街中でイベントに関する話題が溢れている。その発信源が自分の彼女だと自慢出来れば、それはそれで楽しいかもしれないが、それは機密情報の為口が裂けても言葉には出来ない。
知られれば狙われるだろう。海兵である事が、マイナスに作用しかねない程に。
だからこそ、そうやって周りが必死で隠しているのに、ナミは呑気にまだ発売されたばかりの新曲を歌い出したりする。なので、此方としてはその存在を隠すのが、特に七武海の奴等に対しては大変だったりするが本人はよく分かっていない。
その上ナミは妙に、海賊を引き寄せる性質らしくいつも苦労させられている。正確にはいい男ホイホイみたいなものかも知れないが。
だが……手を出せずに居るような俺に向かって、愛してるわと言って微笑んでくれるのだから、それくらいの苦労はしても構わねェかと思う。現在ナミには、無理矢理有休を消化させる為に、ここ3日程は休みにさせてある。
だがそれの理由の1つが、今夜から明日いっぱいまでのこのイベントの為だ。贈物を何かと思って色々な店を回って見ているが、中々これだと思えるものに出会えずに困っている。
ナミが14歳の時から傍に居るからと言うのもあり、いざそんな雰囲気になっても手を出せずに居るのが理由でまだ清いお付き合いを続けているが……。さて、今夜こそはと思わなくもない。
その時宝石店に、何故かぬいぐるみが置かれているのが見えて足を止める。それに気付いた店員が中から顔を覗かせて、見て行かれますかと聞いてくる。
「なんだって宝石店でぬいぐるみなんか、置いてあんのよ?」
「ぬいぐるみをプレゼントすると、そのぬいぐるみにもう1つの贈り物である宝石がついてると言う事になります。身につけていない時は、ぬいぐるみに宝石を預けておけるのも魅力です」
成程、2つで1つのプレゼントになるのか。宝石用のケースより、可愛いぬいぐるみと言われれば確かに分からなくもねェな。
だが……鳥系のぬいぐるみなんかあるか?
何故かはよく分からないが、ナミは鳥が好きだ。動物が全般的に好きなのは知っているが、その中でも特に鳥が好きだからと見てみる。
「ニュース・クーと近い見た目のぬいぐるみとかは、あるか?」
「ございますよ!首に掛けられる他に、鞄の中に宝石を入れられるようになってます!」
なら、それにするか。にしても、宝石か……。
指輪は邪魔になるだろうし……ピアスは穴がねェな。あー、なら空けてやるか。
俺の能力なら、安全に空けられる。となれば、石を何にするかだよな……。
これ程に悩むのは、任務でもそれ程無いだろう。それでも喜んでくれるかもしれないと思えば必死にもなる。
気に入らなくても、俺が渡せば身に付けてくれるだろう事は分かり切ってるからなァー……。ふと視線を向けた先にあったのは石言葉なる物の1覧表で、その中である意味ピッタリだなと思った物を見付けた。
情熱・優しさ・繊細・豊かな感受性。ナミを表してるようなその石は、強い赤系の色をしている。
「これの、ピアスってある?」
「はい、ハートの形のものと、丸い形のものと、原石の形を活かしたものがございます!」
ロードクロサイト、別名インカローズ。ナミならば、原石だろうか。
「んー、原石の方で頼むわ。カモメのぬいぐるみの中に入れてくれや」
そう言って用意されたプレゼントを手にナミの元へ向かえば、建物が木で隠されていて見えなくなっている。足元の方は野菜やら薬草やらが植えられていて、殆ど帰らない癖にどうやって育てているのかと不思議に思う。
ドアを開ければ中には木が置かれていて、驚く程にキラキラとデコレーションされていた。それに驚いていたら、ナミの声が耳に届く。
「クザンさん、来てくれたの?」
「あー……なんだ?1応な」
「ふふ、ありがとう」
そう言ってナミは楽しそうに笑いながら、俺のサイズに合わせて用意されてるソファの前に料理を運んで行く。俺が来なかったら、どうする気だったのかね?
「ケーキはブッシュ・ド・ノエルに挑戦してみました!木に見える?」
笑顔でそんな事を聞きながら運んで来たそれに、俺は視線を奪われる。……切り株にしか寧ろ見えねェが、食い物なのか?
「ケーキよ。初挑戦だからどうかなって不安なんだけどね。マジパンで成功したのは雪だるまだけだから、雪だるま乗せとくわね」
「その、失敗したの見せてみなさいよ」
「嫌よ!絶対に嫌!」
ソファから立ち上がって冷蔵庫の前で頑張るナミを退けつつ中身を見れば、成程着色に失敗したらしいと知る。ふと視線を向ければ顔を真っ赤にして震えているナミがいて、それにしてもナミにも出来ない事があるのかと少しの驚きを含んで見つめる。
「私に美術の才能なんて無いのよ……!」
「まー……なんだ?ナミは多才だから、出来ない事も少しくらいあって、いいんじゃねェの?」
「ここで〝そんな事ない〟って慰めるような言葉を口にしない辺りが好きよ。素直で宜しい。でも、見られたからには仕方ないわ」
「ん?」
「そのサンタとクリスマスツリー食べちゃって」
これも食べ物だったのか。そう思いながら食べるが、ナミが作ったのに珍しく、それ程美味しくもない。なんだこれは。
「美味しくないでしょ。それね、ケーキの上に乗せられる可愛い食べ物って事にしか価値のない物なのよ」
「彼氏に美味しくないと分かってる物を、平然と食わせる彼女も珍しいよな」
「見せたくないって言ったのに、強行したクザンさんへのお仕置きだもん」
そう言って笑うナミは、妙に明るい。よく見れば目元に隈があり眠れてないらしいと分かる。
……そういや、1人だと悪夢をとか……だとするなら今夜もどうやら手は出せそうもねェなと自嘲して、ナミの頭を軽く撫でる。次からは休みの時は俺が来るか、俺の家に泊めるかを徹底しようと心で誓いながら。
「あー……ナミ、食事の前に風呂入って来い」
「……臭い?」
「粉がついてる」
「……帰らない?待っててくれる?」
……どうして襲えないってなってから、ナミは俺の理性を揺さぶってくるのか。あァ糞ったれ。
「……帰る訳ねェでしょうが。ナミと過ごしたくて来たのに。食事が冷める前に出て来なさいや」
「うん!」
駆け出して行く背中を見送り、風呂から上がったら即座にプレゼントを渡して、穴を開けてやると誓う。少しくらい所有の印、残したってバチは当たらんでしょうよ。
そう思いながらボウルに入っている白いものを指で掬って口に入れると、どうやらポテトサラダのようで、だが料理にそれらしい物は見当たらない。どこに消えたのかとボウルの中身と、並べられた料理を見比べていたらナミが帰って来た。
「ナミ、ポテトサラダ何処に消えたのよ?」
「ポテトサラダを元にコロッケ作ったから、コロッケになってるわよ?でも、ポテトサラダって……あ、ボウルに張り付いてたのつまみ食いしたのね?」
そう言って楽しそうに笑うナミの髪からは、雫が落ちている。今は暖かいそれも、直ぐに冷えて体を冷やす事は明白だからと座らせてからその頭を拭いてやれば、可愛くありがとうなんて言ってくる。
それに対して気にしなさんなと言いながら、そっとその耳に触れると冷やして行く。それなのにナミはどうしたの?と言うだけで、抵抗しないのだから困ってしまう。
「少しは抵抗しなさいな。凍らされても良いのか?」
「クザンさんがそれを決断するなら、何か理由があると思うから、構わないわ。それに……」
「ん?」
「愛する男に殺されるなら、本望だわ」
何を言えばいいのか分からなくなった。それでも本気で言ってるのは伝わってきたから、俺の方が殺されそうだよと喘ぐように返すのが精一杯。
そんな状態でほらと言ってプレゼントを渡せば、くれるの?なんて言いながら瞳を輝かせる。そんなに鳥が好きか。
「ありがとう」
「鞄の中」
単語しか言わなかったのに、ナミは素直にそれを開けて中身を確認し、固まった。先程の妖艶さも、ぬいぐるみに煌めく幼さもないその姿はある意味貴重だろう。
「え?クザンさん、私の耳……穴空いてない!」
「穴が空いてなかったら、何も聞こえんでしょうよ」
そう言いながらもナミに許可を取る事なく、耳の1部を凍らせて、その状態で氷で耳に穴を空けると凍らせたそれを解除する。このやり方なら、腐る事は有り得ない。
ガーゼをナミに差し出して、耳を抑えるように言えばナミはそれに素直に従う。だから、その間にもう片方も同じ方法で空けてしまう。
「……クザンさんに傷物にされたわ」
「近々ちゃんと傷物にしてやるから、それまでは誤解を生みそうなその発言を他所でしなさんなよ」
俺の言葉にナミは笑って、期待してるわなんて余裕の表情を浮かべる。それから、両手を使えなくなってるナミは、クローゼットの前にある紙袋の中身をあげるわなんて言い出す。
確認して見るとそこには帽子とマフラーが入っていて……。優しい肌触りのそれは、妙に柔らかく暖かい。
「手編みよ。クザンさん、氷人間なのに寒がりだから」
「……寒い所に行く時は手放せなくなるな」
ダメになったら持って来てね、直すからなんて笑うナミは、穏やかな顔をしている。それに対して救急箱を手に近付いて耳を消毒してやりながら、これを直して貰わないといけなくなるような事になれば、相手は生きてねェだろうなと思う。
Merry Christmas……その帽子とマフラーを海軍を辞めた後も使う事になるとは、この時誰も知り得ない。微笑み合う恋人達が、この先も幸せである事を祈るように空から白い物が降り始めた。