※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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酷い男(光源氏16)

 私が保護されて数ヶ月、ベルメールさんの蜜柑の木を含めて、必要だと言った物は全てレイリーさんが揃えてくれた。大きくは無くてその上森しかない島で、某動物の着せ替え人形シリーズに出てきそうなコテージ状の建物に、私は基本的に1人で生活していた。

 それに対して私が寂しいとか言わないし、必要な物だと伝えたのも本当に必要だと思える物だった為か、遠慮しなくて良いと言って気遣って貰った。おかげでコテージ風の建物の中には妙に立派なキッチンと、阿呆な程に立派な書斎がある。

 甘やかされてるのは、その後もあまり変わってない。宝石とかは特にいらないし、服とかは時々必要だけど、各季節5枚あれば良いと言ったからか、そんな筈は無いと言われてしまった程。

 訪問者は数日に1度はレイリーさんが、月に1~2度はシャッキーさんが来てくれて、他は居ない。後は……クーちゃんとかかな?

 遠目にも小さな島だとわかる上に、ログも示さないこの島は、海岸線沿いをぐるりと木々で覆われていて、その内側が見えない。だからこそ、その中心にあるコテージ風のこの家は見えないのだ。

 森の中もしっかりジャングルで、1番奥に該当するここまで到達出来るのは、それなりの実力者だけだろう。それもこのジャングルに生息する有り得ない強さの動物達も、レイリーさんが手懐けてしまった動物達だから、その庇護下にある私にも牙をむかないで居てくれてる。

 それどころか、私の家に近付こうとすると率先して倒してくれるのだから、余程レイリーさんは動物達に慕われて居るのだなと思う。けれど、それをシャッキーさんに話すとそれはナミちゃんの特殊能力よなんて嘯かれる。

 シャッキーさんが来てくれるのは、女として生きる為に必要な物をレイリーさんが分からないからと言う理由。そんな風におシャッキーさんにお世話になってるから、レイリーさんに時折冗談でも口説かれるのが罪悪感として、心に降り積もっていた。

 でも……シャッキーさんは気にしてないらしい。私の自由に決めていいと思うと言った後で、そもそも他には男がいないんだからそうなったとして、誰にも責められないわよと笑われてしまう。

 その上で人の悪い笑みで、本気であの人が口説いたら、逃げられる女なんていないんだから、そうなったとして女の側を責めるなんて出来る筈ないわ。と言われると……レイリーさんが相当遊んでるのだけは理解出来た。

 でも、それを言われた時は、本当に尊敬と憧れしかなくて、それもシャッキーさんは分かっててくれていた。シャッキーさんは、私が15歳になる頃から訪問頻度が下がり、私はクーちゃん経由で必要な物を購入するようになっていた。

 訪問者が多い程、他から見つかりやすいからと言われれば、納得する他ない。初めはシャクヤクさんと呼んでたのに、呼ばれなれないから気持ち悪いとか言われて、シャッキーさんになれば、可笑しそうに笑われてしまった。

 その頃から、本格的にレイリーさんに口説かれ始めたけど、本気になんか出来なかったし、シャッキーさんに嫌われますよが私の口癖だった。でも……動物達を突破してコテージ迄到達した海賊達に、私が誘拐されてしまったのを助けに飛んで来てくれたレイリーさんを見て、考えが変わった。

 心が震えたのもあるし、安心したのもある。罪悪感を感じるより先に、私の魂さえもがレイリーさんを求めたのかもしれない。

 でもそれは、ずっと読んで来て、知っていた筈のレイリーさんには〝無い〟のだと思っていた喜怒哀楽の怒りの感情を、目の当たりにしたからと言うのが大きい。読んでいた時、友人である筈のハチがやられたのを見た時も、その彼女であるケイミーが攻撃された時も、余裕があった。

 ルフィ達が飛ばされて行くのを、事情も知らないままに見送った時も、怒りを表に出す事はし無かった。それなのに……未遂だったのに、私が組み敷かれているのを見たレイリーさんは、明らかに怒っていた。

 怒って、くれた。口先だけ、儀礼的に口説いているか、何もわからない子供だと思って、遊んでいるのかと思っていたそれが本気だと分かり……私はレイリーさんの胸に飛び込んで、泣いたのだ。

 その日から、レイさんとは肉体関係も時折ある恋人として、共に時を過ごして……私はいつの間にか16歳になっていた。そこに新たな訪問者が現れるなんて、恐らくは誰も想像していなかったと思う。

 風の強い日で、雨はそれでも降りそうにないから私は洗濯物を干しながら、野菜やハーブの様子を見ていた。蜜柑にアゲハが卵を落としていて、何しやがると駆除したのは昨日。

 そして、今日はタイミング的にそろそろレイさんが来るかなって思って、ケーキを焼いてたりしてる自分が少し痛い。来なかったらどうするんだとか、楽しみにしながら鼻歌混じりにケーキ焼いてる乙女な自分が、少し恥ずかしい。

 今は、オーブンが焼き上がりを知らせるのを待つ合間だったりする。その時、見聞色の覇気が何かを捉えた。

 レイさんだけなら有り得ないざわめきと、動物達の好戦的な様子。また、何かが来たようだと分かれば眉間に皺も寄る。

 また、何かあればと思えば怖い。ここの動物達を突破できる相手に、私がかなう筈はないのだから。

 それでも迷惑をかけたくなくて、コテージにしか見えない我が家に飛び込み隠れる。単なる遭難者とかなら良いけれどと思いながら、窓をそっと伺う。

 そして、暫くすると動物達がかなわないと判断して緊急を報せる鐘を鳴らす。それはレイさんの持つ何かに報せを送るようになっているらしいので、それ程経たない内に助けに来てくれるだろう。

 森が突然開けた事で侵入者達は驚いたようで、先頭を歩いていた男が何だこれはと畑やら蜜柑の木やらを見て、騒ぎながら森の中にいる人達に声をかけているのが分かる。

 その時見聞色の覇気が聞き取ったのは、何処か懐かしい声。でも、まさか……。

 

 「ほゥ……なら、あの噂は本当かも知れねェな」

 「噂、ですか?」

 「凶悪な動物しか住まない小さな島に、空から堕ちてしまった天使が1人で住んでいるってな。動物は天使に微笑みかけられる事を褒美として、天使が帰るその日まで守ると決めているって言う、眉唾の話があってな」

 

 この……声は……。

 私は息を呑む。だって、この気配は……。

 

 「シャンクス……?」

 

 そっとドアを開けて、小さく声を掛ければ姿を見せた赤髪の男が、こちらに視線を向けた。そして……固まった。

 それを見て、私は不安になる。似てるけど、別な人だったのだろうかと。

 けれどもその奥から白髪の人が姿を見せた瞬間、それは確実に本人だとわかり、思わず駆け出して飛び付いた。

 

 「ベック!」

 

 突然の事なのに軽々と受け止めてくれたベックに、私は懐く。何とも懐かしい。

 そんな私の頭を撫でながら、ベックが苦笑した。

 

 「ナミか。大きくなったな」

 「あ、ご無沙汰してます。……苦労したのね、真っ白になっちゃって……」

 「察してくれるか?」

 

 そう言って笑うベックに、分かるわなんて言いながら頷くと、横でシャンクスが腐った。

 

 「なんで俺じゃなくてベックに抱き着くんだよ」

 「……だって、私だって事に、声掛けたのに気付かなかったのは、シャンクスの方じゃない」

 

 そう言ってクスクス笑えば、シャンクスは余計に不貞腐る。それが妙に可愛くて、お久しぶりです、師匠なんて笑った時、恐ろしい程の殺気と覇気が島を包んだ。

 これは、レイさんの……!

 それに対してシャンクスは、視線をレイさんのいる方へ向けると、私を背後に庇うように立つ。それを見て、私は少し焦って、シャンクスに声をかけようとしたのをベックに阻まれる。

 違うのよ、ベック!狙いは私じゃなくて……シャンクス達なのよ!

 そう言いたいのに、それを伝えられないままに庇われた状態の所へ、レイさんは姿を見せる。そして、レイさんとシャンクスが対峙する。

 私はベックの手を振り払い、レイさんの元へかけて行こうと数歩進んだ所で、今度はシャンクスに簡単に囚われてしまう。

 

 「やっ!シャンクス離してっ!」

 「……シャンクス?」

 

 私の言葉にレイさんが戸惑いを見せるから、私はレイさんに頷く事で答えた。その瞬間レイさんの殺気は消え失せて、久し振りだななんて穏やかに話し掛ける。

 シャンクスの仲間だと思われる人達の半数以上が、レイさんの覇気にやられて意識を失ってはいたけれども。そこに来て、漸く私の行動の意味に気付いたらしいシャンクスとベックが、成程なんて言って笑った。

 即座に宴となり、レイさんとシャンクスは楽しそうに森とコテージの間で会話を始める。目覚めたクルー達は、良く分からないままに宴の準備に追われて、開始してしまえばどんちゃん騒ぎだ。

 

 「……成程な。レイさんが〝天使を匿ってる〟って言う森の王か!」

 

 突然大声が聞こえて、私は家の中からケーキを持って出て行く。そして、レイさんとシャンクス、及びシャンクスの幹部にだけケーキを配ると、そそくさとその場を離れようとしたのに、シャンクスが私の腰に腕を回して中々離そうとしない。

 

 「シャンクス離して」

 

 声をかけた私の腰をシャンクスが撫でる。それに私の体がビクリと反応すれば、シャンクスが動き止めて、ベックが驚いたような顔で見て、レイさんの視線が突き刺さった。

 声は出さなかった筈なのに、何故こうなるのかと焦る私にシャンクスは少し不機嫌そうな顔をしてから、そっと指先を背中へと移動させて来る。勿論腰は押さえられたままで。

 

 「っ!……っ!」

 

 体が反応して、熱を持つ。声を抑えながら助けを求めるようにレイさんに視線を向けると、レイさんが怒りを滲ませた表情でシャンクスと私を見ている。

 

 「シャンクス、辞めなさい」

 

 静かな、声だと思った。1瞬見えた怒りの表情が嘘か幻だったのかと思う程、凪いだ海面のようにレイさんの声は静かなもので、私はレイさんに手を伸ばす。

 それを見たレイさんが立ち上がると、シャンクスは背中を這わせていた手を足に移動させて……そこで私はレイさんの腕に瞬間移動させられた。

 いや、実際は違うのだろうけど、早すぎて何が起きたか分からなかったので、そう判断した。レイさんの腕の中で、ホッと息を吐いてその胸に甘える様に頭を付ける。

 そんな私にレイさんは優しく背を撫でてくれるから、レイさんの体に無意識で腕を回していた。

 

 「レイさんっ、あんた今、本気で殴っただろ!?殺す気か!?」

 「斬られなかっただけ喜びなさい。ナミで遊んだ罰としては、優しいものだと思うよ」

 

 シャンクスの訴えをレイさんは軽くいなすから、私はそんな所がレイさんらしいと思う。そのままレイさんの腕の中で微睡んでいたら、猫みたいだなとベックが言ったのが聞こえた。

 

 「主人にゴロゴロと懐いて、そのまま寝そうだ」

 「……どうやら私の腕の中は世界で1番安全だと、この子猫は思ってるようでね。可愛いだろう?」

 

 主人の言葉に肩が反応してしまう。それにレイさんは気付いている筈なのに、なんでもない様子で笑い、背中を優しく撫で続けてくれる。

 もう怖い事等何も無いのだと、何かあっても助けてやると、その手の温もりが伝えてくれる。

 

 「レイさん……」

 「どうした?」

 「大好き」

 

 思わず口にした言葉で、レイさんは本当に嬉しそうに微笑んでくれたから、私はそれだけで幸せだなと思える。そんな私をレイさんが、ひょいと抱き上げるから慌てて、レイさんの首に腕を回せば小さく笑われる。

 

 「シャンクス、ナミを寝かしつけて来るから、仲間と適当に過ごしていなさい。それと……天使を匿う王から天使を奪う事は出来ないと、理解しておきなさい」

 

 私は意味が分からなくて首を傾げるけど、シャンクスはそれに対して肩を竦めたから、どうやら2人の間では意味が通じているらしいとわかる。

 家に連れ込まれてドアが閉まるのと同時に塞がれた唇。それは激しくて、獰猛で、いつもとは違うそれに戸惑いながらも体は熱くなる。

 

 「レイさ……っ……」

 

 自分の声が甘ったるくて、気恥しいなんて思う余裕もなくただ口付けをされる。苦しくて、でも抵抗する気なんて起きなくて……ただ珍しく凶暴なそれを甘受する。

 

 「ナミっ!」

 

 唇が離れるのと同時に苦しそうに呼ばれた名は、1体何を意味するのか。ただ、切なさを孕んだその声に、私はレイさんを抱き締める。

 微かに震えるレイさんは、何かに怯えているようで……こんな弱った姿珍しいと思うけど、それを見せてくれた事が嬉しい。強い人程、弱いのは何故だろうと思いながら心まで冷えないように、ただ抱き締める。

 

 「ナミはまだ、若い。シャンクス達と共に行くか?」

 「……私が、弱くて、邪魔になった?」

 「違う!ナミにはまだ未来があって、私にそれを邪魔する権利は無いと「なら」」

 

 レイさんの言葉を遮って、私は答える。年齢だけを理由に、不安にならなくていいのだと、それどころか……私の方が縋る勢いでさえあったと思う。

 

 「邪魔じゃないなら、傍において。……捨てるくらいなら、もう……優しくしないで、壊して行って……」

 

 自然と涙が零れ落ちる。私はなんで、こんなにも弱いのだろう。

 邪魔になるくらいなら、死んでしまいたい。捨てるくらいなら、殺してほしい。

 殺してくれないのならば、期待なんか出来ないくらい冷たくして私を壊して行って……。そうしたら、私は1人で勝手に消えるから。

 レイさんの唇が目尻に落される。頬を伝い、流れ落ちる涙を追うように、レイさんの唇が頬に触れた。

 

 「……良いのかい?私にそんな事を言って、本気にさせても」

 「今まで、遊びだったの?……酷い男ね」

 「遊びで、隠れ家を台無しにする程愚かなつもりは無いがね。……もう、引き返せない。その覚悟は出来てるかい、ナミ」

 「私が、その覚悟も無しに、レイさんに抱かれたと思うの?」

 

 私の言葉にレイさんが息を飲んだのがわかった。きっとこの人は……今やっと気付いたんだ。

 私がシャッキーさんを裏切っても良いと思える程に、溺れてしまったからこうなっているのだと。それでもきっと、それは普段何も言葉にできない私にも責任がある。

 

 「……初めての相手が、最高の男で……この先他の男で満足出来る筈がないじゃない。酷い男ね……1生、責任取って貰うつもりよ」

 

 レイさんは泣きそうな顔で笑うと、仕方ないなと言った。やはり迷惑だったのかと思って息を呑む私に、レイさんは違うと言う。

 

 「仕方ないのは、私の方だよ。……見習い小僧に妬いて、こんなにも可愛い恋人を泣かせるとは、情けないな。……私は、もう躊躇わない」

 「レイさん……?」

 

 呼び掛けるとレイさんは、そっと私の首から後ろ頭の頭皮へと指を伸ばす。触れる指が、髪の根元を少し弄るだけで、体と心がレイさんを求めるのが分かる。

 髪の生え際が性感帯だなんて、知らなかった。その眼差しだけで、全身を愛撫されているような感覚に陥る。

 

 「泣いて逃げ惑ったとして……もう2度とナミを離しはしない。ナミのすべては……私のモノだ」

 「逃げたりしないわ。ずっと憧れて、愛して来たの。私の方が先だったのよ、この想いを抱いたのは」

 

 2人の体が重なるのは、もはや自然で。それをとめる事も咎める事も、誰にも出来はしないだろう。

 孤独の痛みと苦痛を知る2人だからこそ、離さないと互いに互いを強く抱き締めながら、その深過ぎる想いに身を焦がす。独りになるのがつらいからではなく、独りにするのがつらいからと、互いを想いどちらからともなく絡まり合う。

 表の騒ぎなど、睦み合う恋人達には届きはしない。

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