雪が降っているのを確認して、道理で冷える訳だと思えば暖かな温もりに早く会いたいと思ってしまった。弟妹は総じて可愛いと思うし、兄や姉は総じて大切な家族だがナミはその誰をも凌駕する。
今回ナミが出版した多くの作品により、少なくともナワバリ内は蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。クリスマスと言うお茶会を開く為にママが盛り上がり、だがナミは作家モードだから出席させられない可能性がある。
そうなれば危険かと思っていたが、紹介状を出されての欠席ではなく仕事による欠席であり家族だからと、特にお咎めは無いようだった。正確にはナミからは、命を取れないのだと言いながら許可をくれたのだがな。
「ナミは俺を怖がらねェから、命を取れねェんだよ。マンママンマ!だからと言って、ナミの身近な誰かの命をとなれば、金の卵は自ら割れちまう!なら、些細な事は許すしかねェだろう!」
そうは言うが、ママがナミに甘いのは周知の事実。無条件に注がれる愛情に誰よりも飢えているママだからこそ、ナミに執着しているのかも知れないと思わされる。
部屋に入ると中には甘い匂いが充満していて、何があったのかと見てみる。するとナミが作家モードを終えて、料理をしている姿が視界に飛び込んで来た。
「ナミ、書き終わったのか?」
「えぇこれで暫くは新作書けないと思うわ。1気に頑張りすぎたみたいで、ペンが進まなくなっちゃったの」
「そうだろうな。少し頑張り過ぎだ。……これは、なんだ?」
聞けばドーナツの生地でケーキを作ってるのだと言う。勿論他にも料理は並べられているが、その中でもドーナツ型の謎の料理を見て特に不思議に思い近付いてみる。
近付くとそれが肉料理だと分かり、首を傾げるとナミがまだ完成品じゃないわよと笑った。それから挽肉をドーナツ型に置いて、焼売の皮で上から覆って焼いただけの物よなんて言う。
「何かこれに足すのか?」
「ドーナツ型の真ん中にサラダを置くのよ。そうするとカタクリも肉と野菜を同時に取れるでしょ?」
「野菜から逃げようとする子供のような扱いだな」
「あら、違った?」
クスクスと笑う悪戯なナミに、俺は小さく肩を竦めてみせる。それに対してナミは手を休めるの事無く動かしながらも、俺を優しく呼ぶ。
呼ばれるままに近付くとスプーンが差し出されて、無意識でそれを口に入れると酸味の効いたトマトベースの味付けだと分かる。これは何だと思って視線で問いかければ、ナミはドーナツ型のお肉に使うのよなんて言う。
「真ん中はサラダになるから、肉とも合うドレッシングが必要なのよ。それでね、お肉とトマトは相性が良いし、サラダにしてもトマトベースのこれをドレッシングにするのは問題ないと思って。でもどう?苦手な味だったりする?」
不安そうに聞いてくるナミに、ただ美味かったと言うよりは何か助言をと考えて言葉を口にする。
「サラダにかけるなら、もう少し胡椒をきかせても良いかも知れん」
「そうね、お肉の方も胡椒なら違和感無く食べられるものね。カタクリありがとう」
料理で使うドレッシングも、ソースさえも手作りかと思えば、これで料理は得意とは言えないわなんて言葉を紡げるナミの自己評価について考えさせられる。顔が可愛い事の他は、自己評価が明らかに低過ぎる愛しい妻に苦笑を隠せない。
鍋を見れば白い物が入っていて、それを少し味見してみるとクラムチャウダーだと分かる。基本的に赤、緑、白の3色で構成された料理になるらしいと他も見ながら思う。
……このクラムチャウダー美味いな。弱火でじっくり作られていて、熱過ぎない為に飲みやすいのもあるだろう。
「あら、気に入った?でも飲み尽くさないでね。もう1度作るには少し時間かかるから、他の物が冷めちゃうもの」
味見のつもりが結構飲んでいたので、見つかった瞬間にそう言われたが、何故か怒ったりはしない。ナミは俺に甘い。
「ナミの料理が美味いのが悪い」
「ここの国には、恐ろしい程の数と質の料理人が居るのに、何を言ってるのよ」
呆れを隠さずそう言って、褒められたのに欠片も信じないナミに苦笑がもれる。それでも少し照れた様子を見せているのだから、嬉しい事に間違いは無いのだろう。
料理が完成したのか、後片付けをして料理をテーブルに運ぼうとしているのが見えた。運ぶのはやろうと言えば家事を手伝う夫とか……奇跡!?なんて言い出すナミ。
それに、運ぶだけでは手伝いと呼べないだろうと思わず本音が零れる。それに対してナミはこれが世に言うスパダリ!?と謎の言語を呟いていたが、まァ良い。
料理を運び終えて、テーブルのセッティングだけはと済ませればナミも後片付けが終わったようで、エプロンを外しながらテーブルの方へ移動して来た。頭を覆っていた邪魔な布も取られれば、その姿に漸く日常に帰ったような気がする。
思わず手を伸ばしてナミを抱き寄せると、腕の中で驚いた表情を見せていたナミが、恥ずかしそうに抗議してきた。
「言えば来るから、無駄に能力使わないでよ。なんか、驚いちゃうし、その……心の準備をさせて欲しいし」
「心の準備?」
「だって、恥ずかしいじゃない。カタクリの事、大好きだから急に近付くとなんて言ったらいいか、心臓持たないって言うか……」
コレは俺をどうしたいのか。今すぐ襲えと言ってるならば、話は簡単だが間違いなくそれは無い。
心臓が持たないような気持ちになるのは俺の方だと思いつつ、その髪に指を絡めるとナミは甘えるように俺に身を預けて来る。甘やかな温もりに幸せを体感させられつつ、料理が冷めそうだと言えばナミは俺から離れようとする。
だが、離す筈が無いだろうと膝に座らせたまま腰を抱けばナミは顔を真っ赤にして、挙動不審となる。
「カタクリ、私の椅子あっちにあるから!」
「ここで食べれば良い」
「でもっ!ほら、フォークとかあっちにセット……」
言い終わらないうちに手を伸ばして、セッティングしたそれをナミの目の前に移動させれば黙った。それから俺の服を掴んで、意を決したような顔で俺に視線を向けて来る。
「カタクリ、2分時間頂戴。お願い!」
「分かった。2分で戻らなければ迎えに行く」
「同じ部屋の中だから、迎えはいらないわよ」
「なら、手を伸ばす」
「……了解、急ぐわね」
そう言って離れたナミは、部屋の隅に置いてあった紙の塊を手に戻って来る。慌て過ぎて何も無い所で躓くナミに手を伸ばして支えると、そのまま抱き寄せて腕の中に閉じ込める。
「それくらい言えば取る。だから、怪我をするな」
「焦ってなきゃこんな事には……!」
「どうだかな。変な所でナミは抜けている」
「ウグッ……」
言い返せなくなったのか、俯いて黙ったナミをもう離すものかと強く抱き締める。そんな俺にナミは無言で持って来た紙の塊を差し出すので受け取れば、ラッピングされている為に紙の塊と認識していたのだと知る。
それを開ければ中からは毛糸の塊が出て来て、広げればネックウォーマーだと分かる。明らかに俺のサイズのそれに、手編みかと気付きナミへと視線を向けた。
「いつもその布で口隠してるけど、最近寒いから……口元を隠せて、暖かいものって考えたのよ」
「……汚したくないな」
「洗える毛糸だし、ほつれたら毛糸だからまた直せるから気にしないでいいわよ」
そう言ってクスクスと笑うナミは優しい顔をしていて、俺の半分も生きてはいないというのにママからさえ感じた事の無いような母性愛を滲ませたような雰囲気を纏う。そんな状態が少し気恥ずかしく、大切にすると言ってから髪飾りを差し出す。
少し動かすとシャラシャラと音のするこれならば、ナミが何処かへ何者かが連れ去ろうとした時、報せてくれるだろう。鈴の混ざっているそれは、今日沈めた船からの戦利品でもあるがそれは伝えるつもりは無い。
「つまみ簪ね。中々珍しい物だけど、良いの?」
「貰うだけとはいかないだろう」
「ありがとう。今度付け方練習してみるわ。芸妓さんじゃ無いから、馴染みが無くて使えるか不安だけど……本当に綺麗ね」
喜んで貰えたならそれだけで良い。シャラシャラリンリンと鳴るそれを嬉しそうに見つめ、それから共に料理に手を伸ばす。
届かないだろうと言って口元まで料理を運べば、恥ずかしそうに口にしながら自分で食べられるのに等と言ってくる。だが、その直後にそのサラダ食べたいとか言い出すから、また口元にフォークを差し出す。
「違うの。私は小皿に取って欲し……分かりました、食べます!」
そう言って俺の手から食べるナミは耳まで赤い。俺も食事に手を伸ばしてそれを食べながら、その後もナミに食べさせていれば途中から諦めたのか、素直に俺の手から料理を口にするようになった。
初めからそうして素直にしていれば良いのだと笑えば、2人だから食べるけど他の人いたらやらないわよ!?なんて言い出す。もうっ!とか言いつつ俺の胸をポカスカと殴って来るが、その細腕でしかも相手が俺ではなんの価値も無い。
残す所ケーキだけとなり、近くにそれを引き寄せれば、ナミはホッとした様子で自分で食べられると言ってケーキに手を伸ばして……くるりと俺に向き直ると、そのケーキを俺に差し出して来た。
「お返し。食べてくれる?」
「当然だ」
今度はナミから俺が食べさせてもらいつつ、用意されたお茶と共にそれを楽しむ。残り1口となった所でナミにそれを食べるよう促せば、素直に口に入れたのでそのケーキごとナミを貰う為に唇を重ねる。
「……おかしいな」
「何がよ!?ケーキ欲しかったなら、譲らないでくれる!?」
口内からケーキを奪ったからか文句を言うナミを見て首を傾げる。だがそれより、明らかにおかしいだろう。
「ケーキよりもナミの方が甘い」
「……!?なっ!なっ……!」
口をパクパクと動かし、何も言えなくなっているナミに再び唇を重ねる。どうせ何も話せないならば、その唇を俺のものにして何が問題だというのか。
Merry Christmas……聖なる夜の贈り物はお前そのものが1番嬉しいと囁けば、困ったように笑われる。だが俺にはお前よりも清浄に思える存在等、この世の何処にも無いのだから仕方ないだろう。