※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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バレンタインイベント(光源氏16)side

 隣にあるべき温もりがなく、けれども朝食の香りが微かに漂ってくるのだからキッチンで料理でもしているのだろうか……と、そう思いながら体を起こした。様子を見に行けば食事だけが用意されていてナミの姿が無い。

 本来ナミの部屋は別にあるが、可能な限りは胸に抱いて寝ているからか、いないと落ち着かぬ。考えてみればそれなりに共に過ごしているのだなと、出逢ったばかりの頃を思い返してみれば自然と笑みが浮かぶ。

 畑と化している所にいるか、自室にいるか、それとも庭先にでも居るのかと考え、食事を済ませてから部屋へと様子を見に行く。そう言えばナミは食事を終えたのか?

 放置すると食事を忘れて何かを書いているナミがどうしても心配になる。この俺が、誰かを心配する日が来ようとは思わなかった。

 部屋に入れば入口に背を向け、何かを書いてるナミの姿があり、やはりそうかとドアを閉めようとして違和感に気付く。小さなその背中はいつものものだが……気配が無さすぎる。

 近付けばいつもの香りがしない事にも気付き、まさかと窓を開ければその姿が掻き消え、その場にはナミの武器である棒が残されている。行先はと考えれば、先日から行きたがっていた島だろうとわかり、窓から飛び出せばヒヒは相変わらず存在しているので、1応問い掛けてみる。

 

 「ナミは?」

 

 ヒヒ達はその瞬間視線を泳がせたので、夜に手をかけた瞬間1斉に同じ方向を示した。ヒヒがナミを庇おうとする事は承知の上で聞いているのだ、時間を掛けるつもりなど無い。

 そこには予備の小舟が止められている筈だ。急ぎ飛び出した俺はナミを追い掛ける。

 ヒヒ達は何故かナミと戦う事はなく、それどころか懐き守っている。あれば猛獣使いなのかと、幾度思ったか知れぬ。

 到着した島では悲鳴や怒号が時折響くが、大半は買い物客の様子で楽しそうに買い物している人々が見える。その中でナミを探す事のみに集中していたが、ある店内にナミと背格好の似た清楚な美少女が居るのに気付く。

 ……背格好は近いが、明らかに姿が。そう思って観察しつつ、出て来るのを待てばホクホク顔で出て来たそれからナミの匂いがする。

 即座にそれを捕らえて連れ帰るが、この変装技術には驚かされた。だが、ナミは俺の話を聞いてはいない。

 この小娘……どうしてくれようか。まだ16歳だからと手を出さずにいるが、色々と鬱憤も溜まりつつある。

 島に到着すると部屋から出る事を禁じたが、何か怒ってる?みたいな事を言いそうな顔で俺を見てから、大人しく部屋に閉じこもった。少しは反省するだろうか。

 ……これ程取り乱すとは、俺も修行が必要か。そんな事を思いながら時を過ごし、ナミの作り置きしてくれていた食事が底をつくと残されるのは保存食。

 暖かな家庭料理に慣れてしまった俺としては、保存食では味気無く、些かではなくつらくなる。仕方無しに俺はナミのいる部屋のドアを開けて、声を掛けた。

 

 「ナミ、出ろ。……キッチンには、行ってもいい」

 

 寧ろ食事を用意してくれ。そう思ってドアを開たのだが、待ってましたとばかりに笑うナミに、胃袋を掴まれるとは恐ろしい事だと痛感させられる。

 その上1人で寝ていたこの数日、落ち着かず不眠にでもなりそうだった。何だこれは、ナミは依存性の高い薬物なのか?

 深い溜息を落としつつ、食事の支度を始めるナミを眺め、共に食事をしたがその後もナミは部屋とキッチンを行き来して、忙しそうにしている。……詰まらぬ。

 その日の夜、久々にナミと共に眠ろうと抱きしめると髪からチョコの匂いを感じた。それにより思い出す。

 明日は、バレンタインデーとか言う日だと。

 本当は毎月14日全てがイベントなんだけど、有名なのは2月と3月の14日なのよねとナミが楽しげに笑っていた様子と共に。うむ、ではあの買い物も俺の為かと思い至る。

 ……それならば、許してやらぬ事もない。そのような事を考えて寝たのが要因か……翌朝望まぬ訪問者が俺の島を尋ねてきた。

 

 「……招いておらぬ。故に、帰れ」

 「なんだって建物に近付かせもしねェんだよ!?」

 「この島に立ち入るな。帰れ」

 「だから、何でだよ!?」

 「主の存在が気に入らぬ」

 「存在が!?流石にそれは酷ェだ……」

 

 赤髪が騒ぐのを適当に対応していたが突然言葉が止まり、嫌な予感がして振り向けばナミが出て来てしまっていた。赤髪は紹介もして居らぬのに、それが誰だか即座に気付いた様子で硬直している。

 そして……事もあろうにナミは赤髪を見るや否やその瞳を潤ませ、名を呼びながら飛び付いた。俺がいるというのに、俺ではなく赤髪にだ。

 それを嬉しそうに赤髪も抱き留め、そのまま抱き締めるから苛立つ。……ナミは、俺の女だろう。

 

 「シャンクス……」

 「ナミか、大きくなったな」

 「うん、元気そうで良かったわ」

 「ナミもな。……どうしてここに?」

 「私、ミホークの所に居候してるの」

 

 ……待て、居候とは何事だ。ナミは俺のモノだから共にいるのだろう。

 ギロりと睨むがナミは俺を見て何か違うの?とその表情で伝えつつ首を傾げ……まさか、気付いていない、だと?

 幾度も想いは、伝えた筈だが……?

 

 「でも、困ったわ。会えると思ってなかっから、チョコが足りないのよ」

 「チョコ?」

 「主にやるものは1欠片も無い」

 

 興味を示す赤髪を睨み付ければ、赤髪は少し考える素振りを見せてからニンマリと笑った。……気に入らぬ。

 

 「ナミ!中に戻れ!」

 「え?……うん、分かった」

 

 俺が怒鳴れば少し名残惜しそうにしながら赤髪から離れたが、そのナミの様子に猛烈な苛立ちを覚える。その直後にナミは少し落ち込んだ様子を見せていて……。

 分かっているのだ、ナミにとってみれば赤髪は大切な存在である事など。聞いてはいたが、だからこそ会わせたくなかったと言うのに。

 中に戻る俺に無理矢理ついてくる赤髪は、楽しげにしている。……何故こやつは人の話を聞かぬのか。

 中に戻るとカカオから何か作り始めているナミが居て、コレに何かを作る事も饗す必要も無いと言えば不思議そうな顔をしてから笑い出した。まるで幼い子供を見るような顔で。

 

 「喧嘩しないのよ。お友達でしょ」

 「「……お友達?」」

 

 赤髪と声が揃ったのが、妙な気分だ。流石にそれは赤髪も同じようで、嫌そうな顔をしている。

 結局クルーは船に置いておくし、夜には船に帰るから数日置いてくれと騒がれ折れたのは結局俺の方だった。船の調子が悪いと言われては、無理に追い出して何かあった時流石に寝覚めが悪い。

 ……それよりも今は、気分が悪いがな……!

 目の前でナミを抱き締め、当然のように撫で回している男に苛立ちが募る。俺の女に触れるな。

 そしてナミも少しは抵抗しろ。10歳に満たぬ子供の時は、既に異なると知れ。

 

 「いい加減にしろ、ナミに触れるな」

 「なんだよ、まるで〝自分の物〟みたいに言うんだな」

 「……俺の家に住んでいる。俺のモノだ」

 「ミホーク……」

 

 呟くように俺の名を呼んだナミは、俺の言葉に嬉しそうに笑った。どうやら嫌われているとかではないらしい。

 そんな俺達の様子に赤髪は呆れを隠さずに、けれども食事は堪能しつつ口を開く。……ナミは本気にせぬが、なかなかにナミの料理は美味いのだから当然だろうか。

 

 「……さっさとくっつけ。見ていて鬱陶しいぞ」

 「シャンクス?何言ってるの?シャンクスが離してくれないのに」

 「待てナミ。物理的な話じゃねェんだよ。相変わらず本当に鈍いな。……流石に驚いたぞ、今の返しは」

 

 それには同意しよう。ナミは鈍い。

 食事はいつもと変わらぬが、食後のデザートがチョコ尽くしで、俺はそれに浮かれる。いつもならばケーキをホールで焼いた後に、それを1切れだけ皿に移し自分の物とした後、残りを全てくれるナミだが、今日は異なる様子だ。

 俺の目の前にはそれぞれ食べやすいように工夫されたチョコケーキ、チョコプリン、チョコクッキー等のチョコを使われた物がこれでもかと並び、赤髪の目の前にはチョコを使っていないクッキーやマフィンが置かれている。そして、困ったように笑うのだ。

 

 「予定になかったから、チョコは全てミホークに使うように計画立てちゃってたのよ」

 「鷹の目もそんなには食えんだろう」

 「え?ミホーク甘いものならペロッといくけど?」

 

 言ってから、ね?と振り向くナミに俺が頷けば嘘だろうと赤髪が言う。ナミの菓子は甘いが甘過ぎぬ故に、際限なく食せるだけの話だ。

 その間にナミは赤髪に紅茶を入れ、その中にブランデーを数滴落とした。その流れで俺の前に来たナミは俺には先にブランデーを入れて、紅茶を注ぎ足してみせる。

 なんの違いかと視線を向ければ、クスクスと笑うナミ。その笑顔が愛らしくて俺も自然と笑いそうになる。

 

 「ブランデー入りの紅茶じゃなくて、紅茶入りのブランデーの方が好きでしょ?」

 「まァな」

 

 だが、ワインやナミの方が欲しい。寧ろそろそろ##name_1##が欲しいが、まだ早いだろうか。

 ワインは熟成した方が美味いが、ナミはまだ熟成して居らぬのだろうか。判断が難しいな。

 

 「ミホーク」

 「ん?」

 「これ、後で……その、こっそり食べて」

 

 小さな箱を手渡され、俺は普通のチョコもあったのかと知る。料理の延長であるこれだけで、思いを伝えるべきイベントを終えるつもりなのかとヒヤヒヤしていたが、あるのならば何故素直に渡さぬのか……。

 受け取ったその場で開けようとすれば、悲鳴を上げられたので仕方なく部屋にナミを抱いて戻り、箱を開ける。赤髪の事など放置で良い。

 箱を開ければ夜を模した小さなチョコと共に、カードが添えられており、腕の中でナミが喘ぐように離してと言い続けている。メッセージカードには〝心だけでも、常に傍に〟とあり……。

 チョコの前に主を食そうと上半身を脱がせれば、ナミが驚いた顔をする。……無理強いはせぬが、味見程度なら許されよう。

 僅かに震えるナミにそう思い直して、無垢な素肌に舌を這わせれば戸惑いつつも抵抗する様子は見せぬナミに心が少し満たされる。

 

 「ミホーク……私、あの……!」

 「優しくしてやろう」

 「今日はダメ!」

 「ん?」

 「ミホークは好きだけど、その、今日はダメな日なの。その、女の子の日で……だから……!」

 

 チョコと蜜柑の匂いで血の臭いに気付かぬとは……!

 己のそれに少し絶望しつつ、だがそれならばと胸にだけ集中してやればナミはそれに身悶える。

 

 「ならば、今日は腰より上だけを、愛してやろう」

 「んぁ!や……!ミホーク!」

 「ナミを、愛している」

 「……え?」

 「伝わっていなかったのだろう。俺は、想っても居ない相手に優しくし、自らの家を明け渡したりはせぬ」

 

 俺の言葉にナミは瞳を潤ませ、抱き着いてきた。そして、言う。

 

 「私、ずっと片想いだと、思ってて……」

 「なにゆえに、このタイミングで主に手を出せぬのか」

 「日頃の行いじゃないの?」

 「……落ち着いたら、覚悟しておけよ。ナミ」

 

 俺の言葉にナミは顔を真っ赤に染めて、私何も知らないのに等と言って俺を更に煽ってくる。……ナミ程の感度ならば、上半身だけでも十分に楽しめそうだ。

 覚悟しろよとベッドに押し倒せば、ナミは小さく優しくしてと言ってくる。それに俺の理性が、耐えられるかは難しい所だ。

 Happy Valentine……無垢な天使は残酷な現実を告げ、男はそれでも尚慈しむ事を諦めない。想いは今日、漸く通じ、互いの肌の温もりに、重なる吐息に、来客の存在など意識から完全に抜け落ちている。

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