※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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バレンタインイベント(光源氏16)side

 メリエンダの時間だからと部屋に帰ったが、そこには背を向けるナミが居るだけだ。どうしたのかとペンも動かさずに座るナミに近付くと、その違和感の正体に気付く。

 どうやら、ナミが大切にしている武器で幻を見せられていたと気付き、何処へ行ったのかと考える。その時用意された物を見て、とりあえずメリエンダを無視する事は出来ずに中に篭もりナミとの会話を思い出しながらドーナツを頬張った。

 確かあれは……そうだ、買い物に行きたいと言っていたな。島の名前を聞いて即座に駄目だと言ったら落ち込んだ様子で頷いていたが……まさか、1人で行ったのか?

 せめてクラッカーかペロス兄を伴っていてくれると助かるが……。オーブンの事は何故か苦手に思っているらしく、ナミは近付かないから有り得ないが、それならばプリンでもこの際良い。

 プリンは能力を使って、ナミもクリマタクトを……そこまで考えて手元にあるクリマタクトに溜息が落ちる。急いで回収に行かねェとな。

 メリエンダ終了と同時にそれぞれに電話をかけて変わった事は無かったかと聞いてみるが、やはり何も無いらしい。これだけの人間がひしめいている中で、どうやって港まで行ったのか。

 ……まさか、ママのビブルカードを持ってるのか。そうでなければ迷いの森は……いや、協力しそうなのが居たな。

 鏡の前に立ち、名を呼ぶ。それだけでどうしたのと言って顔を出したブリュレの顔を見て、ナミの協力者はブリュレだと確信した。

 

 「ナミの脱走を手伝ったな?」

 「脱走じゃないわよお兄ちゃん!ナミはただ買い物に……!」

 「俺は駄目だと言った。……迎えに行く。連れて行け」

 

 俺の言葉にブリュレは困ったような顔をして、それから小さく頷いた。どうやらナミに1人で買い物をさせてやりたかったらしいが、場所が悪い。

 ナミの居る島に鏡から出れば、声掛けてくれたら迎えに来るわとブリュレは鏡の中に帰った。ブリュレも色々あったから、ミロワールドからあまり出たがらないのだと言うのは知っているので、咎めるつもりは無い。

 それにしても、女を味方につけて男を無意識で篭絡するのを辞めて貰いたいものだと常々思う。結婚しても尚、ナミは強い男に狙われる。

 隠しても閉じ込めても、ナミはどこかで男を引っ掛ける。妹達が全力でフォローしているが、それでも変なのにばかり好かれるのだからたまったものでは無い。

 弱い奴等は、俺に対する対抗手段としてナミを狙う。だが実際、弱いのからならば逃げてくれるから比較的助かってはいる。

 強い相手でも、精一杯抵抗してくれているのは知っているんだがな。見聞色の覇気で探ればナミは真剣な顔で砂糖を睨み付けていて、手にはカカオがあるのが確認出来た。

 背負っている物には小麦粉やら何やらがあり、視線を向ければ質の良いものが揃っている。成程、来たいと言う訳だな。

 だが、危険である事に変わりは無い。迎えに行く為に歩き出せば、ナミはいつもとは異なる歩き方で移動し何かの店に入った。

 よく見ればいつもとは姿が異なっていて、見聞色の覇気が無ければ見落としかねない程に別人のようになっていると気付く。露出の少ないその衣装に、いつもそうして肌を隠していて欲しいと少しばかり思う。

 それにしても……楽しませてくれる。ナミは、何を仕出かすか本当に分からねェな。

 店内を見れば紙1枚を選ぶのにも真剣な様子で、続いてリボンのコーナーで立ち止まり唸っている。……この島でさえ無ければ、これ程怒りはしなかったんだがなと思った時、俺に向けられた銃口。

 体を変形させて躱し、犯人にはビーンズを投げて始末した。2人程生かして、目的等を確認してからまた店前に戻る。

 するとナミがホクホクした顔で出て来た。それを眺めればナミは俺を見て、しまったと言う顔をしてから、素知らぬふりで通り過ぎようとしたが……許す筈ねェだろうに。

 

 「ナミ、帰るぞ」

 「……はい」

 

 声をかければ観念した様子で素直に頷いたが、念の為抱えて鏡まで戻りブリュレに声をかける。すると出て来たブリュレがナミにごめんねと謝り、ナミは私が無理させたんだしなんて言って互いに庇い合う。

 部屋にある鏡を全て外に出してから、ナミに部屋から出ないようにと言って謹慎させれば困った様子を見せるが、駄目なものは駄目だ。勝手に外出した事に関しては、何かしなければ他に示しもつかない。

 

 「鏡無いとか、普通じゃないからね!?」

 「ナミとブリュレは仲が良すぎる。鏡があればどこかへ行ってしまうだろう」

 

 俺の言葉にナミとブリュレは顔を見合わせているから、そのつもりだったらしいと知る。ブリュレには海楼石のネックレスを付けさせて、やはり鏡のない部屋に閉じ込めれば2人から悲しそうな視線を向けられる。

 ……辞めろ。悪人にでもなった気分になるだろう。

 俺はどうしたって、ナミとブリュレには強く出にくい。弟妹に順位を付けるつもりは無ェが、ブリュレだけはどうしても守れずに傷付けた負い目もある。

 事情を説明する為にママの部屋へ行ったりして、やる事を終えてから自室に戻れば寂しそうな顔をしてナミが待っていた。反省したのだろうか。

 

 「お願い、時間が無いの。部屋から出して」

 「反省はしたか?」

 「……勿論よ!えぇ、もう、海よりも深く反省したわ!」

 

 反省してないのがよく分かる反応に溜息を落としつつ、結局許してしまう俺の弱さ。ナミの悲しそうな顔に、俺が勝てる筈がない。

 

 「カタクリ、お願い……もう、許して……」

 「……今度からは誰か護衛をつけろ。それを約束出来るなら、許してやる」

 「ん。分かった。約束するわ」

 

 そんなに部屋から出たいのか、珍しいな。そう思いつつも、そう言われては許す他は無いのでブリュレ共々解放する事にする。

 その翌日からナミは、メリエンダの時間と睡眠の時の他は部屋を空けているようになった。悪いことでは無い。

 寧ろ今まで部屋から出なさすぎたのだから、良い傾向だろう。……恐らくは。

 これ迄当然のものとして、ナミは部屋にいた。仕事の他は常に俺の帰りを部屋で待っていてくれたナミが、妹達の部屋やキッチンに出掛けるようになったからと言って責められはしない。

 ……不満とは少し違うが……落ち着かねェな。

 そんな事を思いながら数日を過ごしたある日、ナミが朝食の直後に出掛けようとした俺を呼び止める。それは何処か必死な様子で、それに少しばかり心の痛みが軽減した気がした。

 

 「……カタクリ!あの、今日の帰りって……遅くなる?」

 「いや……昼過ぎには、終わらせる」

 

 この言い方は早く帰って欲しい時だと分かり、帰ると宣言すればナミは嬉しそうに笑った。そして、気を付けてねと言って、今までと同じように見送ってくれる。

 大した事では無い筈のそれに、やっと日常に戻れた気がして肩から力が抜ける。部屋で待っていてくれる、そんな当たり前の事が妙に愛しい。

 昼過ぎに部屋へ帰るとテーブルには簡単な昼食が並んでいて、程よく冷めているから帰る時間を計算してくれたのだろうと分かる。熱すぎるものを好まないからと、ナミはいつもそうして気遣ってくれる事が嬉しい反面少し気恥しく思えた。

 

 「お帰りなさい。あの、食べ終わったら、渡したい物があるの」

 「後で良いのか?」

 「うん、その、勇気が出なくて……後にして欲しいわ」

 

 勇気のいる渡したい物ってのはなんだ?

 仕事なら早い方が良いだろうに。違うなら……なんだ?

 今日は誕生日でも無く、結婚記念日にはまだならねェ。子供が出来たとかなら、渡したい物じゃなくて報告だろう。

 ……なんだ、いったい。首を傾げた俺に、いいから食事にしましょうと赤い顔で言うナミは、少し幼い感じがして可愛い。

 食事はいつもと変わらず温かく優しい味がした。その日の俺の様子から、作る時に気を付けてくれている事には、俺だとて気が付いている。

 食事が終わるとナミは少し挙動不審になり、食器を片付けつつ飲み物を差し出して来た。それを口元に運んでいたら、ナミはどうやら必死で何かを葛藤してるらしいと知る。

 洗い物を終えたナミは、頑張るぞとでも言わんばかりに拳を握り、それから机へと向かった。そして、戻って来たナミは、不安そうに瞳を揺らし、顔は湯気が出そうな程に赤く染め上げている。

 それから深呼吸したナミは、そっと俺に持っていた箱を差し出す。それを受け取れば、小さくバレンタインだからと言ってごにょごにょと言い訳のように言葉を口にし始めた。

 

 「ナミ?」

 「チョコレート大臣たるローラと、チョコレート作りの得意なプリンに、教えて貰いながら何度も練習して、それで作ったの。だから、不味くはない筈なのよ!でも、その……」

 「ありがとう」

 

 最近部屋を空けていたのとあの買物は、これの為か。そうと分かれば苛立ちも消える。

 そっと中身を取り出してみれば、中からは色々な形をしたチョコレートが出て来る。1列ごとに味を変えてあるようで、確かに美味い。

 

 「ナミ、ありがとう」

 

 重ねて礼を言えばナミは真っ赤な顔で俺を見て、笑った。幸せそうに。

 

 「大切な愛しい人にあげるんだもん。頑張るわよ。ブリュレやシフォンに試食して貰って、スムージーにもボロクソに言われながら作ったのよ」

 「……ペロス兄達には、渡したのか?」

 「皆にはまだよ。ここの人達お菓子に五月蝿いから、渡すの怖いのよね……」

 「……用意は、出来てるのか?」

 「まだ。材料だけあるけど……だって、クラッカーもいるのにクッキーとか無理だし、ケーキは大きすぎるし、チョコレートドリンクとかはスムージーが……」

 

 落ち込んだ様子のそれに、そっと手を伸ばして抱き締める。協力してやるから、さっさと終わらせて2人で過ごそうと囁けば、泣きそうな顔で笑われた。

 餡子の代わりにチョコが中に入った餅団子を共に作り、配下に配らせれば後は2人だけの時間だ。そっとナミの服を脱がせれば、先にお風呂入りたいとか言うが……このままでいい。

 

 「いつもより、甘い匂いがするのも良いものだな」

 「いつもより、って事は……私って、いつも甘いの?」

 

 キョトンとした顔で見詰めてくる愛妻の首に所有の印を付けてから、答える。その間も俺の手は、その腰を優しくも妖しく撫でているが。

 

 「当然だ。ナミは全てが甘い。だが……それを知るのは、俺だけでいい」

 「あっ……カタクリッ!そこや……ァ……」

 

 背中や胸を刺激しているだけでこの反応では、体は持たないかも知れないなと少し思う。だが、辞めてやれそうにない。

 

 「俺を、1人にしていた罰だ。甘んじて受け入れろ」

 「っ!ぁ……カタクリ、もしかして……寂しかった、の?」

 「あァ、そうみたいだ」

 

 頷けば驚いたような顔をしたナミは、それから破顔した。それの威力は果てしなく、俺の理性は遠くの海へ旅立って行った。

 Happy Valentine……男は最愛の家族にさえ、妻の事になると妬いてしまう。それを知った女は、夫に愛を囁き続ける。

 きっと2人はこれからも、離れる事は無いだろう。優しくも甘い香りが、2人を祝福するように包み込む。

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