シャンクスは私が何かを頼むより早く、それは必要な事だからと言って白髭海賊団との繋ぎをつけてくれた。けれどもその連絡をする為に向かった人が門前払いをされてしまえば、どうにもならない。
相手が相手だから、戦闘になっていたら生命は無い。少し威圧されたりしただけでも大火傷のリスクがある相手なのだから、心配位する。
「ロックスター、怪我はしてない?」
『あ、姐さん!!大丈夫です!』
「ハハハ……変わらねェな、あの親父も……ハハハ……」
『笑い事じゃあ……!!』
「こうなるだろうとは……まァ、思ったが」
思ってたんだ。そうは思うけど、口には出さない。
だって、シャンクスの気配が何故か禍々しくなっていくから。予想してたなら、なんでこんなに怒ってるのよー。
『お頭!!もう少し時間をくれ!!俺はこんな屈辱を受けたのは初めてだ!!』
「おいおい、何する気だ。やめときな。ご苦労さん。お前は真っ直ぐ帰って来い」
『だ……だけど、これじゃ俺の面子ってもんが……』
「面子よりお前の命の方が大事だ。もうお前じゃどうにもならねェ。……手間かけさせたな」
「無事に帰って来てね」
私が言葉を告げるのと同時にシャンクスに切られてしまった為に、返事は聞けなかった。それにより電伝虫を見詰める私の頭を困ったような顔で撫でたシャンクスは、小さく教育が必要だなと困ったような声を出す。
それが私に向けられたものじゃないから、ロックスターが帰ってからのそれが心配になる。そんな時に、ルーがシャンクスに問い掛けた。
「どうすんだ、お頭」
「行くよ……。船を出す準備を!!」
「白髭の所へか!?」
「ああ、そうだ」
「シャンクス、それは……私のせいなら辞めて。私1人で「それこそ辞めてくれ。うちの1味が崩壊するぞ」」
シャンクスを止めようとしたのに、その当人から遮られてしまった言葉。その言葉が比喩では無いのだと、皆の視線が伝えて来る。
皆、私に甘過ぎるわ。私、迷惑かけたくない。
「でも……「お頭。そんな事をして、政府が黙ってると思うか!?」」
「……そうも言ってる場合じゃねェんだ。政府は黙っちゃ居ねェだろうが……なァに、邪魔するなら、こっちも黙っちゃいねェさ……!!」
私の援護射撃をするように言葉を重ねてくれたベックに、シャンクスはそう言って愛剣に手をかける。その様子に、もう誰も反対はしない。
私のせいでこうなってるんじゃないとシャンクスは言ってくれるけど、やっぱり不安なのよ。そう思ってシャンクスを見上げると、ヒョイと抱き上げられてしまう。
それだけで抵抗できなくなる自分が悲しい。周りでは戦闘だと喜ぶ声が響いていて、私はこうなってはもう、何も言えないのだ。
「さァ!!とびっきりの酒を用意しろ!!」
シャンクスはそう指示を出すと、私の唇に己のそれを重ねる。今更皆の前でキスされたからと、騒ぐ気は無いけどやはり不満はあるのだ。
素直に恥ずかしい。……夜の事も基本筒抜けなんだから、気にするなってシャンクスは言うけど……だからこそ気になるんじゃないのよっ!
それから軍艦を……いいえ、艦隊を破り突き進む。赤髪海賊団としては、怪我人は出たけど死人もなしのままに、余裕の航海である。
私達は何の酒を持って行くかと話し合ったけど、結局はシャンクスの故郷の酒を手にモビーディック号へと乗り込んだ。話をするだけだから、戦争にはしないからと言ったシャンクスにより私達は待機を命じられたけど……。
「船の入口で待つからってのでも、駄目?」
「ナミ、敵船だってわかってるか?」
「わかってるけど、1度会ってみたいし……シャンクスより格上の海賊なんてなかなか会えないもの」
「……地味に傷付くから、それ言い直してくれよ」
「シャンクスが基本頂点に近いのわかってるから、それを超える人には会ってみたいわ」
「まァ……あの親父より上だと言えるだけのものはまだねェけどな」
そんな会話の後で、船長たるシャンクスを迎えてくれるとの返答が返る。それにより私は気を付けてねと、その首に抱き着いてそっと頬にキスを落とした。
そんな私の額にキスを残してシャンクスは船に飛び乗ろうとして、そのまま抱えて歩き出した。それにはベック達も苦笑するし、私も驚いてしまう。
「シャンクス!?」
「俺が抱いてりゃ、俺の1部だろ。……覇気は、加減しねェから覚悟しとけよ」
「うんっ!ありがとう!」
「うんじゃねェよ!ベックも止めろ!」
ヤソップが叫ぶけど、ベックは煙と共に1言吐き出して終わる。諦めてますって様子で。
「珍しいナミからのオネダリだ。お頭は止まらねェよ。諦めろ」
「ベック!行ってきます!」
「楽しんで来い」
「ベックもナミに甘過ぎるだろ!?ルーも止めろよ!ナミに何かあったらどうすんだよ!?」
「その時は戦争になるだけだろ。気にすんな」
ルーはそう答えながら肉を咀嚼して、楽しそうに笑った。因みに今ルーが食べてるのは、私が塩麹で下味つけておいた試作品である。
乗り込むと同時に、シャンクスが歩くより先に人が倒れて行く。私は慣れてるのもありそれ程感じないけど……多分普通なら意識を失うのが当然なそれに空気が震える。
「失礼。敵船につき……少々威嚇した」
「テメェの顔ァ見ると
「療治の水を持参した。戦闘の意思はない。話し合いたい事があるんだ」
「〝覇気〟を剥き出しにして現れる男の言い草か。バカヤロウ……。グラララララ……!!」
この人が、白髭……。エースの、父親。
世界が認める、最強の男……。病の中にあって尚、威風堂々としたそれに、その存在に飲まれそうになる。
素敵……と見惚れていたら飛んできた怒号。それにシャンクスは、軽く笑って返事をする。
「オイ、赤髪てめェ、何してくれてんだい!!」
「お!1番隊のマルコだな。お前ウチに入らないか?」
「五月蝿ェよい!!」
「親父……俺達ァ……」
「あァ……戦争はしねェらしい……。二人にしてくれ。……と、その前にシャンクス」
「ん?」
その会話の中で少し驚く。あの〝白髭〟から名前を呼ばれてるのだから、当然だろう。
つまりは、親しいのだろう。何度も戦い、何度も酒を酌み交わしただろう過去を少し、羨ましく思う。
それは女には出来ない関係性だから。男は過ぎた事を根に持たないのが基本で、女は解決した筈のそれさえ根っことしてはずっと持っているから。
まァ、勿論例外は居るけど。積年の恨み……と言うのは、女の方が抱きやすく、喉元過ぎればは男の方が多いのもこの精神構造が起因してると言われている。
「
「俺の〝愛妻〟だ。……マルコ、預けて良いか」
「……わかったよぃ」
頷いてくれたそれを見て、私はシャンクスの腕から離れる。そしてまずは白髭さんに頭を下げた。
愛妻ですなんて名乗るつもりは無いけど、挨拶くらいはしておきたい。……憧れてる人だし、なにより、エースの姉として。
「お初にお目にかかります。こちらを飛び出した馬鹿な末っ子の〝姉〟としてこれ迄生きてまいりました。私、ナミと申します。愚弟がご迷惑をお掛けしております事、お詫び致します」
「……エースの、姉?」
「はい」
返事をして真っ直ぐに見上げれば、何故か天を仰ぐ。その様子にシャンクスが小さく、やっぱり核爆弾かと呟いたけど、核爆弾がこの船にあるのかな?
それとも、空をみてるんだから、降ってくるとか?
「姉が居ると聞いてはいたが……赤髪の女神と同一人物とは思わなかった。……マルコ、下手に手は出すなよ。それこそ、世界が滅ぶ」
「……任されたよぃ」
「お手数お掛け致しますが、宜しくお願いします」
そうしてその場にシャンクスを残してマルコさんについて歩けば、会話の聞こえないギリギリの所で待機する事となる。ある意味私は、ていのいい人質でもあるのだろう。
万が一にも戦争になるような事になれば、私程わかり易いアキレス腱も無い。シャンクスには戦争する気がないのだと伝えるには、確かにいいアイテムよね。
「エースの為に、ここまでついてきたのかい?」
「……はい。シャンクスにオネダリして、連れて来て貰いました」
私が艶やかに見えるよう意識して笑えば、隊長格を除く人達がその瞳をハートにしたのが分かる。でも、流石に隊長格はそれで意識を反らせはしない。
この可愛い見た目に惑わされないとは、流石ね。私なら惑わされるわ。
それにしても、うわぁぁぁ本物だぁ……!不死鳥マルコだよ!?
え、いつも赤髪のシャンクスの傍にいるだろうって!?違うのよ、やっぱり憧れってあるじゃない!?
そんな内心フィーバーは表に出さずに微笑むと、和服の美人さんが顔を覗かせた。それは本当に美しくて……。
「〝空色の手紙〟の送り主はお前ェさんで間違いないね。〝宝玉〟先生?」
美しさに惑わされかけてた私は、その言葉に対応をいくつか考えて、全てに無理だと即断して頷く。素直に認めるのが1番安全だわ。
「……隠し事は、できませんね。はい。……サッチ隊長はご存命ですか?」
「あァ……生きてるよぃ」
私の問い掛けに答えたのはマルコさんだった。それにより私の気は少しだけ緩む。
この口調が良くないのよね。それにしても、生きてたなら本当に良かった。
「良かった。……だとするなら、決裂するとわかっていても、この話し合いは必要だったのね、きっと」
「決裂するのかい?」
「……私が船長の立場なら、受ける申し出だわ。でも、男の人にはプライドがある。それに……シャンクスの方が明らかに格下なのが今回は良くないわね」
「良い女過ぎて、怖いねぃ」
「あ!マルコさん!」
思い出した事があり、声をかければ少し驚いた顔をしてから、笑ってくれた。だから私は胸元から取り出したメモ帳とペンで〝あの戦争〟に置いて警戒すべき事案を書いて差し出した。
シャンクスを説得出来なければ、船出してでも参加するつもりではあるけど。船出はフナデではなく、家出の船版でフネデである。
シャンクス達を巻込むつもりは無いの。でも、エースを喪うつもりは……更に無い。
「これは?」
「空色の手紙の最後の物だと思ってください。エースを、宜しくお願いします」
エースの心を支えているのは、私じゃない。そしてこの人達が、エースを獣から人にしたのだ。
シャンクス……ごめんね。私、シャンクスと生きたいと思うけど、エースには死んで欲しくないの。
私は解決方法として、自分を犠牲にして助ける事しか考えてなかった。でも、それは許されないから、何か考えないと。
そう言えば、シャンクスはなんで戦争の終わりに来たんだろう。エースを可愛いと思ってたし、戦争そのものを憂慮してたのに。
その時起きた頭痛により身体が傾ぐと、それを即座にマルコさんが支えてくれる。でも、今はそれに対応してる場合じゃないのよ。
この答えを知りたい。頭痛が起きたなら、答えを私は知ってる筈。
知識はこの場合足りない事はあっても、多くて困る事は有り得ない。その時見えたのは、百獣海賊団と赤髪海賊団の衝突と言う未来。
「そう、か……。カイドウが……だから……シャンクスは間に合わない」
カイドウと戦っていた筈なのに、有り得ない短期間で移動して姿を見せたとの情報。だからこそ、その謎に読者が何が起きたのかと騒いだものだ。
常夏の海域では過ごしやすそうな船を使ってるので、実は空を飛べるとか色々言われていた。実際今は私の蜜柑の木がヤシの木に混ざって生えているし、随分甘やかされて……ってそうじゃない。
シャンクスとカイドウが戦争のタイミングでぶつかった事で、戦争に参戦するのが遅れたのならば……。少なくとも、カイドウが海軍の味方をするのだけは有り得ない。
カイドウがその戦争に乗じて白髭の殺害を計画していて、戦争を止めたいと願っていたシャンクスが戦う事になったと……そうこの情報ではなってる。でも、海軍から見たらどちらも同じ海賊と言う1括りだわ。
「敵の敵は味方……いっそ、ぶつけてみれば運命は変えられる……?」
白髭海賊団から見たらどちらにしても敵だもの。分け隔てなく攻撃するカイドウがいれば、戦況は変わるだろう。
海軍だってそうなれば百獣海賊団を放置はしない筈。それに、ワノ国にある程度は残さないといけないから、総力戦にはならないもの……使えるかも知れないわ。
「それなら、レイリーさんに協力を仰げば……」
いくら引退したとは言っても、愛する船長の忘れ形見だもの。知れば協力してくれるかも知れない。
シャンクスもいるのだから、見習い小僧が可愛くない副船長なんて居ないわ。他に共に戦ってくれそうな戦力を考えて、可能なら全員あの戦争に巻き込めばいい。
記憶が無い〝サボ〟は動かない。けど、革命軍に繋ぎをつけられれば、サボと会って話を出来れば……革命軍は無理でも、サボを巻き込める可能性はある。
「あの戦争には、ルフィも来る。それなら、話の運び方ひとつで……〝革命軍〟も巻き込めるわよね」
なんと言ってもルフィはドラゴンの息子。それを理由に、カマバッカ王国の女王が参戦したのだから。
立場があるから、鷹の目はあちらに居るだろうけど、それだけの人間が巻き込まれれば、少なくとも鷹の目は〝協定外〟として帰る可能性がある。そうなればルフィに対して、敵対行動を取るとは思えないハンコックもその場から消えるわよね。
敵の戦力は減り、大きく戦況を変えかねない人達がその場に投入されるのなら、後他に出来る事は。そうよ、内部に入って鍵を得たり見取図を得てしまえば、出来る事も増えるし……だとしたら。
「どうにか、海軍内部に潜り込めれば……引っ掻き回せるわね。私なら、見付からない」
問題はそれを、シャンクス達が認めてくれるかって所。もし無理ならやっぱり抜け出して……。
「ナミ、帰って来い。口に出しちゃ不味い事色々言ってっから、帰ってきて」
「ふぇ!?シャンクス!?」
「物騒な事考えてんな。時に俺はナミが怖いよ」
「え、まさか……声に、出てた?」
私、何言った?
不安に苛まれながらシャンクスを見れば困ったような顔で笑って頷く。つまりは、そういう事だよね。
ベックに頭グリグリされるやつだわ……。ううう……。
「もう、バッチリな。ベックに残りは相談し「詳しく聞かせろ、小娘。赤髪とのそれは蹴ったが……小娘との話によればその限りじゃねェぞ」」
シャンクスの言葉を遮ったその人に視線を向けて、煌めいてしまうのは許して欲しい。だって……カッコイイ。
それに天下の〝白髭〟を前にしては、いくらベックでもグリグリして来ないわよね。そうなれば迷う必要なんて皆無。
「はい!喜んで!!」
「待てコラ!!ナミお前、俺の愛妻だって自覚あるか!?」
「それとこれとは別よ!!格が違うわ!」
「……ナミが、虐める……。そんな事ばっかり言って虐めてると、ベックに言いつけてやるんだからな!!」
どこの子供だ。いや、赤髪海賊団が誇る巨大な子供だけども。
冷静になって欲しい。ベックがこう言うどうでもいい話題で、シャンクスの味方になる筈が無いでしょう。
「シャンクス……ベックがどっちの味方するか、冷静に考えて。お願いだから」
「俺は、クルーに蔑ろにされ過ぎてる……」
いじけるシャンクスに小さく笑ってから、ありがとうと言って抱き着く。こんな反応をするなら、認めてくれるって事だから。
甘やかされてる事は自覚してるの。でも、私も譲れないから。
「いつも、わがままでごめんね」
「……ナミは、家族が絡むとそうなるのはわかってた事だから気にすんな。ただし、俺も付き添うからな。流石にナミだけだと何しでかすか」
「……?お話するだけよ?」
シャンクスったら何言ってるのかしら。まぁ、敵船だから心配だって言うのは分かるけど。
でも、白髭海賊団の上層部が、戦えもしない女に手を上げるなんて想像出来ない。そんな事をする必要も無い実力を有していて、その誇りもあるのだから何かが起きるなんて普通は考えないと……。
……あ、そっか。交渉が決裂したばかりだものね。
自分は会談が失敗に終わったら天が割れるような事をしでかしたから、私も同じだと無意識で考えてるんだわ。全く……人外としか言えない実力者と、村娘Aを同格に考えないで欲しいわ。
理解納得して頷いたら、シャンクスが叫ぶ。どうしたのかな?
「ナミは自分が核爆弾より厄介な自覚を持てよ!……マルコ、ベックを呼んできてくれ。俺だけじゃ抑えきれねェ!!」
「赤髪も、苦労してたんだな」
何故か突然意気投合する二人に、でも眼福だわと思う。マルコさんは容姿じゃなくて、その性格とか口調で人気になったんだけどさ。
でも、このお話する時に可能なら鳥の姿になって貰えないかな。もふもふしたい。
「ナミ、敵の幹部だからな?鳥好きなのは知ってるが、もふもふはダメだろ」
「え?また、声に出してた!?」
「いや、マルコに熱い視線送ってたからそうかなと思っただけだ。ニュースクーを手懐けたナミなら、不死鳥も狙うと思ったんだ」
「狙うって……人聞きの悪い……」
そうして私は白髭海賊団と赤髪海賊団の幹部と共に、歴史を変える為に会話をする事になった。その時誰一人として、私の知る未来について有り得ないとは言わないでいてくれたのは助かったと言える。
話はスムーズに進んだし。でも何故か最後には、全員揃って私を危険物扱いし始めたのだけは謎だけど。