もう少ししたら別れの時だとわかっていて、だからこそ戸惑っていた私の目の前でナミは平然と言い放つ。ルフィは大きくなったのかしら……?と。
わかっているのだ。ナミはルフィを姉としての視点で、弟として想っているだけなのだと。
修行を2年で終えられるのか、それすら危うかったと言うのに、ルフィはナミを任せるにはこれくらい出来るようになってもらわねばと言った瞬間から甘えた顔を見せなくなっていた。そして……僅か1年で教える事が無くなると言う奇跡を起こしたのだ。
その結果1年程離れていたナミが、可愛い弟に想いを残すのは仕方ないかも知れない。だが、もう私と共に過ごせる期間も少ない事を考えれば、許せる言動では無かった。
怒りにも似た感情を持て余し、明らかに嫉妬と呼ばれる感情だろうそれをナミに向ける。空を舞う四肢が私を打つ事は無く、苦しそうに、けれども妖艶に鳴き煽られる己を自覚してしまう。
もう若くはないからと〝俺〟ではなく〝私〟と言うようになって久しい。現役を退いた時、私と言うようになった筈なのにな……。
「俺の女だと言う自覚が足りないよ、ナミ」
「くる……し、も、む……りぃ……!!」
「……そんな顔、他の誰にも見せる事は許さないよ。見た相手がいたならば、その相手はナミの前で切り刻むからね?」
できる限り優しく言葉を向けるが、ナミはイヤイヤと首を振るばかり。もう辞めてと言うナミをもう1晩ならと貪り、指さえ動かせなくなった所で解放すれば意識のない状態で泣いている事に気付いた。
「……大人気なかった事は、自覚しているよ。すまないね、ナミ」
言いながら頭を撫でて、その身を清めてやると旅支度を整えて船に乗り込む。シャッキーの待つシャボンディ諸島が約束の場所だからと、動物達に別れを告げて島を出る。
船の中で1日ゆっくりと休んだナミは、翌日である今日は私と視線を合わせる事もしてくれなくなっている。無体を強いた上に、動物との別れをさせなかったのが不味かったらしい。
怒りを抑える為に、買物をしたらどうかと提案すれば1人で行くと言って船を降りしまう。するとその港にある、今乗ってきたのに比べると随分と大きな船をポンと購入してしまい、そちらに移動しててと言うのだから参ってしまう。
船は決して安いものでは無い。だと言うのに、簡単に買ってしまえるそれは恐らく、動物達に囲まれながらも執筆を続けていた為に使い道のない金が貯まっていたのか理由だろう。
船が盗まれるリスクを考えれば、私はこの場に残るしかない。恐らくナミはその辺も計算済みだろう。
どうやらナミの様子を見るに、相当量何かを買い込む予定らしい。そんなナミには着いてくるなと念押しされたので、近くに居た善人そうな人に孫が心配だから遠巻きで良いから見守って欲しいと頼む。
それによりどうやら興行で来ていたサーカス団の人間だったらしいその人物は、ピエロや着ぐるみ姿の人間にチラシ配布のついでに見守れと命じて解き放つ。見聞色の覇気で確認してみれば、ナミの後ろをピエロがついてまわっている。
なのに、ナミは気にもせず普通に買物を楽しんでる様子で何だかなと笑ってしまう。その上でナミよりも先に荷物が届き続けているのだから、早く帰ってくれと願ってしまうのも致し方ない事と言える筈だ。
届いた物は大半が食材で、その他にある物の中で唯一何に使うのか不明な着ぐるみは、よく見れば案外シャッキーが喜びそうだと思う。だとするならば、これはシャッキーへの土産だろうか。
そんな事を考えている間に帰って来たナミが、近くに巨大な豆が自生する島があるらしいと教えてくれた。たが遠目に測量すれば事足りる様子だったので、遠巻きに見ながらシャボンディ諸島を目指す事に決める。
新しくなった船にはキッチンが着いており、そこでナミが買ってきた食材で太巻きを作り始めたのを眺めれば、恥ずかしそうにナミが笑った。どうやら即席で作ったそれでは、食生活に不満があったらしい。
「ナミ、珍しい物を作っているな」
「節分っていうイベントがあってね。毎年向く方角は変わるけど、恵方巻きって呼ばれる太巻きをその年の方角を見ながら食べるの。その間喋ったり、太巻きから口を離したら駄目なのよ」
そんな風に節分というイベントについて説明しながらも、手は器用に動き続ける。そうして同じ太巻きを2本ずつ、6種類、合計12本作り上げると1本食べたら後は輪切りにして食べたら良いわよと笑うので、緑茶を飲みたいと伝えて笑うナミと恵方巻きとやらを食べてみた。
……美味いな。1本の中で味が変わるようにしてあるのを恵方巻きとして用意してくれたのか、飽きる事無く最後まで食べきる事が出来た。
その後お茶と共に残りの恵方巻きを輪切りにして、太巻きとして食べ始めればそれ等は1本毎に味が違うので、順番に手を出せば飽きる事無く食べられる。ナミはそんな私にクスクスと笑いながら、男の人は飽きやすいものねと笑うのだから他の男と重ねられているのかと少し不快になってしまう。
だが勘違いで怒るのも嫌なので話を聞けば、父親や祖父代わりの男達の反応によるものらしいと知った。……シャンクス達で無くて良かったと思うのは、心が狭いのだろうか。
「……我ながら心が狭いな」
「レイさんは、優しいと思うけど?優しい人は心が広いのよ。大丈夫」
「……ナミに関しては、心の余裕が消滅するようだ」
ニンマリと笑えば、ナミが少し頬を赤らめて突然豆を投げ付けて来た。それを甘んじて受ければ、何かを感じ取ったらしいナミが突然逃げ出そうとする。
なので私からも豆をナミに投げ付けてやれば、ナミが女の子に豆をぶつけるなんて酷いと叫び出す。それには流石に笑うしかない。
「先にぶつけて来たのは、ナミだったと思うんだが?」
「レイさんが悪いんだもん!」
「……負けた方が鬼で、鬼は福の神に食べられても問題は無いな」
「大有よ!!何言ってんの!?」
真っ赤な顔で豆を投げつつ文句を言うナミに、受けて立とうと豆を手にしてやれば泣きそうな顔で私を睨み余計に煽る愚かな子。しかし、もう辞めてやれそうにはないな。
その時ふと思い出して、声を掛ける。それは、ナミの意識を簡単に他へと向けさせられる言葉でもあると知っていて口にしたのだから、負けてやるつもりがないと分かるだろう。
「ナミ、近くに春島があるらしいと聞いたが、寄っていくかい?桜と言う花が咲く島だと聞いているよ」
「桜?……寄りたい、けど……」
戸惑うナミに豆をぶつけて、可愛い花鬼を私のモノにしようと画策する。鬼は内、福も内と強欲に手を伸ばすのは海賊の性だろうか?
元々勝ち目の無い少女から、集中力を奪い豆をぶつける大人気ない鬼は、その後船内に暫し少女を閉じ込めた模様。その時何が中で行われていたのかは、当人達だけが知っていれば良い事だろう。