俺のアイマスクが変わった事に最初に気付いたのは、何とサカズキだった。いい匂いがすると言われて、この男は珈琲も好きだったんだっけ?なんて思う。
もしかしたら、小豆に反応してるのかも知れないとその後遅れて気付く。それに対してナミがバレンタインにくれたのだと言えば、どうやら売ってる場所を聞きに行ったらしい。
真面目に働くから疲れ目なんだろうかと、それを見送った。だけど確かあれ、ナミが手作りした筈だよな。
それから数日後。家でナミがアイマスクを作っていて、聞けばサカズキに材料費と手間賃払うからと頼まれたらしい。
それで引受けるって事は、知らなかっただけで仲が良かったのかね?
「家で寝る前に使いたいんですって。色変えてクザンとのお揃い感は出さないようにするから、許してね?」
「ナミは、サカズキと仲良かったか?」
「ううん、寧ろ今まで嫌われてると思ってたわ。なんか、どうしても怖いのよね」
「……過激だからな」
「ゴメンね、友達を悪く言って」
「友達!?悪く言ったってより、ナミのそれは素直な感想でしょうが。……気にしなさんな」
「クザンとサカズキさんって、仲良いなっていつも思ってたのよ?」
そんな事を言って笑うナミの首には俺のあげたネックレスが輝いていて、髪はセンゴクさんに貰った髪飾りがついている。もうネックレスの中に虹は見えねェが、虹より綺麗なナミが喜んでくれてるなら、それだけでいいと思えた。
それにしても、俺とサカズキが〝友達〟ねェ……。付き合いは長いが、友達なんだろうか。
「話は変わるけど……クザン、明日辺り出かけるつもりでしょ?それ、私も連れて行ってくれる?」
「どうして、それ……」
「たしぎから連絡貰ったの。階級上げるにはどうしたらいいかって。……だから〝麦藁〟のルフィが七武海の1角を崩したと確信したのよ。そこにニコ・ロビンが所属しているのは確認したわ。……そうなるとクザンは、ロビンに逢いに行くでしょ」
「ナミは、どうしてその事……。誰にも俺は」
俺が言葉を詰まらせると、ナミは魔法使いちゃんはなんでも知ってるのだ!と言って笑った。向かうついでにスモーカーと会う予定だと話すと、たしぎに会えるなんてラッキーだわと笑われたので、2人でこっそりお出掛け計画は実行される事になった。
その為に後部座席を自転車に取り付け直した俺の甲斐甲斐しさは、表彰物だろう。出発予定のその日、ピクニックに行くような気軽さでお弁当等を用意しているナミに、少し笑ってしまう。
見ればウィンナーがタコになっていたり、ブロッコリーやプチトマト、鶉の卵で女の子が作られたりしているのが見える。……子供に戻った気分だ。
ナミを連れて仕事の休みも取らずに出掛ければ、ナミは初めてのサボタージュなんて言って楽しそうにしていた。それにを見ながら、後で俺が叱られる度合い増すかもなと冷静に思う。
途中で立ち寄った島でスモーカーに会うと、真面目に昇級したいと考えているらしい事を伝えられた。その後チラリと共に居たナミと部下に視線を向けていたスモーカーに、何かあるらしいと判断した俺はナミに視線を向ける。
「たしぎ、さっきね刀屋さん見付けたんだけど行ってみない?」
「え!?この島に刀屋さんありましたか!?」
「えぇ、あったわよ。……スモーカー、たしぎを少し借りて行くわね」
「おぅ……」
俺が視線を向けただけで察してくれたナミに感謝して、スモーカーから話を聞けばもうすぐオレンジデーと言う日があり、その時迄にあの部下さんに想いを伝えたいのだと言う。その顔は少し照れているらしく、成程本気らしいと1人頷いてから、ん?と思う。
「あらら……。プロポーズじゃなくて、想いを伝えるって……まだ付き合って無かったのか」
「クザンにだけは言われたくねェよ。付き合って何年手を出さなかったんだよ。今……ナミとは、上手くいってるみたいだな」
「んー……4年くらいか?でも、俺は愛されてるからな。……聞きたいのか?俺がどんだけ甘やかされてるか」
「甘やかしてるんじゃなくて、甘やかされてんのかよ!?」
「羨ましいだろうが、やらねェぞ」
「いるか!あんな面倒な女!俺が欲しいのはたしぎだ!」
スモーカーが叫ぶように言うので、ふと笑っちまう。コイツのこういう所が、憎めねェんだよな。
「……それを、そのまんま伝えてやんなさいな。それだけで上手く行くだろ」
「おぅ……悪かった。怒鳴ったりして……」
煙がいつもより多く出てるのを見ながら、ならここは奢ってくれよと笑って立ち上がる。それに対して高給取りが何ケチってんだよとか呟いてるが、聞こえないな。
さて、オレンジデーねェと考えながら歩き、途中良さそうな物を見付けて買っておく。即席になっちまったけど、ナミなら許してくれるだろ。
そうしてナミと合流して、スモーカー達と別れてからのんびりその島で1泊すると、電伝虫が鳴り響き始めたが今は無視しておこう。出れば面倒な事になるのは、間違いないからなァ。
それからナミを連れてロングリングロングランドを目指せば、目的の船が泊められているのが見えて、しかしどうやら楽しく遊んでいる様子を見てそれを待つ事になった。待つ間だけと思って、その場に転がり寝に入ればナミは起きたらお弁当にしましょうなんて笑う。
それからどれくらいの時間が経過したのか、ナミがそっと寝てる俺の頭を撫でて、愛してるなんて囁いてくれるのを聞いていた。風が優しく吹き抜けて、こんな穏やかな日が続けばいいと心から思う。
そのままナミが俺の額に口付けるから、誰にも渡さねェ為にも、このまま凍らせたくなる衝動を押さえる羽目になる。そのまま抱き着いてきたナミがお休みなんて言って、俺に抱き着いて寝ちまう。
警戒心の無いその様子に、表情が緩んでる自覚がある。どうやら甘えてくれてるらしいと知れば、嬉しくなって当然だろう。
そうして寝ているナミを強く抱きしめていれば、島を移動させてやれたら良いのになんて話してる声が聞こえてきた。話は全て聞いていたので、それなら協力してやれそうだと思いそれを口に出すと騒ぐ少年達とニコ・ロビン。
そして、老人の旅支度が終わる頃目覚めたナミが俺に抱き締められていた事で顔を赤くして暴れたので、仕方なく離してやる。するとガープさんの孫が、ナミを凝視しているのが分かった。
「ナミ、か?」
「え?……ルフィ?あ、もう来てたのね。て事は、空島に無事行けたのね。良かった。心配してたのよ」
「ナミ……そのオッサンと、仲良いのか?」
「……えぇ、まぁ、同棲してる、わ」
赤くなったナミを見て、そろそろ結婚も視野に入れるかなんて本気で思った俺はおかしくはねェだろう。老人を旅立たせてから、俺がガープさんの孫とニコ・ロビンを殺そうと動き出せば、ナミがまるで当然のようにそれを邪魔し始めた。
俺が凍らせる為にニコ・ロビンに抱きつこうとしたら、その間にナミが入って来て睨み付けてくる。これが嫉妬からとかなら、可愛いんだがな。
「退け、ナミ」
「嫌よ!」
「海賊庇って〝大佐〟が〝大将〟と戦うつもりか?」
「……クザン!彼女は悪くないでしょ!?ルフィだって、何か凶悪な事をした訳じゃない。寧ろ……!」
そう言って言葉を詰まらせるナミに、この甘ちゃんがと思うが、ニコ・ロビン達は驚きを隠さない。何が起きてるのかとナミを見ているので、何か関わりがある訳でも無さそうだが……。
「〝麦藁の1味〟!逃げなさい!私が抑えていられる間に!」
「ナミ、退いてくれ。1騎打ちでやりてェ」
船長としてか、男としてか、ガープさんの孫が申し出れば俺はそれを受けていた。ナミは泣きそうな顔で俺とガープさんの孫を見て、少しの距離を置いて悲しそうにしている。
その間に1味は船へと向かい、俺が坊主と遊んでやるのをナミは静かに見詰めていた。そして、凍ったそれを残して去る事にすれば、ナミは砕かないでくれてありがとうと笑った。
島を1つ移動して、その場所でナミの弁当を広げながら関係を聞けば、ガープさんの孫は幼馴染で弟のようなものだと笑われてしまう。その笑顔が余りにも優しくて、バスターコールの権限をCP9に託す事を躊躇わされる。
ガープさんの孫が、ニコ・ロビンを素直に諦めてくれねェと……困るよな……。なんて思うからだが、そこはまァ、最悪その目と耳を塞いで、全てを隠せばいいかと思う。
ウィンナーにはタコだけでなくカニもあり、ナミはこういうの好きだよなと思う。味が変わる訳でなし、無駄な作業だと思うんだが。
……いなり寿司が熊になってるな。お握りじゃなくて今日は五目いなりか。
「クザン」
「ん?」
「あげる」
そう言って渡されたのは手編みのセーターで、オレンジ色のそれに今日がオレンジデーかと知る。スモーカーと別れた直後に買っておいたショールを取り出して、俺からもナミにとその肩にかければナミが驚いたような顔をした。
「ありがとう。オレンジデーのお返しだ」
「……知ってたの?」
「スモーカーから、聞いた」
「……成程ね。あの2人も早くくっつけば良いのに」
ナミの素直な感想に、俺もそうだなと笑い、その細く小さな体を抱き締める。それに嬉しそうに笑ったナミは、明らかに冷たいだろう俺に触れて言う。
「あたたかいわね、クザンは」
「……ナミ、鳴かせたくなったって言ったら、付き合うか?」
俺の問い掛けにナミは笑って、何処かで部屋を借りましょうと囁いた。だから俺は、今は色々と難しい事を考えるのを辞めてしまおうと思ったのだった。
Happy orange day……友人達の幸福を祈りつつ、愛しい温もりをその腕に抱く。いつか泣かせるのだとしても、今はただ、その香りと温もりを堪能したいと縋るような思いで唇を合わせた。
このお話は、季節イベントバレンタイン&……の中に追加掲載予定の、スモーカーのお話とリンクしています。……持ってこようとは、思ってますのよ?