白髭との会談の後、事態収束の為に俺達は即座に動き出した。副船長は近年ずっと同じ島を拠点としているので、見つけ出すのは容易いだろうと言う事で話は纏まり先に革命軍と会う事に決まったが……指定された島がここだ。
いつも何かのイベントをやっている観光客の多いこの島は、確かに人を隠すには人と言いたくなるような賑わいだ。そこで会談の支度を進めていれば、当然の事として降りて遊ぶ余裕は無い。
持て成すべきか、宴にでもするべきか。はたまた会談の場らしく緊迫感を持たせるか。
悩ましいところだよな。今回は可能なら共に戦おうって話で、無理なら邪魔だけはすんなよって事だし。
考えが纏まらないままにやれる事をやり終えて、さて約束の時間までは船で待機かと思った時、部屋から聞こえて来たのはナミの歌声。何か新しく曲を書いていたらしいと分かれば、部屋へと足を向けるのも当然だろう。
歌うナミの美しさは、冒しがたいものがある。ふとその横に視線を移せば、ナミの描いた地図がぶら下げられていた。
「天才……か」
思わず呟いた声は誰に拾われる事も無く消えて、愛しい女の歌声だけが室内に響く。世界から狙われるのが当然としか言えない稀有な能力と、それに付随する天才的な能力。
どうしたら、悲しませる事なく守りきれるだろうか。そう思った直後に歌声が止まるから、拍手して自分の気持ちを切り替えつつ驚いた顔で振り向くナミを見つめる。
俺の姿を認識した瞬間、ボッという音が聞こえそうな程の速度で赤面したナミが可愛くて、内に秘める能力と基本的な性格と、その容姿のギャップに笑わせられる。抱き上げてそのままベッドでもう1曲歌わせようかと思ったが、机にある楽譜のそれを見ればちゃんと聞いてみたいと思わされた。
「もう一度、歌ってくれ」
「え?」
「今と同じ歌が嫌なら……ベッドで新曲を歌わせ「仕方ないわね!!歌います!」」
そんなに否定しなくてもいいだろうに。いつも大切に、可愛がってるつもりなんだがな?
歌い直されたそれの中に含まれる歌詞を元に、疑問点を幾つか確認する。それを歌い終えたナミに問い掛けると、素直に色々語ってくれたので、流石は作者だなと思う。
その時ドアを叩く音が聞こえて視線を向けると、ベックがドアを開けた。そこでナミが逸早く反応して、そのままイベントについて話し始めるから、俺が船長だって知ってるか?と2人に問い掛けちまったのは当然だろう。
「シャンクス、宴よ?やらないの?」
「やりたいけどよ、これから革命軍来るんだぞ」
「……道具や材料は揃えてくれたようで、もういつでも始められる。普通の宴と違い酒を入れなくてもおかしくはないから、会談には向いてると思うが……何か問題か?」
「あァ、それもわかるが、俺船長……だし、1応、俺の意向を聞いてみたりするもんだろ」
「「何故?」」
声を揃える2人に、酷い……と泣き真似して見せれば、どうせやるのに質問するだけ時間の無駄と切り捨てられる。そうして俺は妻と相棒に虐められつつ、宴の準備に参加して革命軍の到着を待つ事にした。
輪飾りは案外簡単なのに対して、折り紙は意外と手間だ。どちらもナミの指導の元行われ、料理も用意されて行く。
無駄に長い輪飾りを作っていると、言葉を向けられて少しばかり焦っちまった。その結果、輪飾りの1つがメビウスの輪になってる。
「革命軍も来るなら、何か演し物位はした方が良くねェか?」
ルーの言葉により、皆の視線は自然とナミに集まる。何かないかと言う、無言の圧だ。
それにナミは苦笑して、何か舞うかと言うのでそれに満場一致で是非にとなれば、ナミは七夕だから……とブツブツ言いつつ考え始める。舞いの違いが分かるような奴は居ないから、なんでもいいとか言ったら怒るだろうか。
そんな中でも宴の準備は進められ、宴の準備が整うのを見計らったかのように革命軍から数名の人間が到着した。それを出迎える俺達に混ざり、ナミが出迎えれば舞う為の衣装を着てるのもありその視線はナミに集中する。
しかしナミはその中の1人にだけ視線を固定していて、それからそっとその人物へと手を伸ばしかけて、静かにその手を降ろした。それは、なんとも表現しにくいものであり、切なさばかりが見てる者に印象つけられてしまう行為だ。
自己紹介を双方が終えると、宴を始めつつ話を進めて行く。そんな中で、正体不明とされて来た男の息子を助ける為に協力しろと言うナミは、迷いも戸惑いも見受けられない。
凛とした様子を見せるナミは、俺の隣に立つ事に、誰も異議を唱えられない程の気高さを有している。ただ、守られる小娘ではないのだ。
「……ドラゴンさんの、息子?」
「……はい。革命軍総司令官ドラゴン……彼のフルネームはモンキー・D・ドラゴンですよね。その息子、モンキー・D・ルフィが、この戦争に飛び込みます」
なんて家系だよと、叫びそうになったのを飲み込んだのはつい先日だ。モンキー・D・で始まる有名な人物は、どうしたってガープだからな。
ルフィの父親が、あれか。いつか、父親と似てくるのだろうか。
寧ろ、船長の息子だと言われた方がそれこそ納得出来る。まァ、年齢的にも有り得ねェんだけどさ。
「今のルフィでは、実力不足故に死ぬリスクが高い事は明白。ただし、ルフィは現在インペルダウンにいる革命軍幹部を連れ出す。これも確定事項です。……革命軍としても、この同盟……損な話ではございますまい」
こういう時のナミは、歴戦の勇士を思わせる。だが、その瞳がこの場に現れた参謀総長に関わると、即座に揺れるのだから切なくなろうというものである。
……何を、隠してるんだ、ナミ。どうして、俺に助けを求めない。
そう問い掛けたくても、今は身内以外もいる為に言葉に出来ない。そうこうしてる間にナミは甲板に用意されている舞台へと上がり、堂々とした出で立ちで迷い無く美しい舞を披露する。
手首や足首に取り付けられた鈴が涼やかな音をたてるのを聞きながら、その舞いが逢えない相手を想う物だと気付く。聞きなれないその響きは、だが前に1度聞いた事がある事を思い出す。
確か……愛しい男に置いて行かれた女が、それでもその男を想いながら、その身に子を宿した状態で歌っていたのだと聞いたな。年に一度しかない逢瀬を思えば、確かにこのような歌になるだろう。
舞い終えたナミがお辞儀をすると、参謀総長がつらそうに頭を抑える。その様子にナミは気付かずに、短冊を括り付けていた。
俺達が視線を向けているとナミも遅れて気付けば、慌てて駆け寄ってきた。そうして参謀総長の仲間達が慌てたり、困惑したりしている中、迷わずにその身を抱き締める。
「サボ!しっかりして!サボ!」
「……ナミ……?」
「サボ!!」
「ね……さ……?」
「無理に、思い出さなくていいから、お願い!無事でいて……!!」
取り乱すナミを背後から抱き締めるように引き離して、船医に言って治療を開始させればナミも漸く落ち着きを取り戻した。後で詳しく話を聞かないとと思いながらも、今は安心させてやりたくて強く抱き締める事しか出来ない。
そんな時、風で揺れる多くの短冊がさやさやと音をたてて、俺の視線がそれに向けられる。その中にナミが書いた物が混ざっていて、それに書かれている文字に気付いちまった。
皆の健康を願うそれの左下に、名前ではなく小さく追加されて書かれているのは、恐らくもうひとつの願い。戦争に関わる願いを、書くとばかり思っていたが……。
『シャンクスと二人で過ごしたい』
最近は互いに忙しかったのもあり、寂しい想いをさせていたのかも知れないな。だからこそ、あの舞いさえあれ程に切なく胸を打ったのかも知れない。
理由はどうあれ、俺は今、ナミが欲しい。あんなに可愛い事書かれて、手を出さないなんて選択肢があると思う方が可笑しいだろう。
「俺の織姫、俺と二人で部屋に篭ろうか」
「え?シャンクス?」
「参謀総長が回復するまで、何も出来ねェだろ。だから今は、俺だけの織姫として……舞いの続きを披露してくれ」
言葉の意味が分からない筈も無いのに、ナミは頬を染めると静かに頷いて身を預けて来る。だから俺は仲間達に目配せして、部屋へと運び込む。
素直になっちまうくらいには、俺を求めてくれてるんだな。なら、俺もその期待には応えてやる。
「寝られると、思うなよ」
「や、さしく……してね?」
「努力する」
赤く染った愛しい女を部屋に閉じ込め、男はヒラヒラと動くその衣装に指を向ける。そうして今日も、織姫と彦星は年に一度の逢瀬なんて耐えられないと、引っ付いたまま離れない。