※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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四皇ビッグ・マム海賊団十男〝将星〟のシャーロット・クラッカー
偶然の遭遇(光源氏14)side


 表にいる兵達が騒がしくて、仕方無く鎧を着て甲板に出ると沈む船が見えた。その沈む波に飲まれないようにだけ注意させて、中に戻ろうとした時瓦礫の浮かび上がるその中に1人の人間が混ざっている事に気付いた。

 樽の上に乗り、運良く助かったらしいその女を見て、まだガキかと興味を失いそうになった正にその時、それが叫んだ。その為に急激に興味が湧く。

 

 「カリーナ!サイクロンが来る!逃げて!」

 

 それを受けて小舟が素直に方向転換したのを確認すれば、どうやらその言葉は聞く価値のある物らしいと分かる。それならばその稀有な能力を貰ってやろうと、樽ごと船に引き上げればその衝撃で甲板に転がるガキ。

 見ればその背中は驚く程に赤く染まっており、成程これは生きてるのが奇跡に近いなと思う。放置すれば死ぬかと思って眺めていれば、ガキは顔を上げて状況把握をしようとしているのが分かった。

 ……面白ェな。

 その瞳は理性的で、旗印を見て誰の船か判断したらしいガキは辺りを見渡して俺に視線を留めた。それから本来ならば動かせる筈もねェ体を動かして、居住まいを正してみせる。

 ……気丈だな。ガキだからと舐めてりゃ、ろくな事になら無さそうだ。

 

 「お助け頂きまして、ありがとうございました。この後、私をどのように扱う予定でしょうか?」

 「……サイクロンは、どの方角から来る?それを間違えなければ、治療してから解放してやるよ」

 

 俺の言葉にガキは迷う事無く方角を示すから、それを信じて船を旋回させる。そうして船を動かして間も無く、先程までいた辺りにサイクロンが現れ、その方角を確認すればガキの言った事は正しかったと証明された。

 ……これは、拾い物だな。

 

 「治療してやれ。死なせるな」

 

 命じれば即座に運ばれて行く子供の体。それが横を通る時微かに柑橘系の香りを感じ取り、声をかける。

 

 「名は、なんだ?」

 「ナミ」

 「そうか、俺はクラッカーだ」

 

 俺の返事を聞いたのか、聞かなかったのか、そのまま意識を失ったらしいそれを見送り小さく笑う。能力を示した分で命を助けたが、約束した手放す事については考え直さねェとな。

 サイクロンを予知する能力と、知的な瞳、冷静な判断能力と、気丈な精神。どれをとっても手放すには惜しい。

 傍に置いて育てれば、副官として充分過ぎる存在になるだろう。ママには年頃になったら嫁にするとでも言えば、拾って帰ったところで何も言われねェ事は分かっている。

 将星は婚姻の道具に使われねェ。他にも重要な肩書きがあれば、道具として使われる事はねェって事だ。

 何かあっても、婿か嫁として相手が内側に入る事となる。……使えると判断されるのと、中途半端だと考え物だよなと少し思う。

 家を出されれば、基本的に関わらなくて良くなるから、食い煩い等に苦労する事も無くなる。それに対して、婿や嫁を貰う形にさせられれば、手元に置かれてしまえば……。

 旦那や妻の失態を背負いながら、これまで通りに家族としての役割も存在しちまう。そこに救いがあるとは思えなかった。

 ……将星になれる実力があって良かったぜ。心からそう思い、俺は小さく笑ってナミが目覚めるのを待つ。

 部屋でビスケットを食べていると、治療は終わりましたと言う微妙な言い方をされて、俺はそれに眉を潜めつつ部屋に向かう。顔を覗き込めば、治療を担当していた部下達から、意識を取り戻すのが何時になるかは保証できませんと告げられた。

 それは治療が終わったと言えねェだろうと剣に手を伸ばした時、ナミがピクリとその瞼を痙攣させた。それにより手は剣を掴む事なく下ろされ、ゆっくりと瞼を開けたナミを見る。

 

 「……起きたか」

 「クラッカー、様でしたね」

 

 言いながら体を起こしたナミは、俺を真っ直ぐに見てから静かに頭を下げた。それにより顔が見えなくなった事で、少し惜しいなと思う。

 

 「お助け頂きまして、ありがとうございました。もう、充分ですので、何処か適当な所で下ろしてください」

 「……小船も無いから少し待て」

 「空の樽を1つ頂ければ、充分です」

 

 おい、このガキまさかとは思うが、この偉大なる航路を空樽で渡る気か!?

 そう思って見れば、顔を上げているナミの真剣な瞳が本気だと告げていた。……なんて、ガキだよ。

 

 「まだ、動くと傷が開くそうだ。もう少し大人しく「申し訳ございませんが、私には既に残されている時間がありません。どうか、解放してください」」

 

 凛とした声が、響く。それからまるで、怪我等していないのではないか……?そう思わされるような動きでナミはベッドを降りると、当然のようにその身に武器を装着して行く。

 ……動ける筈のない、怪我だろう?

 いつ意識を取り戻すか保証できないと迄言われた女が、平然と動いている。思わず息を飲んで、けれども船が少し大きく揺れただけで体を支えられずに倒れようとするから、何かを考えるより先に体が動いた。

 支えてやればそれは恐ろしく軽く、細い。小さなその体は、少し力を入れただけで粉々に砕けるだろうと分かる。

 こんな脆弱な体で、その精神力だけで、言葉を紡ぎ行動するナミに、俺は不快な気分にさせられる。通常ならば、そういったタイプの女は……好みなんだがな。

 

 「……まだ、休んでろ。転んで傷が開くぞ」

 

 言いながらベッドに戻せば力無く沈むその体。……なんだってこの俺が、こんなにもガキ1人を心配しないと行けねェんだよ!

 

 「クラッカーさ「呼び捨てで良い。部下以外から呼ばれなれないせいか、妙な気分になる」」

 「クラッカー……ありがとうございます。ですが、私は」

 「……少し寝てろ。話は起きてからだ」

 

 そう言い捨てて部屋を出れば、ナミはそのまま1人きりのその部屋で大人しく寝ているようで、無意識の内にホッと息を吐き出していた。治療した奴等からの報告を纏めれば、見覚えのあるマークがあり確認の為に妹へ連絡を入れる。

 集まった情報からナミの置かれてる状況把握をするのは容易く、気に入った玩具の為だと自分に言い聞かせながら船を動かす。……あんなガキに対して俺が何かある筈もねェ、これは所有してるモノが壊されそうだからと思った事による行動だ。

 誰にともなく言い訳がましい事を脳内で繰り返しつつ、俺は目的の島に向けて船を動かす。弱り切った様子で眠っているナミの様子を見れば、庇護欲が刺激される。

 

 「寝てる時は、普通のガキなのにな……?」

 

 そう呟いた時、ナミは魘されはじめそのまま飛び起きた。急激に動いた事で傷が傷んだのだろう、呼吸さえままならない様子に眉間に皺が寄るのを自覚する。

 

 「馬鹿が、急に動くからだ。……飲めるか?」

 

 鎮痛剤と水を手に問いかければ、焦点の合わない瞳で俺の方を見たナミが、小さく大丈夫ですと呟く。こりゃダメだと判断して、鎮痛剤の他に睡眠薬を手に乗せて自らの口に入れると、水を含む。

 その勢いでナミの唇に己のそれを合わせ、強制的に薬を流し込めば抵抗とも呼べない抵抗をしつつも、薬を飲み込む。しっかりと飲み込んだのを確認してから、手にグラスを握らせて問い掛ける。

 

 「続きを自分で飲むか、俺に今と同じように飲ませて貰うか、どっちか選べ」

 「……自分で、飲みます」

 「いい子だ」

 

 嫌そうに顔を顰めつつもグラスの中身を飲み干したナミに、傍にいてやるからもう少し寝てろと声を掛ければ、唇が音にならない呟きを伝えて来る。どうして?と。

 そんなもの、俺にもわからねェよ。ただ、気に入ったのは間違い無さそうだとナミの頭を撫でながら思う。

 それから間もなくしてナミが眠りに落ちると同時に、船は目的地に到着したらしいと知る。

 

 「少し、待ってろよ。悪夢の元を壊して来てやる」

 

 俺の呟きは恐らく誰にも届かないだろう。それでも構わねェ。

 苛立ちささくれ立つ心を鎮める為だと自分に言い聞かせながら、クラッカー兵を問答無用で進撃させる。俺本人が戦う気はねェし、砕いても砕いても蘇る兵に勝てる筈も無いからと建物の中を見て回る。

 上の方にあった異質な部屋には、柑橘系の香りが充満している。それにより、この部屋の主が誰なのかが分かっちまった。

 ……果物だけ食って生きてるのか、アイツは。

 そんな事を思いながら積み上げられた紙を手に取り、成程これは〝使われて〟いても仕方ねェなと思わされる。正に天才と呼ぶ他無い。

 今はガキだが、数年後には相当期待できる容姿なのもあり、深い溜息が自然と落ちる。繋がるドアを開ければ、この空間に閉じ込められていたのだろうと分かる。

 水周りが揃ってるな。台所は無いのか。

 ……いや、こっちにあるのか?

 他のドアを開けた時、血の臭いを感じ取り使い込まれた拷問道具に吐気がしそうになった。これを、使われていたのか……!

 弱さを見せれば、殺される。だから、あそこまで頑なに……。

 魚に対応する兵の数を倍に増やして、さっさと殲滅するように動かしつつ部屋にある海図を回収する。そして、近くの村に足を向けた。

 そこで飛び出して来たのは、傷跡が多く遺る男で……それの傍に見た目ではなくその瞳の強さがナミとよく似たガキを見付けた。思わず、口を開く程に似ていると思わされた。

 

 「ナミの身内か?」

 「……ナミを、知ってるの!?」

 「辞めなさい、ノジコ!」

 「だって、ナミが……!」

 

 2人のやり取りを見聞きすれば、これがナミの家族かと認識する。これを、ナミは庇って生きてきたのかと。

 

 「ナミなら、死にかけてる。だが治療はした。その内目覚めるだろう」

 

 少しばかり悪いように伝えれば、保護してくれたのかと言いながらその場で力無く崩れ落ちたガキに、やはり見た目ではなくその性質が似ていると思わされる。それなのに何故か、欲しいと思うのはナミの方だけだ。

 

 「このままここに残せばナミはまた狙われる。魚は始末しているが、ナミはこちらで預からせて貰う」

 「ナミは、納得してるの?」

 「……は?」

 

 納得させる必要なんかあるのかと思いガキに視線を向けるが、その真剣な眼差しに取り敢えず嘘でも良いから大人しくさせるかと思う。

 

 「ナミが俺と居たいと言ってるんだ。荷物だけ取りに来た。……ナミに頼まれたから、魚を始末してやってるんだ、それで充分だろう?」

 「……ありがとうございます。今、持ってきます」

 

 ガキがそう言って駆け出すのを見れば、この東の海程度なら難無く生きられそうな動きだと分かる。それでも流石に、魚人には対抗できなかったかとも思わされるが。

 ゲンゾウと名乗った男に差し出された飲み物を口にしながら待てば、ゲンゾウはナミは無事なのかと何度も不安そうにたずねてきた。それ程に心配なら……。

 

 「顔を見に来るか?」

 「……え?宜しいのですか?」

 「顔を見ないと、不安なんだろう?……起こすなよ」

 

 薬盛って漸く寝かせたんだ、動き回らせない為にも起こしてくれるな。心の底からそう思って言えば1瞬腰を浮かせたゲンゾウが、いやと小さく呟く。

 

 「ナミの事を、よろしくお願いします。優しいくて、強がりで、何でも1人で抱え込んでしまう子なんです。泣く事も出来なくしてしまった我々には、会う権利等ありません」

 「……まァ、無理にとは言わねェよ。荷物を受け取ったら、そのまま新世界へ行くが……」

 

 そこまで言って、家族を想って落ち込むナミが脳裏に浮かび、小さく舌打ちする。なんだって俺がここまでしてやらなきゃならねェんだよと、内心で悪態をつきながら、電伝虫を渡す。

 

 「俺の部屋への直通だ。緊急時のみ、かけて来い。此方からも必要なら恐らくはナミが、かけるだろ」

 

 俺の言葉に、電伝虫を大切そうに震える手で抱き締めたゲンゾウが、俯いて水滴を落としたのが分かった。それを見なかったフリで立ち上がると、ナミの姉だと言う女が台車に蜜柑の木と荷物を乗せて走って来た。

 ……ナミは木が無いと生きられねェのか、成程そりゃ蜜柑の匂いもするよなと思う。それを呆れながらも受け入れた時点で、俺も相当なものだろう。

 荷物を船に積込み、船を出して間も無くナミが目覚めた。さて、この状況を伝えたらどんな反応を示すだろうかと、周りから見れば悪魔のような顔で笑う俺に、何も知らないナミは不思議そうに首を傾げた。

 この後に、この小さな生き物に泣きながら飛び付かれて動揺する事になるとは、欠片も想像出来てはいなかった。




彼の話はこれしかまだご用意が御座いません。リクエストも今のところ無いので、ご了承ください。
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