※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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ホワイトデーイベント(光源氏18)side

 センゴクさんに有休の申請を二人分出して執務室へと戻ると、俺の席には完成させられた書類が積み上げられていて、よく見れば既に判子まで押されていた。その横にメモが置かれていて、書類の内訳が書かれているのを見れば笑う他ない。

 それをやったであろう犯人に視線を向ければ、優しい顔でニュースクーと戯れていて、それに対して他の誰も何も言わないのだからそれだけの仕事はしているという事だ。事務等の仕事においては、おつるさんと並び称され、ナミの右に出る者は居ない。

 ニュースクーが去った後、渡された箱を見てニマニマしている姿は珍しく年相応で……うん、可愛いな。それにしても仕事中にとは珍しいとその様子を伺い、送り主を確認して大人しく席に座った。

 相手が強敵過ぎて、戦おうと考えるのも馬鹿らしくなる。ナミの優先順位断トツの1位に光り輝き続けるナミの最愛の姉だ。

 せめて父親代わりの彼の方であれば……と、母親でも勝負にならねェってのに、それより上の姉か。遠いな……と思った時、唇にナミの指先が触れて何かを押し込まれた。

 ……甘いな。なんだこれ、飴でもチョコでもねェし、柔らかい。

 

 「特別よ。私がノジコに貰ったマシュマロなんだから」

 「有り難すぎて涙が出そうだ」

 

 ナミの言葉に何も考えずに言葉を返して、しまった嫌味だったかと内心で焦る俺に、当の本人はドヤ顔でそうでしょーと返してくるのだから姉へのそれがどれ程の威力か分かろうというものだ。この、姉馬鹿め。

 その上マザコンで、爺さんや婆さん系大好きで……子供に関しては見知らぬ相手でも激甘と来たもんだ。ダメだ、今ここにいたら他人がいても襲いそうだと自己判断して、逃げるように書類を手に執務室を後にする。

 何か理由が必要だったと言う理由で書類を抱いて出たが、自ら進んで仕事をした俺に中からはどよめきが聞こえて来て、仕舞いには槍が降るなんぞと無礼な会話が聞こえて来る。……そんなにいつもサボって……いるな。

 それから書類を出した俺は街へと出て、ナミへの贈物を探す。何だったら喜ぶかねェ。

 家族、蜜柑、紙、インク、楽器を除外するとナミが欲しがる物がわからねェ。……極端過ぎるんだよな。

 そうして歩いていたら貼られていたポスターの前を1度通り過ぎて、戻る。何だこれ。

 

 『大切な人と見る虹は、忘れられない想い出になる』

 

 ポスターの下には男と女のシルエットが描かれていて、男のそれは女に膝をついて指輪の箱を差し出している構図だ。その指輪の宝石が七色に輝いているのを見て、何事かと思えば下に宝石店の名が書かれている事に気付き足を向ける。

 ……七色に輝く宝石って事か?

 宝石店で話を聞けば、隣の島では毎年この時期に雨が降るでも無いのに巨大な虹が現れるのだそうだ。それの光りが宝石に当たると、反射により幻想的な色を見せると言われて……。

 同棲し始めて間もない所だから、流石に指輪は早いだろう。もう少し、ナミと〝恋人〟で居る期間を楽しみたい所だ。

 

 「指輪は、まだ流石に早いから……ネックレスを、見せてくれるか?」

 

 俺の言葉に店員は大喜びで、幾つかのそれを持って来た。その中でチェーンをプラチナ性のそれを選択して、そのメインになる石はダイヤを選ぶ。

 カットの関係で虹が1番良く映ると言う物を買ったが、詳しい事はわからねェ。しまう為の箱は付けて貰ったが、ラッピングは断る。

 ナミと共に帰宅する為に本部へと帰れば、今迄何処に行っていたんだと叱られてしまう。部下に叱られる大将なんざお前だけじゃと、サカズキには溜息をつかれる事も多いが実際気にならない。

 そんな叱られている俺を見て困った人ねと言って笑うナミは、相変わらず優しい顔をしている。そんな事があった数日後のホワイトデー前日。

 朝からハイテンションな老人二人組がナミから離れねェ。仕事を邪魔されてナミは困ったような顔をしているが、それに気付く余裕さえ老人達からは失われているらしい。

 

 「極寒男の傍にいては風邪をひきやすいじゃろう!暖かくも機能的で、見た目もフォーマルなコートをやろう!」

 「え、でも、頂く理由が……」

 

 ガープさんの言葉に戸惑うナミに、センゴクさんがホワイトデーだと言いながら海楼石で出来た簪を渡す。飾りは可愛いが、細いその簪は明らかに装飾品としてでは無く武器だろうと思われる。

 

 「あの、可愛くて素敵だと思うのですけど、この簪の軸って……」

 「海楼石だ。嫌な事をされそうになったら、これで氷を砕きなさい」

 

 え?センゴクさん……まさかそれ、俺限定の武器だったんですか?

 

 「何してるのかと思えば……男共は騒がしいばかりだね」

 「「おつるさん……」」

 

 俺とナミの声が重なると、おつるさんは微笑みをナミに向けて蜜柑の香りがする化粧品を集めたから使いなと言って手渡す。……って、アンタまで。

 

 「あの、なんで?今日私、誕生日じゃないですよ?」

 「細かい事気にせずに、ナミは笑ってりゃいいさ。それと、桃兎は遠征に出てるから代わりにこれ渡しとくよ」

 

 そう言って差し出された箱の中身は靴のようで、だいたい1揃したなとそれを見て思う。だが、このままにはしておけないかと、戸惑い泣きだしそうなナミに声をかける。

 

 「ナミ、これはスモーカーとそのお友達と部下さんからな。後、明日は明けときなさいな」

 「お友達と部下……?あー……ヒナとたしぎね、ありがとう。でも、明日は仕事よ?」

 「……ん?言ってなかったか?有休使ったから二人揃って休暇だ。予定を入れるなよ」

 「……何かあるの?」

 

 キョトンとしているナミに明日はホワイトデーだからなと言えば、ナミは漸く何故今これ程揃って贈物を渡されているのかの理由に思い至ったらしく、納得した様子を見せた。それから貰った物を机に置いてから、俺の元に近寄って来ると袖口を掴むと軽く引っ張りながら聞いてくる。

 

 「何処か出掛けるなら、それなりの服装の方がいい?」

 「いや、隣の島に行くだけだからそんなに気にしなくていい」

 「そっか……分かった。とりあえず仕事に戻るわね」

 

 そう言って笑いながら俺の頬に軽くキスを残したナミは、次の瞬間には机を恋人にしてしまっていた。俺はこのやり取りを、この人達がいる所でした意味を全く理解出来ていなかったのだ。

 翌朝、ナミは簡単なお弁当作ったからなんて言って笑いながら朝食を並べてくれて、その髪を見れば貰ったばかりの簪を付けている。いつもより蜜柑の香りが強いと思ったら、ほんのりとだが化粧もしているらしいと分かり、貰った物はすぐに使うのかとその律儀さに笑ってしまう。

 当然靴もコートも貰ったばかりのそれで、服は俺が好きだと言った物を着てくれている。こういう所が、愛される所以なのだろうか。

 スモーカー達に貰った物はペン立てと写真立て、そしてバッグだったようで見慣れない鞄を肩に掛けているし、机には俺と出掛けた時の写真とこれまであったペン立ての隣にもう1つペン立てが並んでいる。

 そっとナミを抱き上げて家を出れば、ナミが恥ずかしそうに下ろしてと言うが離したくねェんだよ。だがそれをそのまま伝えるのも癪なので、チャリの後ろに座らせる事で誤魔化す。

 

 「しっかりと捕まってなさいな。これで行くから」

 「うん、クザンらしいわ」

 

 立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合のようなんて美しさを花で表す言葉はあるが……どの花よりもナミの方が美しく尊いと俺には思える。そんな事を考えながら進んでいたが、なんか……視線を感じるのは気のせいか?

 海の真ん中で、ナミと2人、チャリで移動してるのに視線を感じるとか……不吉だ。俺は何となく、少し漕ぐ速度を早めて隣の島に到着した。

 島には着いたがチャリを何処かに残して行くのもアレなので、そのまま漕いで虹が良く見えると聞いている場所に向かう。だが……街中で頭に木が生えた老人と、それを殴りながらもやはりついてくる人影が視界の端に映る。

 ……いや、まさか冗談……。だと、思い込みたい。

 

 「おお、似合っとるな!あのコートは似合うと思ったんじゃ!」

 「騒ぐなガープ!見付かったらどうする!?それよりもあの簪で纏められた髪を見ろ。美しいだろう」

 

 聞こえて来た会話に、俺は溜息を落としてナミの為にと近くで売っている果物を1つ買って凍らせると、適当な所でグラスとスプーンを購入してそれを渡す。ただ果物を凍らせたそれを砕いてグラスに入れただけだが、外で水分を取らせるにはこれがいいだろうと判断した。

 

 「ありがとう。でも、クザンは私に甘すぎるわ」

 「ナミが自分に厳しすぎるから、俺が甘やかすんでちょうど良いでしょーよ。……それよか弁当、何処で食べようか」

 「そうね……なら、あの木陰は?」

 

 示された所にチャリを押しながら移動して、その間にナミには果物の即席シャーベットを食べていて貰う。この辺りが1応目的地の筈だから、虹が出るのを待つばかりなんだが……。

 特に視界を遮るもののない所で、白のスーツを着た老人二人組は目立つ。それも片方は頭に木を付けて、恐らくはカムフラージュでもしてるつもりなのだろうと分かるから、余計に。

 持って来ていたセットにあったレジャーシートを敷いてナミを呼ぶと、鞄から折り畳まれたビニールを取り出したナミがそれを膨らませようとし始める。その様子に、時間かかりそうだなと判断して奪い取る。

 

 「こういうのは、任せなさいな」

 「……驚かせようと思ったのに」

 「……クッション?」

 「うん。浮き輪と同じ理屈のクッション。長細いから2人で使えるかなって」

 

 ……それならと空気入れをチャリから外して送り込むと、そんなの装着されてたの!?と驚かれるが、チャリは空気抜けたら死活問題だぞ?

 空気を入れたそれをレジャーシートの上に置くと、ナミは私の苦労ってと落ち込むからその頭を撫でながら、素直な1言を告げる。

 

 「無駄な労力だったな」

 「……く、悔しい……」

 「ナミ、何か咥えて顔赤くするのは……俺のだけにしときなさいな」

 「……!?クザンのばぁか!」

 

 悔し紛れか照れからか、顔を赤くして舌を出しつつそう言ったナミを抱き寄せると、野太い雄叫びが聞こえて来た。それによりナミも、漸く老人達に気付いたらしい。

 驚いたその様子に、ずっとあの姿で追いかけて来ていたみたいだと告げると、胸元から電伝虫を取り出して1言告げた。相手が出たのを確認するやいなやの早業である。

 

 「回収願います!」

 

 相手が誰なのかさえ分からない1瞬のやり取りの後、僅か数分後に二人の老人を取り囲むように現れたのは、海軍最強のメンバーだ。微笑みをたたえたおつるさんと、そのおつるさんに巻き込まれたらしいボルサリーノとサカズキが、黒いオーラを撒き散らしながら立っている。

 そして面倒くさそうに帰りますよーと間延びした声でボルサリーノが声を掛ければ、ガープさんの抵抗する声が聞こえて来た。それには俺も思わず、溜息の1つも落ちるというものだ。

 

 「あの冷血人間が、儂の可愛い孫に何をするかと考えたら……!」

 「いやァ……アンタの孫じゃねェでしょーよ……。それに、邪魔すると嫌われますよー?」

 「頭に花咲かすんは、比喩だけにしといちゃ貰えんかのォ?」

 

 二人の言い分にガープさんはナミを見るが、ナミは微笑みながら様子を見ているだけで……。それが何故か怖いと言えば俺も叱られるだろうか。

 ガープさんの頭を殴りつつおつるさんが前に進み出ると、すまないねとナミに向かって言う。あの、皆さん俺に対して扱いが雑すぎません?

 

 「回収しにきてくれて、その可能性があるからと電伝虫をわざわざ朝、届けてくれたおつるさんが、謝る必要はありません」

 「ガープだけならともかく、センゴク、アンタまで何してんだい」

 「おつるちゃん……だが、本当は息子の嫁にと考えていたんだから、少し位は」

 「アンタの息子、行方不明だろう?」

 

 センゴクさんには血の繋がらない息子が居るらしいと聞いていたが、それとナミをとは随分乱暴な話だと少し苛立った時、ガープさんが騒ぎ出した。それを見ながら心から思う。

 もう……全員纏めて早く帰れ。ナミと二人にしてくれ。

 

 「儂とて孫の嫁にと考えているぞ!年齢もあんなに離れとらん!寧ろほぼ同じ!」

 「ガープの孫は海賊じゃ無かったかい?」

 

 その瞬間サカズキの眉が微かに動き、ガープさんの襟首を掴んで引きずり出した。どうやらサカズキは随分と、お怒りらしい。

 それに合わせたように、センゴクさんを宥めつつボルサリーノがその背を押して俺達に背を向けると、おつるさんが1度だけ振り向いて唇の動きだけで〝ナミを泣かせるんじゃないよ!〟と言って帰って行く。

 抵抗する二人を面倒そうにしながらも三人は回収して行き……その様子を笑顔で眺めているナミを見て、俺はナミを怒らせる事はしないと内心で誓った。何せ背後に控えているのが大物過ぎる上に、自由過ぎて戦うのも面倒だ。

 その後は相変わらず美味い上に、珍しい物の多いナミの手作り弁当をつついていた、二人でそれぞれのおかずに、ああでもないこうでもないと言っては、笑い合うこんな時間が何より愛しい。

 その時突然、空に閃光が走った。咄嗟にナミを庇いつつ、何だとそれに視線を向ければ虹ともオーロラとも言い難いものが空を覆っていた。

 何故これを宝石店は虹と表現したのかと問いたくなるような、壮大な光景の中で、ナミが小さく綺麗と呟くのを聞いて、俺は正気にかえる。ナミを庇った時も、手にしたままだった卵焼きを口に入れてから静かに立ち上がった。

 圧倒されてる場合じゃねェでしょうよ。そう自分に言いながらナミの背後に回り、用意して来たネックレスをその首にかける。

 それに驚いた様子でナミは俺を見たけど、俺はそんなナミに笑いかけるだけに留める。今は何を言ってもこの壮大な景色により、台無しにされちまう。

 言葉も巧みな方じゃねェからな。そう思っていたら、ナミが俺のかけたネックレスを見て、泣きそうな顔で笑った。

 

 「ダイヤの中に、虹があるわ」

 

 言われて覗き込めば、ダイヤの中には水飛沫の向こうに見える虹とよく似た形で、空のそれが輝いていた。……成程、虹は中に現れるのか。

 

 「クザン……」

 「ん?」

 「素敵な贈物を、ありがとう。調べてくれたんでしょ?」

 「……ナミは、空が好きだからな」

 

 俺の言葉にナミは幸せそうに笑うと、俺に自ら触れる程度のキスをして来て、愛らしく笑った。触れる程度のそれで離れようとする無邪気な子猫に、それで止まれるかとレジャーシートの上に押し倒して深く口付ければ、もう互いの他には何も見えない。

 ホワイトデーに夢のような景色を共に、そう願っていた男だが、どんなに美しく壮大な景色も恋人に勝るもの等有りはしない。そう思い知らされつつ、何度も何度も口付けを交わし、そのまま脱がせようとして女に急所を蹴り上げられたのはご愛嬌だろう。

 続きは帰ってから二人きりで……。

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