この作品には、ヒロインの年齢設定がございません。
フラリとした動作で、俺の制止を無視したナミが船を飛び出して行く。それを見送る形となって暫くすると、ベックが本を片手に唸り始めた。
「どうした?お前が唸るなんて珍しいな」
「……ナミの様子が気になって調べていたが、もしかすると数日この島に停泊する事になるな」
「は?」
意味が分からずに問い掛けようとした所でナミが帰って来た。俺と同じ髪色の子供をその腕に抱いて。
それを見たベックはやはりそうかと呟いて、ナミを視線だけで呼ぶと子供を抱いたナミが小首を傾げて歩み寄って来る。それに対して子供を見せてみろと言われたナミがそれに従うと、ベックがその子供を見て笑いだした。
「お頭……良かったな」
「何がだよ」
「文献によれば、この島には女を呼び寄せる植物があるらしい。そして、その植物は呼び寄せた女からの愛情を受けて3日で植物の姿に戻るが、愛される為にその女が最も愛する人間に擬態する。ただし、元が植物の為に人間の1歳程度の姿になるらしい」
……て事は、なんだ?
ナミの愛情を3日俺から奪うって事か?
「そんな植物燃やしちまえ」
「ある意味女に取り付く形だから、3日過ぎるまで島を離れたり植物を害したりすると女に変調が起きるらしいが……良いのか?」
ベックの言葉に俺がなんだと!?と言えば何故かナミはホッとしたような顔をして子供を撫でた。それから愛しげに子供を見詰めて、言葉を吐き出す。
「良かった。捨て子とかじゃなくて。シャンクスに似てたから、何処かで作っちゃって、押し付けられて、育てられないからって捨てたのかなって思ってたのよ」
「俺にいつそんな隙がある?俺はナミと常に寝てると思ってたんだがな?」
「でもほら、やる気になれば2時間もあれば仕込めるでしょ?それにこの子1歳位だから仕込んだとしたら2年前だもの、溜まって何処かで発散して……って事も考えられるでしょう?」
「考えられねェよ!」
思わず怒鳴る俺にナミは少し不思議そうに首を傾げてから、でも……と言う。それになんだろうと思い言葉を待てば少し目元を赤くして、視線をそらされた。
「シャンクス、街で買った女に、その、出しちゃうんでしょ?なら、そうなってもおかしくないかなって……」
1瞬何を言われたか分からずに居たが、直後に理解して叫ぶように否定する。
「あれは、ナミだと分かっていたからだ!他の女にンなことするか!俺は……ナミを逃がさねェ為に、逃げられなくする為にそうしただけで、普段はンなヘマしねェよ!」
「あら、そうなの?ふふっ違ってたのは植物だって聞いた時から分かってたけど、本当に良かったわ。……私ね、親が見つからなかったら、この子を育てていいかシャンクスに聞こうと思ってたのよ」
そう言って子供に微笑みかけるナミは、穏やかな空気を纏っている。植物ならミルクじゃないのかしらなんて言いながら、ナミに甘える子供を優しく対応するが……その子供に俺が近付くと 子供がギャンギャンと泣くのだ。
即ち抱いているナミに近付けねェ……。俺のナミだってのに!
子供はナミの胸をぺたぺたと触り、分からないふりなのか偶然なのかその尖端に良くぶつかる。それに対してナミは、コラなんて叱りつつも優しく微笑む。
巫山戯るなよ、俺のナミに触るな。甘えるな!
「……気質も受け継ぐ筈だが、確かにナミへの執着度合いは似てるかもな」
「俺はあんなんか?あんななのか!?」
「シャンクスー!」
「ん?」
「少しの間抱いてて。ベッドに残そうとすると泣くから……お願い」
突然の言葉におおぅと無意識で答えつつ受け取ると、ナミの姿が確認できる間は笑っていた子供が、ナミの姿が見えなくなると表情を消した。そして明らかに、俺を敵として認識してると分かる視線を向けて来る。
「お前のオリジナルが俺だってのに、なんなんだいったい!」
「お頭、子供相手にムキになるな」
「ナミは俺のなんだぞ、早く返せ!」
その時背後から足音が聞こえて振り向くと呆れたような、でも少し照れたような顔をしたナミがいて。
「トイレ行く時間くらい欲しいのよね、私も。だからと思ったのに、なんで喧嘩してるのよ」
子供もナミに気付いて慌てて笑い、俺もまたそれと同じタイミングで笑っていたようでクルーが全員で笑い出した。何がおかしいってんだよ!
「明らかに未来予想図だな」
「それは困るわ。シャンクスが自分の息子とこんな風に喧嘩してたら、私子供連れて船降りちゃうもの」
「俺より子供なのか!?」
「当然でしょ。シャンクスは大人だから1人でご飯もトイレも出来るけど、この子はそうはいかないもの。それに……」
言葉を止めたナミをじっと見ていたら、無言で俺の腕にいた子供を引取り、腕に抱えてから優しく笑いかけつつ言う。
「シャンクスの子なら、愛さずには居られないもの」
「それは、俺の子じゃねェぞ」
少しむくれて言えば分かってるけど、なんて言ってから俺の視線を避けるように背を向けるナミに少し苛立ち、肩を掴むと真っ赤になったナミがいて息をのむ。どうしたんだ?
「だってこの子、シャンクスに似てて……可愛いんだもの。見捨てられない」
その瞬間子供がナミの髪を掴んで自分を見ろと主張して、ナミの意識が子供に向けられる。それ迄の俺に向けていた少女のような顔から1転して、穏やかな優しい母親の顔になったナミに、どう反応すれば良いのか分からなくなる。
……僅か3日だ。耐えろ、俺。
だが、確かにその子供がいる事で何かを書き続けたり、読み続けたりしなくなり、食事をして睡眠を取るという普通の人間らしい行動をナミが取るのだから、悪い事ばかりとは言えないのかも知れない。……が!問題は夜だ。
植物であるそれが、人間の子供のように寝てくれたのを確認してナミを腕に抱くと、それを分かってるかのように泣くのだ。そしてその瞬間に恋人の顔から、母親の顔に変わったナミが離れて行く。
ナミに愛されてるから俺の姿なんだと分かってはいるが……気に入らねェ!似てる分余計に気に入らねェ!
ナミに分からないように、ナミの腕の中で俺にニヤリと勝ち誇った顔を向けて来る時があるのもその理由の1つだろうか。ナミには無邪気な可愛い子供の顔を見せてるが、俺には挑発的だ。
俺は、あんななのか?
「ナミ、俺も構え。いじけるぞ」
「シャンクス……。可愛いけど今は小さいシャンクスを優先させて。お願い」
そうか、ナミにとって俺は可愛いのか。って待て、今小さいシャンクスとか言わなかったか?
「ソレを俺認識するなよ」
「そうね、大人のシャンクスと違って色気はまだ無いし、余裕も無いから違うのよね。……でも、やっぱりいじけ方とか似てるのよ?」
「ナミ……」
「良かったわ。この段階で色気垂れ流しとかじゃなくて」
安心した様子で笑うナミだが、だとしたら未来に俺は不安しか抱けねェぞ。6歳のナミに俺はある意味誘惑されていたんだから娘なら絶対側から離せねェし、息子ならこの勢いでナミを取り合う自信がある。
そう思いナミが子供を甘やかしているのを眺めつつ、溜息を落とす。当分、子供は宿ってくれなくていいと。
考えてみればナミは、まだ俺の半分程しか生きてねェんだ。にも関わらず、俺はナミだと分かっていて16歳になったばかりのナミを抱いた。
そのまま抱き潰して、想いは互いに理解したが……。それから先はナミが大丈夫そうであれば、ほぼ毎晩抱いていたと気付いちまう。
……確かに、似てるかもな。子供を見てそっと溜息を落とすと、子供を寝かし付けたナミが俺の首に腕を回して来た。
「ちゃんと、傍に居るからそんな顔しないの!おやすみなさい、シャンクス」
ここでナミを抱き潰したら、多分ベックに隔離されるだろうと思い、今夜はただ抱き締めて寝る事にした。俺は傍にナミを居させなければ失いそうで不安になり、眠れなくなる。
だがナミは、自分を確実に守ってくれる人の傍に居ないと眠れないと言うのだから、俺とナミが離れて寝るのは自然の摂理に反してるようなものだろう。俺達が離れる事なんざ、許される訳もねェんだ。
愛しい温もりを腕に抱いて、あと2日と呪文のように唱えながら眠る。翌朝起きるのと同時に泣いてナミを呼ぶ子供に、そう迄して構われたいかと睨めば、わざと怯えたフリをしてナミに抱き着く。
「シャンクス!もう、いじめないの!」
「……ナミは、俺のものだろ?」
耳元で囁くと赤くなってシャンクスのばぁかぁー!と言いながら部屋を飛び出されてしまった。その腕にいた子供がニンマリと、勝利の笑みを浮かべていたのが本当に気に入らねェ。
ベックの真似して煙草でも吸いたくなるような状態だが、そんな事をしたら体に良くないとか言って子供に……即ちナミに近づく事が許されなくなるだろう。それを理由に色々と確認したいから見せろと言ったベックにさえもナミは近付くなと言って、追い払っていた位だ。
子猫を守ろうとする母猫のようだとベックが笑っていたのを見た時は、ざまぁみろと笑っていたが今となっては近付けるのがいい事なのかどうなのか。ナミ欠乏症による貧血とかになったら、ナミは傍についててくれるだろうか。
「弱ってるな、お頭」
「え?」
「全部声に出てたぜ?ナミ欠乏症の話」
「……良くないな、それは」
思わず空を仰ぎ見て、空に溜息を落とすとベックが煙を吐き出しつつ言う。
「多分、お頭Jrを抱いて傍に居てくれるだろうな」
「ベック、お前もか……」
「なんだ?ナミにでもそう言われたか?」
「あァ……言われた」
俺の答えにベックは喉で笑うと俺の頭をぽふぽふと撫でて、本当に愛されてるな、お頭はと呟かれる。それにしてもだ、今本気でベックは俺をガキ扱いしなかったか!?
「俺より子供優先してるぞ?何処が愛されてんだよ」
「大人で強いお頭は、自分を護ってくれる存在だからと甘えてんだろ。だが、小さなお頭は守ってやらないとって考えてるんだろうさ。元々ナミは民間人の善良さを保って海賊やってる稀有な存在なんだ、それは諦めろよ」
「……甘えてる?ナミが?」
俺の呟きにベックは呆れを隠しもしねェ。それから煙を俺にわざとかけて寄こしてから、海に煙草の灰を落としつつ言う。
「あの植物をお頭がどれ程毛嫌っても、絶対にこの〝赤髪海賊団〟のクルーは植物を害さない。そう〝信頼〟している。即ち自分を害さないって事を、ナミは少しも疑ってねェ証拠だろ」
「……まァ、そりゃそうだろうが」
「いざとなった時、お頭か子供で、子供を優先しても……お頭なら纏めて守ってくれて、そんな自分を許してくれる筈だと甘えてんだよ。ナミがンな甘え方するのは、お頭にだけだろ」
「……ベックにも、だろう」
「種類が違うからな。まァ、後は自分で考えろよ。俺は〝子供の害にならねェように〟離れた所で見守ってるよ」
そう言ってクツクツと笑いながら去るベックに、確かにナミのそれが甘えだとするなら嬉しい事だなと思う。その上で、警戒心の塊であったナミが、そこまで信頼してくれている事が分かれば、あの小憎らしい子供さえ多少は可愛く……見えねェな。
だが、子供に優しく微笑むナミを見ていると、それはそれで良いもんだなとも思える。植物に戻って別れたら、どうせ泣くだろうからそこからは甘やかしてるフリして、甘えてやろうと心に決める。
実際別れの時は毅然としていたのに、その日の夜はハラハラと泣き明かされ、結局ナミに何も出来ずに終わるとはこの時の俺には分かっていなかった。だがあの植物の姿が〝小さなシャンクス〟であった事で、ベックにたまに妬いていた気持ちが霧散したのは確かな事だった。
後にこの島は、宝玉の書いた手記によりカップル達で溢れかえる有名な観光地になるのだが、それはまだ、誰も知らない小さなこぼれ話。
この先このキャラクターは不定期更新となりますので、予めご了承ください。
このキャラクターにこの先追加される作品は、全てこの作品より手前に挿入されます。