無自覚って(光源氏16)
助けられて、そのまま連れ去りに近い勢いで海軍本部に連れてこられて……海兵になった。そのまま名目上恋人と呼ばれる関係になってる筈だけど……正直自信なんてない。
「もう少し大人になったらすべて貰うつもりだけど……あー、なんだ……。忘れた」
なんて適当な事を言われてから2年、覇気を使えるなんて理由で断ってるのに、無理矢理に与えられた地位は海軍本部大佐。仕事の八割は青雉の管理と言う謎の立場。
島の為であっても海賊の仲間だった事を赤犬は嫌い、私を睨みつけてくる。それに、似たような事を思う人は多い様で、聞こえよがしなそれらに耐える為、どれ程弱っていても弱さを隠すしか無い状態になってしまった。
それでもあまり言葉は多くないけど、恋人だからと言って側に居てくれる青雉を含めて、気遣ってくれる人も多い。でも、私は青雉の彼女だ!と、自信を持っては言えないのよね。
こちらの不始末でナミに非は無いと庇ってくれるセンゴクさん、茶飲み友達となっているのはおつるさんと桃兎、そして……ガープさん。だから不満なんてものはあまり無い。
ガープさんはルフィとエースの自慢話を聞かせても微笑んでる私をお気に入りのようで、分かっているのかは兎も角赤犬から庇ってくれる事が多い。青雉が仕事をサボる事が多いので、後はハンコだけと言う状態まで仕事を私が終えてから机に運んでいる事を除けば、比較的平和で充実した日々を過ごしている。
もう必要も無いからと辞めようとした宝玉としての活動は、青雉に続けなさいなと言われて、定期的に続けている。その資金は今の所すべて貯めてある。
いつだったかその大金どうすんのよと聞かれて、いつか夢を叶えた後で孤児院でも開こうかなと嘯いた時、青雉はその時は護衛してあげるよなんて言ってくれた。けど、酒の席の話だし、多分もう忘れてるだろうなと思う。
だって、私の夢について青雉は何も知らないから。そして、教えるつもりもないから。
「ナミ、俺は書類仕事をする為に大将になったのかな?」
「他の大将さん達の半分も書類仕事は無いのですから、キッチリ終わらせて下さい」
「……ナミが大将の仕事をやってるってのは、センゴクさんも知ってるんだし、ナミが大将になる?推薦しようか?」
私は青雉の頬をニッコリと笑って抓りあげる。勿論指に覇気を込めて。
「ちょっ……痛い!冗談じゃなくて痛い!誰かナミを止めて!」
情けなくも他の人に助けを求める青雉に、青雉の執務室にいる人達は誰も相手にしない。これが日常の風景だという何よりの証拠。
私は地位なんかいらないのに。確かに地位が上がるとベルメールさんとノジコが大喜びしてくれるけど、その為だけに地位を高めるつもりは無い。
今でも片道ではあるけどシャンクスに手紙を送ってるし、今でも白髭にエースの事を頼む為に、サッチ隊長が死なないようにと手紙を送っている。だから、余計に地位は後ろめたくて高めたくは無い。
それに地位が上がれば責任も増えるし、命も危険になる。ガープさんじゃないけど、本当に地位なんて高過ぎてもいい事なんて何も無い。
……私は弱いのよ!と言うと、青雉を含めて無自覚って罪だよねとか言い出すけど、本当に私は弱い。本気の青雉になら、1分持たずに負ける自信があるわ!
「わかりました!推薦とかしないから、許して!」
「……青雉は推薦を蹴ってくれる立場だと信じてるのに、酷い。私次に上がったら将になるのよ。そうしたら……海軍辞めるからね」
「は?ナミ、それ本気で?」
書類に嫌そうにしながらもハンコを押していた青雉が動きを止めるから、私はそれを早く押せと視線で言って、続きを押させながら答える。本気だと。
それに対して青雉は何でよなんて言うから、将は将の部屋で仕事があるから、1番大切な仕事が出来なくなるでしょうと嘯く私に、執務室の人達が笑って確かにと言う。准将だって将だから青雉とは執務室が別になってしまうと言えば、執務室が笑いに包まれる。
それに皆酷いと落ち込んでみせる青雉のコレは、八割本気の二割演技。それくらいは分かるような付き合いだと思ってる。
「ナミ、今夜暇?」
「青雉が無事に仕事を終えてくれれば、暇になりますよ」
その言葉に青雉は瞳を細めて、夜中まで明かりがついてるのってナミが理由だったんだ?なんて言い出す。
その声にゾクリとしたのは、何故か怒ってるのを感じたから。私は、1人の家に帰る意味を見いだせないし、可能なら眠りたくないのだから仕方ないと思うのだけど……話してなかったかなと今更気付く。
……話してる、筈ない、か。今もまだ、アーロンに心が支配されてるなんて、恋人だからこそ、言えない。
それに、本当に恋人と名乗っていいのかさえ、時折不安になる。年齢差は縮まらないから、私が合法の年齢になるのを待ってるのだとは分かってるけど……。
キスしかして来ない子供の恋愛みたいな状態で、それも月に1度あればいい方なんて、恋人と言うより完全に上司と部下の密度の方が強い。忙しい人なのは分かってるから、無理を言うつもりもないし、こうしてダラケているのも半分は演技だったりするから、余計な事で煩わせたくない。
「何を怒ってるかは知りませんが、冷気を抑えてくれませんか。また、センゴク元帥に叱られますよ」
「……そうだね、なら俺の事もとりあえず大将って付けて呼んでくれる?」
「青雉大将がそう望まれるのでしたら、今後はそのように」
私はそう答えてニッコリと笑うと仕事に戻る。書類を整理して運ぶように何人かに指示を出してから、私は次の仕事として与えられている部屋に向かおうと立ち上がった。
「どこ行くのよ?」
「本日は王下七武海の皆様方がおいでになりますので、お茶出しを指示されております。青雉大将も呼ばれておりますので、共に参りましょう」
「なんでナミが、何でお茶出しをやる事になってんの?」
「……男性の海兵相手だと操って遊ぶ方がいらっしゃるから、女性が持ち回りになる事に決まりました。発案者の私がまず初めにと」
「……発案者だったの、ナミ」
私は素直に頷いたのに、青雉は何故か不機嫌そうで……部屋を出て少し歩いたら、突然書類倉庫に連れ込まれて、珍しく乱暴なキスをされる。珍しいなと思いながらそれを受け止めていたら、青雉は何故かつらそうにナミと呼ぶので、何?と問い掛ける。
「なんで、名前呼んでくれないの?」
「…………公私を分ける為?」
「〝私〟ってナミに、いつあるのよ。何度夜中に尋ねたと思って……」
その言葉に私は青雉が不機嫌だった理由に思い至り、顔が赤くなるのを感じた。キスも少なくて、会えないって思ってたけど、それは私が潰してたのかもしれないと気付いてしまったから。
そんな私に青雉は少し驚いたような顔をしてから、ニッと笑った。それは何とも愉しそうで、遊ばれると身構えてしまう。
「……脈は、ちゃんとあったんだ?」
「は?」
私は思わず声を出したけど、青雉は呆れたように私を見ている。でもこの場合私の反応が正しいと思う訳ですよ。
寧ろ何もして来ない事を考えたら、私が言いたいわ。ずっと片想いしてるみたいなものじゃない。
「ナミは俺に助けられたから、義理で付き合ってるとか、流されてるのかと思って距離置いたら、そのままになるし」
……大将って忙しいから、邪魔しちゃ悪いと思って。それに、義理で恋人になるような非道な事はしないわよ。
「夜中に耐えられなくて、そっと通ってみてもそもそも家にいないし?」
寝るのが怖くて、職場でずっと仕事してました。だから、蜜柑の世話以外の為に帰宅するのは着替えを用意する為くらいでしょうか?
「俺の事、ナミが全然名前で呼ばないから……不安だったって言ったら、信じてくれる?」
私は勝手に赤くなる顔を恨めしく思いながらもそれに頷く。そんな私の頭を撫でて、青雉が囁く。
俺の名は?と。その声は呼ぶまで解放しないと言っていて、恥ずかしくて呼べなかった名を必死に呼んでみる。
「……く、ざん、です」
「…………そりゃー……反則でしょうよ。ここで、襲いたくなる」
「え?女として見てないんじゃ?」
思わず問い掛けたら、怒りを滲ませた瞳と視線が絡んだ。何でと思って焦る私の耳に青雉は噛み付いてくるから、私は声を出さないように息を詰める。
「ナミはそっちの方面だけ、馬鹿だったと言うのは理解した。あー……なら、仕方ないか」
そう言って青雉は私に爆弾を投げ付けてきた。それにクリティカルヒットした私に、勝ち目は無い。
「名前で呼ばなかったら、その場で体の何処かに今度から跡付けるから。それと、まだ早いかと思って耐えてるだけだから……煽るような事言ってると、理性が切れて……犯すぞ」
私はそれになんと返したのだろうか。よく分からないけど、クザンさんが私に優しく口付けて来たから、満足して貰える答えは言えたのだと思う。
「クザンさん、あの……」
「ん?」
「ちゃんと仕事中は大将って呼ぶから、たまに2人になった時は、その……少しは恋人として、構ってよね」
「……だから、俺の理性が……ああもう!分かった!ナミに触れないなんて、どうせ俺も出来そうにないからな」
そんな風に嘯くクザンさんに、私は笑う。そして心から色々落ち着いたら、早めに引退したいわと呟いた私にクザンさんは勿体無ェなと呟き返した。
その後、お茶出しは私が永続的に続ける事になり、鷹の目と天夜叉の会議参加率が上がり、クザンさんがその2人と睨み合う事が増えた。そして赤犬がそれに対して珍しく私を庇うような発言をしてくれて、赤犬も人間なのだと言う事を思い出した。
鷹の目と天夜叉の話が広がったのか、英雄殿まで参加率が上がり、センゴクさんは喜びたくないが必要な事でもあると唸っていた。今度胃薬を届けようとそんな様子を見て言ったら、クザンさんにナミの責任でもあるからねと言われてしまった。……解せぬ。
そんな日々の中で相変わらず帰らない私をクザンさんは気にしてはいたけど、うたた寝していた私と遭遇したクザンさんに私が帰らない理由に気付かれてしまった。その日そのままクザンさんにお持ち帰りされて、なし崩しに的に同居する事になるなんて、想像もしてなかったけど。
体力が持たないと言っても、聞いて貰えない事を含めて考えてみても……。それでもきっと、私は恵まれていて……恐らくは世界中の誰よりも、幸福だと思える生活をしている。