やっとの思いでガープを追い返した俺達は、2日程適当に海を彷徨い、その後は少しゆっくりとした時間を過ごしていた。そこへ現れたニュースクーに、俺達とガープの豆合戦が載ってるんじゃねェかと笑い合う。
だがニュースクーは俺達を素通りしてナミの元へと向かうから、相変わらずだよなと笑い合う。ニュースクーが飛び立つ直前に俺達の所に新聞を落として行ったので、金はナミから受け取ったらしいが扱い雑だよなと言って、また笑いに包まれる。
そんな時ナミの歌声が聞こえてくれば、折角だから飯にしようかとナミを呼びに行く事になった。意識が戻ってる時じゃねェと、飯を食わせられねェからな。
部屋の入口に立つと同時に歌が終わり、ナミは俺に気付いて振り向く。その瞳が泣いているから、どうしたんだと思いながらもそれを問うより先に泣かせてやりたくて手を広げれば、迷い無く飛び込んで来るその温もり。
か細い肩を震わせて、泣くのを耐えて、代わりに甘えているのだと分かるその様子に何かあったのかと心配になる。ナミに酷い事をする奴なんて、この船にいる訳ねェから、そうなると……?
「ナミ、どうした?嫌な記事でもあったのか?」
「違うのよ。ただ、海賊一番くじが当たったの。重箱に卵焼きとか詰めて、お花見とかどうかしら?……でも、難しいわよね」
言葉を口にしながら勝手に落ち込む様子に、何か難しいだろうかと少し考える。……難しくもねェだろうが、問題はあるか。
まァ、その辺はベックに任せちまえばいい。ナミが望んだ事なら、奴に不可能はねェからな。
そっとナミの頭を撫でれば、驚いたような視線を向けてくる。まるで撫でられる事を、少しも予見してなかったかのような。
「宴なら大歓迎だ!やるぞ!ナミの手作り弁当は俺が食い尽くすから他の奴にやるなよ?」
明るく笑って言ってやれば、ナミはふわりと笑う。お前より綺麗な花なんかあるもんかと、こんな時いつも思わされるんだ。
甘えるように擦り寄るそれに、本当に珍しいなと笑いその旋毛に軽く口付けを落とせば、ナミが俺を強く抱き締めてくる。いや、抱き着いてくる……か。
甘えるその姿に心が満たされる。本当に、ナミは俺を翻弄する天才だよなと思いながら、その髪を指に搦めてそっとキスをした時、ルーが顔を出した。
「お頭、ナミに飯食わすんだろ。いつまでも戯れてねェで早く連れて来いよ」
「はいはい、わかつてるよ〝ルー〟」
「ナミの影響力って凄ェよなァ」
「確かにな。人の名前まで変えちまう」
「なんの事??」
本当は〝ルウ〟なのに、昔からナミが上手く発音できないのか〝ルー〟と呼ぶ為に、いつの間にか〝ルー〟になっていた。それは、分かってる奴らは愛称として、知らない奴らは本名として〝ルー〟と呼ぶ。
それを呼ばれる本人は呼ばれる度にニヤニヤしてんだから、どれだけナミを可愛がってるか分かろうというものだ。そしてまた、ナミもルーやヤソップには本当によく懐いていて、なんとも微笑ましい気持ちになる。
そんな訳で、俺達は食事をしながら花見についてベックに相談すると、少し考える素振りをするベックにナミが真剣な顔で声を掛けた。それにより何かあったらしいと気付いて、2人にしておく。
何か面倒な案件や難しい案件は二人で話し合って、纏まった事を重要度が高ければベックが、低ければナミが伝えて来る。それ迄待つしかねェかな。
「お頭は、二人のこと疑わしいって思わないんですか?」
まだ若い見習い上がりの坊主が、俺に挑むような顔で問い掛けてくる。それに俺は笑って、その頭を撫でながら素直な言葉を伝えた。
「疑わねェよ。……妬くけどな」
「疑わないのに、妬くんですか?」
「ナミは俺以外に触れられたら、その命を絶とうとする。それを知ってて、ベックが手を出すなんて有り得ねェし、ベックは俺を裏切る位なら死ぬさ」
そんな言葉に不満そうと言うか、理解できないとでも言いたげな顔をされる。まだ、ガキには早かったか?
それでも男なら分かるだろう。いや……そこまで深く愛した存在がいなけりゃわからねェかもな。
「ナミさんと、お頭って……結婚してるんですよね?」
「あァ、だからどうした?結婚してても、ナミはいい女だから心配なんだよ。すぐに他の男に狙われちまう」
俺の言葉にだったら妬かなくても……なんて事を言うそれに、幼いなと思う。分かってても、ナミの瞳が俺以外を映すなんてのは……妬いて当然だろ。
そうしてそれから数日後、花見の宴は開始された。近くにあった無人島に桜の咲く島があったのは、あの時窓から舞い込んできた花弁のおかげで発見できていたが、生憎の天気と何故か花見をできる環境になるまで待てと言うベックの言葉で、待機させられていたのだ。
聞けば猛獣が多くて、花見の途中で血生臭くなるのが確実だったから少し掃除してきたらしい。そうして始まった宴のメニューに肉が多いのは、その猛獣の為だろう。
それでも足りなかったら勝手に焼いて食えとの言葉で、生肉がどんと置かれているので、それぞれが刀や剣で切り裂きその場で焼きながら有難くも皆喜んで食ってると言う訳だ。そんな中でナミが重箱を抱えて姿を見せれば、俺の分だなと分かり嬉しくなる。
「シャンクス……」
「ん?どうした?」
「お誕生日おめでとう」
「は?」
その瞬間クルー達から向けられた銃口に、は!?と思った直後、そこから放たれたのは紙吹雪で……。嘘だろうと思ってる間に、俺の名前が書かれた弾幕が広げられ掲げられた。
そしてナミが重箱を目の前に置いてから、クスクスと楽しそうに笑うと、そっと箱を差し出して来た。それを受け取ると、中からは俺がいつも使ってるのとほぼ変わらないサンダルが出て来て、ついナミを見る。
「そろそろ、くたびれてきたでしょ?多分問題ないと思うから、使って」
「……まさか、作ったのか!?」
「無理よ。シャンクスが寝てる間に足の形を取ってプロに頼んだのよ。軽くて、脱げにくくて、動きを阻害しないサンダルって事で」
「よかった。とうとう靴まで作るようになったのかと思って焦ったぞ」
「シャンクスが望むなら、作るけど?」
そう言ってそっと俺にキスをすると、重箱を広げてみせる。中からは俺の好物しか出て来ない。
なんと、1段が丸々ロブスターグラタンになっていて、次の段には飯……キムチ炒飯が入っている。その下には春のそれに相応しい感じの美味そうなメニューが出て来て、何とも言い難い気分にさせられた。
ロブスターが好きだなんて、教えた事あったか?
「炒飯はそのままがいいかなって思って、おにぎりにしなかったから責任持って食べ尽くしてください!」
「おう、任せろ!」
「ロブスターは味付け悩んで、グラタンにしてみました!殻も食べるんだろうから、乳製品使う事で少し胃に優しくしてみました!」
「おう、ありがとう!」
「……私も含めて、美味しく食べてね」
「おう……ってナミ!?い「私を食べるのは、夜、2人きりで……ね?」」
「はい」
嬉しくてそのまま喰らい尽くそうと飛び掛った俺を、人差し指で額を押さえるだけで止めてみせたナミは、案外怪力だよなと思う。そんな時妙な気配がして視線を向けるとガープが居て、何やら中身の動いているらしい袋を背負って近付いてくる。
モゴモゴと袋が動いているのは、なんとも奇妙だ。いったいどういう仕組みなのか。
「先日の事でセンゴクに叱られてな。詫びに飯でもと思ったが、宴か!なら儂も参加してやろう!」
そう言ってガハハハと笑うそれに、警戒するクルーだがこれはルフィの同族だ。こちらが攻撃しなければ、何もしてない来ないだろう。
「海兵が海賊と宴してていいのか!?」
「ロジャーとも何度かしていたじゃろうに!今更何言っとるか!」
そう言われちまえばその通りで、俺は笑いながらガープを受け入れる。そうして俺達はガープも加わった、妙な宴を楽しんで行く。
「その中身何だ?」
「赤髪が海老を好きだと聞いたんでな、似たようなモンを適当に捕まえて来た」
そうして取り出されたそれは、確かに多種多様な海老とザリガニ。俺は別に海老が好きな訳じゃねェけど、その気遣いに感謝してバーベキュー用に用意されてるそこで焼いて食うように考える。
その様子を見ていたナミが、オリーブオイルをかけながら食べるように指示をする。他にもいくつか用意した調味料で味付けをして、焼けた端から振る舞う姿に自然と笑みが浮かぶ。
花見の宴か、誕生日祝いか。まァ、呑めればなんでもいいよなと笑えば、ベックから差し出されたのは西の海の酒が詰まった1箱。
「俺からの誕生日プレゼントだ。どうせ今飲み尽くすだろうがな」
「おい……」
「呑んで、飲まれて、使い物にならなくなったら笑ってやる」
「それが狙いか!?最低だな!!」
俺とベックのやり取りに皆が笑う。そんな中でナミだけは花を見上げて嬉しそうに微笑んでいて、その様子に心和ませる男達。
乾杯、おめでとう、言葉は多く飛び交うが、次第に趣旨は見えなくなる。花より団子と言うが、確かにナミの弁当は美味いな。
それでも俺は、全て喰らい尽くすと約束したからと何故か八段もあるそれを、綺麗に食べ尽くしていく。デザートたる団子をどう食ってやろうかと、俺は花弁の中で微笑むナミの姿を見詰めながら、宴を楽しんでいる。