※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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安眠(光源氏16)

 少しでも時間があると、私とカタクリは互いに見つめ合い微笑むようになった。それを見る度に、プリンもローラも、シフォンも、ブリュレまでもが呆れたような顔をするのだから不思議なものだと思う。

 

 「砂じゃなくて砂糖を吐きそうよ!」

 「「「本当にね」」」

 

 ブリュレの言葉に3人が同意する。そんな中で私が忙しそうに部屋を出て行くカタクリに、気を付けてねと言って見送るとブリュレが噴火した。

 

 「お兄ちゃんに勝てる奴なんか居ないんだから、心配するだけ無駄だよ!」

 「でも、カタクリは人間なのよ。怪我もしないなんて保証は無いもの」

 「ナミ、心配はいらない。……帰ったら、笑顔で出迎えてくれ」

 「カタクリ……」

 「ナミ……」

 

 互いに手を取り合って見つめていたら、義妹達の声が揃った。それはもう見事なハモリである。

 

 「「「「ゲロ甘い」」」」

 

 そんな事を言って楽しく過ごす日々の中でも、カタクリと離れて私が海に出る事も当然ある。でも、本当は戦えない訳でもないんだけど、世間的にも〝戦えない〟事になっていた方がいざと言う時に良いからと、常に私は戦える誰かに守られている。

 勿論、私には勝てない人達に守られてる訳だから、有難いし助かるのだけど……。クラッカー君は良いのよ、義弟だから名前呼びでも、でもペロスペローさんは義兄さんだからそう呼ぶのに、名前で呼ばないと返事をしてくれないのが問題だったりする。

 そのペロスペローさんと今日は近海の様子が変わってないか、見に行く事になってる。確認して変わってたら、それを海図に起こすのだ。

 何かあってナワバリの島が増えれば、その近海の海図とその島の地図を描くのも私の仕事。でも他は、比較的好きにしてていいと言われてる。

 皆さん優しすぎると思うのよねと呟いたら、プリンには仕事多過ぎだからって言われてしまったのが不思議でならない。結局、プリンは悪い子モードでも根本的に優しいって事かしら?

 そんな事を考えながら、海岸へ向えばペロスペローさんが立っていてそれに手を振れば穏やかに笑ってくれる。読んでいたり見ていた頃は知らなかった、優しい面がこの海賊団の人達には多い。

 考えてみればその筈で、私は保護されてから引き続き家族になった訳で、でも見たりしてた頃は敵として描かれていたのだから……。元々家族には優しいようなシーンも多く描かれていたのを思い出せば、成程と思う。

 ただ同時に、シフォンとローラの2人がこの先どうなるのかを知っているから、苦しくなる。私は、2人の味方で有り続けたいけど……何処まで、何が出来るか。

 その時が来たら、カタクリに相談してみようと心に決めてペロスペローさんの元へ向かう。この1味の人達は、基本的に身内には暖かく優しい。

 

 「ナミ……何か食べるか?ペロリン」

 「ありがとう。1緒に、紅茶なんてどうかしら?」

 「……良いねェ。茶葉は此方に任せて貰えるのかな?ペロリン」

 「勿論、お任せするわ、義兄さん」

 

 その瞬間ペロスペローさんは動きを止めて、首を横に振る。まるで傷付けられたかのような顔で。

 

 「ナミ、せめてペロス兄さんにしてみないか?」

 「……でも、私の立場を考えたらそんな……」

 「そんな細かい事、誰も気にしないさ。ペロリン」

 

 ペロスペローさんは、私を家族として認めたくないのだろうか?

 シャーロット・ナミの名をいい響きだと言ってくれたのに、それは私を傷つけない為の嘘だったのだろうか。優し過ぎるこの1味の人達は、まさかそんな形で私を傷付けないように庇っているのかな。

 ……年齢が若すぎるとか?

 でも、姉になった訳じゃなくて、妹な訳だし……。

 

 「……ペロス義兄さんは、私が義妹なのが嫌ですか?」

 「………………っ!な、慣れない、だけで嫌な訳じゃ無いから、安心して良い」

 

 暫し無言になっていたけど、義兄さんはそう言ってくれるから漸くホッとして笑うと少し待ってるようにと言われて、その場に残された。去り際に小さく、見事な鈍さとか言ってたけど……何だろう?

 それから少しして、美しい飴細工のお菓子と共に紅茶が用意されて、2人でそれを楽しみながら近海を巡る。特に変わったところは無くて、穏やかな航海に少し心が落ち着く。

 その時、風が変わった。サイクロン……違う、嵐だわ!

 

 「ペロス義兄さん、嵐が来る!急いで船を動かして、9時の方角!」

 

 即座に反応してくれながら、私を船内に入れようとするけど……細かい判断は外に居ないと出来ない。風を肌で感じなければ、大切な所を見落としてしまう事も有り得るからとそれを拒む。

 

 「せめて船縁には近付くなよ、ペロリン」

 「分かったわ。ありがとう」

 

 そうして指示を出しながら嵐を抜けると、全身ずぶ濡れになっていてとりあえずシャワーを借りたいと体が訴えるように震える。貸して貰えるかなと思って義兄さんに視線を向けると、頷かれた。

 どうやら既に色々準備してくれてたらしい。ありがとうと笑えば、ナミは弱いからなと言われてしまう。

 濡れたままでも風邪をひかない貴方達が異常なのだと心から思う。けど、不特定多数が居る時は、割合が多い方が普通なのだからこの場合私が弱い扱いでも仕方ないのかなと気付く。

 お風呂に入って身体を温めながら、幸せを噛み締める。あったかぁい……。

 私の知らない話の流れになっているから、きっと似て非なる世界なのだろうと思うけど……それでも、どこかでずっとナミちゃんの人生を奪った事が引っ掛かっていた。でも、カタクリは今の〝私〟を好きだと言ってくれて、幸せにしてくれるつもりなら、幸せになれと言うから……。

 だから、私は前を向いて歩く事が出来る。素直に、現状を受け入れられるようになった。

 

 「……幸せ過ぎて、バチが当たりそう」

 

 思わず呟きながらお風呂を出て、義兄さんの元へ向かうとその瞬間に肩に掛けていたタオルを義兄さんに奪われた。この1味の人達は総じて世話焼きだと思う。

 

 「どうしてナミは髪を拭くのがこんなに下手なんだ?ペロリン」

 「……努力は、してるのよ?」

 「……見受けられねェなァ」

 「酷いなぁ……」

 

 そんな事を言いながらも義兄さんは優しい。海を眺めながら過ごしていたら、何だか少し眠くなって来て、クラクラする視界に気を抜くなと自分に言い聞かせる。

 でも、義兄さんがそんな私に寝ていいと甘やかすような事を言うから、それに甘えるように体は勝手に眠りに落ちて行く。

 

 「……私の腕の中でも、ナミは寝てくれる。それに満足するべきなのか……?」

 

 義兄さんのそんな呟きが、聞こえたような気がした。

 目覚めると義兄さんが傍で本を読んでいて、その本を見れば〝宝玉〟の作品だと分かる。でも……何の本だっけ、あれ?

 

 「……起きたのか?」

 「えぇ、なんで急に眠くなったのかわからないけど、ごめんなさい」

 「普通の人間の女なら、さしておかしくもねェさ。嵐の中で指揮を取り、風呂に入って、温かいものを飲んだら眠くもなる。……いつもながら、ありがとな」

 

 そう言って義兄さんは私の頭を撫でてくれるから、それにより瞼が重くなる。駄目だって、寝てる場合じゃ……。

 

 「ナミが安眠出来る存在なのを喜ぶべきか、悲しむべきか、どちらが正しいと思う?」

 「……私は、ペロス義兄さんがそばに居てくれると、安心で助かってるわよ?ペロス義兄さんは、私が保護されてすぐの頃から気にかけてくれてたでしょ。……嬉しかったの。正直、心細かったし」

 「なら、良かった事にしとくかね。ペロリン」

 

 そう言ってから義兄さんは、もう少し寝てれば島に着くと言ってくれる。今日は嵐にもあったし特に変化も無かったから、大人しく帰って寝るべきだと……。

 本当に、この人達はお菓子の国に見合う甘い人達だわと思いながら、再び眠りに落ちて行った。頭を撫でてくれるその手が、優しくて……安心したのもきっと大きかったと思う。

 絶対に自分を害さない人、守ってくれる人の傍では悪夢も見ない。だから私はそんな人には、つい甘えてしまうのかも知れない。

 船が止まった事で目を覚ましたら、その直後に足音が聞こえてカタクリだと分かる。1定のリズムで歩くから、カタクリの足音はわかりやすい。

 

 「ペロス兄、お帰り。ナミの事をいつもありがとう」

 「それが私の仕事だからな。ペロリン」

 「……何故、ナミは寝てたんだ?」

 「嵐にあってね、体力を消耗したらしい」

 「そうか。ペロス兄、ありがとう」

 

 言いながら私の元に歩み寄ると、カタクリは私をそっと抱き上げてくれてその腕の中に包んでくれる。それに甘えるように擦り寄ると、小さく笑われる。

 

 「まだ、眠いみたいだな。帰れるか?」

 「うん、カタクリと帰る」

 「そうか」

 

 口元は見えなくても、カタクリが笑ったのは分かる。去り際に義兄さんに手を振ってまたねと言えば、あァと返してくれるからそれに笑う。

 そんなやり取りをしていたら、カタクリが船を降りた所で問い掛けてくる。それは何故か、何処か不安そうな響きを含んでいた。

 

 「ナミは、俺との結婚で良かったのか?」

 「……質問の趣旨が分からないわ」

 

 頭が1気に覚醒したけど、それでも分からない。何を言ってるの?

 

 「……ペロス兄は、優しいだろう?」

 「そうね。強くて、優しくて、家族想いの良い長男さんだと思うわよ」

 「……だから、良かったのかと」

 「…………本当に、意味がわかんないんだけど」

 

 何が言いたいのかも、何も分からなくてカタクリの顔を覗き込む。その瞳が不安そうに揺れていて、何がこの人を不安にさせているのだろうと少し考えて、呑気に寝てた事が何か問題なのかなと思い至る。

 

 「義兄さんの所で寝てたから、不安にさせた?」

 「……ナミは、信頼出来ない相手の側では寝つきが悪いからな」

 「私はね、ビッグマム海賊団の人達の事を信じてるの。その中でも、カタクリが親しくしてる兄弟と、いつもお茶してる義妹達は特にね」

 

 言いながらカタクリの首に腕を回す。戦いには強いし、弟妹にも優しいこの人は、精神的に時々物凄く脆い。

 優しさの代償なのかなと思いながら、その耳元で囁く。

 

 「それでも、愛してるのはカタクリだけよ」

 「……今夜は寝られなくて問題無いな?」

 「え?何でそうなったの?本気で眠いんだけど」

 「聞こえないな」

 

 嘘だ。見聞色の覇気を恐ろしい勢いで鍛えてて、普通よりずっと何でも聞こえて癖に何を言ってるのか……!

 

 「カタクリには、私の声、聞こえないの?」

 「……ナミのそれは卑怯だな」

 「ね、明日にしよ。私眠い」

 「…………仕方ない。明日、ゆっくりとな」

 

 そう言ってカタクリは笑うから、だから私もそれに笑い返す。優しくて、だからこそ少し脆いこの人を私は支えたいと思う。

 いつも守られてばかりだけど、眠気が取れたらまた、1緒に過ごそうと微笑めば、眠る時も離す予定は無いと言いきられてしまう。きっと今私は、幸福の沼に沈んでいる。

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