誰かを陥れる時、誰かを殺す時、ナミは泣きそうな顔で俺を見る。そして、小さく体を震わせるのだ。
……それでも、与えた悪魔の実の事もある。だから手放せないのだと周りには言う。
だが実際俺はナミが壊れないようにと、裏の仕事をする時は可能な限り残して行くのだ。だから、そんな言い訳が通る筈も無い事は自分が1番よく分かっている。
タナカは既に孫を甘やかす勢いでナミを甘やかしている。ダイスは……自分が気持ち良くなりたいからと言ってはいるが、実際どうだか分からない勢いで常に庇っている。
本来ナミは、ラキラキの実を使えるのだから、適当な下っ端を犠牲にすれば怪我等する事は寧ろ不可能になれるというのに、他人が傷付くのは見たくないのよと言うのだ。……ならば、お前が傷付く姿を見たくないと願う俺達の気持ちは、どうなると言うのか。
そんな言葉を言える筈もなく、だからこそ鈍いナミには伝わらない。見た目に似合った生意気な話し方をするが、その知性の高さとプライドの高さはその生意気な態度を許して余りある。
出来ない事を探す方が早い程に万能でありながら、弱者を見捨てられない甘さ。これで地獄を見てきたのだから、分からないものだ。
ステラも……地獄にいながら優しかった。似ていると思うのは、それが原因だろうか。
ナミを俺が拾ったあの時からお触り程度には遊んでいたが、最近グランテゾーロも完成し、その経営も軌道に乗った。そろそろ抱いてもいい頃だろうか?
「テゾーロ、前に興味があるって言ってたから、私の書いた譜面全て用意したわ。確認してくれる?」
俺の考えを何も知らないナミは、穏やかに微笑むと譜面を差し出してくる。そこには1人の人間が書いたとは誰にも思えない程の譜面があり、曲調も何もかもが1曲ずつ異なるそれに感嘆の息がもれる。
「……ナミは、これを全て演奏できるのか」
「楽器にもよるけど、演奏出来るわ。歌うのはアカペラは少しツラいから、弦楽器があると嬉しいわね」
そう言って照れたように笑うナミは、年相応に見える。何かを書いている時や、真剣に考えている時のナミは御し難い美しさで、年齢不詳になるのだが。
「なら、俺の部屋で歌ってみせろ」
「えぇ、テゾーロが望むなら」
この会話の含みに気付かない辺りが、幼い。だが、色恋が絡まなければ恐ろしく賢いのだから、人間完璧な者は存在しないのだとしみじみと思わされる。
ピアノを弾きながら歌うナミは曲に合わせて声を変えて、それどころか曲によっては歌いながら途中で声を変えてくる。……面白い。
20曲程弾きながら歌ったナミに飲み物を差し出すと、大人しくそれを飲む。俺が差し出した物と、タナカが差し出した物以外は1切口にしようとしないのだから、ナミがどれだけ俺とタナカを信頼しているか分かろうというものだ。
そういう意味で疑っている訳では無いようだが、ダイスは時折自分の趣味で妙な物を差し出すから警戒されている。それにより実は落ち込んでいるが、それは自業自得と呼ばれる部類だろう。
譜面を見て、俺は数曲を選ぶとナミに差し出す。埋もれさせるには惜しい歌達だ。
「これをこの船で、俺が歌うと言ったらどう思う」
それにナミは笑う。ただ、穏やかに。
「テゾーロが気に入ったのなら、好きに使って。勿論私が〝宝玉〟だと言う事は言わないで欲しいけど、それさえ無ければ、宝玉の物は全て好きに使っていいわ」
「宝玉本人も好きにしていいのか?」
揶揄うように言えば、ナミはキョトンとしてから、私はテゾーロの部下だもの。当然よなんて笑う。
無邪気な笑顔に手を出していいのか、躊躇う。そうして躊躇う自分に驚かされる。
「ナミ、お前も舞台に立て」
「私、も?」
不思議そうに首を傾げるナミに俺は頷く。そして、もっともらしく言葉を紡いでいく。
「タナカは案内人や支配人として働いている。ダイスはパフォーマンスディーラーだ。俺はオーナーであり歌手。ナミは?」
「あ、宝玉なのは、3人しか知らないんだものね。それなら、何かをしないと……って私も案内人やってるのに」
「情けをかける甘さが邪魔になる事もある。それともナミは、自分の島のような被害者を増やしたいのか?」
悪どい海賊の相手ばかりを極力させて、心を揺らさないようにさせているが、それでも時折仏心を出すのだ。それを苦々しく思いながらも、認めて許しているのだから俺も相当なものだろう。
実際この船では唯一の良心とか、幹部の諌め役等とナミは呼ばれている。だが、ナミを舞台に立たせたいと思ったのだから仕方ないだろう。
演奏はプロを雇うと話してやれば、振り付け付きで歌うのは振り付けを覚えられないわなんて気弱に言うが、構いはしない。ナミはただ、俺の隣にいればいい。
「ナミ、来い」
俺の言葉に従い近付くナミを掴みベッドに押し倒せば、ナミは驚いたような顔で俺を見る。そして、脱げばいいの?なんて聞いてくる。
「……慣れてるのか?」
「こういう事して来るのはテゾーロだけよ。こんな子供に手を出す人なんて、なかなか居ないわ」
クスクスと笑ってナミはそう言うが……実際今抱けばナミは壊れるだろう。体も出来上がっていない上に、体格差を考えれば横幅も考慮に入れた場合4倍近いのだから。
「脱がなくていい。だが、今のうちから慣らしておく」
「慣らすって?」
「……今無理に抱けば、壊れるのはナミだ」
俺の言葉にナミは顔を赤く染めて、俺に潤んだ瞳を向けて来る。それからゆっくりと、その唇を動かすのだ。
「でもっ!その……テゾーロがそうしたら、満足出来ないんだし……」
「1から全て教えてやる。身を任せろ」
そう言って俺は、ナミと舞台に立つ打ち合わせをしつつ、その合間にその体を慣らしていく。それにより艶やかな歌声が毎日部屋の中に響く事となる。
舞台に立つ当日ナミは少し緊張した顔をしているから、その唇を奪い緊張をといてやるのにもいつものそれが役立つ。その口付けの合間に囁く。
「ナミなら、大丈夫だ。いつものように歌えばいい」
「テゾーロ……でも」
「……多少失敗しても構わん。大きな失敗なら、後で……お仕置きだ」
俺の言葉に全身を赤く染めて、ナミは小さく頷いた。成功したらご褒美だと言っていじり倒すつもりだとは言わずにおけば、恐らく精一杯頑張るだろう。
そうして俺とナミは、グランテゾーロの舞台に立つ事になった。今更歌手として歌う事になるとは、不思議なものだ。
ステラの他には誰にも求められる事も無かった歌を、ナミを伴い歌う事になるとは思わなかった。それが不快どころか、高揚感を与える。
舞台の上でナミの声が優しく響く。俺がナミに視線を向けると、ナミは微笑む。
曲がラブソングなのもあり、観客が大いに沸く。この高揚感と緊張感は凄いものがあるな。
……ナミの容姿もあり、舞台に立つと恐ろしく映える。その上であの歌唱力だ。
本人はそんなに上手くないわなんて、謙遜ではなく本気の色を乗せて言う。だが……下手ならこれ程心に訴えかけはしないだろう。
俺が踊りながら歌い、ナミは時々手を差し出したりする程度の動きで歌う。その対比が、余計に互いを引き立たせる。
最高の舞台で、最高のショーを!そうして歌い踊る俺の視界の端にドフラミンゴの姿が映る。その視線が俺ではなく真っ直ぐにナミに向いているのが分かり、女の趣味まで近いのかと苦々しく思う。
それでも大切な取引相手でもあり、ゴルゴルの実の事もあり強くは出にくい。……舞台に立つ時の他は、ナミを奥に隠しておかなければならないなと本気で思いながら歌う。
全ての曲目を歌い終えると、俺はともかくナミが何者なのかと騒ぎになっているのが聞こえてくる。人気が出るのは本来いい事なのだが、何とも言い難い不快感があり嘆息した。
「ナミ、成功だ。少し部屋で休め」
「……ミスとか、大丈夫だった?」
不安そうに尋ねるナミに、俺は小さく笑うとその腰を抱き寄せる。その温もりに、癒される自分を自覚してしまえば情けなく思う。
「……俺の成功の言葉を疑うのは、お仕置きされたいからか?」
「違っ!!」
「なら、大人しく部屋に帰るぞ」
俺の言葉にナミは小さく頷くと、共に歩き出す。抱いてる腰をあえて刺激してみれば、赤く染まった顔で俺を睨み付けてくるナミが可愛くないと言えば嘘だ。
最近はステラと重ならなくてもその姿を視線が追っている事に、本当は気付いている。だが、これがお気に入りの玩具を手元に起きたいと思うのと何が違うのかと、そう問われた時に何か答えられる程の何かがある訳でもない。
……それでも、お前に会わせるつもりは無い。そう、ナミに視線を縫い止めていたドフラミンゴを苦々しく思い出す。
……ナミは俺のモノだ。拾った時点で俺のモノで、その後金だって用意したんだから、否定はさせねェ。
これから先2年近く、この俺が壊す事に怯えて手を出せないとは、この時の俺は思いもしなかった。更には歌姫ナミとして世界から注目される存在になる等、予想もしていなかったのだ。
その原因の1つが、俺がナミを隠していた事にあるとは皮肉なものだ。指定した海賊の案内人の他は、舞台に立つ姿でしかその姿を表に出さない事により、プレミアムがついてしまったからだった。
だがこの時の俺には、そんな事を予知できる筈もなかった。ナミが共にいる時だけは、死人がほぼ出ない事も重なり、グランテゾーロには愛を歌う姫神が居るとまことしやかに囁かれる事となるが、それは当人達の預かり知らぬ部分である。