※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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四皇百獣海賊団〝総督〟百獣のカイドウ
偶然の遭遇(光源氏14)side


 その日はJOKERとの取引ついでに憂さ晴らしをしようと、少し遠回りをしてワノ国へと帰る事を決めていた。そんな時に突然沈み行く船を見て、海賊やってりゃそんな終わり方もあるかとそれを眺める。

 船から落ちて溺れているゴミのような存在に気付くが、助けてやるなんて概念そのものが俺にはなく、またそんな義理もねェ。沈み行く船から飛び出して怒号を迸らせる野郎共を眺めるのは、案外暇潰しにはなると感じた。

 その時近くに小舟が見えたと思ったら、そこには子供が乗っていると気付く。あの数の海賊を助けるには到底足りず、下手をすればその小舟を狙って殺されかねねェ。

 これは見物だと呑気に思った時、樽に掴まり船から脱出してきたガキを見た。そのガキ二人の様子が妙に気になり、二人のやり取りをそのまま聞いていれば、どうやら樽娘が船娘を守る為に船を沈めたと分かる。

 それにより、樽娘に興味が湧いたのは当然の成り行きだろう。使える者、強い者は当然の事として俺も手元に欲しい。

 そのまま後をつける形で飛び、会話を聞いていれば樽娘がサイクロンが来ると言い出した。そんな馬鹿なと鼻で笑いつつも、その後をつけて行き……我が目を疑う事となる。

 先程までいた、船の沈み行くその場所にサイクロンが直撃した。それに意識を向ける事もなく、まるでその先に島があると知っているかのように進み、見事に気候の安定した夏島の無人島へと到達してみせるのだから、恐れ入ったもんだ。

 類まれなる気象センスと、長年操舵手をして来たかのような技術力に加えて、航海士としても優秀でなければ島の方へのこれ程簡単に迷い無く進むのは不可能。才能の権化だな。

 船娘とその島で別れた所で、樽娘は物陰まで進み倒れた。俺は人の姿に戻り樽娘に近付いてみたが、その余りに小さな姿に驚かされちまう。

 船の上で操舵していた姿は、それ程小さくは見えなかったから、余計に驚いたのかも知れねェが……。その上……この匂いは……。

 

 「血の匂いだな」

 

 思わず声に出すくらい、強い。潮の匂いで誤魔化されない程の、強烈なもの。

 その発生源は、倒れ込み身動きをしない樽娘だった。岩陰で意識を失うその姿は、放置すれば間違いなく死ぬだろうと思わさられるもの。

 ……助けてやる義理は、ねェ。こんな姿になってまで誰かを庇うならば、コイツはロジャーや白髭と同種の甘い奴だ。

 見捨ててしまえばいい。だが……奴らもそうだが、その性格や考え方に見合わぬ能力はありそうで、喪うには……惜しい。

 

 「……ワノ国まで、持てば、その強運を理由に助けてやる」

 

 誰に向けての言葉なのか、これは単なる言い訳ではないのか。そう思う自分は確かに居たのに、俺はそれを無視して樽娘を樽に固定してから、その樽を持つ。

 己の爪で傷付ける事が、死を意味するのは誰の目にも明らかだったからそうしたと言う事は、この娘を死なせたくないと考えていたとなる事に気付いてはいなかったのだ。そうして鬼ヶ島へ帰り着くと、俺は部下を呼び即座に治療を命じて、死にかけのそれを死なせるなと怒鳴った。

 それを受けて、慌てた様子で樽娘を預かった部下達が慌てて治療に入ったのを確認して、いつもの椅子にドカりと腰を降ろした。その直後、珍しく顔を覗かせた馬鹿息子が変な顔で見上げてくる。

 

 「……なんだ」

 「どこの国から、要人を誘拐してきたんだ?……今度は、戦争でも始めるのか」

 「要人?」

 

 誰の事か分からずについ繰り返すように言葉を返せば、馬鹿息子は視線を樽娘の運ばれた方へと向けた。それにより成程と思う。

 ……コイツと、重ねたのかもな。懐かない猫のような、出来の悪い息子。

 俺が認め、そして殺したこの国を支配する上で唯一邪魔だった存在に憧れ、俺に歯向かうようになった。それでも……何かあれば俺の子として敵と対峙はするのだから、それに満足するべきなのだろうか。

 いや……妥協してどうする。俺はこの海を支配するつもりで居るってのに、日和見で良い筈がねェ……!

 

 「オヤジ……誤魔化すな」

 「……父上だろう、ヤマト」

 「五月蝿ェ牛ゴリラ!どこの姫攫って来やがった!」

 「拐ってねェ。……拾ったんだ」

 「同じだっ!!」

 

 そうして騒ぐ馬鹿息子を軽くいなしてぶっ飛ばせば、勝手に食った実の力を用いてグルルルル……と唸りながら挑んで来るから面倒だ。その時小娘の治療が終わったとバオファンが伝えに来たので、ヤマトがこれ以上騒げねェように沈めてから様子を見に行こうと腰を浮かせる。

 その時、奥の部屋から何かが歩いて来た。そちらへ視線を向ければ、樽娘がその姿を見せたので何事かとバオファンに視線を向けるが、焦った様子で驚きを見せるから想定外だったらしいと気付く。

 

 「……バオファン」

 

 それでも、確認の為に呼び掛けると同時に焦りを見せつつ俺の前に出て来たバオファンだったが、そのバオファンを庇うように樽娘が前に出た。その足取りはしっかりしていて、完治したのかとその回復力の高さに驚かされる。

 運ぶ前と運んでいる時に流れ落ちていた血液の量と、外でありながら噎せ返るような血の匂いがあった事実。それは、この体格から流れた事を思えば生きている事が奇跡である証。

 顔色は真っ白に近く、これぞ青ざめた顔だろうと言いたくなる程の顔色。それにも関わらず、凛としたその瞳は真っ直ぐに俺へと向けられていて、この体格差だけでも怯えて泣き出すのが本来だろうと思うのに、怯えの色を宿さないその瞳に魅せられちまう。

 

 「お助け頂き、誠にありがとうございました。私の名はナミ。……力のある方とお見受け致しますが、お名前を教えて頂けますか?」

 「……俺を知らねェのか。ウォロロロロ!まァ〝楽園〟に居たんじゃ仕方ねェかもな。俺は世間から〝百獣〟のカイドウと呼ばれている」

 「……四皇、の?」

 「知っていたか」

 「ご尊顔を存じ上げず、大変失礼致しました」

 

 ガキにしか見えねェのに、その仕草、言葉遣い、態度、その全てが毅然とした王侯貴族のトップを思わせる。それは1族を率いる者が持つ、守る者を持つ者特有の空気が樽娘……ナミにはあった。

 頭を下げられちまうと、怯えも敵意もない、高潔な眼差しが見えなくなる。それが惜しく思えて、俺は声を出さずには居られない。

 

 「ナミと言ったな。なんだってそんな怪我をしてたんだ」

 「……それに答える前に、確認したい事があります」

 「ん?」

 「ここから、東の海まで……どれ程の期間で移動できますか?」

 「舟ならーっ!最低でも二ヶ月はかかーるよっ!」

 

 俺が答えるより早くバオファンが答える。それにより、驚愕の表情をしたナミは、直後僅かに眉を寄せた。

 その様子から、傷の具合を気にしていた事を思い出しちまう。思わずバオファンを睨むと、庇ってくれると思ったのかナミの影にスススッと隠れちまった。

 

 「……さようで、ございますか。……ニュースクーが移動するなら、飛ぶならば如何程で?」

 「それでも10日はかかる。……なんだ、急ぎか?」

 「私は、帰らねらばなりません。期日までに。それができないのであれば、私の首だけでも届けなければ」

 「あ?」

 

 期日までに帰る必要があるのはまだ分かるが、それが無理なら首……つまり死んだ事を証明する必要がある、となれば理由は絞られる。この気象センスと気高さだ、狙われる理由は幾つかあるな。

 その中でも最悪だろう答えを脳内で導き出した時、ナミがその瞳を揺らして声を震わせた。それは、俺に確信を抱かせる。

 

 「私の死が伝われば、誰も……死ななくて済むのです。…………っ!お助け頂いた身で、このような事を申しますのは厚顔無恥と存じておりますが、私を殺しその首を東の海にあるコノミ諸島のココヤシ村〝アーロンパーク〟まで届けては頂けないで……っ!?」

 

 最後まで聞く事さえなく、無意識で覇気を撒き散らす俺により、呼吸を止めそうになるナミ。だが気を持ち直して、真っ直ぐに俺を見据える。

 俺の覇気を受けて気を失わないとは……。ヤマトよりも明らかに幼いと言うのに……。

 

 「そんなに、死にたいか」

 「……死にたい訳じゃないっ!生かしたいのよっ!」

 「そうか……」

 

 やはり、白髭やロジャー、オデンと同じ種族のようだ。このタイプは、恐ろしく強く有能か、ただの雑魚かに別れるが……。

 目の前で俺の覇気を受けて意識を保つその姿に、弱者である筈も無いと気付く。これは育て甲斐が有りそうだ。

 自分が死んだと伝われば被害は無いが、生きていて帰らない場合人が死ぬと言うなら、ナミを手元に置く為の言葉だろう。俺なら、ナミが死んだ瞬間にその人質は全員殺す。

 ……お人好しだな。嫌になるくらい、俺とは真逆だ。

 これが、欲しい。その為ならば、仕方ねェよな。

 

 「良いだろう」

 「ありがとう、ございま「その海賊、根絶やしにしてきてやる」ほぇ?」

 

 なんだ、その情けない返事は。そもそも返事なのかそれはと言いそうになり、辞める。

 俺が覇気を抑えれば、周りにいた部下達が大半意識を失っていると気付き、バオファンでさえ抑えてからようやく身体を起こせる程度だ。……弱くは無い筈のバオファンでさえこれだと言うのに、病み上がりで俺の覇気を耐えきる、か。

 

 「ナミ」

 「はい」

 「三日待ってろ。片付けて戻って来てやる。その代わり、その後は俺の傍にいろ」

 「それは……」

 「俺は、人質は取らねェ。その人質を解放する代わりに、俺の傍でその海賊に狙われた能力を発揮して見せろ」

 「あ……」

 

 その時ナミは何を言いかけたのか。返事をするより早く、身体を揺らしベチャリと倒れ込む。

 ……ベチャリ?

 音に反応して視線を向ければ、その身体から溢れ出たであろう赤い物が広がっているのに気付く。それは、今意識を保ち起きていたとは到底信じ難い光景。

 無意識で近付きその小さな身体を抱き起こすが、反応は無い。恐ろしく軽く、冷たい身体は生きている事を疑わせるには充分なもの。

 

 「……バオファン!」

 「あいよ~!えっと、この子、治療が終わった瞬間に目覚めて、助けてくれた人にお礼を言うって医療班が止めたのに聞かないでここに来た~ですっ!普通なら~!半月は目覚めないって、医療班が~っ言ってた!」

 「……そのまま寝かせておけ。肩慣らしに運動して来る。……俺が帰るまでに、回復させておけ」

 「あいよォ~!」

 

 そうして向かった島で、見覚えのある悪趣味な建物に住む魚達を始末してやれば、ナミとよく似た眼差しの小娘が現れた。そして……無謀にも挑みかかって来る。

 ナミが腰にしていた紐と似たようなそれで、俺に殴り掛かる動きは明らかに未熟。下手に反撃すれば、簡単に殺しちまうだろう。

 

 「ナミを!……今度はあんたが、苦しめるの!?どうしてっ!どうしていつも、ナミだけがっ!!」

 「天才なんてのは、そんな運命しか持ち合わせねェもんだ」

 「ナミは……!ナミは、ただの、優しい子供なのに。家族想いの、私の、大切な……妹、なのにっ……!」

 

 言いながら崩れ落ちる小さな身体。その弱々しい姿が、何故かナミの倒れた時と重なって見えた。

 優しくしてやる義理はねェ。だが、恐らくナミの血縁者だろう事は分かる。

 だからなのか、いや、だからなんだと思わなくもねェが、妙に穏やかな声が出た。そういや、ナミの笑顔も涙もまだ見てねェな。

 

 「…………怪我が治ったら、連れて来てやる」

 「え?」

 「ナミは死にかけた状態で、俺に縋った。お前達を助けたいってな。だから、移動させると危険な状態のナミを置いて来ただけだ」

 「……ナミ……!」

 

 そのまま声もなく涙を流す小娘を見ても、それ以上、何も言う気にはなれなかった。ただ、この子供を含むこの場に集まるチンケな存在の為に、ナミはこの魚達に利用され尽くしていたのだと、それだけは分かる。

 俺は俺の覇気に対応できたその潜在能力の高さと、気高い眼差しと、無駄に強いその精神力を気に入ったが……魚達が望んだのは別な物だろう。性的な意味ではまだ未熟である事を思えば、今この小娘が騒いだ通り何かあるのだろうとは分かるので、話を合わせるように天才と呼んでは見たが……何だかな。

 ……こいつらの反応を見ても、何かあるらしい。天才的な何かが。

 あの気象センスや航海術の為だけならば、むしろ傍に置いておく必要があり船旅に出させたりはしないだろう。そうなると、他にある。

 ならば、これから飼い慣らし、その能力を俺のものにすればいい。今はまだ、悪夢の終わりを喜ばせておくだけだ。

 本当の牢獄は、これから始まる暮らしであると……それが俺の指と言う名の檻の中だと気付く頃には、俺無しでは存在できなくしてやればいい。うるティ達がそうであるように、俺の命令にさえ従うならば……俺の庇護の元、望むものは与えてやるさ。

 

 「ウォロロロロ!」

 

 良い拾い物をした……と、高笑いしながら飛び立てばワノ国は差程遠くもない。帰り着くと同時に泣きながら小人が飛びついて来て、それに戸惑い硬直する事になるなど……想像すらできてはいなかったが。

 この時の俺はまだ、ナミの真価を知らず、ナミの二つ名も知らないでいた。そして、自分の子供よりも歳若いガキに翻弄される未来があるなど……想定さえしてはいなかったのだ。

 

 「カイドウ……大好き!」

 

 そんな言葉で絆されちまうような未来は、この時この世界に生きる誰一人として想像もしてない。まさか〝カイドウ様〟と呼ばれる事が不快になる事態に陥るなど、見聞色の覇気で未来を見えるような奴にさえ、分からなかった事だろう。

 波間の向こうを目指して、煌めく眼差しで笑う少女の為だけに、再びこの世界を巡ってやりたいと自分の舟を強化する事になるのは、ほんの数ヶ月後の未来。能力だけを吸い取るように利用する筈が、青龍の掌中の珠だとか、青龍の逆鱗と呼ばれる存在になるとは……考えても見なかった事だ。

 まだ見ぬその未来の話は、それを見たいと強く願う存在があれば……描かれる事となるだろう。波間の向こうを目指して、世界地図を描きたいと願う少女と、それを護る龍の話は……まだ、始まったばかり。

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