※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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ホワイトデーイベント(光源氏16)side

 バレンタイン以降相変わらず部屋から出なくなったナミは、仕事や執筆の他はブリュレやシフォン、プリン達と共に部屋で料理教室やらお茶会やらをして過ごしている。その共に過ごす妹の名からローラが消えたのは、数日前の事だ。

 ナミは全てを分かっていたかのように、ブリュレやプリンに協力を頼みシフォンに謝りつつローラを逃がしたのだった。その前後は大騒ぎでママが探せと言うのも、保護を目的としたりお説教でもするのだろうと大概の兄弟姉妹が思っていた程だ。

 だがそれは違うのだとローラの双子の片割れであるシフォンや、鏡から様子を見ていたブリュレには分かっていた。そうなれば当然仲の良いプリンにもそれは分かってしまい、そんな中での脱走の手伝いだ。

 リスクの多いというより、既にリスクしかないような行動だが、俺はナミを殺させるつもりはなく、心労で倒れた……事になっているナミに付き添っていた。俺も逃がすのに協力させられていたのだが、まァ……詳細は割愛する。

 そんな事をしても許されるくらいにナミが優秀なのもある。だが、プリンが記憶を操作し、証拠を残さなかったのがナミに何の罰もない本当の理由だ。

 そうでなければママの怒りは確実にナミへと向けられた筈だ。もしそうなっていれば、俺を含めた数人が命懸けでナミを守るような事態になっていただろう。

 勝手に1人で逃げ出したと判断されたローラは、今頃どこに居るのか。とりあえず無事に生き延びているのならば、それだけで構わないと俺は考えているが……少なくとも半年以内に捕まればその命は無いだろう。

 ナミが泣く結果にならなければ良いがと思いながら、1仕事終えた俺が部屋に帰ればナミはカモメと戯れていた。カモメが去れば振り向いて笑うと思っていたのに、何故か箱に意識を集中させている。

 何だと思って覗き込んだ俺に見えた文字から、ナミが愛してやまない姉からの贈物だと分かる。ならば仕方ないかと俺はベッドに腰を下ろした。

 あの姉とナミを取り合うのは、得策じゃねェ事は誰の目にも明らかだ。だからと言ってあの姉に何かすれば、その瞬間ナミの心は砕け散る。

 俺を憎んだり恨んだりする事も出来ずに、だが、愛しい姉を喪った現実に耐えきれずに壊れるのはわかり切っている。姉はナミの生きる糧だ。

 だがそれと同等に、ナミは俺の事も愛していると分かっているのだ。そんな事を考えていたら、ナミが俺によいせと言いながら登ってきて、口に何かを押し込んで来た。

 ……ナミじゃ無けれりゃ、許さねェ行為だって自覚してるか?

 口に広がる甘い物はどうやらマシュマロのようで、何がしたいのかとナミを見れば、困ったような顔で俺を見て特別よなんて言葉を口にする。それにより俺への気遣いだと分かり、だがそれがあの姉からの物だと分かれば少しばかり苛立つ。

 

 「有り難すぎて涙が出そうだ」

 

 それ故に少し嫌味な返事をしたが、ナミはそうでしょーと笑うばかりだ。本当に俺はナミが笑えばそれだけでいいのだと思い知らされつつ、差し出してくれた飲み物を受け取る。

 そこそこ冷えた飲み物は、けれど少し温もりが残っている。どういう事かとナミを見ると、可笑しそうに笑った。

 

 「冷たいミルク入れて冷ましたのよ。甘めのミルクティだから、飲みやすいと思うわ」

 「ありがとう」

 

 今度は素直に礼を言えたが、成程、熱い物が苦手だとナミは知っていて、いつも調整してくれていたのか。道理でナミが用意した物の時は、火傷する事なく飲食が出来た訳だな。

 飲み終わってから、ママに呼び出されていた事を思い出した俺は部屋を後にする。そんな俺に気を付けてねと微笑むナミに、俺は頷く事で応えた。

 ホワイトデー前日に、俺はナミを連れてブリュレの能力で少し買物に出掛けた。所謂デートのつもりなのだが、ナミは分かっていないらしくブリュレに1緒に来るかと聞いて断られていた。

 ……ナミが何か欲しがってくれると有難いんだがな。なかなかどうして、ナミには欲というものが足りない。

 バレンタインに貰ったチョコのレベルを考えるに、菓子で返すには少々ではなく無理がある。だからと言って……ナミのインクや紙は趣味では無く商売道具の為下手な物は渡せず、蜜柑は実家の物をといつも言う。

 ……どうしたものか。指輪は結婚指輪以外は俺がして欲しくないと思っているし、ネックレスは肩凝りになりそうだ。

 うーむ。

 

 「カタクリ、どうしたの?」

 「いや、ナミが変な男をどうしたら引っ掛けなくなるかと考えていた」

 「それ、多分にカタクリの妄想だから。私に興味持つのは、カタクリを倒せない腹いせでしかないから」

 「……そうなら、常に連れ歩くだけだ」

 「私にもやる事あるんだって言ってるのに……」

 

 溜息を落とすナミの頬は少し赤くなっていて、それを見て嫌な訳では無いと理解すれば俺も自然と小さく笑う。そんな時視線の先に見えた物の為に足を止めた俺は、胸元に仕舞えそうな小さなメモ帳とそれ用のペンをセットで購入する。

 その間ナミには、新しいインクを試したらどうだと勧めて時間を稼いでおいた。メモ帳には花の透かしが入っていて、ナミならば喜ぶだろうと考えたのだ。

 楽器は明日辺り、バレンタインのお礼の品として大量に届くだろうと考えると中々に選びにくい。笛は腰にいつも挿しているから、他でと考える為に余計に難しくなる。

 それにしても、それだけの楽器をよくぞこの歳で扱えるものだと関心させられる。そうしてナミが欲しがったインクも購入して帰ると、後は明日2人で過ごす事が俺の唯一の願いとなった。

 幸せな時間は過ぎるのも早く、翌朝のホワイトデー当日、腰を擦りながらベッドを抜け出したナミがシャワーを浴びに向かったのを寝たフリしつつ確認する。その直後にドアがノックされ顔を出せば、兄弟達がナミにホワイトデーのお返しを持ってきた様子だった。

 その中には女も多くいて、そう言えば全員に配ったなと思い出せば代わりに受け取りつつも笑うしかない。風呂から出て来たナミは、部屋の1角に積まれたお返しを見て、なんでチョコ餅がこんな大量の物品に変わってるの!?と叫んだが、その前に服を着ろと心から思う。

 

 「ナミ、俺の理性が切れる前に早く服を着ろ。バスタオル姿で歩くな」

 「だって、服を濡らすからバスタオルで出て来いってこの間カタクリが言ったのよ?」

 

 言われてから、そう言えば言ったなと思い出す。プーと膨れてるナミに悪かったと言ってタオルでその髪を拭くと、ナミが少し気落ちした様子を見せた。

 あまりにも目の毒だった為に、自分が言ったそれを忘れていた。確かに弱いナミが服を濡らしては、病になる事は明白でいつも心配していたのだ。

 

 「いつもごめんね。これでも絞ってから出て来てるのよ」

 「髪は拭くもので、絞るものじゃ……いや、いい。折角綺麗な髪なのだから、素直に俺に任せろ」

 「うん、ありがとう」

 

 そう言って笑うナミに癒されつつ、俺はナミの髪をその流れで整えてやる事にした。スムージーからお返しに贈られた髪飾りが、今回は良いだろう。

 コンポート姉さんから贈られたのはワンピースのようだったので、それをナミに渡して着替えて来ると良いと言えば笑顔で頷かれた。それを見送り勝手にナミへの贈物を検分して行く。

 家族からの贈物に混ぜて何か妙な物があっても困るからだ。そんな俺に着替えて来たナミは心配性ねと笑うが、相手がナミだからだ。

 

 「ナミに掠り傷1つでも付けられれば、冷静で居られるとは思えないからな」

 「……そんな事言って、私が誘拐でもされたらどうするつもり?」

 「ナミに触れた者全員の息の根を止めてやる」

 「本気っぽいから辞めて」

 

 本気なんだが……まァ、優し過ぎるナミがそれを知る必要はない。愛しい妻を抱き寄せて、貰った物を共に確認して行けば楽しそうに笑う。

 そんなナミにそっと俺からはコレだと昨日買った物を差し出せば、ナミはその瞳を零さんばかりに見開いてから、ありがとうと笑った。そして中身を確認して即座に胸元に仕舞うと、その胸元に手を置いて俺に視線を向ける。

 

 「カタクリはいつも私を甘やかすけど、カタクリ無しで生きられなくなったらどうしてくれるのよ」

 「……何が問題なんだ?」

 「へ?」

 「……俺が死ぬ時は、ナミを殺してやるから問題は無いだろう」

 

 俺の言葉に怯えるかと思ったが、ナミは確かにと言って笑うと満足そうに頷いた。ただ、少し不安そうにその瞳を揺らしはしたが。

 

 「カタクリ、殺し損ねたとか辞めてね。最後に仏心出したとか……」

 

 何処の世界にちゃんと殺せと夫に頼む妻がいるのか。……いや、目の前にいるが。

 

 「ナミが俺以外に触れられる事に、俺は耐えられそうも無いからな。ちゃんと連れて行く」

 「なら、離れてる時に死ぬ事になったら、私勝手に後を追うけど、追い返さないでね」

 「当然だ。閻魔とやらにもナミは渡さん」

 

 そんな夢物語のような言葉を紡ぎながら、どちらからともなく唇を重ねる。死がふたりを分かつまでとあの日誓ったが、死がふたりを分かつ事も出来ないだろう。

 ホワイトデーは2人だけでゆっくりと。お返しにと貰った楽器を演奏する妻を眺めながら、夫は幸せそうに微笑み、妻はそれに赤くなると再び距離がゼロになる。

 そんな事を繰り返す2人には、既にイベント等あってなきが如しだろう。そんな2人が幸せである事を、多くの人達が望んでいると言うのだけは、何があろうとも変わらず間違いようのない真実だ。

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