※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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海軍大将〝赤犬〟サカズキ
偶然の遭遇(光源氏14)side


 東の海できな臭い部署があるとの報告を受け、万が一の時に躊躇いなく裁けると言う理由で連れられて来たわしは、センゴクさんとおつるさんがおるっちゅう事で船内に居った。あの2人がおるんなら、わしが必要とも思えんがなと外を眺めていれば、妙な歪みに気付く。

 外へ出て行けば案の定何かがあるらしい。歪みの中心から現れた船は、姿を見せるのと同時に沈み残されたのは僅かな残骸のみ。

 その残骸の中に人影があり、とりあえず保護するかと引き上げた数人の中に死に掛けている少女が混ざっている。それも、他の人間達とは異なり警戒心むき出しで殺気立っていた。

 甲板に座らされた人間の中で、少女の周りだけが赤く染まるのを見れば、治療が必要なのは理解できる。だが、容赦無く威嚇してくるそれを助けたいとは思える筈もない。

 わしと睨み合えるだけの胆力を持つかと、物珍しく感じ始めた時、背後からおつるさんに殴られて少女が回収された。少女はおつるさんには抵抗せず、それどころか気が抜けたのかおつるさんに向けて倒れこむとそのまま意識を失った。

 

 「子供相手に何やってんだい。海軍本部大将の名が泣くよ!」

 

 わしを平気で叱り飛ばせる貴重な人物は、呆れを隠さずに全身でそれを示す。それを受けて溜息を落としてから、他の保護した人間から話を聞けば、助けた形になった者達が海賊では無いが海賊に限りなく近い奴らだとわかり、扱いをどうするかと苦慮する。

 その時先程の少女についてグチグチと言い始めたのを聞き、屑だなと判断した。あんなにも幼い子供を拷問した事を恥じてもいねェっちゅうんは、救いようもないのォ。

 数人は生かしておかにゃセンゴクさんに騒がれると思い残したが、他は焼き尽くしてから少女の元へ向かう。部屋に入れば意識の無い少女と、その少女の資料を見て顔を顰めるおつるさんがいる。

 

 「なんじゃァ?」

 「この娘、今回のキナ臭い部署の被害者かも知れないよ」

 

 おつるさんの言葉にわしは視線だけで続きを促す。それに深い溜息を落としたおつるさんは、肩の刺青を示してその部署が海賊の手下になって便宜を図り、特定の地域の住民を奴隷としているらしいと聞いていたと話す。

 それは魚人だけで構成されている筈の海賊団である事から、この少女に魚達マークを入れられている理由が今は不明だと。もしも唯一の人間だと言うならば海賊として扱うしか無いが、持ち物等を見るにそうとは思えないとおつるさんは言う。

 そう言った話を聞き出すのはわしには無理じゃろうと思ったが、おつるさんは同席しろと言う。逆らう意味も利点もないからと、少女が目覚めたら話を聞く事にしてその場を離れようとした時、目覚める気配を感じて仕方なく座り直す。

 ゆっくりと開かれた瞼から見えた瞳は、何処か虚ろで生気がないように見える。それからわしとおつるさんをその瞳に映して、本来ならば動ける筈もないその体を無理矢理に起こした。

 おつるさんはそれに慌てた様子じゃが、何故だかこうなる気がしていた為にわしは何の疑念も抱かずにその姿を見据える。呆れる程に気の強い娘出なけりゃ、わしと睨み合える筈もなかろうに。

 

 「何故、私を殺していないのですか?私に海賊の刺青がある事は確認した筈でしょう?……インペルダウンに送る為、ですか?」

 

 荒い呼吸の中で気丈に言い切るその姿は、ある種の高揚感を呼び覚ます。強気な発言と、それに伴わないであろう実力。

 否、コレが無傷であればそれなりには戦えるのかも知れんのォ……。その時おつるさんが少女に深く溜息を落として、ゆっくりと話を聞き出し始める。

 警戒心剥き出しの少女は、頑な様子で威嚇しているのが伝わって来た。じゃが、おつるさんはそれを優しく受け止めて根気良く話を聞き出す。

 わし1人ならば、とうに燃やし尽くしているだろうがと思いつつ少女を見れば、おつるさんには心を開いたのか、微かに笑みを浮かべた。その姿を見てわしは、呼吸を忘れそうになる。

 笑えば随分と幼い顔になるものだと言う驚きでしかない。そう、それ以上の感情など……。

 

 「ナミって言うのかい。それで、従ってる支部の事は何かわかるかい?」

 「大佐って呼ばれてました。確か……ネズミ大佐。アーロンからお金を受け取って、揉み消してましたし、便宜もはかってます」

 「ありがとう。それでナミはこれからどうするつもりだい?」

 「村が助かるなら……後は叶うなら、暫くは平穏に蜜柑育てて生きたいです。それと、いつか……夢を、叶えたいと思っています」

 

 おつるさんとナミと名乗った小娘の会話が、耳に届く。潰すべき相手も分かり、ナミが村人の命を守る為に海賊の手先になったのも理解は出来た。

 それでも、海賊は海賊じゃけェと睨むがナミはおつるさんから視線を外さん。それどころか、わしの存在を完全に無視しちょる。

 

 「なら、海軍に入るのはどうだい?丁度大将もいて事情を知った所だし、良い後ろ盾になるだろうと思うよ」

 

 おつるさんの言葉に誰が後ろ盾になぞと言おうとした所で、ナミからの冷たい視線がわしを貫いた。そして、明らかに挑発してるとしか思えない溜息を落とす。

 

 「大将赤犬は、どのような理由であれ逃げ出す者は海兵ではないと言いますよね。ならば、どのような理由であれ海賊となっていた私は海賊。殺す事はしても、後ろ盾とはなり得ないと思われます」

 「詳しいね……」

 「……所詮、海賊でしたから。その事実は変わりませんし、それを悔いてもいません。ましてや恥じる事も1切無いです。そんな私を、認めるとは思えません」

 「よォ分かっちょるな」

 

 思わず声を出せば、本当に子供かと問い質したくなるような顔でわしを見て、微笑んだ。そして、その瞳が諦めの色を宿している事に気付いてしまった。

 

 「それが、大将赤犬と言う立場の方でしょう?私は、その苛烈過ぎる程の正義も嫌いじゃないですけど……初めから嫌いだと言ってる人に、好きになってくれ、認めてくれなんて、そんな無駄な事を言うのも嫌です」

 「おどれは……ナミっつうたな?」

 

 確認の為に問いかければ、静かに頷きを返される。その表情は、言葉に1切の偽りが無いと言わんばかりに陰りがない。

 本心から、海賊として生きた期間を誇っているのだろうと伝わって来る。それに心が乱される。

 揺らいではいけない筈の正義が揺らぎかける。その瞳が裁けるものなら裁いて見せろと強気に言うから、わしはそれから逃げるように顔を背ける。

 そこへおつるさんの言葉が聞こえて来た。

 

 「もしそれをサカズキが言うようなら、大将の器じゃ無いよ。だから、気にしなくていいからね」

 「おつるさん、それは……」

 

 おつるさんに視線を向ければ、当然だと言わんばかりに鼻を鳴らされる。それにより脱力すれば、おつるさんが後ろ盾になるねと追い討ちをかけるように言うて来るので、深い溜息と共に了承する。

 

 「宜しいのですか?大将赤犬は、私を嫌っていらっしゃるのに」

 「おどれは、何故そう思うんか」

 「視線に憎しみと怒りを込めていらっしゃったのと、気配で」

 

 迷う事も躊躇う事も無く言い切ったナミに、内心で賞賛をしながら大人気無かったかと少しの反省をする。確かにナミが海賊に身を落とさ無ければ最低でも250人、下手をすればそれ以上の人間が殺されとったじゃろう。

 そう考えればナミの行いは正しい。わしはやり過ぎる事が多いと言われちょるし、寧ろ自己犠牲をしてでも人を守ろうとする所はナミの方が、海軍向きかも知れんのォ。

 

 「八つ当たりじゃ。すまんかったな」

 

 声を掛けて立ち上がれば、ナミは鳩が豆鉄砲を食らったとしてもそんな顔はすまいと言いたくなるような顔でわしを見てから、可笑しそうに笑った。それを見て不整脈かと言いたくなるような動きを心臓がしたので、慌てて部屋を飛び出す。

 すると、少しして謎の不整脈が落ち着いた。今の心脈は、何じゃったのか……?

 殺気立った姿、警戒心剥き出しの姿、そして、穏やかに微笑む姿と、先程の無邪気な笑顔。同一人物とは思いにくい程に変化をするナミに振り回されつつ、わしはセンゴクさんに事のあらましを伝えに行く。

 それを受けてセンゴクさんはナミをわしの元で働かせるよう言い出し、今回の魚はわしに始末するよう言い出した。海軍の方をセンゴクさんがやり、村人達の対応をおつるさんがやると言われれば、逆らう事も出来んが……。

 センゴクさんもおつるさんも甘いと、常々思っちょったが、何故ナミをわしにつける気になったのか。それからは傷の回復具合を見に行きつつ、交流を深めろと無理難題を押し付けられた。

 ナミの元へ通えば、ナミはなんて事は無い普通の1般市民で、会話をすればする程何故初対面であれ程嫌ったかが不明に思えて来る程。寧ろお人好し過ぎるそれに、心配になる。

 謎の不整脈も落ち着く頃には、ナミの治りきる前に動きまわろうとする無謀さが気になり、気が付けば子猫の世話を必死で行っているかのように見られていた。対してその子猫は、無防備にマグマであるわしに懐き、小さく謝罪して来る。

 

 「イメージだけで怖がって、嫌ってごめんなさい。サカズキ大将は、優しい人なのに」

 

 赤犬では無く名で呼ぶよう言ってからは、こう呼ばれちょるが……何ともこの謝罪は胸が疼く。わしこそ先に殺気を向けとったと言おうとして、口篭る。

 そんなわしにナミは笑いかけて、酷い奴でしょ、私……なんて言う。わしの半分も生きちょらん相手に気遣われて、そんな泣きそうな顔をさせたい訳じゃ無い。

 

 「わしも殺気立っとった。お相子じゃ。ナミはそれより、わしに平気で触れとるがわしが何の能力を持っちょるか、分かって……」

 

 言葉が上手く続かない。そんなわしをキョトンとした顔で見上げたナミが、小さく頷く。

 

 「知ってますよ。マグマグの実のマグマ人間ですよね。それにしても、マグマグって聞くと何だか可愛いですよね。そう言えば大将、そろそろ私元気な1般市民だと思うので、部屋から出てもいいと思うんですけど」

 「そう言って、甲板で2日前に倒れたばかりじゃろうが」

 

 その時にサイクロンが来る方角を言い当て、軍艦を守った事でナミの内部評価は鰻登り。それにも関わらずナミは、タダ飯喰らいの厄介者で居たくないとぼざく。

 船から島が見えて来た頃、ナミは軍艦を沈めに来るだろうと言って怯えた顔をした。それを見れば弱い海兵が何人かは挑んだらしいとわかる。

 

 「すぐに終わらすけェ、少し待っちょれ」

 

 言い置いて部屋を出ようとすると、マントにナミが触れた。掴むではなく、僅かに触れただけで、戸惑うようにその手を下げたのが庇護欲を誘う。

 

 「……無傷で帰る。大人しくしちょれ」

 

 わしの言葉にナミは小さく頷くと無言で見送る。傷付ける事さえ怖いのだと、眼差しが伝える。

 甘過ぎるんじゃと、1喝する事も許されない程にその過去は壮絶で……。深い溜息と共に魚人を始末して、胸糞悪い建物を調べる。

 そうすれば、ナミを拷問していたであろう器具と共にナミがここでいいように使われていた理由を思い知らされる。全てを焼き尽くしそうになるのを抑えて、震えを抑え込む。

 海軍に入って貰わにゃならんのォ。ナミは、天才じゃ。

 手続きも含めて終えてから、駐在と元軍人の2人にナミを引き取る旨を説明する。わしに大将の肩書きがあって尚ナミを送り出す事に躊躇う2人に、ナミの根本的な甘さの由来を思い知る。

 その2人から許可をもぎ取り、荷物を運ばせつつナミの元へ戻れば、涙を堪えた様子でわしに駆け寄ってくるのが見えた。飛び付いてきた小さなその体を受け止めれば、震えながら無事で良かったと呟かれる。

 それを無意識で抱き締めながら、わしは深く溜息を落とす。……あァ、わしの負けじゃと、誰にともなく思うてしもうたからのォ。

 恋は落ちるもの。逃れようにも、逃れられん。

 

 「……ナミ、わしと共に来るか」

 「はい、サカズキ大将!」

 

 恐らくナミに意味は伝わっちょらんだろうが、それでも傍に置く大義名分は得たと、内心で笑う。実際は他にも多くの海兵がいるのは分かっちょるが、気分は2人でマリージョアへと帰還する為に軍艦へと乗り込んだ。

 住む場所が無いから暫くご厄介になります!と笑顔でナミが同居を申し込んで来て、動揺のあまり執務室を焼き尽くしたのはそれから間もなくの事となる。それを楽しげに見ていたおつるさんに、何故アンタが引き取らんのかと怒号を向けたが、暖簾に腕押しじゃった事をここに残しておこうと思う。

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