共に〝住みたい〟と最初に思ったのはナミが16歳の時で、共に〝住まなくては〟と思ったのはナミが17歳の時だった。何度言っても倒れる迄働くナミは、常に何かをしていた。
常に泳いでいなければ、死んでしまう魚のように。寝ている事を、休む事を自分に許さないナミ。
何もしないでいる時間があれば、そのまま死ぬのだとでも言うかのようなそれを俺なりに気にかけてはいた。だが、どうしたら解決できるのか分からなかったんだ。
何度も妙な男達に狙われていたナミを、恋人と呼ばれる関係になっても腕に抱けなかった。それは、それをする事でナミが壊れるような気がしていたからというのもあるのだと、最近になって気付かされた。
「おつるさん、ナミを見掛け……」
書類は綺麗に纏められていたが、何処を探しても見付からない恋人が誘拐でもされていたらと思うと不安になり、桃兎の部屋の次におつるさんの執務室へと向かった。ここに居なければガープさんかセンゴクさんの所で、そこにも居なければ本気で探すつもりでいた。
おつるさんの執務室に入った時、ソファで酷い隈をその身に刻み眠っているナミを見付けて声を失うと、おつるさんがそっと耳打ちして来た。2、3日後の深夜2時頃執務室を覗いてみなと。
おつるさんの様子から、それの他には何も情報を与えてはくれないと分かり、俺は言われるままに数日後の深夜に自分の執務室へと足を運んだ。正直眠い。
微かにもれる明かりに眉が寄るのを自覚し、そっと外から様子を伺えばナミが1人でペンを動かし続けていた。そして、その動きが止まったと思ったら船を漕ぎ始め……それにより部屋に入りソファにでも運んでやろうかと思った時、ナミがバネじかけの人形のように飛び起きた。
脂汗を滲ませ、小さく体を震わせる姿は脆く儚い。その姿に俺は、自分を殴りたいような気持ちにさせられる。
甘やかに俺を包み、暖かく俺に微笑みかけて、勤勉で穏やかなその姿は演技では無い。だが……この姿もまたナミの姿であり、まだ、何も終わって等いなかったのだとそれにより思い知らされる。
未だナミは魚達に支配されているのだと、それをそのプライドの高さと優しい心、そして孤高の精神がそれを誰にも見せる事を許さなかったのだろう。俺がそっとナミを背後から抱き締めて、1緒に住もうと言葉にしたのはその時だった。
そうしてナミと住むのに良さそうな戸建ての家を用意して、今日から共に生活する事になった訳だ。庭はナミの為にと広めの家を用意したが、ナミの家にあった植物を移植したら既にジャングルと化すのは時間の問題だなと思わされた。
「ナミ、本当に家具全て俺のサイズで用意して良かったのか?」
「大は小を兼ねるって言うでしょ。私のサイズで用意したら困るのはクザンよ」
「でもよ、キッチンは基本ナミが使うのに良かったのか?俺はそんなに立たないでしょうよ」
俺の言葉にナミは笑う。その為に台を用意してくれたじゃないなんて言って。
確かに用意はした。台に乗って包丁を使うナミは、幼い娘が必死で料理をしてくれているような雰囲気があり、見ていて微笑ましい。だが、そうじゃねェだろ。
キッチンはナミしか基本的に使わないのに、何故俺のサイズに拘るのか。尋ねれば手を洗ったりとかする時、怪我した時に困らないようにして欲しいのよなんて……俺はロギアなんだけど。
俺が怪我をするって、キッチンが海楼石で出来てるとかかよと頭をかいたら、クスクスと笑われちまった。そういや、ナミは海楼石の短剣を持ってたな。
どう考えても、怪我をしたりするのはナミの方が多いだろうと思うのに、いつも俺の事だけ考えてくれる恋人に俺は苦笑する。甘やかされてる事を自覚しているから、余計に。
それから完成したばかりの新居で、ナミは楽しそうに荷解きをしながら俺を振り返り、言った。幸せそうに微笑みを浮かべて。
「新婚さんみたいね」
口に入れた珈琲を噴き出したのは、不可抗力だったと俺は思う。だがナミは慌てた様子で飛んで来て、大丈夫?と心配そうにしてくれる。
ナミから触れてくれるなら、こんな動揺の仕方も悪くねェかもな。そう思ってナミに笑いかける。
「新妻か?」
「幼妻かもね?」
「なら、貰っても良いか」
「へ?」
ずっと、我慢して来たんだ。俺と住むと迷わずに答えてくれたのだから、手を出しても大丈夫って判断させて貰おうかね。
ヒョイっと抱き上げてベッドまで運べばナミは少し緊張した様子で、でもどこか悲しそうに俺を見る。そして首を傾げた。
「また、途中で辞めるくらいなら……手を出さないで欲しいんだけど?」
「……ナミが、何に怯えてるか分からなかったから、心を壊しそうで手を出せなかっただけだ」
「え?」
「体は少々無理させたって、治る。だが……心は治らねェ。だから手を出せなかっただけだ」
「意味が……」
「……俺に怯えてたんじゃねェと分かった今、我慢する事は不要と判断したから、泣かれても辞めてやれねェって話よ」
後は黙ってろとの言葉の代わりに、俺の唇でナミの唇を塞ぎつつ服を脱がせればナミは俺の首に腕を回してきた。初めての筈なのに、どうしてこうも積極的なのかと考えて、寸止めしていた俺もつらかったが、されてたナミも辛かったんじゃねェかと今更気付く。
微かに震えているのは、俺かナミか、それさえも分からずに指を秘部に持って行けばナミがピクリと反応する。弱い筈の所を刺激すると体がピクピクと反応するので、自身の体でナミの足を割開いてやればそれだけでナミの反応が1段と良くなった。
「ナミ、力抜いてろ」
「クザン……」
「体格差があるから、どんなに解しても、力を入れてりゃ痛ェ思いさせちまうからな。……辞めてやれねェから、覚悟決めなさいな」
真っ直ぐに見詰める俺を、やはりナミは真っ直ぐに見つめ返して来る。覚悟なんていらないと、その瞳で伝えて来る。
「私、クザンが欲しい……ずっと、待ってたのよ」
「……待たせて、悪かった。今後は俺が、守るから……ナミの全てを俺にくれ」
俺の言葉にナミは微笑む。それにつられるようにナミの中に入れば、痛みはある筈なのに苦痛の声を押さえ込み俺に手を伸ばすとそっと頬に触れて来た。
どうしたのかと思ったら、ナミの瞳に情けない顔をしてる俺が映り込む。震えていたのは、俺の方か。
「年齢差とか、体格差とか、立場とか、そんなの今は忘れて……私だけを、感じて」
本当に無垢な体の癖に、何も経験なんか無い癖に、ナミは俺の頬を包み込むようにして笑う。この愛らしくも愛しい存在を、俺はどうしたら護れるだろう。
あれ程強く、真面目で、優しかった先生でさえも……愛しい大切な存在を守る事が出来なかった。あの日、赤髪が言っていた事は正しい。
大将が大切な者を持てば、狙われる。大将なんて恐ろしい存在を相手には出来ねェからと、弱いそちらが当然狙われる。
先生の妻子は民間人だった。ナミは戦えるが、そういう意味では弱過ぎる。
俺の全てを受け止め、受け入れて甘やかしてくる。暖かくて優しい俺のアキレス腱。
俺に翻弄されているとナミは思うだろうが、俺が溺れているんだ。お前に。
「クザン、何がそんなに、悲しい、の?」
荒い呼吸の合間に問い掛けてくるそれに、俺が首を傾げるとそっとナミが俺の頬に口付けた。それにより、泣いていたと気付かされる。
「形が無いものは壊れないわ。だから、抱き締め合うこの温もりは消えないし、壊れない。……ゼファー先生の事があって臆病になってる?」
当たり前のように柔らかな笑顔で、ナミは自らの強さを全て優しさに変えて、愛情という布で俺を包みながら怖くないよと微笑みながら言う。そして、俺の震えが止まるまで……愛してると何度も、何度も繰り返してくれる。
大切な者が増える度、大切の度合いが増す度に怖くなる。俺は……ナミを喪えない。
「……悪い。今夜は、甘やかしてくれ」
「いつでも、甘やかしてあげるわ。私の最愛の人だもの。クザンが何処へ行くと決めても、私はついて行く。クザンを独りには絶対にしない」
見えない筈の未来を見据えて、ナミは言い切る。俺が世界の全てだとでも言うように。
だから俺はそれに甘えて笑う。今夜は寝かせねェよと。
明日からはゆっくり眠らせてやるから、今夜だけは俺の弱さも脆さも受け入れてくれと甘えれば、喜んでと言ってその腕を広げてくれるナミ。それに俺はぐずぐずに甘やかされる。
まだ夜にもなっていないのに、ナミは初めてなのに、ゴメンなと小さく謝りつつも止まる事は出来なかった。俺の半分も生きてないような恋人に甘えて、その愛情に溺れている。