買物に行きたいと言われれば、いつも私が連れて行っていたが、今回は1人で行きたいと言うので禁止した。それでも何故か不安に思った私は、船も全てを破壊してから島を出た筈だ。
それにもかかわらず不安は拭いされず、衝動的に様子を見に来れば、幻を残してナミは姿を消していた。幻の精度は高く、後残る課題は香りと動きがない所だろうかと冷静に考える自分が少し嫌になる。
船は沈めたのだから何処にもない筈だ。どうやって島を出たのか……。
そう考えて、樽で島に到着したナミの操舵技術と航海術を思い出す。そして、森の動物達に視線を向ければ、余りにも挙動不審であり、森の1部から木が無くなっている事に気付く。
動物を手懐けて簡易的な船を拵えたか。やはりナミは侮れないな。
深い溜息を落とし、乗ってきたそれに飛び乗るとナミの向かった筈の島へと船を進める。流石に海底を歩いて移動しているとか、泳いで移動していると言われなかっただけマシと思うしか今は無さそうだ。
島に到着して見れば、ナミが1人で行きたいと言っていた理由は分からないが、買い物したいと言う理由はわかった気がした。いつも最低限しか買い物しないナミにしては、珍しい行動だが納得出来るだけの物が揃っている。
心を落ち着かせれば、ナミの居場所は手に取るように分かる。だが、何も知らずにいれば見逃してしまいそうな程に見事な変装しているナミがいて、思わず唸る。
近くに護衛が隠れてるとしか思えないようなレベルの、お嬢様に化けているナミ。高飛車な口調で買った物を島に届けさせるように手配している。
買った物を駄目にしない為なのか、それとも他に理由があるのかは知らない。だが、そんな様子を見ているにも関わらず脳内ではただ、ナミはどんな装いでも美しいなと本気で思うのだから色ボケと言われても仕方ないだろう。
この若い命を隠して匿い、そうしてただ生かしておく事が果たして正しいのか。年齢を考えれば、ナミが30歳か40歳になる頃には、私の命は無いだろう。
そうなった時、ナミはどうなる。世界は、ナミを諦めたりはしないのでは無いのか。
それを思えば戦い方を仕込むなり、強く若い男に預けるべきではないのか。ナミをどうすれば、この先も守れるのか。
だが……他の男に等、想像す事さえ嫌でナミを誰にも触れさせたくはない。そう考えた時、買い物をしているナミが店員と会話を始めたのが見えて、聞こえた。
「ご家族への贈物ですか?」
「こ、……に、渡したくて」
「え?」
「恋人、に、あげたくて……1人で来たのよ。バレたら怒られるとは思うけど、でも、恋人への贈物を恋人と選んだらおかしい気がして」
店員がナミの様子を見て崩れ落ちる。そして、
「彼の愛剣の柄にね、丸い穴が空いてるの。だから、これを嵌めて貰おうと思ってるのよ。これならサイズも丁度いいし……お守りにもなるから」
「お包みしますね」
「あ、大丈夫!こっそり装着するつもりだから、包まないで」
まさか会話を聞かれているとは思っていないだろうナミのその様子に、顔が熱を持つのがわかった。確かに剣の柄の先端には丸い穴が空いている。
そこに嵌める石として、見ていたのかと思えば何とも気恥しいような気持ちになり、思わず天を仰ぐ。……空は、何処までも澄み渡っている。
その後他にも買い物をしたナミは、最後にラッピング系の店に入った様子だった。私の顔の赤みも引いたので、そっと店前に移動して待てば、出て来たナミは私の顔を見てサッと顔色を変えた。
そんなにもわかり易い反応をした後で、素知らぬ振りで通り過ぎようとしたのでそれを捕まえる。この私から逃げようとは、百年早い。
「やっ!なんでわかったの!?変装してるのに!」
「匂いかな」
薫り立つ色香がナミだと告げていると正直に囁けば、嘘だー!と暴れるのでとりあえず騒ぐ唇を己の唇で塞ぎ、力が入らなくなったのを確認する。そうやって落ち着かせてから、島まで連れ帰った。
島に戻れば動物達がナミを心配そうに見ているが、お前達にも後程お仕置きが必要そうだな。そう思い視線を向ければ、即座に姿を消した。
流石は野生動物、勘がいいな。そうしてナミを家に戻してから、その姿をもう1度見て口を開く。
「ナミ、この部屋から出てはいけない。次に来るまでその約束が守られていなければ、二度と1人で立てぬようにするからそのつもりでいなさい」
「レイさん!?」
「数日で戻る。それ迄反省していなさい」
「レイさん……」
悲しそうな顔をするナミに、だが先程の店員とのやり取りを思い出せばあまり強く叱る事も出来ない。視線を窓の外へと向けて剣をナミに投げ渡せば、鞘を抱くようにして受け取った状態で不思議そうにしているのが見なくてもわかった。
「レイさん?」
「預けておくので、いい子にしていなさい」
私の言葉にナミが小さく頷いたのを確認してから、私は泣く泣くナミの居る島を離れる。数日後、野暮用を終えてナミの元に戻ると、建物に近付いた時に良い香りがする事に気付く。
正確には甘ったるい香りだが、1体なんだろうか。そっと窓から覗けば、ナミがエプロン姿で鍋を掻き回しているのが見える。
視線を動かせば菓子類がテーブルに並んでいて、どれもチョコを用いているのが確認出来て今日が何の日かを思い出す。……本当に、ナミは可愛い事をしてくれる。
これで私が帰らなかったらどうするつもりだったのか。そんな事を思いつつ建物に入ればナミが少し驚いた顔をしてから、微笑んだ。
「お帰りなさい。もう少しで全て揃うところだったんだけど……」
「それは?」
「板チョコを作ってたのよ。果物とか果実入のね。海で移動中にも持ち運びやすいし、栄養価が高いのに腐らないでしょ。保存食代わりにと思って」
「私の為に?」
「他に、誰がいるのよ。これは今食べる訳じゃないから、型に流し込む所までやらせて。そうしたら1緒に、あのお菓子と戦ってもらうわよ!」
見れば確かに戦いの領域に思える量が用意されている。成程作っている内に楽しくなって作り過ぎたか。
可愛いものだと思いふと壁に立て掛けられている剣を見た瞬間、呼吸が止まるかと思った。鞘の先端に、銀色の玉が埋め込まれている。
「ナミ、あれは?」
チョコを型に流し終えて、いつの間にやら洗い物に入っていたナミが私の言葉に慌てる。そして、バタバタと私の剣の元へ移動するとそっと剣を抱き締めて隠そうとした。
「ナミ」
名を呼ぶだけで肩を揺らし、そして、小さく震えながら私を見た。怒らない?と視線で問う姿に、怒れる筈が無い。
「ナミ、それは?」
「ヘマタイトよ。生命を守る石だから……レイさんに、持っていて欲しかったの」
「私に、生きて欲しいのか?」
「レイさんが死ぬ時は、殺して貰うつもりでいるのよ。殺してもらえないなら、勝手に追い掛けるわ」
なんの衒いも無く言い切るナミに、私は泣きたいような気持ちになり剣を抱くナミを剣ごと強く抱き締める。これは……私のものだ。
「ナミ……菓子よりも先に、君を食べさせてくれるね?」
「そんな!?私、でも、今日まだお風呂に入ってな「優しくは出来そうにない。このままで良いから力を抜きなさい」」
「レイリー……」
その返事を受けて、私は笑う。私を呼び捨てにするのは、抱かれている時だけのナミの癖だ。
服を中途半端に脱がせて身動きを取れなくすると、恥ずかしそうに私を見てその身を捩る。それがまた愛しい。
中途半端に脱がせた状態で辞めれば、自ら脱がせてと頼むより他に開放される道は無い。さァ、チョコよりも甘いナミを存分に味合わせて貰おうか。
愛らしい歌声を響かせる私だけの歌姫が零すそれを舐め取り、羞恥に赤く染まるのを楽しむ。ナミの全てが甘く、愛しい。
Happy Valentine……死でさえも2人を分かつ事は出来ないとでも言うかのように、2人は全てを互いに預ける。連理の木のように、2人の想いは絡まり強く結びついていた。