白髭海賊団と会った後で、私達は協力する事を決めた。しかし、同盟を結んだ訳ではなく、契約した訳でもない。
それをすれば政府が世界と共に動き、厄介さが増す。なので、各自良いと思われる行動をとる事が求められているに過ぎない。
私からの情報を得て、四皇のウチ2つが揃って出したその答えは、もし本当にカイドウが動くなら戦争に参加させるべきとのもの。その言葉により、私の知らない未来へと運命は動き出した。
その為にまず着手したのは、赤髪海賊団と革命軍との話し合いである。そしてそれには恐らく成功した。
なのに、その会談の途中で意識を失ったサボが医務室で寝かされている。私はサボが倒れたその日は、シャンクスにより拘束されていたので何も出来ず、翌日から張り付いていようとしたけど〝部外者〟でしかない私は部屋の入口で立ち尽くすことになってしまった。
だって、部屋の中にはサボの仲間達が心配して居座っているのだから。それを追い出すつもりは無いけど、心配なものは心配でドアの近くをウロウロしてしまう。
「ナミさん?」
ドアが開けられて、声をかけられればビクリと震える身体に力を入れて頷く他出来ない。そんな私に、ドアを開けてくれた少女が笑って手招いた。
「入って。サボ君が呼んでるわ」
少女に言われるままに入室すれば、いつ意識を取り戻したのか、サボが泣きそうな顔でこちらを見ているのにかち合う。息を飲んだ私に、サボはクシャッとした笑顔を見せるから、それが泣き出す直前の我慢してる顔だと知っている私は慌てて手を伸ばして近付いていた。
頭を撫でようとしたその瞬間、掴まれた手首によりバランスを崩せばそのまま引き寄せられて、その胸に飛び込んでしまう。記憶にあるのとは違い、大きくなり固くなったその身体に時の経過を感じさせられる。
思わずその顔をじっと見詰めて、けれども無意識でその頭を撫でてしまう。頭を撫でた時の、髪の感触は昔から変わらない。
「……ナミ……」
「え?」
「ナミだよな」
繰り返し呼ばれた名前。それは確かに名乗ったものではあるけど、でも、サボがこんなに穏やかに私の名を呼ぶなんて、普通なら考えられない。
期待してはダメだとわかってるのに、期待してしまう。もしかして、ねぇ……サボ?
「思い……出した……の?」
「やっぱり、わかってて俺を見てたのか。……ナミ、ちゃんと話してくれ。俺達に何をして欲しくてコンタクトを取ったんだ?」
それから私はサボと話をした。懐かしい思い出話をしている場合ではないから、とりあえずサボが現在何処まで思い出しているのか、代わりに失っている部分は無いのかの確認だけをして、その後は今回起きる戦争についての話をする。
記憶を取り戻したサボは、大切な兄弟であるエースの処刑と、その場に乗り込むと考えられる無鉄砲な弟を放置は出来ないと言ってくれる。その結果、革命軍全体を動かす事は出来なくても、少なくともサボだけは動くと約束してくれた。
それに喜び抱き着いた所で、いつの間にか姿を見せていたシャンクスに引き剥がされてしまう。その後、サボとはまともな別れをする間もなく別行動が決まった。
「シャンクス!?なんで邪魔するの!?」
「ナミは俺の奥さんなんだよ!俺の愛妻である自覚をいい加減持ちやがれ!」
「弟との再会を邪魔するなんて最低!!」
「血の繋がらない弟をなんざ、全員ケダモノと同じだ!!ナミは俺にだけ抱きついてろ!」
そんな言い争いをしながら、向かった先はシャボンディ諸島。シャンクスが腕を使えなくなってすぐの頃に、彼と1度会っていたらしい。
その為にシャンクスは、その居場所が何となくわかるらしい事を言っていた。……弟との会話も許してくれないケチだけど。
赤髪海賊団の船が泊められれば、それだけで向こうから雲隠れを辞めてくれる筈だと笑うシャンクスに、それだけ可愛がられていたのだと分かる。でも、冷静に考えればそれは当然かもしれない。
全てをかけた船長と、かけがえのない仲間の居る船で、見習として後ろをついてまわっていた子供。……そりゃ、可愛いわよね。
「その頃のシャンクスを見てみたい気もするわ」
「いつかナミが産めば、見れるぞ」
「それは私達の子供であって、シャンクスじゃないじゃない!!」
「……俺とナミの息子なら確実に、俺に似る。んで、ナミを奪い合う自信がある!」
どうだとばかりに言い切るシャンクスに、溜息が落ちる。……なんで、そんな、ドヤ顔?
そんな事言っても、薬飲んでるから宿る予定は無いけどね。今はまだ、シャンクスの負担にしかなれないもの、考える予定もないわ。
そんな事を考えながら到着したシャボンディ諸島に降りれば、初めて見るのに良く知ってる人が姿を見せる。それにシャンクスは満面の笑みを浮かべるから、可愛いなぁなんて内心で呟いてしまう。
その時シャンクスを躱して、自らへと伸ばされた手を軽く振り払った冥王レイリーその人は、迷い無く私の前へと足を進めた。私は目礼をしてから、真っ直ぐにレイリーさんを見つめる。
「君が、シャンクスの女神だね」
「はい。お初にお目にかかります。私はシャンクスのクルーで、ナミと申しま「違ァう!!俺の愛妻で、世界の宝玉で、赤髪海賊団の女神だぞ!?」……だ、そうです」
「……相変わらず落ち着きのない。すまないな、うちの見習いが迷惑かけてないかい?」
「ふふっ。寧ろ、私が荷物です。……お話したい事があります。お時間、宜しいでしょうか」
呆れたように言いながらも、レイリーさんはシャンクスに対してその瞳が優しく笑っている。私が取るに足らない存在であるからか、私にも似たような視線を向けてくれるのは有難い。
「……シャンクスは自分のお馬鹿加減を知ってるからか、周りが賢いな。良いだろう。……酒は呑めるかな?ナミちゃん」
「嗜む程度ですが」
「充分だよ」
その時背後でルーが、嗜む程度……?って呟いてたのが聞こえたけど、とりあえず今は放置しよう。そして、後で報復しようと決める。
そうして案内された名前からして恐ろしいBARにて、話し合いの席を設けてもらえた。そこでレイリーさんは、静かに私達の話を聞いて……それからグラスに口をつける。
ラム酒のロックを呑んで、氷がカラン……と音を立てるのを楽しんでいる様は恐ろしく絵になる。それから、シャンクスではなく私を鋭い眼差しで見据えて来た。
「白髭が……負けると?」
「はい。このままでは、負けます」
「……巫女の神託……かい?」
巫女……確かに、舞を舞っていたのはその為だから、間違ってないわね。ただ、それがこの世界のものではないだけの事。
「近いものはあるかも知れません。元々、巫女となるべくして産まれましたから」
「……待てナミ。俺はその話、聞いてないぞ?」
「うん。言ってないもの」
聞かれなければ言わないわよ。今の話じゃないんだから、余計に。
でも、やっぱり余計な事は言えないから、首を傾げるに留める。そんな私に、シャンクスは眉間の皺を深くした。
「……蜜柑農家の平民だって、言ってなかったか?」
「戦災孤児なのは、伝えてあったでしょ」
「1歳から2歳の間で拾われたんだよな」
「そうよ?」
なんで今そんな確認するんだろう。おかしいわよねと思って首を傾げたら、シャンクスか叫ぶような勢いで問い掛けてきた。
「二歳以前の記憶、普通あるか!?」
「……通常は最初の記憶は、個体差もあるけど2~3歳の時にあった大きな衝撃を受けた事の記憶がスタート。しっかりと記憶として残るのは4~5歳の頃の事からよ。だからこそ、6歳から初等教育を始めるのが1般的な「もういい!そんな事聞いてるんじゃねェんだよ!!」」
なら、何が聞きたかったのか。全く……シャンクス我儘で困るわ。
そんな風に考えながらシャンクスを見ていたら、レイリーさんが可笑しそうに笑ってから、仕方ないなと呟いた。困ったように、懐かしむようにシャンクスを見つめながら。
「エース、か」
「ん?レイリーさん、なんで名前知ってんだ?」
「あの馬鹿が、珍しく机に向かい、ペンを手に、唸りながら言ってたんだよ。初めての子供だから、そうわかる名前にしたいとか言ってな」
机に向かってウンウンと唸り、頭でもかきながら試行錯誤してる海賊王の後姿が、何故か見えた気がした。……ねぇ、エース、貴方は愛されてるのよ。
与えられたのは不当な差別だったかも知れないけど、それでもエースは両親の愛を1身に受けて生まれてきたのよ。だからどうか、生き急がないで……。
「あぁ……だから〝エース〟か〝アン〟だったんですね」
「……良く知ってたな。そう、だから息子ならエースでしか有り得ないという訳だが……何故ゴール・Dではなく、ポートガス?」
その反応に確かにそう思うわよねと頷く。理由のひとつは、怨んでたからだろうけど……もうひとつは……ガープさんの為だろうなとも思う。
そちらを教えるつもりは無いけど、父親の性を名乗れば即座に命を狙われて、ガープさんを悲しませた事だろう。そして、血の繋がりも無いのにガープさんの性を名乗れば迷惑をかけると……そう思ったんだろうとわかる。
「海賊王が仕込むだけ仕込んで、その罪を妻子に背負わせて散った事を……怨んでる様子でした。幼少期に、父親の為に苦労してましたから」
「……成程。それで母の性を名乗っているのか」
レイリーさんは納得したらしく、1人頷いてからふっと笑う。それから海賊らしい、冷たくも獰猛な眼差しで私を見据えた。
鋭い眼光。冷たい声音。
「何故、あいつを嫌う存在を助けてやらなければならない?」
「父親からも愛されていたのに、どうでもいいと思われていたと言う誤解をとくには、まずは生きてもらわなければならないからです」
「ほう……?」
「エースは、幼い頃から〝産まれてきても良かったのか〟と悩んでいました。ただ、存在する事を、許されたいと願っているのです。……己の存在を呪うそれが、そのまま父親への怨みとなっている。……このまま逝けば、あちらで折角会えてもロジャーさんが傷付くばかりだと思いませんか」
問い掛けるていを取りながら、私は確信していた。だから、レイリーさんと真っ直ぐに視線を絡め合い私の考えを教える。
そのまま暫しの沈黙が落ちる。それからレイリーさんはその獰猛な気配を緩めて、頷いた。
「アイツが妻子に嫌われて虐められるなら、それはそれで溜飲も下がる所もあるが……彼女が、あの馬鹿の為に傷付くのは想像したくも無いな」
「お?……なら、協力してくれるんですか?」
驚いた様子を見せるシャンクスにレイリーさんは頷き、悪戯に笑う。先程までの威圧感は既に皆無だ。
「私は、可愛いお嬢さんが大好きだからね。……そこでどうだろう、シャンクス」
「ん?」
「今夜、ナミちゃんを借り受けて構わないか?」
「構うに決まってんだろ!?俺の!愛妻なんだっての!!」
「ははは!変わらないなァ!!」
「誰にも触らせるかよ!!特にレイリーさんに手を出されたら、壊れるに決まってんだろ!?この、女の敵!!」
そう言って私を抱き込んだシャンクスが吠えると、レイリーさんはそのまま笑い死ぬ勢いで笑いだして酒を1本空けた。私も呑みたいのにと思いながら、でもシャンクスの腕の中が安心できてしまうので、そのまま頭も身体も預けて甘えておく事にする。
その後2人が落ち着くのを待って、酒を呑みながら打ち合わせをすればレイリーさんは戦場からついでにルフィを回収しようかと言って立ち上がり、姿を消した。これで、今出来る戦争の準備は整ったと言えるだろう。
その後場所を提供してくれたシャッキーに別れを告げて、私達は船を出した。残る問題はワノ国から飛び出して来るだろうカイドウだけとなり、息を細く吐き出す。
そんな私を背後から強く抱きしめたシャンクスが、私をそのまま抱き上げて部屋に連れて行くから、嫌な予感がする。そして人間、嫌な予感程よく当たるものなのだ。
「ナミ……レイリーさんまで誑かすとはな」
「シャンクス?」
「白髭ん所でも、隊長を何人も誑し込みやがって……いい加減、俺の愛妻としての自覚を持ってもらおうか」
「持ってる!持ってるよ!?」
落ち着かせようと声を出すけど、シャンクスの不穏な空気は変わらない。それどころか少し泣きそうな顔で、我儘前回に言い出した。
「なら、なんで俺の愛妻たと名乗らねェんだよ!ナミのばァか!!」
「名乗れるか!!そんな恥知らずな事出来る筈無いでしょ!?」
そう言ってシャンクスを蹴り飛ばすと、そのままその反動を利用してベッドに沈められてしまう。そうなってはもう、私に抵抗なんてできる筈が無かった。
そもそも、恥ずかしかっただけなのだ。シャンクスの我儘が可愛くて、愛しく思えた時点で勝ち目なんてある筈ないのよ。
愛しい人の温もりに包まれながら、素肌を空気に直接触れさせられる。甘い二人の時間が始まったのは、それから間もなくの事であった。