笑うので、その視線を辿る。
そこには、ナミとは無縁だろうカクテルの名前が記載されていると気付く。名前だけなら、ナミに似合うカクテルだけどな。
と言うか……ノンアル系もいくつか扱ってるのか。まァこのレベルの店なら、置いていてもおかしくは無いな。
プッシーフットカクテルも、シンデレラカクテルもアルコールは皆無だ。この2つのカクテルはオレンジジュースとレモンジュースを混ぜ合わせた物に、何を加えたかと使われるグラスの種類で名前が変わるだけという、フルーツジュースと呼ぶのが正しいような代物。
「私の書いた作品に〝白雪姫〟って言うのがあるのは知ってる?」
突然のナミの問い掛けに、だが確かに知っているので頷く。俺はナミの作品には、全て目を通している。
「どうかしたのか?」
出されたカクテルを呑みながら、ナミは笑う。その唇がアルコールで湿っていて、誘われているような気持ちにさせられる。
「騙されて毒の林檎を食べさせられたお姫様は、王子様からの優しいキスで息を吹き返すんだけど……まぁ、実際には有り得ないわよね」
自嘲的に笑うナミに、珍しく酔っているらしいと気付く。それとも、ナミなりに甘えているつもりなのだろうか。
「好きな人からのキスで目覚めるとか、憧れるわ」
「キスで毎朝起こしてやろうか?」
思わず声に出したのは陳腐な台詞。それにナミは1瞬驚いたような顔をしてから、はにかんだような幼い笑みを浮かべた。
「……お願いしちゃおうかな」
悪戯なその言葉に息を飲んだ直後、ナミが風に当たってくると立ち上がるのを止める事ができなかった。こんなに酔っているお前を1人で表になんか行かせられるかと、勘定を置いて立ち上がった時ナミが転んで頭を打った。
本当にどうしたんだと慌てて駆け寄る俺を、何処か虚ろな瞳で見詰めて来る。それにより、背筋に何か冷たいものが走った。
「ナミ?どうしたんだ、ナミ!?」
ナミの手が縋るように俺に伸ばされる。その手が助けを求めていると分かり、心臓が嫌な音をたてるのを聞いた気がした。
「必ず、迎えに来て」
「ナミ?」
呟くように言われた言葉に、嫌な予感が最骨頂に達する。何度もナミを呼ぶ俺に、けれどもナミは目覚める事が無い。そこに医者を名乗る老人と、BARの店主が駆けてきて、ホテルの1室を用意してくれた。
なんだって、こんなに嫌な予感がするんだろうな。……ナミ、早く起きて俺を安心させてくれ。
「……気絶しているだけですが、何かありましたらお呼びください」
そう言って去る医者に、何かあるのかと余計に心配になる。寝ているようにしか見えないナミの手をそっと包むように握り、早く目覚めてくれと祈るように願う。
その時、ナミの瞼が痙攣してゆっくりと開かれた。そして俺をその瞳に映した時、俺は〝違う〟と感じて息を飲む。
「どちら様ですか?」
「……俺が、わからないんだな?」
「え?えぇ……」
そっと左手をとって、指輪にキスをするとナミは不思議そうに指輪を見て、直後に頭を押さえた。そして、微かに瞳を揺らしながら問い掛けてくる。
「この、指輪は?
「ナミは、俺の妻だ。ほら、揃いだろ」
指輪を見せればナミは怯えたような表情で俺を見て、小さくベックと呟く。それで気付く。
「……まさか、ナミ、ベックの事は覚えてるのか?ヤソップは?」
「同じ船にいますもの。分かりますわ」
「ナミは、航海士だよな?」
「えぇ!」
俺の言葉に嬉しそうに笑い頷くナミのそれは、陰りのない綺麗な笑顔だ。航海士である事に誇りを持っているのだと、伝わる。
「なら、その船長は?」
「え?……あ、わかり、ません。私……船長を知りませんわ」
問い掛けた瞬間、1気に血の気の引いた顔で、泣きそうにその表情を歪めて……それでも涙は零さずに俺を真っ直ぐに見詰めて、言葉を口にする。それにより記憶はなくても、ナミなんだなと思わされる。
「私は、貴方の事だけを忘れているようですわね。旦那様……それとも、船長とお呼びした方が?」
「賢さはそのまま、声も体も変化無し、俺が記憶から抜けた為にある謎の空白に戸惑いつつも、それ故に俺が嘘をついているとは考えねェ……か」
「あの……?」
「思い出すか、試してみるか?」
「旦那様?」
ゴクリと喉が鳴る。不味い、この〝旦那様〟は不味い。
精神が無垢な状態に戻っているだろうと分かっていて、俺とは初対面状態だと分かっていて、止まれなくなる。俺の、愛妻。
簡単に脱がせられるデザインの服を脱がせれば、遅れて抵抗して来る。その抵抗の仕方が、いつもとは全く異なる。
「イヤッ!お辞め下さいませ!私、そのような事……!あっ……んんっ」
胸に吸い付けば体は反応する。羞恥からでは無い抵抗なんて、初めてされてるが……これは、煽られるもんだな。
「いやぁぁぁ!ベックー!」
「ナミは、俺の妻だ。他の男を呼ぶな」
「な、ならばお辞め下さいませ!」
「穴の空いた記憶のまま船に乗れると思うのか?」
俺の言葉にナミはビクリと肩を揺らして、ですが、ならばどうすれば……と、落ち込んだ様子を見せた。それに俺は悪魔のように囁く。
「だから、試したり確認したりするんだろ。いつも、俺に抱かれてきたんだからな」
「そ、んな……わ、わたく、し……」
怯えたような顔で、だがその瞳に微かな熱が宿っているのが見える。この瞳は、出逢ったばかりの頃のそれと、何処か似ているな。
「足、開けよ。試すぞ、1つずつな」
「そのような事、私できま「ベック呼んで、押さえてもらうか?」」
「え?」
「俺の〝命令〟であり、ナミの記憶を戻す為だと言えば、手伝うだろうな、ベックは」
言ってからにこやかに笑えば、ナミは泣きそうな顔で嫌……と小さく呟いた。それに可愛いやつだと思いながらもう1度足を開けと命じれば、おずおずとそれに従う。
顕になった秘部を見詰めれば、恥ずかしそうに顔を背けるナミがいて、そんな反応は変わらねェなと思う。お仕置きで何度かやらせたが、毎回こんな反応だもんな。
秘部にそっと指を滑らせれば、ビクリと反応するその体。……今なら、何でも従うかもな。
……記憶戻ってから殴られるかもとか、そんな事を考える余裕も無く、俺はナミに言う。これは、確認と実験だから、声を押さえるなと。
それによりナミは素直に鳴く。可愛いその声を抑える事なく喘ぐそれに、先程ベックを呼んだ事は許してやろうと思いながら問い掛ける。
「気持ちいか?ナミ」
「あぁっ!きか、ない、で……くださっ……ませ!」
「何言ってんだ。確認し無かったらやってる事が無意味だろ」
実際はただ、何も知らない無垢なナミを弄びたいだけだが、そこは教えるつもりなんてねェ。そんな俺にナミは瞳を揺らして、小さく頷くが……普段なら言わない事も今なら言わせられると確信して、命じる。
「言葉にして、答えろ。従えねェなら、ベックを呼ぶぞ」
「いや!呼ばないでくださいませ!お願いします!」
「なら、答えろ……ナミ、俺に触られて、気持ちいいか?」
「はい、気持ち、良いです……」
目元を赤く染めて、震える声で答えたそれに、痛い程に俺のそれが反応する。やべェよ、これ……。
俺の問いかけに素直に答えながら、愛らしく鳴く俺の子猫。だが……誰にでも、こんな反応するんだろうかと考えたら俺は嫉妬の余りにナミを犯していた。
体の反応はいつもと同じなのに、その瞳が俺のナミじゃねェ上に、ベックベックと助けを求めて泣き出す。その癖素直にいつもなら言わない事を口にして、喘ぐから止まれなくなる。
お前は……俺の女だ。俺しか知らねェ体が、俺を拒むなんてできる筈ねェだろ。
「んぁ!そこ、気持ちっいい……!だんな、さまぁっ」
「いい子だ。ここだな?」
「あっ……や、だんなさ、まァ!そこ、ダメッ!」
「気持ちいいならっ!駄目じゃねェだろっ!」
「やぁあああ!」
ビクビクと体を痙攣させて、だがいつもとは違い俺に伸ばされる事の無いその腕。愛しそうに見詰める優しく穏やかな瞳も、今は俺に向けられる事が無い。
嫌と言う度に、言い直せと躾れば素直に〝気持ちいい〟と繰り返すナミに、何時もなら死んでも言わないなと思わされる。そんな時、ナミが言う。
「も、やぁ……!」
「気持ちいいなら、嫌と言うなって教えてるだろ」
「よ、過ぎて、おかしく……なっちゃ……ぅ……。こわ、い……なにも、考えられなっ……!」
何だこの生き物。もう、何も考えなくていい。
俺に、ただ、愛されていたら良い。接続部から溢れ出すそれが、どちらのものであるのか既に解らねェ。
中に何度も放ち、その度に悲鳴をあげて縋るように俺を見るナミに、その瞳が違うと痛感させられる。なのに、いつもは言わない言葉を口にして、素直に喘ぐその姿に煽られる。
「だんな、さまっ!も、ゆるし、て」
「あ?ナミは、どんな悪い事をしたんだ?」
「だんなさま、のこと、忘れて……ごめんなさい。かなしませ、て……ごめんなさい」
……あァ、ナミだ。そう思うのは、この甘さが原因だろうか。
夫を名乗る他の男が現れたら、今のナミはやはりその男にこうして体を差し出すのだろうかと考えちまったその時、ナミが泣きながら言った。
「も、や……だ。助けて……ベック……」
頭が真っ白になり、俺は手加減する事を忘れて何も知らない状態に戻っているナミを激しく貪る。腰を押さえてピストン運動を繰り返せば、既にナミの口からは言葉なんて出て来ない。
俺以外の名を呼ぶ唇は、声は、必要ねェ。俺に、全て差し出せ!
流れ落ちるその水分は、涙なのか、汗なのか。意識を朦朧とさせながら、力無く四肢を投げ出している姿にふっと切なくなる。
ただ、犯してもスッキリするのは体だけで……心は冷えて行く。喘ぎながらも俺を拒絶するナミの首に、俺はそっと触れた。
少し力を込めれば、今のナミならば簡単に死ぬだろう。どうやら、覇気も使えなくなってるらしいからな……。
「や……ぁ……ん……!」
少し動くだけで喘ぐナミに、普段はどれだけ頑張って声を抑えているのかと思わされる。俺を呼ぶそれが、いつもとは違い〝旦那様〟であるのは腰に来るが、名を呼ばれない事は……胸に来る。
初めて会ったあの日から、ナミは俺の女で、俺のモノで……でも、そういや初めて会った時は手負いの獣みたいだったなと思い出す。そして、意識を失う直前に俺のナミが言っていた言葉を思い出した。
「ナミ、俺の姫。俺の女神、帰って来い」
帰って来ないと、殺しちまう。ベックを呼ぶ別人みたいなお前を、俺は嫉妬で殺しちまうよ。
そっと重ねた唇を、他の全てを拒んでいたナミが静かに受け入れた。静かに涙を零して、んっと可愛く喘ぐ。
そして……唇を離した時、そっと開かれたその瞳には、俺の愛した強気なそれが見えた。ゆっくりと俺を見て、それから真っ赤になって、覇気を纏った腕で俺を殴り飛ばすと俺から逃げ出して行く。
動けるのか、俺の女神の状態にあれば。なら、俺の女神はその体にいつも、どれだけ無理をさせていたんだと問い詰めたくなるのを抑える。
1糸纏わぬその姿で、シーツを体に巻き付けて、電伝虫を持って風呂場に向かうと中から鍵を掛けられたが……破壊するのは簡単だって分かるだろうに。恐らくは中でベックに心配しないでとか連絡入れて、シャワー浴びて、気持ちを落ち着けてから出て来るだろう。
その間にBARのマスターを呼び、記憶を失っているから少し落ち着くまで部屋を借りていたいと伝えれば、何故か素直に分かりましたと頷かれたのがわかる。……詳しく話を聞いてみれば、理由は不明だがこの界隈ではよく有る現象だと言われた。
新しいシーツ等を少し貰って、ベッドを整えた所にシャワーを浴び終えてナミが出てきた。相変わらず、貪りたくなる色香を放ってやがる。
髪から雫を落とすナミを捕まえて、やっと帰って来たと思いながら言葉を落とす。情けねェ事に、俺の腕は震えているだろう。
「お帰り、俺の女神」
「……にゃー!」
「なんだ、まだ鳴かされ足りねェのか」
「冗談よ。少し混乱してただけ。……ただいま、シャンクス。迎えに来てくれてありがとう」
凛とした様子のナミに、これでこそ俺のナミだと思う。それにしても、殴る事ねェだろ。
「シャンクス、
「そうなのか?」
「ええ、何も覚えてなかったのに、嫌われたくなくて……悲しそうな顔をされると苦しくて……それで、どんなに恥ずかしくても従っちゃってね。だから……分かったの」
「ん?」
ナミは首を傾げた俺に腕を伸ばすと、甘えるように擦り寄り、抱き着いた状態で笑いながら言った。その甘い囁きは、誘われてるようにしか思えない程。
「シャンクス……私ね、きっと……何度忘れても、何度でもシャンクスに恋をするわ。だからお願い、何度でも迎えに来てね」
「約束する。何度でも、何処まででも迎えに行くってな」
俺の言葉を聞いたナミは、愛してると俺の耳元で囁いてから、そっと俺をベッドに押し倒して来た。何も知らない怯える私を良いように弄んで、恥ずかしい言葉を散々言わせながら抱いたんだから、今度は私の番でしょと妖艶に微笑みを浮かべて。
俺の女神は、こうだよなと思いながら、俺は思い出した事を口にする。アレは腰に来た。
是非ともまたやって欲しい。たまには気分も変わって良いだろ。
「たまには〝旦那様〟って、呼んでくれても構わねェぞ」
「……ご主人様、ご奉仕させてくださいませ」
「なんだ、それ……いいな、そう言うのも」
「シャンクスの変態。ばぁか!……え?嘘やだ!ホントに元気になってるし!」
頬を染めながら、それでも本当に俺に触れてくれるナミ。それに喉が鳴る。
「やれる所までやってみろ」
「……後悔させてあげるわ、その言葉」
「抱いてください、旦那様……そう言う事になるんじゃねェのか?」
「俺の愛しい女神、どうか抱かせてくださいって……哀願させてあげるわ」
強気に笑ったナミを見て、それだけで元気になった俺は……確かに変態だろう。愛しい女神が帰ってきたなら、他に望む事等ありはしないのだと痛感させられながら、俺は甘い快楽に身を委ねた。
どちらが負けて哀願したのかは、俺は誰にも教えるつもりはねェぞ。……畜生。