カタクリ将星は強い。そして、強がりだ。
大きな体で、力も強く、能力も高く、賢い。家族達からの信頼を1身に集めて、その家族や部下を必死に守るその姿は海賊と言うより心優しき武人。
私はそんなカタクリ将星の、部下のつもりなんだけど……。周りから見えてる関係性は、少し違うらしい。
「マンママンマ!ナミは何時になったら正式にカタクリと結婚するんだい?俺はお前を既に娘のように思ってるのになァ?」
「ビッグ・マム、私とではカタクリ将星が困りますよ。もう少し私も成長しないと、カタクリ将星が幼女趣味に思われてしまいます」
私の言葉にビッグ・マムはそんなもん気にして海賊が務まるかと笑う。そして、カタクリの奴がさっさとナミをモノにしねェからこうなるんだと、何故か怒りがカタクリ将星に向けられてしまう。
「……少し、カタクリ将星と話をしてみますね」
「あァ、あいつは堅物だが悪い子じゃねェよ!」
「はい、優しくて、可愛い方ですよね」
「……その評価するのはナミだけだろうがな」
何故か呆れたように言われてしまい、それからビッグ・マムが言う。まるで威圧するような言い方だけど、傍で生活してみて知ったのは、この人もまた優しいという事。
「家族からは寿命を取らねェが、部下なら来年には寿命を貰う事になるよ」
「私の寿命でお役に立てるのでしたら、喜んで」
微笑めば小さく手強いねェと言われたけど、カタクリ将星の気持ちも考えてあげて欲しい。カタクリ将星は、私を妹みたいに思ってるだけだろうに。
守る為なのか、助けてくれてからすぐに私はカタクリ将星の婚約者として、ここビッグ・マム海賊団に引き取られた。カタクリ将星は、名目上の婚約者である私を可愛がってくれたし、たまにキスの1つくらいはして来るけど……それだけなのだ。
体格差、年齢差、実力差、どれを見ても不釣り合いで、だからこそ守るための方便だと言うのは嫌という程分かってる。ただ、私は助けられて、守られ続けて……好きだなと想うけど、それこそ迷惑な話だろうと思う。
時計を確認すれば、強がりで可愛いカタクリ将星はそろそろおやつの時間だろうとわかる。その時間になる前に部屋に入っておかないと、不機嫌になるのだけが困りもの。
どうやら私は、おやつの時間に1緒に居るのがカタクリ将星の中での決まり事らしい。なんか、正式には別な呼び方があるらしいけど、私から見たら単なるおやつの時間だから、そう呼んでる。
部屋に入るとまだカタクリ将星は帰ってなかったみたいで、でも2人分のドーナツと飲み物を運んで来てくれた部下の1人に遭遇する。私をいつも上の立場として扱ってくれるけど、実際の所同じ立場だからそんなに気にしないで欲しいのに。
寧ろ守られてる時点で、私の方が立場が下なんじゃ……。なんて本気で思ってるのに。
「ビッグ・マム海賊団は世界が求める〝宝玉〟を隠しているって言われてるんですよね。その宝玉さんと話せるだけでも凄い事ですよ」
と、何故か尊敬を集めてさえいる私。きっとカタクリ将星と同じように、噂が1人歩きしてるんだろうなと思う。
「ありがとう。でも、その名で呼ばないで、宝玉が誰だか分かったらきっと殺されてしまうわ」
小さく、私弱いものと呟けば、部下の人はそうですよね!と慌てた様子で頷いて姿を消した。そのタイミングで入ってきたカタクリ将星に、ドーナツを示して微笑む。
……弱いけど、それを本当に弱いですねと言われると、流石に少しへこむ。まァ仕方ないけどね。
「カタクリ将星、もうすぐ時間ですよ」
「あァ、そうだな」
言いながらドアを閉めて鍵をかけると、私の見ている目の前でゴロゴロしながらドーナツを食べ始める。この人の中で私は何なんだろうとちょっと思う。
それに誰にも話すつもりも無いけど、こんなに無防備で良いのだろうかと思ったりもする。まぁ、普段が頑張り過ぎなのよね。
私もお情け程度にドーナツを摘んで、後はただお茶を飲んでいたのだけど、カタクリ将星はそんな私を楽しそうに眺めるのだから良く分からない。でも、カタクリ将星が楽しいなら、それでいいかなとも思うのだ。
「カタクリ将星、失礼しますね」
そう言ってハンカチで口元のドーナツのカスを取れば、カタクリ将星が私のその手を掴んだ。どうしたのかと思って、このカスも食べたかったのかな?と思い至り、私用に用意されてる小ぶりのドーナツを差し出そうと思ったら唇が重なった。
カタクリ将星は優しい。そして……少し残酷。
「……ふぅ……ぁ……」
「ナミも今年で16歳になった訳だが、ビッグ・マムに何か言われたりしてないか?」
キスの合間に問い掛けられ、私は小さく笑う。なんてタイミングかと。
「そろそろ結婚しろって言われました。でも、カタクリ将星の思うようにしてください。私はそれに従います」
「ナミは、好きな相手がいるんじゃないのか?」
「……私の全てはカタクリ将星のものです。お気になさらず」
いつものやり取り、いつもの会話。ただ、いつもと違うのは……。
「ナミが好きな相手と1緒になれば良い。兄弟の誰を選んでも、ママは納得するだろう」
今までに無かったこの言葉。私は何も言えずに、ただ、カタクリ将星を見詰める。
それなら、どうして……この人は私に優しくキスするのか。それが……どれだけ私を、苦しめているのか。
……八つ当たりだわ、私が勝手に想ってるだけなのよ。妹として可愛がられるのがつらくて、部下に移行して貰ったんだもの。
妹か部下か。私には、それしか選択肢なんて無かったから。
それでも、伝えるだけなら許されるかな。……私は顔を上げて、カタクリ将星を見詰めると、最初で最後の賭けに出る。
「……相手の方の気持ちもあるとは、思いませんか?」
「ナミに言われれば、拒む兄弟は居ないだろう。ママも喜ぶ」
「では、私が、好きなのは……カタクリ将星だと言っても?」
カタクリ将星は、私の言葉に息を飲んだ。固まるカタクリ将星に、考えもしなかったのだという真実を突き付けられ、息を吐く。
「……困らせるつもりはありません。誰が良いか、カタクリ将星が選んでください。私はそれに従……」
その言葉を言い終える前に、視界が回った。目の前には飢えたような顔をしたカタクリ将星がいて、私を見下ろしている。
「……取り消すなら、今が最後だ。好きな相手は誰だ。もし、また同じ言葉を繰り返すなら……もう、俺も我慢はしない」
その声が苦しそうで、その態度がまるで……。胸が、苦しい。
……期待してしまいそうで、泣きそうになるのを耐えて言葉を口にする。声は、震えていないだろうか。
「私、カタクリ将星が、好きよ。部下として尊敬してるってだけじゃなくて……ずっと1緒にいるのなら、カタクリさんが良い」
「……久々だな、カタクリさんと呼ぶのは。部下として傍にいるようになってから、初めてじゃないか?」
「ケジメは、必要でしょう」
私の言葉にカタクリさんは笑う。その笑顔が少年のように明るくて、私の心は簡単に高鳴る。
「……今後は、呼び捨てで構わない。ナミ、取り消しは聞かない」
「カタクリは、私の事……妹として見てたんじゃ?」
「馬鹿が。妹にこんなキスしてたまるか」
言いながら降らされたキスが優しくて、でも少し乱暴で……私はカタクリの首に腕を回した。それにカタクリがキスを深めた所で鏡からブリュレが飛び出して来た。
「お兄ちゃん!聞いて!……って、邪魔して、ゴメンなさい」
唇を離して、カタクリがどうしたと問い掛ける。私は部屋の奥から塗り薬を用意してブリュレの元へ向かう。
「ブリュレさんは、横着しないでちゃんとこれ塗ってよ。ちゃんと傷跡治るから……ね?」
「……2人共、怒るとか照れるとかしてよ。私がおかしいみたいじゃない」
「キスなら良いのよ。それにブリュレさんだもの」
笑えば少し照れたようにブリュレさんは笑って、私とカタクリを鏡の世界に招き入れる。この2人の兄妹は本当に仲良しで、私はブリュレさんが大好きだったりする。
「お兄ちゃんの恋人なんて、いびり倒してやるつもりだったのに……毒気抜かれるのよね」
「ブリュレさんは優しいから」
「……ああああ!もうっ!……お兄ちゃん、早くナミモノにしないと、ペロス兄さんとか、クラッカー兄さんにナミを嫁がせる話が出てるのよ!!」
「モノにって……」
私が赤くなると、それを見たブリュレが目を丸くした。そしてカタクリに視線を向けて……。
「お兄ちゃん、何処か綺麗なホテルまで鏡で移動させてあげるから、すぐに食べちゃいなさいよ」
「食べっ!?」
私が口をパクパクさせれば、カタクリは首を横に振った。それに、そうよね流石にそんな気は無いわよねと思ったら違った。
「……暫くは慣らさないと、壊れるだけだ。体格差を考えろ、ブリュレ」
「あァ、そういう事。なら、それとなくママには私から伝えとくからゆっくり可愛がってあげて!私、ナミならお姉ちゃんになっても許せるから」
そう言って笑うブリュレさんに、私は既にキャパオーバーでカタクリに飛び付いて顔を隠す事しか出来なかった。とは言え、立ってるカタクリに飛び付いた所で足にしがみついてる形なんだけど……。
それからはビッグ・マムに呼び出される事もなくなり、隙あらばカタクリに身体中を文字通り好きにされる事になるなんて、想像して無かった。私の知らないところで、結婚式の準備が整えられている事さえ、知らなかったのだから。
この話は、光源氏シリーズが書かれ始めた当初の頃に執筆した物です。
光源氏シリーズもカタクリもそれ程人気になるとは思わず、結婚を匂わせる話を書けばこれでエンディングになるだろうと思い、書きました。
結果は、結婚ありなんだと言う事で他のキャラクターでもとの話に広がり、更には後日談や結婚式の様子等のリクエストが入りました。
感慨深くて、つい長々と書いてしまいましたが、そんな訳でこの話は私の中ではエンディングの予定だった作品だよって話です。
他にもそういう、いかにもエンディングにしようとしたのが分かるものもあるかと思いますが、余り気になさらず、今後ともお付き合いくださいませ。